アルカンレティア…。
澄んだ湖と温泉が湧き出す山に隣接したこの街は美しく、誰もが活気に満ち溢れている。魔王軍の侵攻が活発にも拘わらずここは平穏であるが、曰くこの街は水の女神アクア様の加護に守られているとか…。
「ようこそアルカンレティアにいらっしゃいました!」
「一同皆さんを歓迎いたします!」
「こちらへは観光で来たのですか?それとも入信ですか?」
ぐいぐい来るアクシズ教徒にカズマはたじたしになっていると
「もしかして仕事ですか?ならとってもいい話がありますよ!他の街でアクシズ教団の素晴らしさを説くだけ!とても簡単です!特典でなんとアクシズ教徒を名乗れてしまうんです!凄いでしょ?」
「他にも病気が治ったとか、宝くじに当たったとか、いい事が起こると評判でして!今を逃すともう二度とチャンスは来ないかもしれませんよ?アクシズ教!アクシズ教をお願いします!」
教徒達は更にぐいぐい勧誘し始めた。
「ちょっと!そんな所で勧誘なんかしないでよ!後ろが詰まっちゃうじゃない!」
するとアスタが客車の窓から身を乗り出し、教徒達を叱った。教徒達はと言うと…
「あらそこのお姉さん、あなたも是非アクシズ教へ入信を!」
今度はアスタを歓迎し始めた。
「おあいにく様、私は既にアクシズ教徒よ?それよりも早く道を開けなさい!さもないと、轢かれても知らないわよ?」
アスタのハイライトが無くなった目を見たアクシズ教徒達は、引き下がるように道を開けた。そしてカズマたちはその場から逃げる様に去った。
…
……
………
カズマたちは以前商隊の主人から貰った宿泊券を手に、紹介された宿へ向かう。そして全員分の宿泊券をフロントで渡すと、受付の人は慌てた様子でフロントを抜け出した。そして受付の人の代わりに支配人が現れ、カズマたちは支配人に案内される。
支配人が案内した場所は、宿の中でも値段が一番高いスイートルームだった。カズマたちはもちろん驚き、支配人に理由を聞くと
「私達のオーナーから『この宿泊券を持った方々が来られたらこの部屋にご案内しなさい』と仰せつかりまして。それとルームサービス等は全て"無料"でご提供させて頂きますので、どうぞご遠慮なくご利用下さいませ」
と言った。カズマたちは最初断ろうとしたが、折角の厚意を無下にする事も出来ず、用意されたスイートルーム人間を使う事を決めたのだった。
「皆、話があるの」
スイートルームに通された後、アスタが全員に声をかける。
「ごめんなさい!まさかアクシズ教徒がこんなにもしつこく勧誘してくるなんて知らなかったから…」
アスタは全員の前で土下座をした。どうやら自分と同じアクシズ教徒が無理やり勧誘してきた事を謝っているようだ。
「別にアスタが謝る必要はねぇよ。悪いのはアスタじゃなくて無理やり勧誘してくる教徒なんだから」
カズマの言葉にアスタ以外全員が頷いた。
「皆…、ありがとう」
頭を上げたアスタは涙目になりながらも笑顔を見せた。
コンコンッ「すみません、少々よろしいでしょうか?」
すると扉がノックされ、そこから先程の支配人が顔を覗かせた。
…
……
………
「"調査"…ですか?」
「はい、是非ともあなた様方にお願いしたく…」
支配人の後ろからオーナーこと商隊の主人が現れ、カズマたちにお願いをする為に部屋へ訪れたのだった。
そしてその"お願い"とは、『温泉の質が悪くなっている原因の調査』だった。
「事が起きたのは数日前…。そう、ちょうど皆様とアルカンレティアの門前で別れた後です。その日を境に街の温泉に浸かった方々に異変が表れたのです」
「"異変"…ですか」
「はい。内容は『肌がかぶれた』だの、『体調が悪くなった』だの様々なのです。最初はアクシズ教が運営する温泉だけだったのですが、日に日に被害規模が広がり、遂には我々エリス教が運営する温泉にまで…」
オーナーは困ったように頭を抱える。
