異世界でTS転生で美少女怪盗。   作:パリの都

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異世界で美少女怪盗で表の顔は店の店主。

 私、ミス・ファンタジアは転生者だ。

 前世はなんてことのない一般男性だったわけだが、今では美少女に転生したいわゆるTS転生者。

 気がつけば異世界に転生していて、気がつけば怪盗なんてことをしているんだから驚きだ。

 

 そもそもの話、私が転生したのは今から十年ほど前。

 私が転生したのは、伝説の怪盗“ミセス・ミステリア”の娘という立場だった。

 いわゆるルパン三世における爺さん……アルセーヌ・ルパンのような存在だったミセス・ミステリア。

 彼女は私が転生する前後で、謎の失踪を遂げる。

 結果、一人残された私の手元には彼女の商売道具と、彼女が残した「怪盗の手引」なるものがあった。

 

 なんていうか、アレだよね。

 母さんは私が転生するのを解っていたかのように失踪して。

 その上、私がその跡を継げと言わんばかりに足跡を残したよね。

 ……まぁ、それで跡を継ぐ私も私なのだけど。

 

 正直、怪盗の娘に転生したとわかった時、私は結構興奮した。

 前世から割りとルパン三世はもちろん、その元ネタのアルセーヌ・ルパンだってそこそこ嗜んだ身だ。

 痛快怪盗アクションとか、かなり大好物です。

 

 そんなわけで、母の手引に従って修練を積むと、さすがは伝説の怪盗の娘といったところか。

 その遺伝子を私は色濃く継いでいて、練習すればするほど盗みの技術は巧みになっていった。

 今では変装、声真似、鍵開け、なんでもござれの泥棒少女だ。

 可能なら女怪盗よりは男の怪盗の方がよかったけど。

 だってほら、裏社会で女とか、嫌な予感しかしませんよ。

 

 実際この世界は異世界ファンタジーの世界で、治安は現代のそれとは大分違う。

 ちょっと裏路地に逸れればそこにはスラム街があって、私みたいな年頃の少女が娼婦として売られている世界だ。

 万が一捕まれば……とか、ピンチの時は考えてしまったりもする。

 

 そして数年の修練の後、私はミス・ファンタジアとして怪盗になった。

 ファンタジアってのはまぁ、ここが幻想の異世界だからってことで安易につけたけど。

 まぁ、似合ってると思う。

 美少女だから何でも似合うとか、そういう話は抜きにして。

 流石に美少女が石川五右衛門って名乗っても、ソシャゲのキャラかな? としかなりませんよ。

 

 母は割りと、盗めるものは何でも盗む悪党だったらしいけど。

 私はあくまで、金持ち……それも裏で後ろ暗いことをやっている連中に狙いを絞ることにした。

 義賊というやつだね。

 現代人の感覚がそうさせた、というのもあるけれど。

 私がやりたいのは警官相手の殺し合いではなく、悪党相手の追いかけっこなのだ。

 

 怪盗としての仕事はうまくいっていると思う。

 協力者も作れて、私が相手をした悪党は皆ことごとく破滅して。

 善行をしているといううぬぼれも、それがうぬぼれであるという自覚もある。

 正直、それを楽しむのはどうなのという現代的な倫理観もあるけれど。

 

 この世界は異世界だ。

 万引きをした子供が騎士団――この世界における警察機構――に追われ、逃走劇の末に殺されるなんてことが普通に許容される世界。

 生きていくためには、皆が剣や杖を手にするのは当たり前の世界。

 魔術で子供が大人を簡単にころせる世界。

 そういう世界で生きていくなら、殺しは極力したくなくても、しなくてはならないわけで。

 

 私の中には、いっちょ前に使命感みたいなものが形成されていったのだ。

 ミス・ファンタジアがこの世界における正義なのだと。

 私こそが市民の正しい守り手なのだと。

 そう思う自分も、心の何処かにはいて当然なわけだ。

 

 まぁ、何が言いたいかといえば端的に――

 

 私は、今の人生をそこそこに満喫しているということである。

 

 

 ◎

 

 

 ミス・ファンタジアは裏の顔――

 私の普段の顔は、しがない商店の店主である。

 店を開けても一日の大半は閑古鳥が鳴いていて、私は店のカウンターにもたれかかって眠そうにしている。

 

 今の名前はアン・アルベール。

 この店は、今から十年前になくなった母の店で、私はそれを継いでいる……という背景(カバーストーリー)だ。

 まぁ実際に、この店はミセス・ミステリア――母の拠点で、表向きは店として経営されていたのもまた事実。

 裏に色々と嘘はあるけれど、私はこの世界に“アン・アルベール”として生を受けたことも、また事実。

 

