陰の実力者が自身が陰の実力者であることに気付いたら 作:stonks
「全て現実だった・・・・何もかもが現実のことだったんだ・・・・・・」
シド・カゲノーは昨日、これまで"でっちあげてきたもの"、いや"でっちあげたと思っていたもの"全てが現実のことであると知り、まだシュールな感覚を覚えていた。
現実・・現実・・現実・・・
シドはこれまで無数のシナリオに対しての特訓をしてきた。
モブのように激しく溺れるシナリオ。
モブのように犠牲として悲劇的に殺されるシナリオ。
モブのように悪役から恐怖で逃げるシナリオ。
・・・しかし彼はこれまで”このような”シナリオへの特訓はしたことは一度も無かった。
「ってことは・・・僕って本当に陰の実力者ってこと・・・?いやいや、そんなまさか・・・・」
シドは深呼吸で自分自身を落ち着かせ、これまでのことを思い返してみた。
アルファを救ってからの今までの記憶・・・・。
「それで最初からずっと・・・僕は陰の実力者だった・・・・?」
この事実の衝撃は'I Am Atomic'千回分に匹敵するものだった。
「アイエエエエエエエ?どうして気付かなかったんだよ?!僕は何てバカだったんだ!!」
シドはそう叫びながら、誰もいない学校の寮のベッドの上で、古典的なアニメスタイルで暴れまわり、転げまわった。
というのも、彼は自分がアニメのキャラクターである可能性があることに気付いていたのだ。
[スポンジボブのナレーター:10分後・・・]
僕はベッドに倒れこみ、癇癪で溜息を付いて喘いだ。
「素晴らしい・・・僕は自分がやりたいこと、そこにたどり着くことに自信があったけど・・・・しかし自分が既に”それ”だったのに人生の何年も無駄にしていたとは・・・・初めて途方に暮れる感じだ。これからどうしようか・・・?」
その時、彼は目を見開いた。なぜか?なぜなら、全ての主人公がそうであるように、「これからどうしよう・・・」と言った瞬間に、「エウレカ!」と脳裏をよぎるのだ。
「つまり、ディアボロス教団は存在するんだな」
シドの目は細められ、自覚はないものの、限界に近い魔力の溜まりがかろうじて抑えた怒りで燃え上がり、血のような赤に染まっていた。
彼の姉であるクレアを誘拐した教団。悪魔憑きに人体実験を行ってきた教団。
アルファ、ガンマ、ベータ、デルタ、イプシロン、ゼータ、イータ、ニュー・・・そしてアレクシアにも同じようなことをしようとした。
シェリーとローズに危害を加えようとした。アウロラに孤独と、時代を超える悪評しか残さなかった。
シドは顔を歪め、シャドウのペルソナの中で、彼を拷問した騎士の連中にだけ見せるような笑みを浮かべていた。
ルスラン・バーネット。そして、ドエム・ケツハット。シドは自分の空想の中で、何もかも知らずに生きてきた。
全てが偽りだと思い込んでいたが、現実となると・・・
「もう我慢の限界だ」
シドの制服はやがて漆黒のスライムに覆われ、彼のトレードマークである黒いローブへと姿を変えていった。
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シドが最初にしたことは図書館に行くことだった。古代文字の読み書きの技術を磨く必要があったのだ。
幸いなことに、シドは情熱的で献身的であれば十分に頭が良かったし、古代文字を学ぶことで陰の実力者としての役割を確固たるものにできるのなら、それはそれでいいじゃないか!
次に彼がしたことは、シャドウガーデンの本部に入ることだった・・・待てよ、本部はどこだ!
