カズマが貴族となり、領地を納めてから1ヶ月後。
「まさかこんなにも奴早く飲み込むとは…」
「驚きですね…」
カズマの貴族としての教育係となっていたイグニスとバルターは、カズマの驚異的な知識の飲み込みの早さに驚いていた。
「いえ、これもお二人の教え方が上手だったからですよ。すんなりと覚える事が出来ました」
「いや、普通なら一年二年で覚える事をたった1ヶ月で覚える君の方が凄いよ」
そう、普通領主の仕事を覚えるには、年単位で覚えるのが普通なのだが、カズマはたった1ヶ月で基本的な仕事を覚えてしまったのだ。
「まあ、前いた国の学園では、上位の成績ではありましたが…」
カズマは"上位の成績"と言っているが、カズマの成績は上位では無く、"1位"だったのだ。
「…もう、教える事は何も無いよ」
「…ですね」
イグニスとバルターは苦笑いしながら両手を上げた。
「これで君も貴族の仲間入りだ。これからもよろしく頼むよ」
「こちらこそ、今までご指導して頂き、ありがとうございました」
イグニスはカズマに手を差し出すと、カズマはイグニスの手を掴み、握手をしたのだった。
…
……
………
「ばっくれつばっくれつ、らんらんらん♪」
「今日は随分とご機嫌だな、めぐみん」
翌日、カズマはめぐみんに誘われて爆裂散歩に赴いていた。
「だって、久しぶりのカズマとの爆裂散歩ですから、気分が上がるのは仕方ありません!」
めぐみんはこの1ヶ月、キョウヤ達と爆裂散歩に行っていたが、納得いく爆裂を撃つ事ができなかった。
「今日はカズマと一緒ですから、いつもより凄い爆裂魔法が撃てる気がします!」
「ほどほどにな…、んっ?」
カズマはめぐみんに注意をした後、その場に立ち止まった。
「カズマ、どうしたのですか?」
「…敵感知に反応がある。こっちだ!」
カズマはめぐみんを連れて反応があった場所を目指した。
そして反応があった場所に辿り着くと、そこには一台の馬車を取り囲むゴブリンの群れがいた。
「くっ…、数が多い!」
「どうしましょう、ボクの魔力も限界が近いですよ…」
「街まであと少しだっていうのに!」
馬車の近くでは、槍を持った女性と、剣を持った女の子、ロッドを持った女の子の三人がゴブリンと戦っており、馬や行商人は近くにはいなかった。
「あ~もう!行商人は馬にしがみついたままいなくなるし、護衛の冒険者達はゴブリンの数を知った途端に逃げるし、最悪よ!」
どうやら、護衛として冒険者を雇っていた様だが、ゴブリンの多さにビビって逃げ出した様だ。
「……しょうかない。めぐみん、悪いけど」
「皆まで言わなくても分かりますよ」
「…サンキュー、めぐみん。カウント3で仕掛ける。3…、2…、1…。Go!」
カズマの号令でめぐみんとカズマは森から躍り出た。
「喰らえっ!」
カズマは烈風をバッグから取り出し、ゴブリン目掛けて連射した。
「はあっ!」
めぐみんも悪鬼滅殺を抜刀し、次々と一太刀で倒していった。
…
……
………
ゴブリン達はある程度倒されると不利と感じたのか、森へ引き下がっていった。
「…ふぅ」
「半分以上は倒しましたが、逃げられましたね。追いかけますか?」
「いや、無闇に追いかけたら相手の思う壺だ」
カズマは道筋にある大木に音角剣で×の字に切り込みを入れ、その上に烈風で一発穴を開けた。
「この目印を"魔導カメラ"で撮って…っと、よし。後はこの写真をルナさんに現像を頼んで、討伐依頼を出せば冒険者達が何とかしてくれるだろう」
カズマはカメラで大木に付けた目印を撮り、バッグにしまった。
「さて…、大丈夫でしたか?」
カズマは三人の女性がいる方へ振り向きながら質問した。
「あ…はい、大丈夫です。危ない所を助けていただき、ありがとうございます」
三人のリーダーだろうか、黒髪の女性がしどろもどろに答えた。
「街までは距離がありますので、俺達が護衛として同行しましょう」
カズマは馬車から飛び散った荷物をバッグに閉まって、歩きだしたのだった。
…
……
………
「ここが『始まりの街』アクセルです」
カズマは門番に挨拶しながら女性達を街まで案内した。
「随分と賑やかな街ですね、活気に溢れて《クゥ~》あぅ…」
