ポケットモンスター 緋めし記憶と花色の夢路   作:kozmo78

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第9話 好敵手

 

「ボウジロウが使える技はこちらを参照して下さい。…ネモさんはチャンピオンランクに在籍する凄腕のトレーナーです、勝敗関係なくポケモンバトルを楽しんでみて下さい。」

 

「ありがとうございます………頑張ってみます。」

 

 

 バトルコートに向かいながら先生から手渡されたのは先生自身が普段使いしているであろうスマホだった。画面には“カルボウ”について詳細にまとめられた記事が映し出されている。

 自分はスマホを持っていないがメルサさんのモノを借りて使うこともしばしばあるため、いまだに機械音痴の部分があることはバレずに済んだ。

 

 迷惑にならないように映っている画面を眺めてみる。

 

 


 カルボウ  ひのこポケモン

  ほのお

 焼けた木炭に命が宿りポケモンになった。燃える闘志で強敵にも戦いを挑む。

 

 【覚える技】

 ノーマル にらみつける:鋭い目つきで怯えさせて相手の防御を下げる。

 ほのお ひのこ:小さな炎を相手に発射して攻撃する。やけど状態にすることがある。

 ゴースト おどろかす:大きな声などで不意に驚かして攻撃する。相手を怯ませることがある。

 どく クリアスモッグ:特殊な泥の塊を相手に投げつけて攻撃する。能力変化を元に戻す。

 ほのお ほのおのうず:激しく渦を巻く炎の中に相手を閉じ込めて攻撃する。

   …

   …

   …


 

 

 歩きスマホになるべくならないように凝視せずに見たが、漠然とカルボウ……ボウジロウについてを知ることが出来た。…とは言ってもテレビなどで聞く“ポケモン図鑑”なんて見たことは無いし、ここに載っている技については半分も知らないし残念ながら動画までは無いため自分の想像で補完するしかない。こうなるぐらいならもう少しメルサさん達に掘り下げて聞いておくべきだったかもしれない。

 とは言え、もう少し調べたい気持ちもあるが流石に迷惑なので借りたスマホを先生に返す。

 

 

 しかし今日は見学程度でしか頭の中で予定していなかったしこうも早くポケモンバトルに挑むとは思っていなかった………が、今後を考えたらとてもいい機会かもしれない。

 初心者は自分だけで相手はチャンピオンランク……聞いた話だと格上の存在、それに横のボウジロウも少なくとも自分よりは経験はあるだろう。先生が言うように当たって砕けろの精神で挑むにはもってこいの相手だと言えるだろう。

 

 

「準備するから待っててー!」

 

「はい………、ボウジロウは準備出来てる?僕の方は……今回が初めてなんだ、ポケモンバトル。だから不甲斐ない指示出したらゴメン。」

「ボウボウー!」

「うん、よろしくね。」

 

 

 如何せんここの関係性もさっき生まれたばかりなので声をかけてみるが、ボウジロウの方を心配する必要は無さそうだ。コートの対面に向かっているネモの方は言わずもがな、待ちきれないと言わんばかりに興奮気味に駆ける姿を見れば一目瞭然だ。

 

 覚悟を決める、と言う程の大袈裟なモノではないが……初体験への高揚か緊張か、少し浮足立つような心を引き締める。数回しか観ていない画面の奥の姿を脳内に描きながら、ネモと向き合う。

 

 

 

「よし!準備オッケー?………新学期も始まるし新しいポケモンを仲間に入れたんだ!だからお互いに初めてのバトルになるから…よろしくね!」

 

「不甲斐ない戦いにならないように…頑張るよ!」

 

 

 

「宜しいですか………───では始め!」

 

「出てきて、パモ!」「お願い、ボウジロウ!」

 

 

 開始宣言を受けて、互いのポケモンがコート上に飛び出す。ネモが持つモンスターボールから出てきたのはこのパルデア地方で高いマスコット的な人気を誇り、自分でも何度か見かけたことのあるポケモンだった。確か……電気タイプだった気がする、あの有名なピカチュウと似ていることからもそう考えられるだろう。

 バトルの思考に切り替えるがそもそも自分には戦う上での手札が少ない。多分ボウジロウが歴戦の猛者と言う程のレベルではない筈だから、“かえんほうしゃ”のような無理な指示を出しても反感を買うだけだと言えるだろう。それに仲間に入れたばかりのポケモンと言っても、相手を考えれば受け身で戦うことは勝ち目は無さそうだ。だったら………

 

「ボウジロウ、出来るだけ狙って“ひのこ”!避けられたら距離を取って!」「ボウボウッ!」

「おっいいねぇ!パモよけて!」「パモッ!」

 

