「本当か?ララティーナ!見合いを前向きに考えてくれるとは…」
「本当です、お父様。ララティーナは此度、このお見合いを受けようかと思いますわ」
此処はダクネスの実家であるダスティネス家、その一室でダクネスは自身の父である『ダスティネス・フォード・イグニス』に見合いを受けることを話した。
「それは良かった。…ところで、その四人は?」
「お初に御目にかかります、私はララティーナお嬢様と一緒に冒険稼業をしております『サトウカズマ』と申します。そして横におりますのは私と同じ仲間で、アークプリーストの『アスタ』、お嬢様のご友人で盗賊の『クリス』、アークウィザードで紅魔族の『めぐみん』です」
カズマを筆頭にアスタ、クリス、めぐみんの三人は頭を下げた。
「わたくしの要望で、臨時の執事とメイドとして、同伴をお願いしたのですわ」
そう、ダクネスがカズマにお願いした事とは、見合いの同伴だった。ダクネスから頼まれたカズマは少し考えると、めぐみんとクリス、そしてアスタの三人を連れて行くことを条件にダクネスのお願いを承諾したのだった。
「そうか…、君が街で噂になっているカズマ君か。何でも魔王軍幹部のデュラハンを倒したり、デストロイヤー破壊作戦では積極的に指示を出していたりとか…」
「お恥ずかしい限りです」
「…うむ、君たちなら娘を任せられそうだ。頼むぞ」
…
……
………
カズマたちは一旦着替えるために更衣室へと通された。
「カズマ様、サイズは大丈夫でしょうか」
「…はい、大丈夫です。わざわざありがとうございます」
カズマは執事風の服を身に纏い、更衣室から出てきた。
「あっ、カズマ!結構似合ってるじゃない」
どうやら女性陣の方が早かったのか、廊下でアスタたちが待っていた。
「………」
「カズマ、どうしたのですか?」
めぐみんたちのメイド姿を見たカズマはその場で硬直してしまった。
「多分だけど、めぐみんとクリスのメイド姿を見て見惚れているんだわ。カズマ、そろそろ起きなさい!起きないとこれから"ロリマ"って呼ぶわよ?」
「それだけはやめろくださいっ!」
アスタが口走った"ロリマ"と言う言葉にカズマは謝りながら反応した。
「戻って来て良かったわ。それよりも…、何か言う事は無いかしら?」
「凄く綺麗だよ、めぐみん、クリス」
アスタの質問にカズマはめぐみんとクリスの二人に対して答えた。
「とても嬉しいです、カズマもカッコいいですよ」
「あたしも。ありがとう、カズマ!」
「ぶーっ!何で私だけ何も言ってくれないの?」
めぐみんとクリスは照れながらカズマに感謝し、アスタはぶー垂れていた。
「いや、アスタのその格好は以前ギルドで似たような格好を見ていたからな。でも、似合ってるぜアスタ」
「そっ…、そんな直球で言われると…、照れちゃうじゃない…」
カズマの返答にアスタはもじもじした。
「それじゃ、そろそろダクネスと合流しようか」
カズマはめぐみんとクリスとアスタの三人を引き連れてダクネスと合流しようとした。
…
……
………
「間もなく相手の殿方が到着する、皆粗相の無い様に。しかし…、お前がお見合いを受けてくれるなんて、本当に嬉しいよ…。アルダープから話を持ちかけられた時は、何事かと思ったが…」
「嫌ですわお父様、見合いを前向きに考えると言っただけですよ…」
「ん?そ…それはどういう…」
ダスティネス家の正面玄関口の絨毯の両横にメイドがズラリと並び、中央にダクネスとイグニスが並ぶ。そしてダクネスの後ろにカズマ、めぐみん、クリス、アスタの順番で控えていると、イグニスがダクネスが見合いを受けることに涙を流していたが、ダクネスの一言で流れていた涙が止まった。
「そして考えた結果、やはり嫁入りにはまだ早いとの結論に達しました。もう今更遅い!!見合いを受けはしたが、結婚するとは言ってない!ぶち壊してやる、見合いなんてぶち壊してやるぞ!!お父様…、残念でしょうが諦めて下さい」