「アクシズ教徒は『エリス教徒が仕組んだ!』なんて言っておりますが、我々エリス教徒は断じてそんな事は致しません!その事をいくらアクシズ教徒の方々に説明しても聞く耳持たずで…、どうしようか悩んでいた所に皆様がご来店されたと聞き…」
「僕達に原因の究明をお願いしたい…と」
「その通りでございます。既にギルドには依頼を出しておりますので、どうか何卒…」
オーナーはカズマたちに頭を下げる。
「…分かりました。その依頼、お引き受けしましょう」
「本当ですか!?ありがとうございます!」
カズマは依頼を受ける事をオーナーに伝えると、オーナーはカズマの手を握った。
…
……
………
「では我々はこれで失礼します。アルカンレティア滞在中はこの部屋を自由に使って頂いて結構ですので」
オーナーはそう言って、支配人と一緒に退室した。
「…さて、とんだ慰安旅行になっちまったが、一度依頼を引き受けたからにはしっかりやるぞ。まず手始めに街の調査だ、リーダーは偶然にもパーティーリーダーをやった事がある者が三人いる」
「まずテイラー、キースとリーン、ダストの四名でチームを組んでくれ。次にキョウヤ、フィオとクレメア、それからダクネスを連れて行ってくれ。残りのメンバーは俺と一緒のチームだ」
カズマの決めたチーム分けは
テイラーチーム→テイラー、キース、リーン、ダスト
キョウヤチーム→キョウヤ、フィオ、クレメア、ダクネス
カズマチーム→カズマ、めぐみん、クリス、アスタ、ゆんゆん
である。キョウヤたちはカズマが決めたチーム分けに文句は無いらしく、寧ろフィオとクレメアから感謝される程だった。
「それじゃ夕方にはこの部屋に集まって情報交換と行こうか。解散」
カズマの号令で一斉に部屋を出て、情報を集めることになった。
…
……
………
カズマチームは噴水広場にやって来ていた。
「あっ!リンゴが…」
そこにリンゴを入れた籠を持った少女が躓き、リンゴを地面にばら蒔いてしまった。
「大丈夫ですか?」
カズマたちは落ちたリンゴをかき集めた。
「あの、ありがとうございます。できればお礼をしたいのですが…、実は私占いが得意でして。お礼の代わりに占わせて下さい」
「いえ結構です」
「今占いの結果が出ました!このままではあなたに不幸が!!でもアクシズ教に入信すれば回避できます!入りましょう!ここは入っておきましょう!」
カズマが断ったにも関わらず、少女は占い始め、カズマの身に不幸が訪れる事を伝え、更にアクシズ教への勧誘を始めた。
「いやもう不幸遭遇してるから…!離せっ…つーの!!」
カズマは無理やり少女を引き剥がし、逃げるようにその場を去り、めぐみんたちもカズマを追いかけるように去った。
「きゃあああ!助けて下さいそこの方々!あの凶悪そうなエリス教徒とおぼしき男が私を無理矢理暗がりへ引きずり込もうと…」
しかし逃げた先に女性がアフロヘアの褐色肌の男性に追われている所に出会してしまい、助けを求められた。
「おいそこの兄ちゃんたち、あんたらはアクシズ教徒じゃねえな?ハッ!強くて格好いいアクシズ教徒なら逃げ出した所だが、そうじゃないなら遠慮はいらねえ!暗黒神エリスの加護を受けた俺様の邪魔をするってのなら容赦はしねえぜ!」
「ああ何て事!今私の手元にあるのはアクシズ教団への入信書!これに誰かが名前を書いてくれさえすれば、あの邪悪なエリス教徒は逃げていくのにっっ!!」
だがこれもアクシズ教徒の勧誘であり、あろうことか当人がいる前でエリス教を邪悪な教団と罵った。
「あんた達…、いい加減にしなさい!」
妹分として可愛がっているエリスを馬鹿にされたアスタは遂に堪忍袋の緒が切れ、勧誘してくるアクシズ教徒に"とある物"を見せた。
「そ…、それはっ!」
「アクシズ教徒の中でも、有能な人にしか持つ事を許されないペンダント…!」
「あんた達、今すぐそこに正座!」
