とある緋弾のソードアート・ライブ ──挟間の帳──   作:常盤 赤色

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第一八話「決着と流動、新たなる動き」

1,

 

 

 

 

 

 

 

 数十度目の拳が、お互いの顔にクリーンヒットした。

 

「…………ッ!?」

 

 駆け抜ける衝撃が脳を揺らし、意識を揺らし、足元が覚束なくなる。

 

 が、倒れない。ジーサードも倒れるわけが無いし、削板も倒れるわけが無かった。

 

 常人から見ればそれはただの殴り合いに見え無いだろう。目視できない可能性もあるが。ただ、特攻服を着た派手な姿の少年と白ランに旭日旗のTシャツの少年が喧嘩しているだけの、人によってはどこぞの暴走族やカラーギャングの番長同士の一騎打ちに見えるかもしれない。

 

 が、彼らのどちらかを知っているものがいれば、そのどちらかと闘っている者に、迷わずこう言うだろう。

 

 「お前、なんで立っていられるんだ」、と。

 

 音速の領域での応酬を繰り返すジーサードと削板。常人なら一発で卒倒しそうな拳を受け、殴り返され、尚2人は倒れる素振りを見せない。

 

 しかし、人という生き物である以上、いつか必ず限界に達する。

 

 化け物という領域を突き出た「何か」である2人の闘いも、そろそろ限界に近づきつつあった。

 

 

 

 ⚫︎

 

 

 

 体が、熱い。

 

 殴られた箇所が異常な熱を持っていることがよく分かる。

 

 こういうのは、いい。

 

 体に熱があるということは根性があるということだ。

 

 熱くなれば熱くなるほど、拳は根性が篭り、いいパンチへと磨かれていく。

 

 根性がある敵と闘うのは嬉しいことだ。

 

 こちらが放った拳がアッパー気味に相手の顎を揺らす。本来ならば脳が揺らされ、脳震盪を起こすかもしれない可能性のある危険な一撃だ。

 

 だが、拳を決められた相手は、笑っていた。

 

 相手が放ったカウンターの拳が、こちらの腹に収まるのが分かった。体がくの字に曲がり、足がふらつく。

 

 だが、自分は笑っているだろう。

 

 面白い。楽しい。愉快だ。充実している。最高だ。

 

 様々な感情により痛みが麻痺したかのようにも思える。

 

 やはり、世界は広い。

 

 自分の力も大概だと思っていた。あの男、「説明のできない力」を振るい、手も届くことができなかった男の力ほどではないが、それでも自分の力は中々強いものだと思っていた。だからと言って身体の特訓を抜かしたことはないが。

 

 しかし目の前に今いるのは、能力などないはずの生身の人間だ。その人間が、自分と身一つで互角に闘っている。

 

 驚きはしない。世界は広いのだ。自分よりも強い猛者などいくらでもいる。

 

 軍覇の瞳は、ジーサードの拳を一発受けるごとに純粋な光を増していた。

 

 2人の拳が、お互いの顔にまたもやクリーンヒットを果たす。

 

 吹き飛ばされる体。途切れかける意識。叩きつけられ、衝撃が暴れる体を、根性で闘えるように繋ぎとめる。

 

 だが、それもそろそろ限界だ。

 

 傷だらけの体を起き上がらせ、相手を見た。相手も、自分以上に傷だらけの体となっている筈だ。

 

 

 そこには、左拳を引っ込め、今までは取ることのなかった明確な「構え」を取るジーサードがいた。

 

 

 構えを取り、こちらを見据え、明らかに今までの殴り合いとは違う一撃を放とうとしている。

 

 恐らく、放てる一撃としては最後の物となるだろう。そして、今まで放たれた拳よりも、強力な力を持って自らを襲うだろう。

 

「…………ハハッ」

 

 そうだ。そう来てもらわなくちゃ困る。

 

 そろそろ自分も限界だろう。根性があればいくらでも立ち上がることはできるが、それとこれとでは話が違う。

 

 この闘いは、先に倒れた方が負けなのだ。

 