「お嬢様、その冒険者の時の口調は謹んで頂きますようお願い致します」
ダクネスが自身の狙いを暴露した途端、側にいるカズマに嗜まれた。
「んなっ!?カズマ、裏切るのか!?」
「裏切るつもりは毛頭御座いません、口調を慎むようお願いしたのです。今は『冒険者のダクネス』では無く、『ダスティネス家のご令嬢、ララティーナ様』であることをお忘れ無く」
「うぐっ…」
カズマの言い分にダクネスは言葉を詰まらせた。
「旦那様、お見えになられましたが…」
そこにメイドの一人が相手の到着を知らせた。
「本日はお招き頂きまして有難うございます。アレクセイ・バーネス・バルターと申し…「貴様が見合いの相手か!我が名はダスティネス・フォード・ララティーナ!私の事はダスティネス様と」『ゴインッ!』…は?」
「申し訳ありません、お嬢様の頭に害虫がおりましたもので…」
ダクネスが早速見合いをぶち壊そうとした所で、クリスが何故か持っていたトレイでダクネスの後頭部を殴った。
「……先程は失礼致しました、お嬢様も大変緊張されておりまして…」
「いえ、構いませんよ。僕もここに来るまでは緊張しっぱなしでしたから」
ダクネスの変わりにカズマが移動しながらバルターに謝罪すると、バルターも自分も同じだからと許したのだった。
「あっ」
「どうされました?ララティーナ様っ」
「いえ…、ヒールの踵が折れてしまった様で…。バルター殿、お手を借りてもよろしいですか?」
するとダクネスが急に躓いた。バルターがダクネスに近づき尋ねると、どうやらヒールの踵が折れてしまった様で、ダクネスはバルターに起き上がらせてもらおうと手を差し伸べる。
だがカズマたちは見てしまった。ダクネスの"何かを企む顔"を。
「ララティーナ様、大丈夫でしたか?今お助けします」
カズマはめぐみんにアイコンタクトを送り、めぐみんがダクネスを起き上がらせた。ダクネスも計画が外れてしまったのか、それとも助けてくれたのが同性のめぐみんだったからなのか、何もしなかった。
…
……
………
「では改めまして、アレクセイ・バーネス・バルターです。アレクセイ家の長男で、父の領地経営を手伝っております」
「わたくしはダスティネス・フォード・ララティーナ、当家の細かい詳細は省きますわ。成り上がりの領主息子でも知ってて当然なんでっ!?」
ダクネスが暴走しかけた所をアスタが首をつねった。
「どうされました?」
「いっいえ…、何でもありませんわ…」
バルターがダクネスに質問をすると、ダクネスは何事も無かったよう気丈に振る舞うと、アスタのつねっていた手が離れた。
「さて、私は席を外させてもらうよ。後は若い者だけで楽しむといい」
イグニスはそう言って退席し、ダクネスたちは中庭を散歩することになった。
…
……
………
中庭を散歩しているダクネスとバルター。その後ろをカズマたちが付き添うように歩いていた。その途中、アスタが池にいる鯉を調教されたイルカの如く操っていた。
「ララティーナ様、ご趣味は?」
「あ…、え…えーと。ゴブリン狩りを小しょうぐふっ!!」
バルターがダクネスに趣味について質問をし、ダクネスが答えると、カズマがダクネスに近寄り、ダクネスの脇腹に肘打ちを喰らわした。
「……随分と仲がよろしいんですね」
「そ…そうですのよ?このカズマという執事とは一緒におりますの。食事もお風呂も…、勿論夜寝る時も…」
バルターがダクネスとカズマのやり取りを見て、仲良さげな事を言うと、ダクネスは何かを思い付いたのか、カズマの手を握り、有ること無いこと話し出した。
「ご冗談はご遠慮願います。ララティーナお嬢様は人をからかうのが好きでして…」
カズマは咄嗟にダクネスの手を振り払い、バルターに冗談であることを伝える。
「……本当に仲がよろしいですね、妬いてしまいますよ」
「…もう止めだ!こんな事やってられるか!」
