異世界でTS転生で美少女怪盗。   作:パリの都

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異世界で悪党相手に怪盗するTS美少女は最強なんじゃないかって思いました。


私は怪盗、ミス・ファンタジア。

 怪盗。

 

 この世で最も()()()()()()何かを盗む存在を、人々はそう呼ぶ。

 格好よく盗むんじゃない、格好をつけて。

 誰がその格好良さを決めるのか?

 

 そんなの最初から決まってる。

 

 怪盗は、自分が格好をつけたいから怪盗なのだ。

 

 いつか強大な敵を前に、倒れ伏すその日まで。

 いつかこの世のあらゆる物を盗み尽くして、世界のすべてを手に入れるその日まで。

 怪盗は、己が怪盗でありたいから格好つける。

 

 盗みは悪だ。

 怪盗は悪人だ。

 しかし、そんな怪盗の生き様は、多くの人にとって格好良く映る。

 

 悪者達の矜持(ピカレスク・ロマン)ってのはつまり、そういうものじゃあないのかな?

 

 

 ――私の名前はミス・ファンタジア。

 幻想の世界、こことは異なる世界を活きるモノ。

 人々を食い物にする悪党の宝を獲物と決めた。

 しがない義賊で――怪盗だ。

 

 

 ◎

 

 

「ミス・ファンタジアだ! 捕まえろ!」

 

 王都ファリス。

 欲望と陰謀の渦巻くこの大都市に、“彼女”の名を呼ぶ声が響く。

 石造りの街並みは、既に日も落ちたことで眠りについた。

 ファンタジー異世界にありがちな夜の街を駆け抜けて、少女が一人逃げている。

 追いかけるは、鉄の鎧を身にまとった男たち。

 騎士という表現が的確な彼らは、屈強な肉体を誇りながら女ひとりに追いつくことすら叶わない。

 

 美しい少女であった。

 癖のある銀髪を腰のあたりまで伸ばし、背丈は百六十前後。

 豊満な肢体を、ぴっちりと張り付いたスーツにマントで覆い、顔には黒の仮面を身につける。

 怪盗と呼ぶに相応しい出で立ち。

 

 怪盗ミス・ファンタジア。

 巷を騒がす義賊にして泥棒が、今日も盗みを働き逃げていた。

 逃走劇は圧倒的に怪盗の有利で進んでいる。

 身のこなしにしても、彼女は騎士たちを圧倒している。

 だがそれだけではなく、逃走経路を迷いなく進む彼女と、どこへ逃げるのかもわからない騎士たちでは目的の時点で優劣がはっきりしていた。

 

 だから、後方の連中は敵ではない。

 問題があるとすれば、

 

「見つけたぞ、ミス・ファンタジア!」

 

 脇から飛び出してくる、別働隊の騎士たちの方が問題だった。

 先回りをした彼らは、偶然にもミス・ファンタジアの近くに飛び出すことができた。

 当然、ミス・ファンタジアは迎撃を余儀なくされ、ロスになる。

 だが――ミス・ファンタジアは跳んだ。

 

 宙へ向かって、高く。

 眼の前に現れた騎士ニ名を飛び越えて、くるりと一回転する余裕すら見せながら。

 

「どこだ!?」

 

 着地。

 騎士たちは突然目の前で怪盗が消えたようにしか見えず、周囲を見渡す。

 そして視線が後方から外れる瞬間に、ミス・ファンタジアが足元へ着地。

 足払いで片方を転ばせると、そのまま勢いよく立ち上がって、あるものを構える。

 

「なっ!」

 

 取り出したのは、異世界には到底似つかわしくない“銃”だ。

 ゴツゴツとした形の、現代ではコルトガバメントの通称で知られるハンドガンに酷似している。

 だが、映える。

 異世界で、少女が、夜、月下、拳銃を構える。

 その姿は、銃という概念を知らない騎士ですら、思わず見惚れてしまうくらい。

 

射出(シュート)

 

 ぽつりと、か細い声が聞こえたかと思えば――騎士は拳銃から放たれた銃弾によって意識を奪われていた。

 頭を撃ち抜かれたが、死んでいない。

 その拳銃から放たれた銃弾が、現実のそれとは異なる証左だ。

 

 足払いで転ばせた騎士にもそれを撃ち込んで、即座にミス・ファンタジアは身を翻す。

 眼の前に敵が現れたにしては殆ど時間はかけていないが、それでもロスはロスだ。

 若干近づいた追走する騎士たちの声を背に浴びながら、怪盗は疾走する。

 