 ならばやることは一つだけだ。

 

 相手の拳を、自分の根性を全て掛けた最大限の拳を持ってして迎え打つ。

 

 闘いはいよいよ大詰めを迎えつつあった。

 

 

 

 ⚫︎

 

 

 

 相手がこちらと同じように構えたのも見て、ジーサードは笑う。

 

 ジーサードは超能力者ではない。高い身体能力やカリスマ性を誇るが、「異能」とはっきり言えるような物はない。

 

 だが今までにジーサードは多くの超能力者や魔術師を下してきた。それらの中には、自身の能力にかまけて碌に心身を鍛えようとしない三流も多くいた。闘ってみるものの、つまらない相手も多くいた。

 

 だが、こいつは違う。

 

 恐らく目の前の少年は碌な訓練はしたことはないだろう。特訓はしていても不思議ではないが、それでも死と隣り合わせが普通の訓練を幼少期からこなし、年がら年中各国の危険地帯に飛び回っている自分ほどでは無いと思っていた。

 

 それが、完全な思い違いであった。

 

 これがレベル5?学園都市最強の能力者?230万人の頂点に立つ第7位?

 

 ふざけるな。どこに能力も使用しないで無能力者と殴り合いする超能力者がいるか。能力では無く、拳を使って闘う能力者がいるものか。

 

 ……目の前にいるんだから仕方ねぇよな。

 

 ここまで馬鹿正直に正面から仕掛けてくる奴すら久しぶりだ。

 

 恐らくこいつは兄貴以上の馬鹿だろう。それは間違いない。

 

 そしてこいつと闘うのは兄貴と同じくらいに、満足できる物になった。

 

 だがまだ終わりではない。

 

 残りでこちらが放てるであろう拳は一発。体の限界を考え、今このタイミングで放つのが、最良にして最適の判断だろう。

 

 相手は、その誘いに碌に判断した素振りも見せずに返してきた。

 

 ならばぶつけ合うがいい。

 

 お互いの、全力を。

 

「…………いくぜ」

「来いよ」

 

 お互いに踏み込みが成された。

 

 足元の砂利が踏み潰され、破砕し、いくつか砕けた音が聞こえたが、それすらこの2人にとっての障害とはならない。

 

 ロケットスタートで解き放たれた体は一瞬で音速の域に達し、その突進ですら武器となろう勢いでお互いの元へ迫っていく。200メートルなどという2人の距離など、あってないようなものと化した。

 

 ──そして

 

 

 

 

 ⚫︎

 

 

 

流星(メテオ)ォォォォ!!」

 

 その拳はあらゆる物を砕きうる音速の拳で──

 

「超…………すっごいパァァァァァァァァァンチ!!」

 

 その拳はあらゆる物を貫通しうる根性の拳で──

 

 対の拳が、交差する。

 

 

 

 ⚫︎

 

 

 

 拳の激突によって生じた物は、爆風などという生半可なものではなかった。

 

 「核兵器が落ちても大丈夫」が決まり文句のコンテナはひしゃげ、割れ、破壊音を上げながら吹っ飛ぶ。

 

 コンテナ置き場に敷かれた砂利は、それ自体が弾丸になったかのようなスピードで風車やコンテナに打突し、それらを歪ませた。

 

 周りに建てられた風力発電の風車はプロペラが外れ、宙を舞い、地面に突き刺さる。

 

 資材として置かれていたであろう鉄骨に至っては、あちこちが熱を浴び、溶け出している物すらあった。

 

 かなめやツクモたちジーサードリーグの面々がこの惨状の中無事でいられたのは、ひとえに彼らの実力故だろう。

 

 充分な距離を置いていたにも限らず、闘いの余波に装備した先端科学兵器(ノイエ・エンジュ)での防御を強いられたかなめは、視界を遮っていたコンテナな資材が散乱したことで見当たりが良くなった戦闘場所を見る。

 

