「領主が失踪?」
マスクことマスクウェルがアルダープを地獄へ連れて帰った翌日、ダクネスの口から思いもよらない言葉が聞こえた。
「ああ、使用人達が探しても姿が見当たらないそうだ」
ダクネスは昨夜、呪いが解けた父と久しぶりの団欒を取る為、カズマ達とは一旦離れ、翌朝に屋敷へ戻る前にアルダープの使用人の一人からアルダープがいなくなった事を聞いたのだった。
そしてカズマの屋敷に着いたと同時にアンナとピカチュウを連れたカズマと鉢合わせし、件の話をしていたのだった。
「俺は仮面越しで初対面したけど、ララティーナララティーナって、ダクネスの本名を連呼していたから相当執念深そうだったのは見て分かったが、何でいきなり…」
カズマは庭のベンチに座りながら庭先で追いかけっこをしながら遊んでいるアンナとピカチュウを見ていた。カズマは庭でアンナとピカチュウを遊ばせる為に出た時に、ダクネスと鉢合わせしたのだった。
「それは私にも分からないが、アルダープがいなくなってから突然あちこちで不正や悪事の証拠が見つかってな。もしかしたら不正の発覚を恐れたアルダープは夜逃げしたのではて言われているのだが…」
「いやそれはあり得ないだろ。さっきも言ったが、あのクソダップンはダクネスに御執心だったから、簡単にダクネスを諦めるとは思えない」
カズマはダクネスの考えを否定した。
「…確かに。では…」
「そこにおったかカズマよ」
ダクネスがアルダープがいなくなった理由を考えようとした所に、バニルが現れた。
「バニル」
「鎧娘も一緒だったか、なら好都合と言うものだ。領主の事で話がある、上がらせてもらうぞ」
バニルはそう言って屋敷に上がり、カズマとダクネスは慌ててバニルの後を追った。
…
……
………
「それでバニル、クソダップンの事についてだが…」
カズマはバニルに単刀直入に質問した。
「うむ。まずあの領主は悪魔を使役しておった、それも我輩と同じ"地獄の公爵"の一人である悪魔、マスクウェルを」
「マスクウェルって…、まさか"つじつま合わせのマスクウェル"!?」
「だったらダクネスのお父さんに掛けられた呪いも納得いくわね」
バニルの話を聞いていたアスタとクリスは驚いた。
「知ってるのか?」
「"つじつま合わせのマスクウェル"…、悪魔の中でも上位に有する魔力量と上級魔法を使う悪魔で、実力は魔王軍の幹部と同等の持ち主よ」
「しかも厄介なのは、契約者に都合が良いようにつじつまを合わせる力を持っているんだよ。恐らくだけど、アルダープはマスクウェルのつじつま合わせの力で不正の証拠を捻じ曲げていたんじゃないかな?」
カズマの疑問にアスタとクリスはマスクウェルの説明を交えながら答えた。
「ほう…?流石は女神と言った所か。では、マスクウェルが好む悪感情は分かるか?」
「確か…"痛み"や"絶望"が好みだったはず、…まさか!?」
「その通りだ、領主はマスクウェルに連れて行かれたよ。…地獄に」
バニルの言葉にカズマ以外全員が青ざめた。
「奴は長年に渡り、マスクウェルを行使していた。本来、悪魔と契約すればその代価として、悪魔が好む悪感情を支払わなければならない。だが奴は代価を支払わず、マスクウェルの力を使用し続けていた為、代価が途方もない状態になっていたのだ」
「それでマスクウェルと言う悪魔はクソダップンを地獄に連れて行って、代価を…」
カズマの言葉にバニルは頷いた。
「まあ、因果応報ってやつじゃないか?悪い噂しか聞かなかったから、いなくなって精々した奴もいるだろうしな」
「そうだぜ。それにダクネスもこうやって戻って来たしな!」
ダストがダクネスの肩を叩くと、ダクネスは顔を赤くした。
「…だな。お帰り、ダクネス」
「…ああ、ただいま!」
ダクネスは笑顔になって、帰宅の言葉を言った。
…
……
………
「そう言えば、この国の入籍ってどうやるんだ?」
