ダクネスのお見合い騒動から2日、肉体的、精神的に疲労していたカズマはこの日まで屋敷で休養していた。そして久しぶりにクエストを受けようとギルドに足を運んでいた。
「あっ、カズマさん!」
するとギルドの受付嬢のルナがカウンター越しにカズマを呼び寄せた。
「ルナさん…とセナさん?」
カズマがカウンターに到着すると、そこには以前世話になった王国検察官のセナが先客として来ていた。
「カズマ殿、お久しぶりです」
「久しぶりですセナさん。ところで、何故王国検察官のあなたがギルドに?」
「実は…」
セナが言うには、近頃『キールのダンジョン』に謎のモンスターが大量発生しているとの事。
「それで最後にダンジョンに入った人を調べようとここに…」
「そう言えば…、確かこの前屋台のおっちゃんから聞いたな。『妙なモンスターがダンジョンから出ている』って…」
「セナさん、『キールのダンジョン』に最後に入ったのは、カズマさんとアスタさんの二人だと、記録に残っています」
ルナは手元にある資料に目を通しながらセナに報告をする。どうやらカズマたちが潜ってからは誰も潜ってはいなかったようだ。
「そうですか…。カズマ殿、何か心当たりはありますか?」
「そうですね…」
カズマはキールのダンジョンであったことを説明する。
…
……
………
「…以上です」
「まさかあのキールがリッチーになっていたとは…」
「その事に関しましては確かに報告がされてまして、調書にも記載されています」
ルナはセナに当時の報告書を見せる。セナは素早く報告書を黙読する。
「……確かに、カズマ殿の言ってることは事実のようですね」
「あの…、もし良かったら俺たちが調査しましょうか?」
カズマはキールのダンジョンの調査を名乗り出た。
「それはこちらとしては願ったり叶ったりですが…、よろしいのですか?」
「構いませんよ、丁度体を動かしたかったので」
セナはカズマに確認をすると、カズマは頷いた。そしてセナはカズマにダンジョンの調査を依頼するのだった。
…
……
………
カズマはセナを連れて一旦屋敷に戻り、メンバー全員にギルドであったことを報告、調査に乗り出すことを伝えた。そして全員が身支度を整え、キールのダンジョンの入り口に向かった。
移動してから数時間、カズマパーティーとセナはキールのダンジョンに到着した。
「ねえカズマ、あれ」
クリスが指を指した所を見ると、入り口から貴族が着ているような服を着ており、半分が白、もう半分が黒の仮面を着けた人形がわらわらと出てくる光景だった。
「何故かしら?あの人形を見ていると怒りが湧いてくるんだけど…」
「お姉ちゃんも?」
アスタとクリスは人形を見て、何故か苛立っていた。
「あれが件のモンスターです。こちらから近づかなければ害は無いのですが…」
「へっ、あんな雑魚モンスターは一撃で仕留めてやるぜ!」
セナが説明している最中にダストが剣を抜いて人形を倒そうとする。だが人形はダストにしがみつくと、"自爆"した。そして爆発した後のクレーターの中央には、"ヤム○ャ"のようなポーズをしたダストが横たわっていた。
「…あの様に近づいたり、刺激を与えると自爆攻撃を仕掛けてくるのです。なので遠距離から一体ずつ倒していくしかない状況でして…」
「ぷはっ、それを先に言ってくれよ!!」
起き上がったダストはセナに向けて文句を言った。
「彼女の説明を全部聞いていなかったお前が悪い。みんな、チームの編成を伝える。今回は遠距離戦が主体だ、この中で遠距離戦が出来るのはアーチャーのキース、ウィザードのリーン、アークウィザードのゆんゆん、そして俺。この四人でダンジョンに潜る、アスタは全員に支援魔法を、めぐみんは漏れ出した人形を片付けるために待機、クリスはそのサポートを。他のみんなはめぐみんとクリスのフォローを『ドンッ』頼むってまたダストか?」
カズマはメンバー編成を伝え終わろうとした所で、再び爆発音が響き渡る。カズマはダストがまた何かやらかしたと思い、振り返ると、そこには所々煤で汚れた鎧を着ているダクネスがいた。