「ははは、まずはギルドに行って腹ごしらえでもしましょうか」
女性の腹の虫の音を聞いたカズマは、ギルドに案内する為足を向けた。
「ここがギルドです。めぐみん、席を確保しておいてくれ」
「注文は?」
「五人分で頼むな」
めぐみんは嬉しそうに敬礼しながら三人を連れて酒場へと向かった。
…
……
………
「すまない、待たせた」
「大丈夫ですよカズマ、ちょうど注文を終えた所でしたから」
めぐみんが注文を終えた所に、カズマが戻って来た。
「そうか。では改めて自己紹介をしよう。俺はカズマ、このアクセルの街の新しい領主だ。冒険者からの成り上がりだから、言葉遣いに関してどうこう言うつもりはないから、普通に接してくれ」
「私は紅魔族のめぐみんと言います。カズマのパーティーメンバーの一人で、アークウィザードを生業としています」
「カズマ…」
黒髪の女性はカズマの名前を聞いた途端、目を見開いた。
「…俺の名前に何か?」
「ああ、いや。何か懐かしい名前だったのでな、…それより、紅魔族と言えば独特な名乗りをすると聞いたのだが…?」
「私だってその独特の名乗りをしたい所でしたが、雰囲気的にしない方が良いと判断しまして」
めぐみんは空気を読んでか、紅魔族特有の名乗りをしなかった。
「そうでしたか…。ああ、まだこちらの自己紹介がまだでしたね。私はリア、この三人の中でリーダーを勤めています。職業はランサーです」
「私は可愛い担当のエーリカちゃんだよ!こう見えてもレンジャーなんだよ!」
「ボクはアークプリーストのシエロと言います」
リア達三人はカズマとめぐみんに自己紹介をした。
「お待たせしました」
そこに注文した料理が並んだ。
「ありがとうございます。…さて、腹が減っては何とやら。まずは腹ごしらえといきましょうか」
カズマは手を合わせて合掌すると、めぐみん達も合掌して食事を始めた。
…
……
………
「ありがとうございました、街まで護衛してくれた上に食事までご馳走になってしまって…」
食事を終え、一息着いた所でリアが改めてお礼を言った。
「別に構いませんよ、…それで何で護衛を雇ってまで移動を?」
「実は…、言っても分からないとは思いますが、私達は"アイドルグループ"と言うのを組んでいまして」
「"アイドルグループ"?」
「歌ったり踊ったりする人達の事だ」
リアが言った"アイドルグループ"と言う言葉に疑問を感じためぐみんに、カズマが説明をした。
「はい。それで私達の故郷では結構人気だったので、他の街に行けばもっと人気が出ると思って…」
「それでどの街で活動しようか悩んでいた所に、『最近領主が替わった街がある』と噂を耳にしまして…」
「その街で一旗上げようと思って、わざわざ故郷の近くの街で護衛を雇って出発したんだけど…、まさか私達を置いて逃げるなんて!」
エーリカはその様子を思い出したのか、テーブルを叩いた。
「まあまあ、…ところでその行きたい街と言うのはどこでしょうか?」
「それはこの街、アクセルよ!」
エーリカは両手を広げて言った。
「エーリカちゃんが言ってるのは本当です。なので、この街に連れてきてくれて、本当に助かりました」
シエロは深々と頭を下げる。
「そっか…、なら俺達は君達を歓迎するよ」
「ありがとうございます!」
エーリカとシエロは嬉しそうにするが、リアだけはまるで何かを考えているかの様に黙っていた。
「…リアちゃん?」
「ああすまない、ちょっと考え事をしていてな。…ちょっと聞きたい事があるんだが」
「何だ?」
「幼い頃に誰かと約束…とか、しなかった?」
リアはカズマに質問をした。
「何ですかそれ?カズマが幼い頃の事を覚えているわけ「覚えているぞ?」あるのですか!?」
「ああ。確か…五歳の頃だったかな?幼なじみの女の子に、『大きくなったら結婚しよう!』って約束された事があった。…けど、もうそんな約束覚えていないと思っていたけど…。…なあ、何であんたが俺の幼い頃の約束を知ってるんだ?」
カズマはリアを睨む様に見る。
「やっぱり…、やっぱりそうだ!覚えていてくれたんだ、"カズ君"!」
「なんで俺の昔のあだ名を…、いや、その顔…。まさか、里亜!