 爪痕はフェンスの向こうの道路にまで及び、アスファルトが砕け、地盤が歪み、その中心に砂利も何も全くない、クレーターのような場所があった。まるで、隕石でも落ちてきたのかというほどの。

 

 そしてクレーターの中心点、そこに立つ影があることに金女は気付いた。恐らく、その場に立っているのはこの闘いの勝者なのだろう。

 

 そこに立っていたのは──

 

「…………」

 

 かなめは軽く息を吐いた。

 

 立っていたのはジーサードであった。

 

 これ以上ないボロボロの体だが、確かにその場に立つことができている。対して、ジーサードを強襲してきたレベル5の少年は、少し中心点より離れた場所で、大の字で倒れていた。

 

 これから導き出される答えは一つ。

 

 ……ジーサードが勝ったんだ。

 

 他のジーサードリーグの面々もジーサードが勝ったことに気づき、安堵の表情を浮かべていた。

 

 当初はどうなるかと思ったが何とかなるものだ、とかなめが思ったその時だ。

 

 ジーサードが、何かおかしい。

 

 変な違和感を感じる。右を向いているため横顔しか見えず、顔の俯きから目の前に倒れた少年を見つめていることは分かるが、ここからでは分からない違和感がある。

 

 何がおかしいのか分からないが、確実に何かがおかしい。そのおかしさを確認するためかなめがジーサードの元へ駆け寄ろうとした。

 

 ──ジーサードの目の前の少年がいきなり立ち上がった。

 

 

 

 ⚫︎

 

 

 

 突然起き上がった少年に対し、ジーサードリーグの面々は構え、いつでも戦闘できる態勢を整えた。

 

 対照的に、一番少年の近くにいるジーサードは、少年に対して呆れたような声を発した。

 

「お前……今明らかに腕の骨やらなんやら外れてたと思うんだけどよ……」

「何言ってんだよ。根性さえあれば骨は繋がるし、傷口も塞がって血も出なくなるよ 」

「……ホントお前の体も大概だよな。なんだよそのツバつけときゃ治るみたいなやつ」

 

 右腕で頭を掻くジーサード。どうやら、もう闘うという雰囲気ではないことは察した。

 

 ジーサードリーグの面々が各々の武器をしまいジーサードに近づいていく。

 

 そこで、ようやくかなめは、自身がジーサードに抱いていた違和感の正体を見ることができた。

 

 

 ジーサードの左腕、そこにあるはずの腕が無かったのだ。

 

 

 ……義手が、壊された……!?

 

「!!」

 

 どうやらツクモやアンガスたちも気付いたらしい。ジーサードの左にあるはずのものがない虚空の空間があることに、絶句していた。よくよく見てみれば、あちらこちらに義手だったと思わしき欠片が転がっている。

 

 ジーサードの左腕は義手である。

 

 かつてある理由でジーサードは自身の左腕を失っていた。それらの理由で、ジーサードはその左腕に義手をつけ、それを左腕として過ごしていたのだ。

 

 戦闘が職種であり、更に肉弾戦を得意とするジーサードにとって身体はいわば商売道具とも言えるものである。彼の左腕の義手も、オーダーメイドで作られた一級品を使用している。

 

 それが、砕かれた。しかも戦闘機や装甲車などではなく、ただの拳に。

 

 ……これが、削板軍覇。

 

 ジーサードが笑っていた理由がわかる。純粋に楽しかったのだろう。ここまで闘いを楽しんでいる素振りを見せたのは、お兄ちゃんと闘った時以来だ。

 

 

 

 ⚫︎

 

 

 

 ジーサードは目の前で準備体操のように肩を回し始めた少年を見て、心の中で賞賛をあげていた。

 

 ……俺も人間をやめかけていると思ったが、こいつはそれ以上だな。

 

 あの時。対の拳が激突した時。

 

 ジーサードの「流星」は削板の「超すっごいパァァァァァァンチ」に威力負けした。

 

 「流星」が放った威力は超能力者の拳にそのまま喰われ、左腕と共に砕け切ったのだ。

 

 本来なら、あの場に倒れ込むのはジーサードの方だっただろう。

 

 が、削板の拳の威力に押され体を仰け反らせたジーサードは、それを見た。

 

 削板が、こちらが完敗する一撃を叩き込んだはずの削板が、逆に吹っ飛ばされる様を。

 

 …………!!?