バルターの言葉を聞いたダクネスは、何を思ったのか、着ているドレスの裾を破った。めぐみんとクリスはダクネスがドレスを破る直前でカズマに抱き着き、手で目隠しをした。
「貴様バルターと言ったな!私と剣で勝負しろ!お前の素質を見定めてやる!!」
ダクネスはバルターに模擬戦を挑んだのだった。
…
……
………
「勝負はどちらかが音を上げるまで!"こんなのもう無理、お願いこれ以上は許して"と言わせてみろ!そうしたら嫁でも何でも行ってやる!」
場所を修練場に移動したカズマたち。そしてダクネスはバルターに木剣を渡しながらルールの説明をする。
「……ララティーナ様、僕は騎士です。訓練とはいえ、女性に剣を向ける事などできません」
しかしバルターはダクネスの模擬戦を断ろうとした。
「ふんっ、女性だからと甘く見るのも大概にしてもらおうか!」
「……分かりました。正直言って僕は、あの父に押しつけられた今回の見合いを断るために来たんです。…でも、あなたを見て気が変わった。どこにでもいる貴族の令嬢とは訳が違う。流石は王国の懐刀の一人娘だ、僕はあなたに興味が湧いた。行きますよララティーナ様!」
バルターは木剣を構えると、ダクネスに切りかかった。ダクネスも応戦しようとするが、バルターの動きが早かったのか、持っていた木剣が弾かれてしまい、木剣は回転しながら音を立てて落ちた。
「勝負あり…ですね」
「(すごいな、あのバルターって人…。剣の腕は一流か…、俺でも今のを防げるかどうか、分からないな)」
「なるほど…、そこらの軟弱な貴族の御曹司ではないということか。だが、これで終わりではなかろう!女と思って遠慮するなっかまわず打ち込んでこい!!」
ダクネスはバルターの実力を認めるが、木剣を拾って勝負の続行を臨んだ。
「流石ですララティーナ様っ、では遠慮なく!」
先程と同じようにバルターから仕掛けるが、ダクネスは確りと受け止め、つばぜり合いとなる。だが、バルターは素早く移動し、ダクネスの左肩に一撃を与える。
「ぐっ…!なんのっ、まだまだ!」
ダクネスは一旦膝を着くが、再び立ち上がってバルターに攻撃を仕掛けた。
…
……
………
ダクネスとバルターの模擬戦は続き、ダクネスの体には幾つもの青痣ができていた。
「……どうした?もう終いか?」
「な…、も…もういいでしょうっ!勝負は見えている!なぜ諦めないんですか、あなたは!!」
ダクネスは息が上がっているが、尚も立ち上がろうとする。その姿を見たバルターは何故立ち上がろうとするのか質問する。
「…私はクルセイダーだ、その私が膝を折り…目の前の脅威に屈してしまったら、誰がか弱き者を守るのだ…!たとえどんなに打ちのめされようと、私は折れない!絶対にだ!!さあ、どうした!?殺す気でかかってこい!!」
ダクネスは顔を紅潮させながら言い放った。その顔を見たカズマたちは『オイ、顔が緩んでるぞ』と心の言葉が一致した。
「…参りました、僕の負けです」
ダクネスの言葉を聞いたバルターは、木剣を足元に落とし、両手を上げた。
「剣の技量では勝っても、心の強さには敵わなかった…。あなたはとても強い人だ」
「…何だ終わりか…、つまらん。修行して出直してこい」
バルターの降参で勝負に決着が着いたため、ダクネスも木剣を下ろし、悪態を突く。
「…ぷっ、あはははっ。完敗ですララティーナ様、本当に惚れてしまった」
「だが、このままでは収まりがつかんな…。ならば…」
ダクネスはバルターが落とした木剣を拾い上げると
「来いカズマ!お前の強さをバルターに見せてやれ!」
カズマに向かって放り投げた。
「はあっ!?誰がやるかそんな「僕も見たいな」こと…って、バルター様?」
カズマは木剣を受け取るが、断ろうとした。が、その前にバルターが口を挟んだ。
「ララティーナ様が信頼を寄せる者が、どんな戦い方をするのかを」
バルターは壁に背を預けながら腕を組み、静観の姿勢を見せていた。