「…うむ、これならいける、問題ないな。カズマ!私ならこの攻撃に耐えられる!私が露払いのために前に出よう!後ろからついてこい!」
「…ったくあいつは。メンバーの再編成だ、さっき言ったメンバーに加え、ダクネスを加える。それと、中は薄暗いから松明が必要になる。フィオとクレメアの二人もこっちに来てくれ」
カズマの指示に二人は頷いた。
「…カズマ殿、こちらを」
セナはカズマに札を差し出した。
「強力な封印の魔法が込められた札です。それを張りつければどんなに強力な魔方陣でも、効果を失います」
カズマはセナから受け取った札をバッグにしまった。
「…よし、それじゃ行くぞ!」
カズマたち潜入メンバーはダンジョンに潜った。
…
……
………
潜入メンバーがダンジョンに潜って少し時間が経過した頃、潜入メンバーの目の前に先程の人形が姿を見せた。
ダクネスは早速斬りかかり、人形を破壊する。すると斬られた人形は次々に爆発した。
そして人形はダクネスに群がるが、ダクネスは悉く斬り伏せていった。
「は…はははっ、当たるっ、当たるぞカズマっ!こいつらは私の剣でもちゃんと当たる!!」
ダクネスは自分の剣が当たることに喜び、やたらめったらに剣を振り回す。
「…ダクネスの奴、初めて
「カズマさん、それどういう意味ですか?」
「そっか、ゆんゆんはパーティーに入って日が浅かったわね。ダクネスはクルセイダーが必ず持ってる"両手剣スキル"を持っていないのよ。持っているスキルは殆んどが防御系、だから攻撃はからっきしダメ、空振りばかり」
クレメアの説明にゆんゆんは目が点になってしまった。
「……ねえカズマ、このダンジョンだけど、あの人形以外の反応が全く無いよ」
"敵感知スキル"を使っていたフィオは、"反応の異常さ"を感じ、カズマに報告する。
「何かありそうだな…、全員周囲の警戒を怠るなよ?ダクネスを先頭に俺が前、俺の後ろにリーン、キース、ゆんゆん。フィオが殿を、スキルに反応があったら教えてくれ」
カズマは列の編成を決め、周囲を警戒しながら進む。そしてダンジョンの最深部に到着すると、そこには自分と瓜二つの人形を作っている男がいた。
「ん?」
「貴様、そこで何をしている?その人形は…」
「ほう、これはこれは。我がダンジョンにようこそ、勇敢な冒険者たちよっ!我輩は魔王軍の幹部にして、悪魔たちを率いる地獄の公爵!この世の全てを見通す大悪魔バニルである!」
ダクネスが男に質問をすると、男は立ち上がり、自己紹介をした。
「なっ、魔王軍の幹部だと!?気を付けろカズマ!」
「まあ待て娘、ちょっと落ち着いてくれ。我輩はお前達と争う気はない、それに幹部と言っても城の結界の維持をしているだけの"なんちゃって幹部"なのだ。直接危害を加えたりはしない」
「ならその人形は何なんだよ?ダンジョンからぽこぽこ出てきて街の人が迷惑してるんだが?」
ダクネスはバニルが魔王軍の幹部であることを知ると、剣を構えるが、バニルは戦う気はないと言った。そしてカズマはバニルが製作している人形のことをバニルに質問する。
「我輩はこやつらでダンジョン内のモンスターを駆除していたのだが、外に溢れていたのならもうモンスターはおらぬようだな」
バニルは手を叩くと、人形は土塊になり、崩壊した。
「…あんた一体何を企んでるんだ?」
「うむ、我輩は悪魔として大きな"野望"があるのだ。我輩達悪魔は人の"イヤだな"と思う悪感情糧とする、とびきりの悪感情を食した後、華々しく滅び去りたいのだ」
「そして我輩は考えた!まずはダンジョンを手に入れる!そして各部屋には我輩の部下の悪魔や苛烈な罠を仕掛ける。そこに挑むは歴戦の冒険者!いつかは最奥に辿り着く者が現れよう、待ち受けるのはもちろん我輩。激戦の末、打倒された我輩のあとに現れる宝箱。苦難を乗り越えた冒険者はそれを開け…」
バニルの話を聞いていたカズマたちは、その先はどうなるのか固唾を飲む。
「中には"スカ"と書かれた紙一枚のみ!そして呆然とする冒険者たちを見ながら我輩は滅びたい」
カズマたちはその光景が頭に浮かんだのか、呆然としてしまった。
