がっこうぐらし! 実績「二度と目覚める事のない悪夢」獲得RTA 作:ランディー55
血まみれの鳳条とかいう奴に追い払われ屋上で女5人のこの状況。
普通なら何か会話でもするんだろうが…状況が状況、このお通夜と言ってもいい気まずい雰囲気で話を切り出せるのは由紀ぐらいしかいなかった。
由紀も言っているが、あいつ…鳳条は一人でいいのか?
めぐねえは鳳条の「みっ…皆を守れるのは…先生だけです…」の言葉に納得してるようだが、いくらなんでも“やつら”がうじゃうじゃいる中鳳条一人は危ない何て次元じゃない。
誰か一緒にあいつの所に行くべきではと提案してみるものの、「鳳条さんなら大丈夫です」の一点張りで認めない。あたしに裁量権はないようで。
めぐねえの赤い目元を見るに、あいつと何かあったのは分かる。一回あいつがトイレに来た後、そこそこデカイめぐねえの泣き声がトイレにまで聞こえてきたし。
あいつの血まみれな姿から察するに、“やつら”に囲まれて…って所か。
…まあこんな状況で平常でいられる方がおかしい。あたしも由紀のおかげで何とか正気を保ててたんだ、めぐねえだって誰かに頼りたかったんだろう。
だが一人でいいってそう簡単に納得していいのか?
「…本当にあいつ一人でいいのか? めぐねえ」
「佐倉先生です。…彼なら大丈夫よ、私達が行ってもかえって邪魔になるわ」
念押しで聞くが答えは前回と似たような物。いつもの癖なのか佐倉先生の訂正返事は早い。
かえって邪魔になるは紛れもない正論だ、この中に“やつら”をヤる事が出来る精神と覚悟を持ってるのは現状、あいつしかいない。
一人に“やつら”の相手を押し付けるのはいかがなものか。そう何度も思ったが、かといって変わりの名案もない。無理矢理だが納得する事にした。
「…ここにいるメンバーの自己紹介もまともにしてないけど…。めぐねえ、一ついい?」
「佐倉先生です。何? 悠里ちゃん?」
「彼、鳳条君の事なんだけども…、何か心当たりない?」
「心当たり?」
「いや彼、反応がおかしくなかった? 怯えてるというか…」
「あー…確かに、コミュ症とは違う何かだよな、あれ。掃除機にビビってる猫みたいな話し方だろ?」
「…どこか既視感感じると思ったらそれか…」
パンツを手に持って自力で天日干ししてる紫髪が会話に入る。
何故にホースの水でびょしょびしょにしたパンツを乾かしてるか、由紀が聞き出そうとしていたが「言わせんな、恥ずかしい」と一蹴されていた。多分漏らしたんだろう。
「今朝も触るなって叫んでロッカー蹴り飛ばして中に入っていったもの」
「めぐねえの手が汚れてたんじゃないの?」
「由紀さん、佐倉先生です。別にそうでもなかったし、彼が極度の潔癖症って訳でもなさそうだし…」
「うーん…」
「本人に聞き出すしかないんじゃないか?」
ギギギ…
「…っ!?」
扉がギシギシと音を立ててゆっくり開く。まさか“やつら”が…!?