 

 削板の顔が苦痛に歪む。どうやら右腕の骨が外れたかヒビが入ったらしい。

 

 変なねじれを持った右腕に引っ張られ、削板が後ろに倒れ込む。ジーサードが倒れなかったのは、彼が弾き飛ばされた左腕が完全に破壊されたおかげで引っ張られることが無かったからであろう。

 

 そして、そのようなちょっかいを出してきたのが誰だか、ジーサードは知っている。

 

「……悪りィな。ツレが横槍入れやがった」

「いいよ。別に。俺が根性足り無かっただけだ」

 

 それに、と削板はそれがいるであろう場所を見つめながら、自分に言ってきた。

 

「……俺の知り合いでもあるしな」

「そうか」

 

 その言葉を聞いた後ジーサードは──大声を張り上げ、大事な戦闘に横槍を入れた張本人へと怒りを声にして叫んだ。

 

「テメェ…………俺の闘いに手ェ出すとはどういう了見だァ!!?答えろオッレルス!!!!」

 

 

 

 ⚫︎

 

 

 

「了見も何もないだろう」

 

 どこからともなく現れた金髪碧眼の青年を、削板は知っている。

 

 かつて自分が大敗した相手だ。「説明できない力」を振るう、たかだか50人程度の子供達の為に学園都市の最暗部に喧嘩を売れる、レベル5の1人と物理的に対決できる、根性ある心意気のやつ。

 

 

 オッレルス。魔術師の中でも更に魔術を極めた末に、「魔神」の領域まで踏み込みかけた「魔神のなりそこない」。

 

 

「私がわざわざ君達に同行する形で学園都市に訪れた理由を忘れたとは言わせないぞ」

「それとこれとじゃ話が別だ」

 

 確かに闘いに水を差されて怒っているのは削板も同じだ。今すぐ飛びかかって前の勝負のリベンジを仕掛けたいくらいに。

 

「やめておいてくれないか。今の私は力をほぼ失っている。むざむざ負けるわけではないが……ともかく、今はそんな場合じゃないのだよ」

「はぁ?一体どういうことだ──」

 

 その時だった。削板の特攻服のポケットから演歌が流れ出したのだ。どうやら携帯電話らしい。

 

「演歌とは……渋いな」

「おっ。分かるじゃねぇか」

 

 「ヘビメタもいいけど、これはこれで乗れるんだよなー」と言いながら携帯を通話状態にするジーサード。中々趣味も合いそうな気がする。

 

『もしもし?』

「あぁ?なんだカナか」

 

 電話の相手はカナというらしい。声からして女性だと思うが、ジーサードの知り合いというには、そいつも根性があるのだろうか。

 

「悪りぃけど今大事な用の最中なんだ。切るぜ」

『あ、ちょっと待ちなさい』

 

 通話を切ろうとするジーサードを制止する通話先の女性。よほど大事な条件でもあるのだろうか。

 

『ジーサード。キンジたちにあのこと説明したの?』

「あのこと?」

『……忘れていたわね』

 

 あのこととはなんのことだろうか。が、特に自分に関係ないと判断した削板は、他人の大事な会話を聞かないようにそこから離れようとする。

 

『……さては削板軍覇と激突して、そのまま闘っていたわね?』

「おう。よく分かるな……あ。あのことってあれのことか?」

『わかりやす……』

 

 自分の名前を呼ばれたことで、立ち止まる削板。どうやら、会話の内容は自分にも関係あることらしい。

 

『もう……。となるとキンジたちはこの騒動の根幹に纏わることをまだ知ってないってことね……』

「あはははは。悪りぃ悪りぃ」

 

 周りにいるジーサードの部下やオッレルスが肩をすくめたり、ため息を吐くのが見えた。どうやらこの男、自分との勝負に夢中になって何やらしなければならない大事なことを忘れていたらしい。