エヘン、大丈夫。シドはヌーとばったり会い、質問という名目で本部の住所を聞きだそうとした。
「ヌー、一つ質問をいいかな」
「は・・はい、シャドウ様」
「・・・」
「・・・」
「シャドウガーデン本部の場所って知ってる?」
「・・・はい?」
いずれにせよ、ヌーはシャドウに詳しい住所を伝えてのけたのだ。さて、彼の計画は・・・
アルファはいつものように晴れた火曜の午後、事務所で事務仕事をしながらシャドウガーデンの運営に携わっていた。
他の七陰は、ドアに「立ち入り禁止」の札が掲げられているときは死んでも邪魔をするなと厳命されている。
そして、彼は決して近くにいなかった。だから、侵入者の気配を感じたとき、彼女は賢明なシャドウガーデンのメンバーなら誰でもするようなことをした。
一瞬のうちに振り向き、首を斬る
ただ、彼女の剣は2本の指の間に挟まっていた。
「見事な反射神経だ。君は本当に僕の期待を裏切ってくれたよ」
「シャ・・シャドウ!」アルファは顔を赤らめてお辞儀をしようしたが、すぐにシドに捕まえられた。
「堅苦しいことはいいんだ。とにかく、アルファ、君にやってもらいたいことがあるから来たんだ」
アルファは背筋を伸ばし、いつものように冷静でストイックな顔をシャドウの方に向けた。
「君に・・・休んでもらいたいんだ」
「え・・・?」
みたいな感じで、相手の意表を突くのが好きなんだ。彼女達は本当にかわいいとシドは心の中で思った。
「本気だよ。少し休んだら。働きすぎだよ。このままでは燃え尽きてしまうよ」
「シャドウありがとう。でも・・・」
「報告書は僕に任せてくれ。目を通しておくから。親しい部下に全ての仕事をさせるわけにはいけないからね」
シドは愛嬌のある笑みを浮かべようとした。くそー、うまく笑えない!
でもどうやら上手くいったようだ。アルファは目を輝かせながらシャドウを見つめ、水っぽい笑顔を浮かべた。
「わかったわ。仰せのままに」
去り際に、デスクに座ったシドから、もう一つ伝言があった。
「ところでアルファ・・・周りに誰もいないときは僕のことをシドって呼んでいいよ」
アルファの唇から小さな息が漏れた後、彼女は再び微笑んだ。
「わかったわ・・・・シド」
5分後・・・
「彼は私に触れた・・・彼は実際に私に触れた・・・・」
アルファの頭の中は、彼が彼女を止めるときに手を出したときの記憶が蘇り、熱狂していた。
「彼の手を感じた・・・」アルファの顔は真紅に染まっていた。心の奥底で、このままではオーバーヒートしてしまうのではと不安になっていた。
「ア・・アルファ様、大丈夫ですか?」ベータが心配そうに聞いた。
「らしくないです」ガンマも同意するように続いた。
「な・な・・なんでもないわ・・」アルファは自身を落ち着かせるために深呼吸をしながら答えた。聞こえるような深呼吸。ベータとガンマが互いに訝しげな顔をして、アルファの方を見た。彼らは同じ結論に達した。
「アルファ様は恋をしているよう・・・ということは・・・」
ベータとガンマは声を揃えて叫んだ。
「アルファ様!シャドウ様と何をしたんですか!」
「不公平です!」
一方、シドはどうにかしてアルファの机の上の書類を片っ端から片付けた。
深いため息をつきながら、椅子に寄りかかった。
「疲れた・・・アルファはよく毎日こんなことを続けられるな・・・・よく休んでくれるといいな」
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次にシドがしたことはアレクシアに接触することだった。彼女は彼がシャドウであることを知らず、シャドウガーデンに加わるつもりもない。
しかし、彼のモブセンサーは彼女が物語で重要であろうことを、そして彼の陰の実力者センサーは彼女が貴重な味方であろうことを告げていた。
「これは驚きね・・・私の誘いを断って以来、こんな風に近づいてくることは無かったのに。どうしたの?お金が欲しいのかしら?」
「いや、ちょっと様子を見たかっただけだよ。でも君が嫌なら僕は帰るね」
シドは振り返って、立ち去ろうとした。
「待って!」アレクシアは自分を呪った。なんなの、彼の前ではこんなに意思が弱くなるなんて。
シドは内心でため息をついた。ディアボロス教団が実在し、シャドウガーデンが本物のNGO超大組織であることに気付いてから、彼は自分の周りで何が起こっているのかにずっと注意を向けていた。
