魔王軍のなんちゃって幹部の一人であるバニルを倒してから数日後、カズマはバニルに呼ばれてウィズ魔法具店に来ていた。
「よく来てくれた小僧」
「小僧は止めてくれ、俺にはカズマって名前があるし」
「ふむ…、ならそう呼ばせてもらうとしよう。そして呼んだ理由だが、我輩の全てを見通す眼で見たんだが、カズマはこの世界の住人ではなかろう?」
バニルはカズマがこの世界の住人では無いことを見破った。
「……そうだ。そしてお前のことだから、俺をこの世界に送った人が誰なのかも知ってるんだろ?」
「うむ。まさかカズマの仲間であるアークプリーストと盗賊の娘の二人がこの世界で有名な女神だったとはな…」
カズマはバニルが言ったことを肯定した。
「それで?俺がこの世界の住人では無いことを見破った悪魔は俺に何を要求する?」
「なにそんな難しい事では無い。我輩はカズマが元いた世界の"文明の高さ"に興味がある、そこでお主の世界にある便利な物を作って、この店で売りたいのだ」
「お主は偶然にも『鍛治』スキルを習得している為、武具の修繕はおろか、金属加工や物作り全般が器用にこなせる。悪くはなかろう?」
バニルの提案にカズマは思考を巡らせる。
「……構造や作り方が分かる物なら出来ると思うが、あんまり期待するなよ?」
カズマはバニルの提案に乗ることにした。そしてカズマは屋敷の一階と中庭の一部分を使って工房を造り、自分の世界に存在する道具を製作するのだった。
…
……
………
「…よし、こんなもんか」
バニルの提案を受けてから二週間、カズマは工房で道具を製作していた。そしてある程度目処が立ったので休憩していると
コンコンコンコンッ
『カズマ、いますか?』
工房の扉がノックされ、扉の向こう側からめぐみんの声がした。
「いるぞ~、どうした?」
『セナがカズマにお願いしたい事があるそうなので、屋敷に来てます』
「了解した!リビングに通してくれ!」
めぐみんはセナが来訪したことを伝えると、カズマはリビングに通してもらうよう伝えた。
…
……
………
「突然の訪問、お許し下さってありがとうございます」
「別に構いませんよ。それで、本日はどの様なご用件で?」
カズマはリビングでセナが訪問した理由を聞く。
「はい。実はここ最近、"リザードランナー"と呼ばれるモンスターが大量発生しまして…」
「"リザードランナー"?」
「カズマ、リザードランナーとは大型のトカゲの様な見た目のモンスターです」
カズマの疑問にめぐみんが即座に答える。
「めぐみんさんの仰る通りで、付け加えるなら二足歩行で、草食系です。ですが…、繁殖期になると"姫様ランナー"と呼ばれる特徴的な姿で、他の個体よりひと回り大きいメスの個体が生まれ、オスはその姫様ランナーを手に入れるためにとある勝負をします。…その勝負方法が独特で、何というか…、"走る"んです」
「…は?」
「リザードランナーのオスは他種族に競争と言った勝負を挑み、相手を抜き去った数が一番多いオスが姫様ランナーの
セナの説明にカズマは頭を抱えた。
「大体分かりました。セナさんはそのリザードランナーを俺たちに何とかしてほしい…と」
カズマの予想にセナは頷いた。
「聞けばカズマさんはバニルの他にデュラハンや冬将軍、更には初心者殺しをも討伐なされたとか…」
「デストロイヤーの時は率先して指揮を出していましたもんね、今のカズマのレベルなら楽勝だと思いますよ」
「えっ…?今のカズマさんのレベルは…」
めぐみんの発言を聞いたセナはカズマに現在のレベルを聞く。
「軽く30は越えていますね。でも他のメンバーに比べたら平均的ですよ?キョウヤなんて40は越えていますし、ダストも20はいってますから」
カズマの発言はセナを処理落ちさせるのに十分過ぎるものだった。
…
……
………
カズマは屋敷に戻って来たメンバー全員にセナからの依頼の内容を説明し、パーティーを選抜、準備を整えてリザードランナーが集まっている所へと向かった。