「はぁ…、わかったよ。どうせ見合いはご破談だろうしな。それに、あんたはお嬢様の悪い噂なんて流さないだろうし。俺か本当の執事じゃないのだって、とっくに感づいてんだろ?」
カズマの質問にバルターは何も言わなかった。
「さあ全力で来いカズマ!お前とは一度やり合いたかったのだ!」
「しょうがない…、負けても文句を言うなよダクネス!!」
カズマは木剣を振りかぶり、ダクネスに向かって走り出した。
「なあダクネス、アイツのどこがいけないんだよ!?顔良し、器量良し、剣の腕前は一級品!非の打ち所が無い好青年じゃないか!?」
「ふんっ、あんな奴私の好みのタイプでは無い!私のタイプはひょろい体型か小太りで、私が一途に想っているのにすぐに他の女に鼻の下を伸ばす、年中発情しているスケベそうなのは必須条件だ!」
「借金があり、楽に人生送りたいと舐めてるダメな奴がいい!働きもせず、酒を飲んだくれ、世間の悪口を言いながら私にこう言うのだ。『おいダクネス、そのいやらしい体を使ってちょっと金を稼いで来い!』…と…っ!~~~~~っ!!」
カズマはダクネスと打ち合いながらバルターのどこが悪いのか質問をする。ダクネスは自分の好みのタイプを口にし、自ら口にした状況を妄想したのか、絶頂に達してしまい、床に倒れてしまった。
「俺、何もしてないのに勝っちまった…」
「やっとるかね?修練場にいると聞いたので、飲み物の差し入れを…」
カズマがぼやいていると、幸か不幸か、イグニスが飲み物を乗せたカートを押してるメイドを引き連れて修練場に入って来た。
…
……
………
「娘は昔から人付き合いが苦手でなあ…、毎日毎日"冒険仲間が出来ますように"とエリス様にお祈りしていたのだよ。盗賊の女の子の仲間が出来た時はそれはもう喜んで…」
娘が倒れている所を見たイグニスは取り乱し、カズマとバルターを処刑しようとするが、めぐみんたちに止められ、状況を必死に説明し、落ち着いてもらった。そしてダクネスを彼女の自室にあるベッドに寝かせ、隣の部屋でイグニスはダクネスについて話し始めた。
因みに"盗賊の女の子の仲間"であるクリスはちょっと照れくさそうにしていた。
「妻を早くに亡くし、男手一つで自由に育ててきたのがいけなかったのかな、ああなってしまって…」
ダクネスの性癖のことを言っているのだろうか、イグニスは涙を流した。
「ララティーナ様は素晴らしい女性ですよ。カズマ君がいなかったら、僕が妻にもらいたいと思ってます」
「ははは、そうか。それなら仕方がないな、カズマ君、娘の事よろしく頼む」
バルターの口からカズマの名が出たので、イグニスもダクネスのことをカズマにお願いした。
「ちょっと待ってください!一体何を…」
「…何だ、私が寝ている間に何があった?」
するとダクネスが起き、部屋に入って来た。
「おお、目が覚めたかララティーナ」
「……何でもねーよ」
カズマはダクネスから視線を外す。
「……はっ!お父様…、バルター様…。今回の見合いはなかった事にして下さい。実は、私のお腹にはカズマの子が…」
ダクネスは何を思ったのか、自分のお腹を押さえ、顔を紅くしながら言った。
「………(ガシッ)」
「………(ガシッ)」
「待てめぐみんにクリス、ダクネスが言ってることは嘘だ。お前たちならいざ知らず、ダクネスとは一度たりとも無い。だからその肩に置いた手の力を抜いてくれ頼む」
めぐみんとクリスはカズマの肩に手を置き、力を込める。カズマは弁解しながら力を緩めるよう頼んでいた。
「……そうだよね、カズマはあたしやめぐみんとしか寝てないもんね。ダクネス、冗談を言うのも大概にね?」
クリスはダクネスに微笑む。だが顔は笑っていても、目が笑っていないので、ダクネスは顔を青ざめながらコクコクと壊れた人形みたいに頷いた。
「…では僕はこれで失礼します。父には僕の方からお断りをしたと言っておきます、その方が双方に都合がいいでしょう」
バルターはソファーから立ち上がり、帰宅すること、更に自分から見合いを断ることを伝えた。