「フハハハハッ、これはこれは極上の悪感情だ!ゴチである!」
「…てか、そんな野望があるなら、何でこのダンジョンにいるんだ?」
「うむ、本当は街に住んでいる『働けば働くほど貧乏になるポンコツ店主』の所で働き、貯めた金を使ってダンジョンを造ろうとしていたのだが、丁度この主が居ないダンジョンを見つけてな…」
バニルはダンジョンにいる理由を話す。
「ねえカズマ、この悪魔害は無さそうだからもう放っておいて帰りましょう?」
「そう言うな最近そこの男を見て、魔剣の勇者に想いを伝えようか迷っている娘よ」
バニルに心を見透かされたフィオは顔を紅くし、狼狽えた。
「フィオ?」
「そ…それは…、その…」
クレメアがジト目でフィオを見ると、フィオはしどろもどろになった。
「そう娘を責めるな、最近魔剣の勇者と買い出しに行って内心デートと洒落込んだ娘よ」
バニルの標的がフィオからクレメアに変わり、今度はクレメアが顔を紅くした。
「ク~レ~メ~ア~?」
「(何だコイツ…、まるで"見ていた"かのように…んっ?)」
フィオのジト目にクレメアがしどろもどろし、カズマはバニルがまるで見ていたかのような物言いをしていたことに違和感を感じた。
「(まるで見ていた…?確かこの悪魔は全てを見通すって言ってた…、まさか!?)全てを見通すって、『相手の心をも見通す』ってことか!?」
「ご明察だそこの男よ」
カズマの推察にバニルは拍手をしながら肯定した。
「ちょっと待って!?それってこっちの考えが読めるってこと!?」
「それじゃこっちの作戦とか戦略が筒抜けってことじゃねえか!?」
リーンとキースが狼狽える。
「仕方ない、一旦ここは引くぞ!こんな狭い所じゃ同士討ちを狙われる!」
「何を言っているカズマ!?こんな悪魔、今ここで倒せば良いだけの話だ!」
「ダクネス、よせ!」
カズマの静止を聞かず、ダクネスはバニルに向かって剣を振り下ろした。
「ぐあっ…」
ダクネスの剣はバニルの体を一刀両断した。
「やったの…?」
「…と、思わせて。この体は我が魔力によって作り出したかりそめの物、いくら攻撃を当てようと我輩は滅びぬ!」
呆気なくやられたと思わせたバニルは仮面を取り、ダクネスに向かって投げた。
「ダクネス!?」
「フ…、フハハ…。聞くがいい!この娘の体は我輩が乗っ取った!この娘に攻撃できるものなら『一向に構わん!遠慮なくやってくれ!』…は?」
ダクネスの顔にバニルの仮面が張りついたと思うと、ダクネスはバニルの口調で話す。そしてバニルが脅しを掛けようとした時に、ダクネスの声がしたのだった。
『さあ!何をしてるカズマ!』
「何をしてるは貴様だ!バカな!なんだこの『麗しい』娘は!?ええい余計な口を挟むな!!」
「な…なんて事だ。わ…我が支配に耐えるとは、この娘『まるでクルセイダーの鑑のような奴だな!』やかましいわ!『いやあ…それほどでも』褒めとらんわ!!」
バニルはダクネスとの漫才をしている中、カズマは潜伏スキルを使って
「だ…だが…我慢は得策ではない!我が支配に耐えるほど、その身に激痛が…!」
『なんだと!?』
「フハハ、どこまで耐えられるか見もの…『そ…そんなにすごい激痛が…』…はて?これは…我輩にとってはあまり好ましくない喜びの感情が…『私は…、この痛みなんかに、負けたりはしないっ…!』ちょっと待て、貴様ひょっとして楽しんではいまいか?」
ダクネスが痛みに喜んでいる中、バニルは悪寒を感じていた。
「くっ…、この体は失敗だった様だ『おい!人の体に失敗だとか失礼ではないのか!』これ以上付き合ってられん、貴様から出て行く!『なんだと!?やめろっ、いかないでくれ!』断る!」
バニルは仮面を剥がそうと手を仮面に持っていった。
「今だ!」
その瞬間、カズマはセナから受け取っていた札をバニルの仮面に貼りつけた。
「…おい、何だこの札は…?っ!触れん!指が弾かれる…!?」
「流石のお前でも、封印の札には触れない様だな。さあどうする?このまま封印された状態で浄化されるか、俺たちの言うことを聞くか」
「ぐぬぬ…、いい気になりおって!我輩とて公爵としての誇りがある!…が、今のままではどうすることも出来ん」