 ボウジロウが放った“ひのこ”は危なげなく避けられてしまったが、指示通りに動いてくれてたおかげですぐに危機を招かずに済んだ。

 単純な攻撃だけでは上手くいかないのは分かっている。………勝つために必要なのは積極的な接近戦、技の種類や威力を考えたら離れながらの攻撃は無理そうだ。

 

 ただし、飽くまでもこの想定は攻撃だけの話である。

 

「パモ!“でんこうせっか”で近付いて“ひっかく”!」「パモー!」

「!…出来るだけ引き付けて。無理に離れたら危ないよ!」「ボウ!」

 

 自分の想定を再現するかのようにパモが素早く近付いてくる。

 少し思考が止まったが、ここで簡単に前の指示と同じことをしたら不用意に隙を作ってしまうだけだ。この場合は接近するまで動かず観察して、パモが引っ掻こうと右腕を構えたら……

 

 

「………今!左に避けて!視線から外れたら“ひのこ”!」「ボッ!…ボウボウッ!」

「モッ!?」

「やられた!もう一回“でんこうせっか”で離れながら向き直って!」

「“クリアスモッグ”で追撃!」

 

 

 初めてにしては危険な賭けだったが目論見は上手くいった。一撃で決着……なんて甘いことは考えずに追撃を仕掛けたがそう都合良くはいかなかった。

 でも、その行動は追撃だけが目的ではない。

 

 

「(これで“クリアスモッグ”がどんな技か分かった。飛ぶ速度はそこまでだけど“ひのこ”以上に範囲は広い、だから連発しても狙いやすいかもしれない………さっきのような方法は初見かつ僕への油断がなければまず無理だ、だったら………)「すごいじゃん!!?」…どうした?」

 

「バトル初めてだって聞いてたのに先に攻撃を受けるなんて思わなかったよ!さっきのは嘘だった、って言われる方がしっくりくるぐらい!」

「審判の身で口を挟むの良くないかもしれませんが、正直驚きました。バトル学の最初は受けなくても問題ないかもしれません。」

 

「いえいえまだタイプ相性?…も把握しきれていないので………でも、ありがとうございます。」

 

 

 状況だけで見ればたかが一発当てただけなのだからここまで褒められるとは思わなかったが、二人の立場から考えれば裏切られる部分もあったかもしれない。特にクラベル先生の方は記憶についても知っている訳だからよりそう感じると言えるだろう。

 事実、何も出来ないと割り切っていた自分も思考の内には居たから、その点では自画自賛しても変ではない……が、そもそも自分がポケモンバトルの経験が無いと言い切ることは出来ない。

 もしかしたら昔の自分はポケモントレーナーだった可能性を捨てる証拠すら持ち合わせていないのである。

 

 だったら“ポケモンバトル”そのものに思っていた以上の価値を付属させることとなるが、それで仮説立てるにはあまりにも情報も事実も少ないし………そんなモノは今は要らない考えだろう。

 

 

「でもまだバトルは終わってないよ!まだまだ楽しんでいこう!パモ、“じゅうでん”!」「パーモー!」

 

「(“じゅうでん”………少なくとも力を溜める技だろう、様子見は危険かもしれない)ボウジロウ、近付きながら“クリアスモッグ”で狙ってくれ!」「ボウー!」

 

「“でんこうせっか”で避けながら後ろに回り込んで!」「パモッ!」

「っ!?(思ったより溜める時間が短い!?このままじゃ危ない……!)目線で追いながら“クリアスモッグ”!絶対に後ろを取られるな!」

 

 

 技を終えたのか、そう見せかけて切り替えたのか……判断は出来ないがそこは重要じゃない。

 溜めた電気を背後からもろに受ける、と言う最悪な想定を避けるために出来るだけの指示を出すが………対応しきれる速度ではないのは明らかだ。

 

 このまま当たることなく技を放ち続けるぐらいなら、ボウジロウを信じて腹をくくる。

 

 

「ごめん!動かないで良い!」「ボッ!?ボウ!」

 

「諦めた、ってことは無さそうだけど関係ない!勢いそのままで真後ろに、そして“でんきショック”!」

 

 

 最初の接近とは違い、指示の方向・タイミングで何とかなるような技ではなさそうだ。“じゅうでん”で威力が高まった電撃がボウジロウの見えない所から放たれる………その前に、

 

「自分の周りに“ほのおのうず”で視界を遮って!」「ボウボーッ!」

 

「え!?いや気にしないで、そのまま“でんきショック”!」「パッ、パモ―ッ!!」

「急いで振り返って避けて!!」「………ボウッ!」

 

 突然の行動に対応して指示を飛ばしたと言っても、勢いを抑えることが出来た。その隙を利用して直撃は免れたようだが………状況が良くなった訳ではない、むしろ逆だ。

 

「なかなかトリッキーなことするね!でも…ただ待ってるなんてことはしないよ!もう一回“じゅうでん”!」

 

