「……ふう、やっと一息着けるな」
自宅でもある屋敷の一角に増設した執務室で書類仕事をしていたカズマは、仕事を中断し背伸びをした。
コンコンッ『ご主人様、お茶をお持ちしました』
「ありがとう、入ってくれ」
ガチャ「失礼します」
扉の向こう側から声がしたので、カズマは入室を促すと、扉を開けて入って来たのはメイド服を着たリアだった。
「あの…、リアさん?何故その格好でここにいるのですか?」
「カズ君と少しでも一緒にいたくて…。ダメ…だった?」
リアはテーブルに紅茶が入ったティーカップを置いた後、腕で胸を挟んで強調させながら上目遣いでカズマを見る。その仕草にカズマはタジタジになっていると
「おい、私達の夫を誘惑するのは止めてもらおうか」
「そうだよ!それに、リアさんは確かエーリカちゃんとシエロさんと一緒に稽古していたはずだよね?」
そこにミニスカメイド姿のめぐみんとクリスが現れた。
「稽古はもう既に終わっているわ、私はカズ君にご奉仕する為にここにいるの」
めぐみんとクリスとリアは互いを睨み、その間にバチバチと火花が散ってるように見えた。
「まあまあ。…めぐみんとクリスが来たって事は、"祭り"の会議の時間か?」
「はい、他の皆さんは既に全員集まっています」
「分かった。リア、紅茶ありがとうな」
カズマはリアが持って来た紅茶を飲み干すと、めぐみんとクリスの二人と一緒に退室した。
…
……
………
「皆さん、お待たせして申し訳ありません」
「いえ、そちらもお忙しい中来て下さり、ありがとうございます」
祭りの実行委員が集まっている部屋に開口一番に謝罪しながらカズマが入室すると、実行委員長が立ち上がりながらカズマに来てくれた事を労いながら手を差し出し、カズマはその手を握り、握手をした。
「…さて、今年の"女神エリス感謝祭"の概要についてだが…」
カズマは席に置かれているプリントを見ながら話を促した。
「はい。今年も熱中症対策としまして、打ち水を…」
「ですが、例年の如く女性陣が渋っておりまして…」
「……女性陣が渋る理由は、"下着が見えてしまう"と言った所…か」
カズマは問題点を上げると、委員長は頷いた。
「その通りです。…ですが、毎年この季節になると日中の気温が一気に上がりまして、少しでも冷やさないと…」
「……その問題点ならダスティネス卿から聞いている。そこで俺に打開策がある、まずはこれを見てくれ」
カズマは魔導カメラで撮った写真を全員に配った。
「これは…?」
「俺のパーティーメンバーのフィオとクレメアだ。二人には事情を説明して、魔導カメラでの撮影と写真を見せる事への了承を貰っている。そしてこの二人の格好は打ち水をする女性陣の格好だ」
写真には水着の上にTシャツを着たフィオとクレメアの姿があった。
「服が透けて下着が見えてしまうのが嫌なら、下着の代わりに水着を着用。そして水に濡れても透けないような色合いの服を着れば恥ずかしさも半減するだろう」
「なるほど…」
「それと、打ち水に使う道具として、こんな物を作ってみた」
カズマはバッグから竹で出来た筒状の物を取り出した。
「こちらは…?」
「これは"水鉄砲"と言って、この穴が空いている所を水に着け、この取手を引くと水を吸い上げるんだ。そして水から引き上げてから取手を押し込むと…」
カズマはその場で実演すると、委員長に向かって取手を押し込んだ。すると空気が委員長に向かって流れた。
「おお…」
「今は水が無いから空気で実演してみせたが、こうして水を飛ばす事が出来る。そしてこの水鉄砲は女性陣にのみ配布する」
「それは何故?」
「男性陣に配布すると、女性を意図的に狙って水を発射させかねないからだ。そうなったら女性陣からのクレームが殺到してしまう、その点女性陣同士であれば、ただ水を掛け合って戯れている様に見えると言う訳だ」
カズマの説明に委員会は納得した様に相づちを打った。
「…さて、何か質問がある人はいるか?」
カズマが質問を促すと、委員会の一人であるアスタが挙手した。
「あの…、さっきの事とは違うのですが、今年の祭りにはアクシズ教も出店したいと申請が来ていて…」
アスタはアクシズ教の出店に関する概要書をカズマに渡した。
「……アスタ、この要望だが認める訳にはいかない」
カズマが見た概要書には、『金魚釣り』や『クラーケン焼き』や『人形射的』等書かれていた。