アスタはアクシズ教徒に正座をさせ、その場でガミガミ説教をするのだった。
…
……
………
「はぁ…、疲れた…」
時間的にもお昼時だったので、カズマたちはカフェに入り、昼食を取ることにした。カフェに来る前には『百万人目の大通りを通られた方』や『学校の同級生』などを語り、アクシズ教団への入信書を書かせようとする教徒たちに出会うが、その教徒たちもまた、アスタの説教を受ける羽目になった。
「お待たせしました。ご注文の品をお持ちしました」
そこに注文した料理が並ぶ。
「ほらクリス、料理を食べて元気出せよ」
「……うん」
クリスはカフェに入るまで無言で俯いていた。流石に"自身"が悪者呼ばわりされるのが嫌だったようだ。席に座るなり目に涙が溜まり始めたので、カズマはクリスを自分の膝の上に乗せ、慌てて注文をお願いし、料理が運ばれたのだった。
因みにクリスはカズマに『あ~ん』をお願いし、カズマは終始クリスに餌付けをしたのは言うまでもない。
…
……
………
昼食を終え、カズマたちは調査をする為に街中を歩いていると
「あっ」
目の前で女の子が躓き、倒れてしまった。
「おい、大丈夫か?」
カズマたちは慌てて女の子の側に駆け寄り、抱き起こす。
「…かすり傷のようだな。アスタ、俺が傷口を拭うから『ヒール』を頼む」
「任せて」
カズマは女の子の膝から流れている血をハンカチで拭い、アスタがヒールを使い、女の子の傷は無くなった。
「ありがとう、お兄ちゃん達にお姉ちゃん達。お名前教えてっ」
「俺はカズマ、こっちの"お姉ちゃん"はクリス、それからそっちのお姉ちゃん達はめぐみんにゆんゆん。傷を治したお姉ちゃんはアスタだ」
女の子はカズマたちの名前を知りたいと言うと、カズマは自分とクリスたちの名前を言った。
「カズマってどんな字を書くの?この紙に書いてみて!」
「ああ、いい…ぞ……」
カズマは女の子から紙を受け取り、名前を書こうとした所で止まった。何故なら女の子が渡した紙は"アクシズ教の入信書"だったからだ。
「………」
カズマは無言で入信書を細かく破り捨て、走り去ったのだった。
…
……
………
「それじゃ皆、報告を頼む」
夕方になり、宿に戻ったカズマたちは、既に戻っていたテイラーたちやキョウヤたちとの情報交換をする事にした。
「俺の方は散々だったよ。何を聞こうにも"アクシズ教団へ入信を"の一点張りだったから」
「僕の方も似たようなものだよ。違う点としては、ダクネスさんがエリス教の証であるペンダントを見せると、アクシズ教徒は地面に唾を吐いてたね。それとカフェで食事をする時なんて、犬用の器に骨だけ入れた物をダクネスさんの側の地面に置いたり…」
「ああ…、だから帰って来た時にダクネスは優越そうな顔をしていた訳か…。それと俺の方だが、残念ながら情報を聞く暇すら無かった。歩く度に勧誘され続けられてな、クリスは泣きそうになるわ、アスタは説教しまくるわで、なしのつぶてだったよ」
「「「はぁ…」」」
チームリーダー三人は同時にため息をついた。
「ため息着くと幸せが逃げるわよ?…って、ため息もつきたくなるか」
そこにアスタが呆れ口調で近寄った。
「アスタ、クリスは?」
「肉体的より精神的に参ってたみたい、ベッドに横になった途端に眠っちゃった。今はめぐみんが側に付いていてくれてるわ」
「そっか…」
クリスの容態を気にしていたカズマはアスタに質問すると、アスタは困った感じで答えた。
「とりあえず、三人はお風呂入っちゃえば?温泉は無理でも、部屋の湯船に水を張って沸かせば大丈夫でしょうし」
「分かった。それじゃ先に風呂に入ることにするよ」
カズマはテイラーとキョウヤを連れて風呂場に向かい、湯船にクリエイト・ウォーターで水を張り、事前にリーンから教わったファイヤーボールで水を沸かし、交代で湯船に浸かることにした。