 

 彼の部下はそのことを指摘しようとしていたが、自分との対決に手を出すわけにはいかず、最終的に見かねたオッレルスが闘いを無理やり中断させたわけだ。

 

『……まぁいいわ。削板軍覇がいるだけでもいいと思いましょう。で、そっちは今どこ?』

「ああ。使ってた廃倉庫の目の前のコンテナ積み上げてるところだが……そっちは?」

『私たちは「学舎の園」にいるわ。聞いた話だと落ち合えそうな場所があるみたいだし、今からそこに移動するからそこで合流しましょう』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

2,

 

 

 

 

 

 

 

「──で、そっちはどうなの?」

「うん。他の一般人は全員、安全なところまで移動しただって。初春さん」

「はい。学舎の園の地下にある地下通路から、避難用の特殊シェルターに移動完了したそうです」

 

 学舎の園。そこを取り囲んでいた連中におかえり願い、辿り着いた御坂、カナ、パトラと他3名は、黒子や初春、佐天との合流を果たしていた。

 

 今までいた場所が特殊な妨害電波がかかっていたため連絡ができなかった彼らは、外部とは独立した特殊なネットワークを持つ学舎の園を利用し、必要な場所へとそれぞれで連絡をかけていたのだ。

 

「アリアたちに連絡はつかぬのか?」

「あっちが妨害電波の範囲内にいるから無理みたい。別の学区との連携を妨害するものだから、学区内での連絡は出来るみたいだし、キンジたちがいるホテルがある学区に行ければ何とかなると思うけど」

「……ところでお姉様」

 

 どうやら仲間との連絡をしようと試みているらしいカナとパトラ。それを見て、ひそひそ声で黒子が話しかけてきた。大方の話の内容は分かる。

 

「あちらの方々……本当に信用できる人なのですか?学園都市の人間ではないみたいですし。それに学舎の園に軽々と入れてしまったのは少々まずかったのでは」

「いいのよ。あの2人はあったばっかりだけど、他の2人は知り合いだから。あったばっかりの2人も信用できる人だわ。私が保証する」

「しかしですねお姉様…」

「それに全員女の人だし。入るのには何も問題ないじゃない。安心しなさい。あの人たちは私たちを裏切るようなことはしないわ」

 

 

 

 ⚫︎

 

 

 

「──そういえば」

「どうしたのぢゃ?カナ?」

「私──って言えばいいのかしら?もしかして史上初の学舎の園に正面突破した侵入者なのかしら……」

「……ああ、成る程。安心せい。カナは女。大丈夫ぢゃ。問題ない」

「──それもそうね」

 

 ただ金一に戻った時がめんどくさそうぢゃな……、と思ったパトラだったが、それはそれで面白いので黙っておくことにする。

 

 

 

 ⚫︎

 

 

 

「……分かりましたわ。お姉様がそこまで言うのなら、彼女たちは信頼できる人物ということなのでしょう」

「そういうことよ」

 

 一番納得に時間がかかりそうだった黒子が納得してくれたのは、いい傾向だ。これなら、もし襲われた時も、不協和音なく協力しあって動けるだろう。

 

「……それにあのお二人にあそこまで上手くいく秘訣を教わりたいですし」

「ちょっと待ちなさい黒子。カナさんとパトラさんに何聞く気?」

 

 「デュフフフフ……これで私もお姉様と甘〜い夜を……」とにやけ顏が止まらず変な笑みを浮かべる黒子に引く御坂。それを無視した佐天と初春が「綺麗な人だね……」「ですね……」とカナとパトラを見て和んでいる中、その中でも一番幼く見える少女は少し苛立たそうに声をかけてきた。

 

「……おい。いい加減動かんか?そろそろ」

 

 

 

 ⚫︎

 

 

 

「そう焦っても良いことはないわ。情報の確認は大事なことよ?バードウェイ」

 