「そうだよカズ君!思い出してくれたんだね!」
リアは思わずカズマに抱きついてしまった。
「里亜、なんでこの世界に…」
「話せば長くなるんだけど…」
「…おほんっ!長くなるのでしたら、そろそろ席を譲って屋敷に戻りませんか?」
めぐみんの咳払いでリアはカズマから離れ、カズマはめぐみんの提案を受け入れる事にし、リア達を連れて屋敷に戻ったのだった。
…
……
………
「えっと…、紹介するよ。俺の幼なじみの…」
「リアです、よろしくお願いします」
屋敷に戻ったカズマとめぐみんは偶然にもパーティーメンバー全員がリビングに集まっていた為、リア達三人を紹介する事にした。
しかもリビングにはアイリス、クレア、レインの三人もおり、現在リビングにはカズマ、めぐみん、クリス、アスタ、ダクネス、ダスト、リーン、テイラー、キース、キョウヤ、フィオ、クレメア、ゆんゆん、アイリス、クレア、レイン、リア、エーリカ、シエロ。そしてアンナとピカチュウの総勢19名と二匹がいた。
「クリス達初期メンバーには既に話したと思うけど…」
カズマは自分の今までの人生を語り始めた。
この世界に来る前は何の変哲も無い普通の学生であった事。
トラックと言う車に轢かれて死んでしまった事。
アクアとエリスと言う女神に"響鬼"と言う特典を貰って転生した事。
「…後は皆が知ってる通りだ」
カズマが語った話に、全員が黙っていた。
「まさかお兄ちゃんが異世界の人だったなんて…」
「カズマの強さはその特典譲りってわけだったのか」
「ああ、それは違うぞダスト。響鬼と言った鬼は身体や精神が未熟だと、"牛鬼"って言うモンスターになってしまうんだ。しかも、一度牛鬼になってしまったらもう二度と人間に戻る事はできない」
カズマの言葉に全員がまた黙ってしまった。
「それと、もう気づいていると思うが、リアの他にキョウヤも俺と同じ転生者なんだ」
カズマの言葉に全員がキョウヤに視線を向けた。
「カズマ君の言う通り、僕もアクア様に転生してもらったんだ。特典は僕が持ってるこの『魔剣グラム』さ」
キョウヤはグラムを掲げながらカズマの言葉を肯定した。
「それでリア、何でこの世界に転生したんだ?」
カズマの質問にリアはぽつりぽつりと話し始めた。
…
……
………
里亜の家族と和真の家族は、家が隣同士だった為、二人が生まれる前から付き合いがあり、二人が生まれても付き合いは無くならず、和真と里亜は幼なじみと言う関係だった。
お互いが五歳の時に、里亜が和真に『大きくなったら結婚しよう!』と約束し、里亜はその約束を守る為に家事や料理を勉強した。
だが、お互いが十六歳の時に、和真が事故で死んだ事を全校集会で知り、里亜は目の前が真っ暗となり、その場で倒れてしまった。そして里亜は気が付くと保健室のベッドで横になっており、体調不良と言う事でその日は学校を早退した。
その日から彼女の生活が一変した。
和真がいなくなった事でやる気を全て失い、部屋に引きこもる様になり、食事も満足に喉を通らなくなった。
そして和真が死んでから十ヶ月が経過したある日、ちょうどこの日は和真の月命日であった。里亜はその日、部屋の一番高い所にパジャマを輪っか状に結び、その輪っかに首を引っかけ、ベッドから飛び降り、首吊り自殺をした。
里亜は気が付くと、目の前に天使がおり、その天使に『記憶を全て消した状態で人生をやり直す』か『天国で日向ぼっこをしながら延々とおしゃべりをする』か『記憶と肉体を持った状態で異世界へ転生する』かの三択を言い渡された。
里亜は和真を好きな気持ちを消したくなく、延々とおしゃべりする気もなく、異世界転生を選んだのだった。
…
……
………
「…と、これが私がこの世界に来た理由なんだ。そして降り立った街で、エーリカとシエロの二人と出会い、元々夢だったアイドルグループを結成したんだ」
「そうだったのか…。悪かったなリア、お前を置いて死んじまって。また会えて嬉しいよ」
「カズ君…」
「…皆、ちょっと…って、何で泣いてんの!?」
カズマが皆の方へ振り向くと、全員が涙を流していた。
「だっで、ごんな
アスタは涙の他にも鼻水を垂れ流していた。
「リアちゃん!」
そしてエーリカとシエロはリアに抱きついた。
「リアちゃん、ずっと苦しかったんだよね…、寂しかったんだよね…。でも、もう大丈夫だよ!だって私達がいるもん!」
「エーリカちゃんの言う通りだよ!私達、仲間だもん!」
「エーリカ…、シエロ…。ありがとう」
リアは二人を抱きしめ、自分はもう一人じゃない事に涙を流した。
「……ところでカズマ、さっき何か言おうとしていたけど、何だったの?」
「ああ、里亜達の活動を支援したいって皆に相談したかったんだけど…」
「そんなのOKに決まってんじゃん!彼女達の為なら、難易度の高いクエストだって挑戦してやらぁ!」
カズマの提案にダストはOKし、他のメンバーもダストに同意するかの様に頷いた。
「クレア、レイン。アルダープの息が掛かった貴族から押収した宝物を売って、彼女達の資金源にする様手配を」
「畏まりました、もし換金所の貯金が少なくなったらオークションに出品します」
「その辺りは私が請け負います」
「よしなに」
アイリスはクレアとレインに悪徳貴族から押収した宝を売り払う様指示をし、クレアとレインは換金やオークションへの出品を決めた。
「それはそうと、グループ名はもう決まってるの?」
「いえ…まだ…ですが?」
リーンはシエロにグループ名を訪ねるが、シエロはまだ決まっていないと答えた。
「……なら、『アクセルハーツ』はどうかな?」
そこにアスタがグループ名の候補を上げた。
「『アクセルハーツ』…か。良いんじゃないか?」
「うむ、馴染みやすそうな名前だ」
アスタが上げた候補にカズマやダクネス、更にパーティーメンバー全員が好感を持った。
「…では、今から私達のグループ名は『アクセルハーツ』にします!皆さん、よろしくお願いします!」
リアとエーリカとシエロはカズマ達に頭を下げ、カズマ達は歓迎の拍手を三人に送ったのだった。