 自分自身に“ほのおのうず”を使ったようなモノで、ボウジロウがほのおタイプのポケモンであってもダメージが無いとは思えない。それにお互いの視界が遮られているのだから、ボウジロウの不安を煽るような状況を作ったとも言える。

 それでも、自分の蒔いた種は自分で何とかする他はない。

 

「(ボウジロウからは相手を見えていない……だったら!)ボウジロウ!目の前に手当たり次第に“ひのこ”!」「ボウボウボウッ!」

「“ほのおのうず”で威力が上がってる!?“でんこうせっか”で避けて!」「⁉…ッ!」

 

 炎で出来た壁から“ひのこ”の弾幕を張ることで撹乱しようしたが予想外の好転もあった。一撃を与えた時よりも強化された火の弾は7,8つほど放たれて、

 

「パモッ!?」「大丈夫っ!?」

 

 直撃とまではいかなくとも、掠めることで声が出てしまうくらいの効果はあった。これで意思共有が出来る。

 

「ボウジロウ、声が聞こえた方向に走って“おどろかす”!」

 

ボウッ!」「パッ!?」

 

 技名を伝えたとはいえ曖昧にも思える指示を上手く解釈してくれたからか、ただ“ほのおのうず”を抜け出して仕掛けずに視界から外れるように駆け出し、文字通り驚かせながら攻撃した。

 

 体勢を崩すことが出来た……勝負を決めるならここがチャンスだ!

 

「今がチャンス!“ひのこ”で決めろ!」「頑張って!“でんきショック”で迎え撃って!」

 

 

 

 お互いの勝利を賭けた攻撃がぶつかり合う………

 

 

 

 

 …その衝突の前に一足早く“ひのこ”が放たれて、勝負は決した。

 

 

 

 

「パモ―…」「パモ、戦闘不能………勝者ヒギリさん・ボウジロウ!」

 

「よしっ!ありがとう、ボウジロウ!」「ボウ―」!」

「お疲れ様、パモ!いや~すっっっっごい楽しかった!!」

 

 

 

 

 

 

     ~ ~ ~ ~ ~

 

 

 

「………と言う感じで、今日は色々ありました。」

 

「すごいじゃあないか初めてのポケモンバトルで勝つなんて!俺なんて最初の頃は使えないような技ばっかり言って睨まれてたな~…それに「ちょっとそんないっぺんに話したら困るでしょ!」…そうだった、すまんヒギリ!」

 

 

 時間が経って夜になり、毎週の決め事となっている“家族会議”が開かれた。

 普段はその週に会ったことを話し合ったりするのだが、今日の話題はアカデミーでの出来事についてが中心だった。

 

 あの勝負が終わった後そのままメルサさんと合流して帰宅、そして今に至る………と言うこともなく他にも色々な事があった。

 知らず内に周りに居た幾人かの生徒に話しかけられたり、ネモと……いやネモから一方的にこれでもかと言う程に感想戦が行われたりと、久し振りに初対面の人と話す機会が多々あった。

 …ちなみにボウジロウとはケガはなかったが多少の治療を行ってお別れした。ちゃんとポケモンに懐かれたのは初めてかもしれない。

 

 

「メリアナだって驚いただろ?次会えたらポケモンバトルできるかもしれないぞ!」

「……………」

 

「?」「どうしたメリアナ?」

 

 

 メルサさんがメリアナの方に話を振ったが返事が無い。

 そういえばクラベル先生との会話で名前が頭に浮かんでいたが、そもそもアカデミーを先に回ったかどうかで嫌に思うような性格ではないと思うが………

 

 

「本当に…初めてだったの?バトル」

 

「まぁうん……記憶の無い時については分からないけど…」

 

 

「どうして……私もまだロクにバトルしたことないのに……先越された……それに初めてでなんか凄そうな人に勝つなんて………」

 

「あー……」

 

 

 驚く以上にひどく落ち込んでいた。別に気にする程のことはしていない……とこちらからは言えないのでどう声をかけた方が良いか思案してしまう。

 

 

「じゃあこっから二人は“ライバル”ってことだな!」

「あら、楽しみね!もしかしたらポケモンチャンピオンにヒギリが先になっちゃうかもしれないわね!」

 

 

 

 あちらのお二人が微笑みながらメリアナを揶揄っている………少し大袈裟にしすぎているとも思うが。

 

 メリアナの様子を窺おうとすると突然立ち上がり、画面の向こうに居るであろう自分を指さした。覚悟を決めたような面持ちでこちらを見据えている。

 

 

 

 

「……絶っっ対に負けないから!!次会ったらミニリュウと戦ってね!」

 

「おぉ……、よろしく。」

 

 

 

 何故かあのチャンピオンランクの彼女がよぎった気もしたが……メリアナとの新しい“約束”が生まれた。

 ………勢いに押されて手持ちポケモンは居ないことは伝えられなかったけれど。

 

 

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