彼と何かしらの関係がある女性達・・・アルファ、ベータ、ガンマ、デルタ、イプシロン、アレクシア、ローズオリアナ、そしてシェリーバーネット、が間違いなく彼に惚れているであろうことが、彼にとって大きな頭痛の種となっていた。
そして今、アレクシアが自身に惚れていることを目の当たりにしている。
彼は彼女達と恋愛関係を築くことに反対しているわけではない。
これまで彼は、陰の実力者になることだけを目標にし、恋愛は邪魔とならないようにしていた。
しかし、既にそうなっている今、ハーレムを作ろうと思っていないと言えば嘘になる。
うーん。それが彼の次の目標になるかもしれない。ハーレム王。
だが、それは現実的に追及すべきものであり、女の子に囲い込まれる前に陰の実力者として自由を謳歌したいというのが正直なところだった。
そしれ、いずれにせよ、ディアボロス教団はまだそこにあるのである。
彼らがいる限り、彼の女の子達は危険にさらされるのだ。
そして、シドはそれを許すつもりはない。
「剣術はどんな感じ?」
「・・・上達しているわ。上達していると思う」
「良かったら、今度練習しようか」
「いいわよ」
長い沈黙が落ちた。その後に・・
「シャドウガーデンをどう思う?」
「え?」
「彼らは街の誰もが話題にしている組織だ。犯罪者だと。君は正直彼らをどう思う?」
アレクシアは目を細めた。
「それならあなたはどうなの?」
「うーん・・・」シドは退屈そうな無関心な顔で空を見上げた。
「個人的には、彼らが本当に悪人なら、とっくに王国は崩壊していると思う」
「どういう意味よ」
「君は女神の試練のときにいたよね?シャドウは世界を滅ぼした災厄の魔女アウロラを倒すことができたのに、ミドガル、オリアナ王国は比較的無傷で済んでいるんだ。それに彼らが法に縛られない組織だとしたら?彼らは教団との闘いにおいて、紅の騎士団よりもずっと効果的だったんだ」
アレクシアはシドの紅の騎士団に対する侮辱に口を開こうとしたが、すぐに閉じた。彼が正しいからだ。
「あなたは彼らが信用できると思う?」
「・・・彼らは独立した組織だから、王国と協力することには間違いなく反対するだろうね。彼らは王国の法や規制には縛られたくないから。でも君が独自に彼らと協力したいのなら・・・」
アレクシアは息をのみ、シドを見つめた。
彼は相変わらず雲一つない空を淡々と眺めているが、アレクシアの驚きは消せない。
彼は一体どのようにして、私がシャドウガーデンに接触しようと考えていることに気付いていたのだろう。
シドは微笑み、手を振って別れを告げた。アレクシアに笑みと感情の渦を残して。
一方・・・
「ふぅー。シャドウ様がアレクシアミドガルに言い寄るんじゃないかと思ったけど、心配は無駄だったみたいね」ベータは安堵のため息をついた。
「実際、アレクシアミドガルは一度知ってしまえば、それほど悪い人ではないですけどね。彼女はシャドウ様にベタ惚れのようですが。その点は認めています。でも唇の左下にほくろがある銀髪碧眼エルフちゃんと比べたらなんでもないですけど」
ベータはドヤ顔だったが、顔が凍り付いた。
「ちょっと待って・・・シャドウ様は彼女をシャドウガーデンに誘った・・・・?」
「何故シャドウ様はそんなことを・・・彼が彼女を愛しているから?私達よりも信用しているから?一体私はどうしたら」
「聞いてたか?」
ベータは息をのみ、後ろに立つシドを見た。
「シャドウ様・・・た・・大変失礼致しました!ただ・・」ベータは頭に暖かい手を感じ、言葉を失った。
「心配しなくていい」シドは彼女の銀色の髪を撫でた。
「彼女が貴重な支持者になるかもしれないから、その選択肢を掲示したんた。でも、君はシャドウガーデンの貴重なメンバーだ、ベータ。もし彼女が仲間になることがあれば頼りにしているよ。」
ベータは息を呑み、その目は喜びの涙で一杯だった。
シドが手を離すと、彼女は頭を上げてシドの方を見た。なんとシドが微笑んでいたのだ。
彼は今までこんなにも優しく微笑んでくれることはなかった。
ベータは鼻血が噴き出しそうだった。
有難いことに、代わりに深く頭を下げた。
「了解致しました、シャドウ様!最善を尽くします!」
おやおや、ベータがこんなに可愛くなると知っていたら、もっと前にこうしてあげたのに。