この素晴らしい世界に祝福の音色を   作:レイファルクス

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第11話

 

 

《その昔、稀代の天才と呼ばれた男性のアークウィザードがいました。その男の名は"キール"。》

 

 

《彼は色恋になど全く興味を示さず、魔法の研究にばかり打ち混んでいましたが、たまたま街の散歩をしていた貴族の令嬢に一目惚れしてしまいました。》

 

 

《しかし、身分の差からそんな恋は実るはずもなく、その芽生えた恋心を忘れるかの様に、一層魔法の研究に没頭しました。》

 

 

《月日は流れ、いつしか彼はこの国最高のアークウィザードと呼ばれるようになり、持てる魔術を惜しみなく使い国の為に貢献した彼の功績に、「どんな望みでも一つ叶えてやる」と王が伝えると、彼はいいました》

 

 

《「私には叶わない願いが一つあります」》

 

 

 

 

……

 

 

………

 

 

「うーん…、まあ…大体この後は想像つくよな…」

 

 

ここはギルドの酒場。カズマはその一角に陣取り、とある本を読んでいた。

 

 

「『魔術師キール』の物語ですか」

 

 

「キールが何を望んで、その後どうなったのか、伝えられていないんだ」

 

 

「えっ、二人ともこの話知ってんの?」

 

 

カズマはめぐみんとダクネスに読んでいた本のことを質問する。

 

 

「まあ、有名なおとぎ話だからな。一説ではその貴族の令嬢をさらって、あるダンジョンに立て籠ったらしいが、流石に国相手に一人頑張っても勝ち目は無いだろうしな…」

 

 

「因みにそのキールが立て籠ったとされるダンジョンは、この街からそう遠くない所にありまして、今では駆け出し冒険者のいい練習場所になっています」

 

 

「ふ~ん、そっか…」

 

 

カズマが考え事をしていると、テイラーたちを引き連れたアスタが現れた。

 

 

「カズマ、もしかしてダンジョンに潜るつもり?ダンジョンは罠やアンデットが多いからプリーストと盗賊がいないと危ないわよ?」

 

 

「プリーストに関してはアスタに頼もうと思っていたから大丈夫だ。それより問題は盗賊だな、今日クリスは急な用事で離れないといけないし…」

 

 

カズマが横に立っているクリスに目を向けると、手を合わせたクリスが苦笑いで立っていた。

 

 

「まぁ、クリスから"罠発見"と"罠解除"のスキルを、キースからは"千里眼スキル"を教えてもらったから、危険な目に会うことは無いだろ」

 

 

「……やはり心配です、私も「めぐみんはだめ」って何故ですか!」

 

 

「今日はリーンと一緒に魔法の組み合わせの練習をする約束だろ?」

 

 

めぐみんが自分もカズマに着いていこうと言おうとした所で、カズマに止められた。

 

 

「あはは…、カズマごめんね?今日はめぐみんを借りちゃって」

 

 

「確か"カズマが使っていた魔法同士の組み合わせを見て、自分が覚えている魔法をどういう感じで組み合わせるのか"を試すのだったな」

 

 

「そうそう、それで知力が高い紅魔族のめぐみんに助言をしてもらおうと思って」

 

 

今日から2日前(テイラーたち四人がカズマのパーティーに加入した翌日)だが、屋敷のリビングでリーンが自分の冒険者カードとにらめっこしている時に、カズマとめぐみんが訪れ、リーンは二人に相談をすると、めぐみんが講師を申し出たため、二人の都合が合うこの日に『めぐみんの魔法講座』をする予定だった。

 

 

「それにしても、めぐみんってカズマのこと好きだね。今でもカズマにべったりじゃん」

 

 

「私は1日数時間カズマの心臓の音を聞かないと禁断症状が出てしまうので、こうしてくっついているのです。確かにカズマのことは(異性として)好きですよ」

 

 

リーンはめぐみんに"仲間として"カズマが好きと言ったつもりだったが、めぐみんはカズマのことを"異性として"好きになっているようだ。

 

 

「ところで、ダストは?」

 

 

「アイツは昨日無銭飲食で…」

 

 

カズマはこの場にダストがいないことに疑問を感じ、質問をすると、テイラーがため息混じりで答えた。

 

 

「そうか…。よし、今日の組み合わせだが、俺とアスタはキールのダンジョン、残りのメンバーはめぐみんの魔法講座…と言うことでいいな?」

 

 

カズマはダストのことを"無かったこと"にして、本日のメンバー決めを確認すると、全員が頷いた。

 

 

 

 

……

 

 

………

 

 

「ここがキールのダンジョンか…」

 

 

アクセルの街から徒歩で数時間、カズマとアスタはキールのダンジョンに到着した。

 

 

「一応松明は持って来てるけど、使うか?」

 

 

「大丈夫よ。女神の力って結構便利で、暗闇の中でも周囲を見通すことはできるわ」

 

 

カズマとアスタが話をしていると、カズマの後ろにアンデットが現れた。

 

 

「カズマ危ない!"ターンアンデット"!」

 

 

カズマが襲われそうになったが、アスタが即座に浄化魔法を使用したことによって難を逃れた。

 

 

だが、アスタの魔力を感知したのか、うじゃうじゃとアンデットたちがカズマたちに群がって来た。

 

 

 

 

……

 