「まず生き物関係の屋台は出店禁止、飼育放棄に繋がるからだ。それからこの『クラーケン焼き』と書かれているが、どう考えても『イカ焼き』の屋台にしか思えない。そして極め付きに『人形射的』の的が女神エリスを象っている事、こんなのはエリス教徒を怒らせるだけだ」
「……ですよね~。分かってはいたんですよ」
アスタはアクシズ教がエリス教を毛嫌いしている事を知ってはいたが、アクシズ教徒達に『是非アクシズ教も祭りに出店を!』と言われて仕方なく概要書を作成したのだった。
「…だが、このまま放置すれば祭りに対して嫌がらせをするのは目に見えている。どうしたもんか…」
結局この日は打開策が浮かばないまま、会議は終了となった。
…
……
………
「ただいま…」
「あっ、お兄様。お帰りなさい」
カズマ達が屋敷のリビングに着くと、そこにはアイリスとクレアがいた。
「カズマ殿、祭りの会議ご苦労だった。…して、何か問題が?」
「クレア姉さん…、実は…」
カズマは二人に会議で話した問題点を打ち明けた。
「アクシズ教徒の出店ですか…」
「確かに、アクシズ教はエリス教を毛嫌いしている節がありますし、出店を拒めば嫌がらせを起こし、最悪祭り事態を中止せざるを…」
「そうなんですよ…、折角街の皆が楽しめるイベントを台無しにするのは…」
三人は頭を抱えながら悩んでいた。
「カズマさん、ちょっと良いですか?」
そこにゆんゆんが手紙を持って現れた。
「ゆんゆんじゃないか。…んっ?その手紙は?」
「これは父からの手紙です。…相変わらず紅魔族特有の書き方ですけど…」
ゆんゆんは苦笑いを浮かべていた。
「そうか…、んで何か用か?」
「あっ、そうでした。実は父がこの街のお祭りに興味を示しまして…、それで父を含む数人でお祭りを楽しみたい…と」
「なるほど…んっ?」
ゆんゆんが族長からの手紙の内容をカズマに伝えると、カズマは何かを閃いた。
「はまったぜ、パズルのピースが」
「お兄様?」
「説明しましょう!カズマがこのセリフを口にした時は、何か妙案が浮かんだ時です!それでカズマ、妙案が浮かんだのですよね?」
「ああ。ゆんゆん、紅魔の里から来るメンバーは決まっているのか?」
カズマはゆんゆんに質問をする。
「えっ?あっ…はい。まだ決まっていないと思いますが…」
「なら、今から言うメンバーを連れて来て欲しいんだ」
カズマはゆんゆんに連れて来たいメンバーの名前を伝えた。
「…分かりました。今から"転送屋"に行って里に向かいます」
転送屋とは、テレポートが使えるウィザードが運営する店で、行きたい場所を指定すると、そこを登録しているウィザードが転送をしてくれる店である。だが、登録している場所以外を指定しても、転送する事は出来ないので要注意である。
「ゆんゆん待って下さい、私も一緒に行きましょう」
ゆんゆんが転送屋に向かおうとした矢先、めぐみんが同行する事を伝えた。
「ならめぐみんとゆんゆんに任せるよ」
「分かりました。では着替えてから行ってきます」
めぐみんはゆんゆんを連れてリビングから出ていった。
「カズマ殿?」
「ああすみません。妙案と言うのは、紅魔族にアクシズ教徒を見張ってもらうんですよ。彼等ならきっと役に立ちますよ」
カズマの説明に一抹の不安を持ちながらも、クレアは無理やり納得させた。
…
……
………
それから、カズマは西へ東へ走りまくった。
ある時は鍛治屋でとある物を作る為に。
ある時は服屋で自分がデザインした服を縫ってもらう為に。
ある時はウィズとバニルにとある物を発注する為に。
ある時は屋敷でダクネスとクレアと一緒にあーだこーだと会議したり。
そして全ての準備が終わり、いよいよ『女神エリス感謝祭』が開かれる日となった。
…
……
………
「《皆さん、お待たせしました。いよいよ本日、『女神エリス感謝祭』が開かれる日となりました。そして今、新たにこの街の領主となりましたサトウカズマ様より、開催のお言葉を頂戴したいと思います》」
「《あ~、皆さん知ってるとは思いますが、新しく領主となりましたサトウカズマです。…さて、俺は長話は嫌いです。そして皆さんも、早くお祭りをしたくてウズウズしてると思います。そして俺から言える事はただ一つ》」
エリス教徒から魔導メガホンを受け取ったカズマは大きく息を吸い込むと
「《大いに騒ぎ、大いに楽しめ!それがエリス様の
カズマの言葉に全員が沸き上がった。そして今ここに『女神エリス感謝祭』が開始されたのだった。