ふと疑問を感じたカズマは、アスタ達に質問をした。
「多分カズマの国と変わらないと思うわよ?まず挙式の朝に役所へ書類を提出して、昼から式を執り行うって感じよ」
カズマの疑問に答えたアスタの言葉に、ダクネスは顔面蒼白になった。
「どうした、ダクネス?」
「ああ、もしかして"結婚したのに旦那がいなくなった"って思ってない?でも大丈夫よ!だって"書類は受理されていない"から」
アスタの言葉にダクネスの顔色が戻って来た。
「フィオとクレメアと一緒に役所へ協力をお願いしといたの。それでもし婚姻の書類が来たら受理する"フリ"をしてもらって、こっそり盗んでもらったのよ」
ダクネスはフィオとクレメアに視線を向けると、フィオは自身の手元に書類をダクネスに見せた。
そしてフィオは書類をくしゃくしゃに丸め、火が灯っている暖炉の中へ放り投げた。
「これで、ダクネスは"結婚をした"証拠は無くなったわよ」
「…皆、本当にありがとう」
…
……
………
ダクネスがカズマの屋敷に戻ってから数日後。
「なあカズマ、アイリス様達は何処へ行かれたのだ?」
「アイリス達なら王都に戻ってるぜ、何でもダクネス奪還の為にあれこれしたいんだとよ」
アンナとピカチュウを庭で遊ばせている時に、ベンチに座っていたダクネスがアイリス達の事を同じベンチに座っているカズマに質問すると、カズマはアイリス達は王都へ戻っている事を伝えた。
「すまない、カズマ殿」
そこにクレアが一人でカズマの所にやって来た。
「クレア姉さん、一人で来て大丈夫なのか?」
「大丈夫でなければ一人では来んさ。それよりも、カズマ殿達全員に王都への招集が掛かった。すまないが身支度を整えて王都まで来てほしいのだ」
クレアは早口で要件を伝えると、カズマは頷き、屋敷に戻って全員にクレアからの伝言を伝え、身支度を整えた後、テレポート屋にお願いし、王都に向かった。
…
……
………
「ベルセルク・スタイリッシュ・ソード・アイリス様のおな~り~!」
王都に到着したカズマ達はクレア案内の元、王城の玉座の間に通され、そこにアイリスが豪華なドレスを身に纏った姿で現れた。
「皆さん、よくお集まり頂きました事、深く感謝します」
玉座に座ったアイリスはカズマ達に礼を言った。
「集まって下さった件ですが、失踪したアクセルの領主であるアルダープについてです。私達が入手した情報によれば、アルダープはマスクウェルと言う悪魔を使役していたとの事。そしてアルダープが失踪した事で、彼が隠蔽し続けていた不正の証拠が出て来て、彼に協力していた貴族を芋づる式に捕まえる事が出来ました」
「アイリス様は今回の件で、多大な功績を残したカズマ殿に報奨を与えると申しておられる。して、その報奨なのだが…」
クレアは珍しく歯切れが悪かった。
「お兄様には、アルダープが納めていた領地を全て、報奨として差し上げます。更にララティーナを救う為に支払ったお金四十億エリスをお返しします」
アイリスが放った言葉に全員が呆然となってしまった。
「…ゴホンッ。本来であれば、他の貴族の中から選ぶのが定石なのだが、調べた貴族の殆んどが、私腹を肥やす輩ばかりだったのでな。そこでダスティネス卿のお父上であるイグニス殿にご相談した結果、カズマ殿なら任せられる…との結論に至った訳だ」
「お兄様…、お引き受け…して下さいませんか?」
アイリスはすがる様な目でカズマを見る。
「…招致しました。領地の件、謹んでお引き受け致しましょう」
カズマは領地を受け取る事を承諾したのだった。
「ありがとうございます、お兄様!」
「感謝します、カズマ殿。それと、最初は分からない事だらけだと思いますので、当面はイグニス殿やバルター殿から教わるのが良いでしょう」
「では、細やかながらお食事の用意をしましたので、移動しましょうか」
アイリス達の計らいにより、カズマの領主就任パーティーが仲間内で行われた。