「よし、作戦のおさらいだ。まず俺とキースが狙撃で王様と姫様を倒す。もし失敗してもダクネスとキョウヤとテイラーの三人で食い止めてくれ、めぐみんはいつでも撃てるように準備を、アスタは俺たち全員にフル支援を頼む」
カズマが選抜したメンバーは、キース、ダクネス、キョウヤ、テイラー、めぐみん、アスタの6人である。
カズマとキースは千里眼スキルで群れを見る。視界にはエリマキトカゲのような姿をしたモンスターが映り、その中の一体だけ、色合いが違っていた。
「……どう見る?」
「姫様ランナーは一目で分かるが、王様ランナーは正直言ってわからん。…いや、姫様ランナーの側に寄り添っている個体がいるから、そいつが王様ランナーの可能性が高い」
キースはカズマに質問をし、カズマは状況を口にする。
「多分それで正解だろうな。カズマは姫様を頼む、俺は王様を」
「了解した」
キースは弓に矢をつがえ、引き絞る。カズマも烈風を取り出し、いつでも撃てるように狙いを定める。
「3…、2…、1…撃てっ!」
カズマの合図で二人同時に撃つ。キースが放った矢は王様を、カズマが撃った空気弾は姫様の頭部を撃ち抜いた。
「よしっ!」
「無事討伐成功…だな」
「……俺たち、必要あったのかな…?」
カズマとキースはハイタッチを交わし、出番が無かったテイラーたちは呆然としていた。
因みに出番が無かっためぐみんは、鬱憤を晴らすために残ったリザードランナーたちに爆裂魔法をお見舞いしたのは言うまでもない。
…
……
………
姫様ランナーと王様ランナーを無事討伐した数日後…。
「目利きにおいては定評のある見通す悪魔、我輩が商談に来たぞ!」
「いらっしゃいバニル、今作った物を持って来るからリビングで待っててくれ」
バニルが屋敷に訪れ、カズマはバニルをリビングに案内し、製作した物を持って来た。
「お待たせ、色々作ってみたんだが…」
「…ねえカズマ、これって……」
クリスが手に取ったのは"
「そ…、それは…」
「……カズマのスケベ」
クリスの一言はカズマの心にクリティカルヒットしたのか、カズマは胸を押さえて項垂れた。
「カ~ズ~マ~さ~ん~?」
そこにアスタが近寄ると
「こんな物作れるなら早々に作りなさい!」
カズマに梅干し(両手の拳で相手の眉間の横をグリグリする攻撃)をした。
「うぎゃあああァァァっ!痛い、痛いってアスタ!だってしょうがないじゃないか!バニルに教えてもらうまで『鍛治』スキルがこんなにも器用に作れるなんて知らなかったんだから!」
「言い訳無用!次からはこれをちゃんと着けてしなさい!いいわね!?」
「アスタは何でカズマにあんなに言い寄っているのですか?」
めぐみんはクリスにアスタのお仕置きの説明を要求すると、クリスは顔を紅くしながらめぐみんに耳打ちをする。そしてクリスの説明を聞いためぐみんは顔を紅くした。
「…フム、カズマへの見立ては正しかったようだな。見事だ、これなら売れる」
「そ…、そうか…」
バニルはカズマが作った品物を見て、売れることを確信した。
「では商談といこうか。以前の取り決めでは毎月商品が売れた分の"一割"を払うという事だったが…、どうだカズマ?これらの商品の知的財産権自体を売る気はないか?全て引っくるめ三億エリスで買おう」
『さんおくっ!?』
カズマたちはバニルが提示した金額に驚いた。
「もちろん当初の月々の利益還元でもどちらでも良いぞ?これだけの物ならば、月々百万エリス以上の収入があると思っていい。…まあどちらが良いかは、商品の販売開始まで決めてくれればいい。では、待ってるぞ」
「……ちょっと待ってくれ」
バニルはカズマが作った品物を持って帰ろうとした所を、カズマが引き留めた。
「悪いが知的財産権を売るつもりは無い…が、月々の利益還元の割合を二割に増やしてくれるか?」
「…フム、その理由を聞いても?」
「物によっては材料費とかのコスパが掛かる物もあるんだ。だから…」
カズマはコスパなどを理由に、利益還元の割合を一割から二割に上げてもらう様条件を出した。
「…良かろう。商談成立だ」
バニルはカズマの条件を飲み、屋敷を去った。