 だから店だって――ほぼ赤字垂れ流しだけど――母から受け継いで、私が切り盛りしている事実は変わりない。

 私の店――アルベール商店で扱っているのは、主に日用品だ。

 食料などは、鮮度を保てないので扱っていない。

 仕事(かいとう)の都合……以外にも、学業という別の事情があるため、この店は毎日開けていることができないのだ。

 

 なので、店のあちこちには包丁だのまな板だのの家事用品や、箒、ちりとりなどの掃除用品。

 洗剤等も取り扱っている。

 魔術で作られた、異世界特性洗剤。

 後はまぁ、――剣や斧。

 多くの場合は武器商人から安く仕入れた中古品だが、こういったものもこの世界では日用品に分類される。

 少数だが魔道具だって売っていて、まさしく私の想像する異世界の商店に相応しい姿がそこにはあった。

 

 母の代ではもう少し食料品や、可愛らしい衣服なども取り扱っていたそうなのだが、私が引き継いでからそういうのはきっぱり辞めた。

 前者はくさるし、後者は良し悪しがわからない。

 私の衣服は、概ね街のウインドウに並んでいた組み合わせそのままか、母が残してくれたものを使っている。

 勉強してもいいんだけどねぇ、でもそういう女性的なものを学ぶと、自分の元男性としてのアイデンティティにかかわる。

 

 タダでさえ今も、この店の制服である女給風のエプロンドレスで、なんか違和感があるというのに。

 とにかく、そうして一日を怠惰に潰しながら、私は店番をしていた。

 客も来ないなら、わざわざ店番なんてとも思うが……一応、店を開けば毎日一人か二人は客が来店する。

 新規の客なんて殆ど来ないけど、常連さんはそこそこいるのだ。

 

 

「――失礼する」

 

 

 ほら、来た。

 からんからんと来店を告げる鐘と共に、凛々しい女性の声が響く。

 意識を別のところにやっていた私は、慌てて眼の前のことに気を向けるとそこには見慣れた顔があった。

 

 首のあたりで纏めた長い紫髪に、革の胸当て。

 腰には短めの剣を携えて。

 それらを覆うように、黒色のトレンチコートのような衣服を身にまとった二十代の女性が立っていた。

 この世界では、胸当てをつけた人間はいわゆる冒険者――ギルドで依頼を受けて魔物を討伐したりするアレ――が殆どだが、彼女は違う。

 

 胸当てには、剣と盾のマーク。

 これを付けることの許される存在は限られていて。

 そんな彼らのことを、人々はこう呼ぶ。

 

「こんにちは、アスナさん」

 

 騎士団。

 

「そっちこそ暇そうだな、アン。商品が泣いているぞ?」

「あはは……まぁ、果報は寝て待てって言いますから」

「何だそれは、初めて聞いたぞ」

 

 呆れたように私の名を呼んで、アスナさん――アスナロットさんは店内に入ってくる。

 彼女は騎士団のそこそこ偉い人で、この街の治安維持を担当している。

 一見、十代の小娘とは何ら繋がりがないように見えるが……

 

「レリアさんからは、君が一人前になるまで頼むと託されているんだ。この店も、そして君も、私は守りたい」

「母さんも、なんて的確な人に保護を頼むんですかねぇ」

「あの人には何でもお見通しだからな」

 

 レリア。

 レリア・アルベール。

 私の母であり――つまるところ、ミセス・ミステリアの正体。

 なんとそんな母は、騎士団のアスナロット・ドラノワと友人関係にあったのだ。

 正確に言うと、今私の保護者がアスナであるように、アスナの幼い頃の保護者が母さんだったという話。

 

「そういえば、今日はいかな御用ですか? アスナさん」

「ん、ああ――また出たのだ」

「なるほど、ミス・ファンタジアですか」

 

 ――つまり、私だ。

 昨日、詐欺等の手段で私服を肥やしている悪徳商人の元から、いくつかの宝石と詐欺の証拠を盗み取ったのだ。

 この宝石はいずれ換金し、詐欺の被害者の元へ配る予定だが昨日、今日のことなので地下の金庫にしまってある。

 

「ああ、とある宝石商から宝石が盗み取られてな。ここにそんな金目のものはないだろうが、念のため注意喚起に来たわけだ」

「そんな事いって、またミス・ファンタジアにみすみすと盗みを許して、騎士団に居づらかっただけじゃないですか?」

「そんなわけないだろう! まったく、アンはどうしてそんな風にばかり私を見るんだ」

「母さんに育てられた人ですからねぇ……」

 

 私がそう言うと、アスナさんは黙ってしまった。

 アスナさんは、対ミス・ファンタジアのプロとして騎士団で活動している。

 いわゆる銭形警部とか、ガニマール警部とかあんな感じのポジションである。

 優秀なのだが、肝心のミス・ファンタジア逮捕に成功していない。

 なので、ミス・ファンタジアに敗北した次の日は騎士団に居場所がないらしい。

 

 お労しや……まぁ、私のせいなのだが。

 