 嘆息する自分に対し、宥めるかのように微笑んできたのはカナだ。こいつは笑うと何かの女神像みたいな神秘的という域に達した美しさを見せることを改めて自覚した。男でこいつに色仕掛けを仕掛けられて、乗らないやつはいないのではないだろうか。

 

 しかし、レイヴィニア=バードウェイには早く済まなせなくてはならない用事というものがある。

 

「それにしても、だ。刻一刻と事態は悪い方へと変化している。迅速な行動はそのまま犠牲者の数に直結するぞ」

「とかいいながらこの人は、早く愛しのお兄ちゃんに逢いたいですから」

 

 隣にいた少女の腹に向かって無言の腹パンをかますバードウェイ。が、横にいた少女──レッサーは口笛を吹きながらそれをかわすのであった。

 

「ななな何をふざけたことを!!私はただ、異界とのバランスを正すためにだな……」

「どうでもいいが慌てすぎぢゃ。バードウェイ」

 

 ちっ、と舌打ちする。学園都市にて異界の存在同士が交わり、とある騒動が起こるという情報を「明け色の陽射し」が持つ独自の情報網から手に入れ、いざ学園都市に乗り込もうとしたのは良かったが、どこから嗅ぎつけたかは知らないが途中からレッサーが混じり始めたり、「新たなる光」との小規模の戦闘があったり、いざついてみたらすでに現場は騒動の中で、あの男は見つからないしで散々だった。

 

 学園都市を回り回って(マークが運転して)ようやく知り合いを見つけたかと思えば、それは知り合いの双子の妹という始末だ。幸いにも、御坂本人やカナ、パトラといった知り合いと合流することは果たせたが。

 

 ちなみに御坂の双子の妹だという少女は、マークとともに学舎の園外にて待機中である。女性ならもちろん入っていいだろうに、なにか事情があるらしい。

 

 閑話休題(それはともかく)

 

「と、ともかくだ!ともかく!早く急がなくてはならないことは確かだろう!」

「その──学園都市にでっかい空中都市艦が落ちてくるって話、本当なんですか?」

 

 話を戻すためにうまく誘導できたらしい。白井、初春、佐天には要所要所(魔術や異世界について)をうまく誤魔化しながら、学園都市に巨大な航空都市艦が落下の可能性があることだけを簡潔に説明した。御坂は3人をできるだけ巻き込みたくないようだったが、詳細を話して手伝ってもらうと決めたのはバードウェイだった。

 

 学園都市在住の学生という時点でこの件に関わらないという道はない。それなら、事態の収束のために手伝ってもらう方がいい選択というわけだ。

 

 渋った御坂だったが、カナや妹の説得があってか、案外すんなり受け入れてくれた。こいつは意外と強情な部分があるから、納得してくれてよかった。

 

「残念ながら本当ですね。そのために、学園都市には今、様々な思惑を持った勢力が蠢いているんですから」

「……学園都市はいつからどこぞの無法都市になったのですの」

 

 無法もいいところ(魔術結社のボスが言えたことではないが)の暗部があるから、かなり前からではないだろうか。

 

「この前も常盤台の皆さんが乗ったシャトルが墜落したっていうし……なんかこういうの、学園都市のお約束ってことでしょうか」

「そんなお約束がある都市、妾なら絶対住みたくないのぉ……」

 

 根も葉もないことを言ってもらっては困る。第一、今回の騒動もあいつが原因なのだ。学園都市に問題はない──とは流石に言い切ることはできないが。

 

「何にせよまずは移動だ。学園都市に迫っている艦には10万人近い人々が乗船していると聞く。それが落ちてくるとなると」

「……艦の住人も、学園都市の住人もパニックを起こすことは容易に想像できますわね」

「そういうことだ。艦の住人との間に問題が起これば最悪、住人との戦闘ということにもなりかねん」

「考えたくないけど最悪のケースとして念頭に置いておかなければならないわね」

 