 

………

 

 

「ダンジョンの中って、こんなにもアンデットが多かったのか…。アスタがいなかったら今頃アンデットの仲間入りしてた所だぜ…」

 

 

「おかしいわね…、通常ならこんなにアンデットが湧いてくるはず無いのに…」

 

 

カズマとアスタはアンデットを浄化しながらダンジョンの奥まで進んだ。

 

 

「あれっ?カズマ、あれ何かしら」

 

 

アスタが指を指した所を見ると、そこには宝箱が鎮座していた。

 

 

「もしかして…、キールのお宝?」

 

 

「いや、敵感知スキルに反応がある。ひょっとして"ミミック"のような擬態型モンスターかもしれない」

 

 

カズマは周辺にある石を拾い、宝箱に向けて投げた。すると床が口のように動き、石を飲み込んだ。

 

 

「あれは"ダンジョンもどき"ね、カズマがいなかったら食べられていたわね」

 

 

「そこに誰かいるのかい?」

 

 

ダンジョンの壁の一部が開き、そこからランプを持ったリッチーが現れた。

 

 

「人に会うのはいつ以来か…、はじめましてだね。ここで立ち話も何だから、こちらへどうぞ」

 

 

 

 

……

 

 

………

 

 

「自己紹介をしよう、私はキール。このダンジョンを造り、貴族の令嬢を(さら)った悪い魔法使いさ」

 

 

「えっ?キールってあの…」

 

 

「おや?私のこと知ってるのかい?…まあ良くも悪くも有名にはなってるだろうね」

 

 

リッチーのキールは自己紹介をすると、カズマは驚いた。それもそのはず、つい先程まで読んでいた本に登場していた人物が目の前にいるのだから。

 

 

「私はこの人の傍らで静かに朽ち果てるつもりだったのだが、強力かつ神聖な力を感じて目覚めてしまってね」

 

 

「美しいだろ?特に鎖骨のラインが…。どんなに月日が流れてもこの人を想うと熱くならずにはいられないよ」

 

 

キールは隣にあるベッドに横たわっている骸を見ながら干渉深く話す。

 

 

「おとぎ話にあったんだが、あんたが王様に望んだことって…」

 

 

「そんな話があるのかい?…そうさ、私がこの世で唯一叶わなかった望み…。それは」

 

 

『虐げられている愛する人が幸せになってくれる事ー』

 

 

「そう言って私はこの方を攫ったのだよ」

 

 

キールは昔を懐かしむように笑った。

 

 

「そのお嬢様は親の都合で妻として出されたのに、可愛がられずに王様や王室、他の(めかげ)にも虐げられていたからね。要らないならくれって言ってやったのさ」

 

 

「で、そのお嬢様にプロポーズしたら二つ返事でオッケーしてくれた。その後はお嬢様と愛の逃避行をしながら王国軍とドンパチさ、あれは楽しかったなぁ…」

 

 

キールは当時を懐かしむように思い返した。

 

 

「ところで、そこのアークプリーストの君に頼みがある。私を浄化してくれないか?」

 

 

「えっ…?」

 

 

キールはアスタに自分を浄化してほしいと頼んだ。

 

 

「君はリッチーをも浄化するほどの神聖な力を持っているんだろう?」

 

 

 

 

……

 

 

………

 

 

「いや助かったよ、リッチーが自殺なんて洒落にもならないからね。もし良かったら、そこにある私の財産は全て君たちに差し上げよう」

 

 

アスタはキールの願いを受け、キールの足下に浄化の魔方陣を展開した。

 

 

「……お嬢様は不自由な逃亡生活中、一度も文句を言わず、絶えず笑っていた。私は彼女を幸せにできたのだろうか…」

 

 

「……人の理を捨て、自らリッチーと成ったアークウィザード・キール。水の女神アクアの名において、あなたの罪を許します」

 

 

アスタはいつの間にかアクアの姿になっていた。

 

 

「目が覚めると、エリスと言う可愛らしい女神がいるでしょう。…もし、あなたがどのような形であれ、彼女との再会を望むなら、彼女に頼みなさい。きっと叶えてくれますよ」

 

 

「……ありがとう」

 

 

「あなた達に今後の幸せがあらんことを…、"セイクリッド・ターンアンデット"」

 

 

キールはお嬢様の骸と手を繋ぎながら、浄化された。

 

 

 

 

……

 

 

………

 

 

「なあアスタ、あの人無事にお嬢様と再会できたかな?」

 

 

「私にはわからないけど、あの人の想いは本物だったから、エリスもそれを汲んで願いを叶えているはずよ」

 

 

カズマとアスタに戻ったアクアはキールの部屋から出て、ダンジョンの入り口に向かっていた。

 

 

「あのお嬢様、厳しい逃避行だったのに幸せだったのかねぇ?」

 

 

「それも私はわからないけど、一つ確実なことは言えるわ。あのお嬢様、私達が来る前から何の未練も無く成仏しているわ。きっと嬉しかったのね、"自分だけを見てくれて、自分だけを愛してくれる人と出会えた"ことに」

 

 

「……そっか、よし!めぐみんたちが心配してるだろうから、さっさと帰るか!」

 

 

「…そうね!」

 

 

カズマとアスタは意気揚々にダンジョンから出て、屋敷に帰ったのであった。

 

 

 

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