 やがて、暫く逃走劇を楽しんだ怪盗の耳に、足音とは別の異音が届く。

 何かが自分に近づいてくる。

 これは、車輪の音。

 

「見つけたぞこそ泥め! 貴様が盗んだそれを返せ! 返せぇ!!」

 

 肥え太った男が、“魔導車”に乗って脇からミス・ファンタジア向けて突っ込んでくるのだ。

 19世紀の車のデザインを思わせるそれは、ファンタジー異世界においても近代に近いこの世界ではよく似合う車だ。

 それに乗った男の隣では、護衛と思われる黒ずくめが杖を構えている。

 ――魔術師。

 ミス・ファンタジアの中で、警戒のレベルが一つ上がった。

 

「あの女を撃ち殺せ! そのために高い金を払っているんだぞ!」

「……射出(シュート)

 

 魔術師は、先程ミス・ファンタジアが放ったものと同じ――違いは威力が人を殺すレベルまで高められているということ――魔術を用いてミス・ファンタジアを攻撃する。

 それらはいまだ距離が遠いからか、軽く身を捻る程度で回避できた。

 だが、面倒だ。

 既に盗みは終わった故、あの男と正面から戦う理由はない。

 

 いや、戦ってもいいのだがこの後のことを考えると、この男を()()()()()()()()にする必要はないと怪盗は考えた。

 故にミス・ファンタジアは手を上空へ向けると。

 

「何をするつもりだ! おい、どうにかしろ!」

 

 叫ぶ肥えた男に答えるべく、魔術を放つ黒ずくめの一撃をひらりひらりと躱しながら。

 

 一瞬にして、ミス・ファンタジアは上空へと飛び上がった。

 まるで糸か何かに引っ張り上げられるように、上部へ向けて飛んでいく怪盗。

 魔術師は狙いを定めることも叶わず、魔術でそれを落とそうとするが失敗。

 

 ミス・ファンタジアは一瞬にして屋根の上に逃げてしまった。

 

「何をしている、追いかけろぉ!」

 

 肥えた男の叫びに、しかし魔術師は首を横に振る。

 あんな風に身軽に屋根の上に飛び乗れるのは、相当な魔術の実力を有するか、何かしらの魔道具を使わなければならない。

 黒ずくめに、その実力はなかった。

 

「役立たずめ、おのれこそ泥がぁああああ!」

 

 盗みに入られた屋敷の主、肥えた男が悔しげに夜の街にて吠えるのであった。

 

 ――ところかわって、屋根に逃げた怪盗ミス・ファンタジア。

 そんな彼女に声をかける者がいた。

 

 

「やはり来たな、ミス・ファンタジア」

 

 

 最初から、ミス・ファンタジアがここに来ることを予想していたものがいたのだ。

 女の騎士だった。

 紫髪の、二十代の騎士がそこにいる。

 美しい(かんばせ)だ、仮面に顔を隠したミス・ファンタジアもそうだが、実に絵になる。

 

「お前の考えることと、あの悪徳貴族の行動パターンを合わせれば、お前がここに逃げてくることは容易に予想がつく」

「……」

「観念しろ、ファンタジア。ここが年貢の納め時だ」

 

 西洋風異世界で年貢というのも変な話だが、それは私……コホン、怪盗がそう意訳しているだけなので。

 何にせよ、雰囲気はそういう物言いが似合いそうな堅物の女性だ。

 対して、怪盗は――

 

 

「――ミス・ファンタジア」

 

 

 それまで誰かに向けて一度も返すことのなかった返事を返した。

 

「私は、ミス・ファンタジア。他人の敬称を忘れるのは騎士としてどうかと思うよ、――アスナロット団長」

「今更お前にそんなものいるか。さぁファンタジア、下は私の部下が包囲を完了させようとしている。逃げ場はないぞ」

 

 見れば、足元には自分を追いかけていた騎士たちがずらり。

 全員肩で息をして辛そうだが、それでも包囲は包囲だ。

 

「部下の使いが悪いったらないね、団長。君はもう少し、パワハラ気質を見直した方がいい」

「私に付いてこれん部下が悪いのだ。さて、無駄話は必要あるまい。お縄につけ、ファンタジア」

「そうだな……」

 

 お互いに軽口を飛ばしながら、ミス・ファンタジアはそこで考える素振りを見せた後。

 

「遠慮しておくよ」

 

 銃を目の前の騎士に突きつけた。

 肩をすくめる女騎士。

 であれば致し方ないと、騎士もまた剣を抜いた。

 その瞬間を狙わないのは、狙っても当たらないという理由もあるが――無粋だからだ。

 変身中の攻撃はマナー違反である。

 