 そういうことだ、と締めくくったバードウェイだったが、携帯が鳴り出したことに気づく。バードウェイは魔術師の仲でも珍しく電子機器を使うタイプの人間だ。流石に専門的なことは精通してないが、携帯や家電なら問題なく扱うことができる。魔術師は機械が苦手だと思われがちだが、そうでもない人間もちゃんといるのだ。

 

 携帯を通話状態に切り替えるバードウェイ。通話の相手は、今回の騒動の原因に一番近いというあの男だ。

 

『あ、バードウェイか?なんか神裂のやつが学園都市に来てるはずだなんて言ってたからまさかだと思うけど……』

「なんだ、お前か。御察しの通り今私は学園都市にいるぞ」

 

 素っ気なく返したら隣のレッサーが「あれで喜んでいるんですよ。愛しのお兄ちゃんからの電話ですから」と根も葉もないことを言い出したので炎魔術で黙らせておく。

 

『…………なんか今レッサーの声が聞こえた気が』

「気のせいだろう」

 

 うーん、あれレッサーの声だったよなー、という上条に対し、本題を持ち出すことにする。

 

「で、なんでかけてきた?」

『あ、そうそう。お前御坂と会ってないか?』

「御坂?」

『ああ。色々伝えたいことがあったから連絡して待ち合わせしてたんだけど、浜面たちとは連絡つかなくなるし、御坂の携帯にも繋がらないしで散々でさ。学園都市にいるお前らなら会ってないかな、と』

「それなら今ここにいるぞ」

『え?マジで?』

 

 ほれ、と御坂に電話を変わる。一瞬「私?」と惚けた顔を見せた御坂だったが、すぐに携帯を取って通話を変わった。

 

『御坂か?』

「う、うん。そうだけど」

 

 この際、白井が御坂(正確には御坂の通話の相手だろう)を恨めしそうに睨み、佐天と初春が微笑ましい目で御坂を見ていたことには、特に言及しないでおく。

 

 ともかく、これで上条たちのと合流は果たせそうだ。本格的な対策を立てたり、墜落を阻止する動きは、フラクシナスとかいう空中戦艦についてからになるだろう。

 

「…………え」

 

 その時だ。佐天が空を見上げ、口を開け、何かに対しての反応を示している。明らかに普通の生活で出てくる通常の反応とは違う、異常なことが起こったことに対する反応である。

 

 佐天が見るさきを、バードウェイも見やる。

 

 そこには──

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

3,

 

 

 

 

 

 

 

「…………何よ、あれ」

 

 ホテルを強襲した敵を拿捕し、無事に駐車場の防護を果たしたアリアたちは、駐車場の出入り口から空に現れた“それ”を見ていた。

 

 “それ”は空の高みに存在する巨大な戦艦。否。左右3艦、中央2艦からなるというその姿は、左右の艦の穂先を空に浮かんだ紋章から少し出しているだけにも限らず、龍といっても差し支えないものだ。その大質量と、10万人を乗せた都市艦ということを考慮すれば、あれが落ちてきた際の被害の大きさが思い浮かびゾッとする。

 

 あんなものが本当に落ちてくるのか。アリアだけではなくその場の武偵高の全員が冷や汗を浮かべていた。

 

「それが落ちてくるというわけです」

 

 そんな自分たちの気持ちを察知したのか、“それ”が落ちてくるという情報をもたらした男がそう呟く。

 

 海原光貴。学園都市の暗部にいた者で、一方通行も所属していた小組織「グループ」の元構成員。

 

 アリアたちとは別に強襲者を相手に戦闘を繰り広げていた彼ら。結果的にアリアたちはそれに助けられることとなった。

 

 しかし相手は学園都市の暗部の元所属者。その上アステカの魔術師で、一方通行と同じ組織にいたという、なんとも胡散臭い経歴の持ち主だ。最初会った時にはその経歴に気づかなかったが、とてもではないが信用できるような人間ではないだろう。もしかしたら、彼から学園都市に自分たちの存在がりーくされていたというのもありうる。

 

 だが、アリアたちが結果的に彼らの話を聞いているのは、恐らく彼と一緒にいたもう2人の人物の影響が大きい。

 