この場の全員が注目する中、少しだけ開いた隙間からは鳳条の顔がチラッと見えていた。噂をすれば影がさす、か。
「しっ下の…あれが…終わった…って言いたかっただけ…です。さっ先に…降りとく…ので…」
「――なぁんだぁ…驚かさないでよー」
正体が鳳条だと分かると肩の力がスッと抜けた。
由紀の言う通りだ、ホラゲみたいな演出で驚かさないでほしい。
「鳳条さん、大丈夫…? …ごめんなさいね…私のせいで…」
扉まで近づくめぐねえ。それに対し鳳条は、勢いよく扉を閉め階段を慌てた様子で降りていった。皆が皆困惑の表情で顔を見合わせる。
――やっぱり何かおかしいな、鳳条。
「…ちょっとあたし追いかけてくるわ、話聞いて来る」
めぐねえに何か言われて面倒事になる前に鳳条の後を追い校舎に入る。階段から廊下に出ると生徒会室に駆け込む鳳条が見えた。
あたしも生徒会室に入ったが、鳳条は何処にもいない。
隠れたのか? なら隠れられそうな場所は…、あのロッカーか。
そっとロッカーをあけてみる。
「開けるなぁ!!」
超スピードで内側からロッカーを閉めた。早すぎてどうなったのか一瞬分からなかったレベルだ。
「いやホント、どうしたんだ?」
「なっ…何でも…」
「何でもない人間は叫んでロッカーに閉じ籠ったりしないぞ。実際、ずっとこの調子のままじゃ困る。何か嫌なら言ってくれ」
「うぅ…。わっ…分かった…、話すよ…」
相変わらず怯えた子供のような口調で鳳条は話を続けた。
そして判明する衝撃の事実。なんと鳳条は女が怖いんだと。
本人曰く男女構わず大勢の人間がいる場所なら一応大丈夫なのだが、周りに女しかいない、近くにいるような状況だと無理だそう。
原因は不明で気付いたらこれ、強いて言うなら母親かもだそうだ。…いや絶対それじゃん。
…てかこれ思ってた以上の地雷だ。絶対これ以上聞き出すのはやめた方がいい、地獄の釜を開けるようなものだ。
後を追ってきたのか、気づけば後ろにいた4人も話を聞いていたようで、何とも言えない表情をしている。
このままだと気まずい沈黙が訪れると考えたのか、茶髪が口を開いた。少しでも場を軽くするのが目的だろう。
「しかし鳳条君、だいぶ口調砕けたわね。さっきまで同世代なのに敬語で怯えてたもの」
「…壁一枚挟むとだいぶ安心するんだよ…」
「…いっそデカイ段ボールとか被せとくか?」
「それなら屋上に一応あるけど…」
で、なんやかんやで茶髪が段ボールを持って来て、ロッカーからビクビクしながら出てきた鳳条に被せた。
「…どう?」
「まあ…うん。ロッカーと同じぐらいには一応…落ち着く…」
デカデカと“みかん”と書いてある段ボール箱。踞った人間一人がやっと入れるぐらいの大きさだ。
「…大佐?」
「止めろ由紀、それにしか見えないだろ」
「…これ前見えてるのか?」
「持ち手部分から何とかだけど…ちゃんと見えてる」
「鳳条さんがいいならこれで進めるけど…」
「ん~、埒が明かないよ、このまま自己紹介しよ?」
一人段ボール箱を被ってるシュールな光景の中、とりあえずこの場の全員で自己紹介をした。
自己紹介が終わると、これからどうするかの会議が始まる。
まず助けを呼ぶ…だが、携帯が使えない以上、ラジオも駄目だろう。
手紙を風船で飛ばす案を由紀が出したが、鳳条が変にアピールすると他の生存者に乗り込まれるかもしれないと言い、没になった。
こんな状況で人間同士の争い…。考えたくもないが、実際起きかねない。
外に出て自衛隊の駐屯地まで行く案も出たが、この状況で自衛隊が機能してるのか確証がない上、外に出るのは危なすぎると言う事でこれも没。
結果、消去法で可能な限り学校に籠城する事になった。
籠城においては問題はなさそうだ。ソーラーパネルで電気も補えるし、食料は購買部まで行けばどうにかなるし、屋上の野菜もある。水の心配もない。しかもシャワールームまであったんだと。
実際に鳳条は体を洗い流して新しい制服を着ている。ほとんど見えないが。
…えらく充実してるな…?
確かに、校歌が軍歌みたいだとか学校設備が充実しまくってるだとか、この学校入った時思った事があったが…すっかり忘れてた。
まあこの際だ、ラッキーと思っとこう。
「何はともあれ前向きに行きましょ? 後ろ向きに考えてたら、何もかも駄目になるわ」
めぐねえが発したその言葉は、誰かを納得させるより自分に言い聞かせる為に発せられた言葉のようだった。
…でもそうだよな、前向いて進まなきゃなんねぇよな。立ち止まってても何も現状は変わらない。
「…前向きに…な」
「どしたの? くるみちゃん?」
「…何でもない。…でもなぁ、この状況で楽しく生きるような方法何て――「あ、そうだ! いい案が思い付いたよ!」…遮るなよ…」
「ごみぃ、突然のアイデアだからさ…。でも皆私のたぐいまれなる妙案に唸るよ!」
えらく自信満々な由紀から飛び出たのは、斜め上の代物だった。
「学園生活部!」
「学園…生活部?」
「どう? いい案でしょ? めぐねえ!」
学園生活部。私が顧問になり後5人が部員になる。
内容は「学園での合宿生活によって、授業だけでは触れられない学園の様々な部署に親しむとともに、自主独立の精神を育み皆の模範となるべし」…との事だそうだが…。
確かに胡桃さんの言った“楽しく過ごす”は達成できるだろう。だが…これはただの現実逃避に過ぎないのではないか?