「しかし、ミス・ファンタジアを捕まえられるのは世界で私しかいない! 必ずや彼女を捕まえ、そのマスクを剥ぎ取ってやる」

「案外、マスクの下は意外な顔かも」

「意外かどうかはわからんが、美人なんだろうなぁ……とは思う」

「び、美人……」

 

 ……アスナさんは顔がいい。

 騎士団でも、一般市民でも、その顔の良さからファンが多い。

 どころか、何ならその顔の良さに新聞社が目をつけて、ミス・ファンタジアのライバルとしてフォーカスされている面もある。

 そんな顔のいい有名人に、美人と言われると少し照れる。

 

「それに比べてアン! 君はまた髪の手入れをおざなりにしているな!?」

「うぐっ。手入れしても正直違いなんてそんなにないじゃないですか」

「それは君の素材が良すぎるからだ! 年を取ってからじゃごまかしも効かなくなるぞ!」

「いいんです、私は永遠に美少女なので」

「またそういうことを言う!」

 

 だがしかし、アスナさんは口うるさい。

 そりゃ孤児になってしまった娘の保護者なんだから、当然と言えば当然なんだけど。

 私としては、もう少し干渉を控えてくれると助かるなー、と思う。

 なんでかっていえば、面倒だからなので口には出せないのだけど。

 

「とにかく、アンもミス・ファンタジアに気をつけるんだぞ。一応、いつ狙われるかもわからないんだから」

「そんな心配ないと思いますけどねぇ」

 

 あくびをしながらアスナさんの言葉をスルーする私。

 暖簾に腕押しがわかりきっていたからか、アスナさんもまったくとは零すもののそれ以上は口にしない。

 まぁ、なんともいつもどおりのやり取りだ。

 

「じゃあな、次来る時までに、髪の手入れくらいはしておくんだぞ」

「はーい、善処しまーす」

 

 ひらひらと手を降って、去りゆくアスナさんを見送って――溜め息一つ。

 アスナさんは私にとっては恩人だ。

 異世界に転生し、右も左も解らなかった頃に、色々と助けてもらった恩がある。

 しかし同時に、ミス・ファンタジアとしての私にとっては、やっかいなライバルでもある。

 

 心中複雑になるのも、致し方ないというもの。

 それにしても――

 

 と、思考を回そうとしたところで。

 アスナさんと入れ替わるように、来客が会った。

 

 からんころんと鳴り響く乾いた鈴の音。

 

「いらっしゃいませぇ」

 

 そう言いながら視線を向けた先にいたのは――

 黒ずくめの、怪しい男だった。

 

 うわーあ、どう考えても訳ありじゃん。

 こういう手合の目的は二つ。

 決して、アルベール商店の客として来たわけではない。

 

「……ヤポネの茶葉を頼みたい」

 

 ヤポネというのは、ここから遠く極東の島国の名前。

 そこの茶葉で淹れた御茶は格別で、貴族様や豪商が好き好んでのむ高級品。

 ――当然、うちの店にそんな商品の在庫はない。

 そもそも食料品の在庫がないのだから、当然と言えば当然だが。

 

 

 だから、これは隠語だ。

 

 

「……淹れ方は?」

 

 先程の、緩い少女の声音から一転。

 私のそれは絶対零度の如き冷たさに変わった。

 機械的というか、まぁそういう演技をしているだけなのだけど。

 言うなれば、感情のないタイプのメイドが発する声音。

 エプロンドレスは女給風なので、これがまた似合う。

 

業火(ボルケノ)の魔術で、三十分」

 

 ここまでは、山といえば河、みたいな暗号的なやり取り。

 何となくここまでのやり取りを見ていれば察していただけるかもしれないが、アルベール商店には裏の顔がある。

 彼はその裏の顔のお客様、というわけだ。

 で、問題は。

 

「温めますか? 冷やしますか?」

「……」

 

 この質問だ。

 これにどう答えるかで、対応は変わってくる。

 

()()()

「かしこまりました」

 

 まぁ、その姿から概ね予想はついていたけれど。

 

 

 こいつは敵だ。ミス・ファンタジアの敵。

 

 

「……ご案内いたします」

 

 そう言って、私はカツカツと店の奥。

 生活スペースへの入り口の前に立ち、その扉に手を当てる。

 

出現(スペース)

 

 その言葉と共に、扉は突如としてかき消えて――地下への階段が眼の前に現れた。

 男はその様子にごくり、とつばを飲む。

 私はちらりと視線をそちらへ向けて促すようにしてから、階段へと足を踏み入れた。

 

 さて、これからこのヤクザの下っ端みたいな黒服を。

 怪盗らしく、いい感じに退治してみせるとしますか。




何でも無い店の店主が実は……みたいなよくあるやつ。
怪盗ですが義賊でもあるので、若干仕事人的な要素もあります。
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