 海原と対峙したアリアたちの目の前に現れた2人。その人物たちに対して反応したのは陽菜であった。

 

「……半蔵殿?郭殿?」

「あれ?誰かと思ったら風魔のところの陽菜か?」

 

 「服部半蔵」の名を持つ少年と、彼に付き添うようにするくノ一っぽい少女。陽菜曰く、幼少期に何度か共に訓練をしたことがある顔見知りらしく、信用に値する人物とのことだった。

 

 そんな接点があったおかげでスムーズに相手の話を聞くことができたが、内容はもちろん半信半疑でしかないものだった。

 

 だが、今目の前にその証拠が堂々と姿を現している。

 

「……どこのどいつだよ。あんなものを落とそうだなんて考えるバカは」

 

 ライカの意見にはアリアも深く共感する。“あんなもの”がもし落ちれば、文字通りの大惨事になるだろう。落ちてこなくても、「落ちてくるかもしれない」ということによりパニックが起こる可能性も高い。

 

 どっちにせよ言えることは一つだ。

 

「何がどう転ぼうと……こっから先かなり面倒なことになるのは確かね」

 

 

 

 ⚫︎

 

 

 

 同時刻。学園都市に現在存在するほぼ全ての勢力が“それ”を認知した。

 

 あるものたちは、突如頭上に現れ始めた“それ”に対し警戒を強める。

 

 あるものたちはいよいよ始まるであろう狂宴の時に向け、ちゃくちゃくと準備を進める。

 

 あるものたちはそんな事態が起きていることも梅雨知らず、空高く浮かぶ船にてそれぞれの動きを見せている。

 

 それら全てを統括し、上空を見上げているジーサードや削板の前で、同じ場所を見ながら、オッレルスは呟いた。

 

 

「来たぞ……異世界の船。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 準バハムート級航空都市艦『武蔵』が」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

4,

 

 

 

 

 

 

 

 学園都市のとある場所にて、1人の少年と2人の少年少女が対峙していた。

 

 少年少女の少年の方は手に持った銃の銃口を相手に向け、少女の方は刀を構え攻撃にせよ回避にせよ素早い動きができるように、隙無く相手を見据えていた。

 

 それに対峙するのはアルビノの少年だ。その赤い目という容貌も相まってまるでウサギのような印象も受けなくはない。

 

 そんな少年に対し銃口を向けながら、遠山キンジは呟いた。

 

 

「──お前、一方通行じゃないだろ」

 

 

 少年の問いに対し、相対する少年は口角を上げる。

 

 また、別の闘いが始まろうとしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

第一八話「決着と流動、新たなる動き」 完




──新キャラクター──


 ──とある魔術師の禁書目録──


オッレルス
 魔神になり損ねた男。説明できない力を振るう優しい魔術師。


レイヴィニア=バードウェイ
 魔術結社「明け色の陽射し」のボス。実力は凄腕だが、「お子様の背伸び」感が言動の端々に見え隠れする。


レッサー
 イギリスの魔術結社予備軍「新たなる光」のメンバー。実力は「新たなる光」でも最強だが、大雑把。


服部半蔵(はっとり はんぞう)
 浜面と同じスキルアウト所属の少年。高名な忍者の子孫でもあり、現在はスキルアウトのリーダー。

郭(くるわ)
 半蔵御付きのくノ一。和風なのに大和撫子雰囲気は0。









元からこの作品は「とある魔術の禁書目録」「緋弾のアリア」「ソードアート・オンライン」「デート・ア・ライブ」、そして「境界線上のホライゾン」の5作品のクロスオーバーとして展開を考えていましたが、「ただ最初っから全部明かしていたらつまんなくない?」と考えた末、タイトル詐欺に至りました。本当にすいません。

ってなわけで次回からはいよいよ、武蔵の外道共が絡みだし、舞台も大きく変わりだします。というわけでまた来週!バイバイ。

2015年 5月 25日
ゼノブレXでフィールドを闊歩する高レベルモンスターに殺されまくる常盤赤色。
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