しかし前向きにと言ったのは他でもない自分で――
グゥ~…
腹の虫が鳴った。…私だ。
音のせいか一気に気が抜ける。
「…お昼、用意しましょうか。いいわよね? めぐねえ」
「――ええ…」
この件の不安感は拭えない、しかしまずは目の前の課題が先だ。
思い返せば昨日の夜鳳条さんがくれたお菓子以外何も口にしてない。由紀さんと柚村さんにいたっては何も食べてない。
腹が減っては戦はできぬ、と昔から言われている。ご飯もちゃんと食べなければ。
鳳条さんだが…、彼は一人でいる時間が欲しいとの事。…後で朝の事謝りにいかないと。
彼は食べる気にならないと言っていたが、何も食べないのは逆に体に悪い。急遽沸かしたお湯で作ったアルファ化米のピラフを持たせる…のは出来なかったので段ボールの上に乗せた。シュールだ。
それから鳳条さんが部屋を出ていった後、色々用意をして食べる準備が整った。カレーの匂いが部屋を満たす。
他にも缶詰の乾パンや大和煮等があったのが、まだ持ちそうなので期限が近い順番から食べる事に。その結果一発目からレトルトカレーだ。
――ふと胃もたれるのではと頭によぎってしまった。昔は全然唐揚げとか大丈夫だったのに…
「どうしたの? めぐねえ」
「いや、朝からカレーは太りそう…」
「…いいだろ別に、もう昼だし。…それにまだ私達“育ち盛り”で“若い”って」
「グフッ!」
「止めてやれ胡桃、クリティカルヒット叩き出してる」
「おー、見事に言葉のナイフが胸に突き刺さってるね」
「ゆ、悠里ちゃん…、私まだ若い…わよね…?」
「うーん…、27でそれはちょっとねぇ…」
「“アラサー”だね」
「グボァ!」
「止め刺すな由紀。しかし派手にずっ転けたな」
「…大丈夫か?」
「気にして…ないもん…、全然…大丈夫…だもん…。ちょっとした怪我の治りが遅いとか…友達の第二子出産とか…、全然…気にしてないもん…」
「目茶苦茶気にしてるじゃないの」
悠里ちゃん達のこの余裕、これが若さか…。
朝…と言うかお昼ご飯を食べ終わると、由紀さんが「学園生活部」の了承を求めてきた。
が、即決できる物ではない。答えは明日に発表すると濁らして、その場しのぎの対応をした。どうした物か…
その事を頭の片隅に置きながら鳳条さんに謝りに行き、ご飯を食べたら気付けば夜になっていた。時の流れが早い。
寝袋の中、一人考える。
了承…するべきだろうか…? 私が出来る最善の選択は? 守るべきは何?
悩みに悩んだ末、私は――
「おほん、本日は皆さんに重大発表があります。今日からここに、学園生活部を設立します!」
「めぐねえ認めて――」
「ただし! 通常の授業も同時進行で行います!」
「えぇ~~!?」
設立を認めた。
理由はただ一つ、何の変哲もないいつもの日常、それが私達だからだ。
現実逃避といえばそれまでだが、かと言って常に“かれら”と対峙するのを考えていても気が滅入る。
そして何より、それ以外の手段がない。
学校から出るのは危なすぎるので没。携帯はおろかラジオも使えない為助けも呼べない。それなら気長に助けを待つのが最適と、もうすでに決まったのだから。
こんな状況だが、せめて私達の日常は守って行こう。
…ただ…
「てんくん、大丈夫?」
「うぅ…」
彼の女性恐怖症を…どうすればよいのか…