「来るがいい、ファンタジア! お前の射出は既に見切った!」

「そうかい、なら――」

 

 ミス・ファンタジアは、拳銃を上に向ける。

 訝しむ騎士を前に、そして叫んだ。

 

氷山(アイストーン)!」

「なっ――」

 

 騎士が気付いたときにはもう遅い。

 怪盗の真上には、それはもう巨大な氷の塊が浮いているのだ。

 

「おい、やめろ! そんなことをすれば人死にが出るぞ!」

「君がなんとかすればその限りじゃないよ、団長!」

 

 こんなものを投げれば、今二人がいる建物も、その下にいる騎士たちもただでは済まない。

 ミス・ファンタジアは人を殺さない。

 少なくとも自分の意志では。

 正当防衛はまた別だが、それにしたってこれは。

 女騎士は瞠目する。

 いくら何でも、自分の実力を過大評価しすぎだと!

 

 やがて、ミス・ファンタジアが拳銃を振り下ろすと、それと同時に氷山はゆっくりと下降する。

 慌てる騎士を前に、その巨大な氷塊がミス・ファンタジアの姿を覆い隠した。

 そこで、騎士はミス・ファンタジアの本当の狙いに気がつく。

 

「……しまっ! 狙いはそれか!」

「ちょっと真面目すぎたね、団長」

 

 直後、女騎士の視界に、何かが閃く。

 風を切り、無数の方向からそれが迫る。

 女騎士は、それが何であるかを既に知っていた。

 

 糸だ。

 

 

 直後、巨大な氷の塊はまるで豆腐かなにかのように簡単に()()された。

 

 

 細切れに、最初からそうであったかのように、小さな氷の粒へと変わる。

 同時。

 

業火(ボルケノ)

 

 その一言と共に。

 炎が、それらの氷を一瞬で溶かし尽くした。

 

 ミス・ファンタジアの狙いは単純。

 あのでかい氷で騎士から自分を見えなくする。

 そして、“ある方法”でこの氷を切断。

 さらに炎でそれを急速に溶かすことで――

 

「前が、見えない!」

 

 ――蒸気が、周囲を覆うのだ。

 

 ただでさえ夜の闇は視界が悪い。そこをさらに煙が覆い隠しては、ミス・ファンタジアを追うことは難しい。

 対してミス・ファンタジアは最初から解っていたかのように屋根の上から飛び降りると、ある場所に着地する。

 

「な、なんだ!? 何が起きている!」

「……! 射出(シュート)!」

 

 ()()()()()()()()だ。

 護衛の男が気づいて、音のした方に魔術を行使するが、遅い。

 

「ごっ」

「おい、今のはなんだ! 俺を殺すぐえっ!」

 

 二人分の男のうめき声が車から響き――直後、どさりと何かが落とされる。

 

「ええい、何をしている! 言っただろう、貴族は予め確保して、車は抑えておけと!」

「で、ですが護衛の男がそれを阻んでいまして!」

 

 屋根上から女騎士の声が響き、言い訳が帰ってくる。

 だが、もはや後の祭り。

 

 車のエンジンがかかる音が響く。

 載っているのが誰かは、もはやいうまでもあるまい。

 

「それじゃあね、アスナロット団長。次は私を追い詰めた後の対策を忘れないことだ」

「くっ……ミス・ファンタジアァァァア!」

 

 車を奪ったミス・ファンタジア――私はその場を後にするのだった。

 

 

 ◎

 

 

 夜に悪は蔓延れり。

 私、ミス・ファンタジアが転生した世界は、一言で言えば弱肉強食の世界だった。

 悪徳貴族が跋扈して、裏社会では薬と金が飛び交って。

 普通の人々、弱者はただ食い物にされるばかり。

 

 そんな世界は間違っている。

 いや、そんな世界は私のような怪盗が望まれるくらい、腐っている。

 

 強者は弱者を食い物にし。

 弱者は強者を恐れる余り、強者に虐げられた事実を隠した。

 そんな世界は、間違っている。

 

 だったら、私がそれを正してやろうじゃないか。

 なにせ、強者から力を奪い取ることは楽しい。

 弱者の秘密を暴き、秘密を秘密にする必要をなくすことは、正しい。

 正しく、楽しいならば私が怪盗をする理由は十分だ。

 

 私の名前はミス・ファンタジア。

 強きを奪い、弱きを暴く。

 麗しき不敵の大怪盗。

 

 次に盗むのは、いかなる悪か。

 

 ま、乞うご期待……ってね。

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