カズマはバニルに交渉を持ちかけ、バニルは両手を上げ降参の意思を示した。
「降参…か。なら…」
「…油断したな?フンッ!」
カズマが札を外した瞬間、バニルは仮面をダクネスからカズマに張り替えた。
「カズマっ!!」
「ダクネス!カズマは札を剥がす前に俺たちに"サイン"を送っていた!今はこの場を撤退するんだ!」
ダクネスはカズマに近づこうとするが、キースがダクネスの腕を掴んで止めた。カズマは札を剥がす前にキースたちにハンドサインを送っていたのだ。
『俺が時間を稼ぐから、ダクネスを連れて撤退し、アスタたちに救援を』
カズマからのサインを読み取ったキースはカズマの指示通りにダクネスを連れてダンジョンの入り口まで戻った。
…
……
………
「……っ!ダクネスたちが戻って来た!」
ダンジョンの入り口近くを見張っていたクリスが声を上げる。その証拠に、松明であろう灯りがだんだん近づいて来るのが分かる。
「皆、大変!ダンジョンの奥には悪魔がいて、カズマが体を乗っ取られた!」
リーンがダンジョンの中で起きたことを説明する。
『何だって!?』
「っ!?皆警戒して!何か邪悪な気配が近づいて来る!」
アスタの警告にセナ以外全員が臨戦態勢を取る。そして潜入メンバーを追うようにバニルの仮面を着けたカズマが姿を現した。
「…っ!来たわよ!『セイクリッド・エクソシズム』!」
「甘いわ!」
アスタは先手必勝とばかりに浄化魔法を放つ。が、
「避けられた!?」
「お姉ちゃん!あの仮面…、もしかしてバニル!?」
「バニルって…、あの予知と予言の強力な力を持つ大悪魔!?」
仮面を見たクリスはカズマに取り憑いている悪魔を見破ると、セナがどんな悪魔かを説明した。
「フッ…、その通り。我が名はバニル!この小僧の体は我輩がもらった!」
「ふざけたこと言わないで、カズマの体を返しなさい!」
クリスは腰からダガーを引き抜き、突撃しようとする。
「待て待て、この体に攻撃しても良いのか?そこの姉に咎められながもこの小僧との子を甘えながら望んだ盗賊の娘よ」
「んなっ!?なんてことを暴露するのよここで!?」
「フハハハハッ、これまた美味な悪感情である!…むっ?小僧、意識が残っていたか!?」
バニルは何やら慌て出すと、仮面に手を添えた。
『悪いな、これ以上好き勝手させる訳にはいかないんでな!!めぐみん、コイツの正体はこの仮面だ!お前の魔法をぶちかましてやれ!』
カズマは無理やり仮面を引き剥がし、上空へ放り投げた。
「カズマ…、感謝します!『エクスプロージョン』!!」
バニルの仮面はめぐみんの爆裂魔法を受けて跡形も無く吹き飛んだのだった。
…
……
………
翌日、カズマはバニルを討伐したということで、一億エリスを受け取っていた。
「まさかあの悪魔が会おうとしていたのが、ウィズだったなんて…。カズマ、何で言ってくれなかったの?」
「言う暇が無かったからな」
表彰から翌日、カズマたちパーティー一行はウィズ魔法具店へ向かっていた。
「こんにちは」
「へい、いらっしゃい!」
カズマが店の扉を開けると、ウィズの他にバニルがいた。
「ええっ!?何でここにいるの!?」
「ハハハッ、そこの小僧とダンジョンで話し合ってな。契約はしてはおらぬが、ビジネスパートナーとして協力してくれることになったのだ」
そう、カズマはダンジョンでバニルに憑依された後、バニルはカズマに商談を持ちかけたのだった。そして自身が倒されることを条件に、カズマはバニルの商談を受けることにしたのだった。
「それに、いくら我輩とて爆裂魔法には敵わん。だからホレ」
バニルは自身の本体とも言える仮面を指差すと、額の所に"Ⅱ"と書かれていた。
「残機が一人減ったので、今の我輩は"二代目バニル"様なのだ!それと、一度は倒されたのでもう魔王軍の幹部では無くなったのだが、元から人間には危害を加えるつもりは毛頭無い。だから安心してくれて結構」
「と、言うわけで。バニルは無事ウィズ魔法具店の店員になった訳だ」
バニルとカズマの説明に全員が呆気に取られたのは言うまでもない。