とある緋弾のソードアート・ライブ ──挟間の帳──   作:常盤 赤色

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第二〇話「武蔵大講座」

1,

 

 

 

 

 

 

 

「…………はぁ!?トールのやつまで学園都市に来てるだぁ!?」

「どうやらそうらしい。しかも、通りがかった過激派魔術結社潰して、そこから盗み出した霊装使って一方通行に化けてな」

 

 頭を抱える上条。キーナからの「武蔵」解説に参加するところを土御門に連れ出されてみれば、こんな事実が出てくるとは思いもよらなかった。

 

 元「グレムリン」の「雷神」トールとは以前協力し合い、戦い合った仲だ。顔見知り以上友人未満には知っている。

 

「そういやあいつ、変装する魔術とかなかったっけ」

「『雷神』トールの変装術式で化けられるのは女性限定だ。北欧神話のトールがフレイヤに化けて云々の伝説を利用したものだろうよ」

 

 トールは「力を求める」「助けられる人を助ける」を行動原理とした、純粋な個人の力で戦争を起こせるような破格の実力を持つ魔術師だ。

 

 「力があるから人を助ける気になったのか」「人を助けるために力を求めているのか」は本人にも分からなくなっているらしく、そんな人物からかハワイやバゲージンティでの「グレムリン」の所業を快く思わず、愛想を尽かしていた。その点では話はしやすかった相手だ。

 

「……あいつ、俺が電車の下敷きにした後捕まったんじゃ……」

「……カミやんなんでそんなことをしてるにゃー?普通死ぬぞ」

 

 だよなー、とそれには同意見な上条。あれで死んでいないとは術式の力が有ったとしてもやはり化け物だ。殺す気はなかったが。

 

「もちろん、殺す気は無かったぞ」

「矛盾してるぜいカミやん……。まぁあいつはどうやら逃げ出して、まだ逃亡中だったってわけだ。

 ともかく、下のことはあいつに任せることにした。バードウェイや第3位もこちらには合流せず収拾に協力してくれるらしい」

「……何が言いたいんだ?」

「簡単だ。カミやんは無茶するな。それだけさ。奴さんが狙ってるのはカミやんなんだし、無茶して敵に隙を見せれば、いつ襲われるか分からん。本来ならここに引きこもっていろ……と言いたいけど、そんなの認めるわけないだろ?」

「ああ。他のみんなが無茶してるってのに、俺がノンビリ休んでいるわけにはいかない」

「だから無茶するな。勝手な行動は取るな。いいか?」

「……分かったよ」

 

 土御門の威圧感に押されたわけではないが、言っていることは一理あるのでうなづく上条。確かに、この場面は無茶して突っ込んでも、解決できるような状況ではない。ここは友人の忠告に従っておこう。

 

「……分かってくれたなら安心だ。んじゃ、キーナ先生の『武蔵』講座、受けに行くかにゃー」

 

 

 

 ⚫︎

 

 

 

「──お。上条くんに土御門くんも。話は終わったのかーい?」

「ああ。すまんないぜい、時間掛けて」

 

 先ほどの会議でも使用された会議室。現在そこには黒板ほどの大きさがあるホワイトボードが置かれ、その目の前の楕円状の机にはキリトや士道を含めた、今回の一件に関わることを決めた、巻き込まれた人物たちが座っている。ほとんどは役割が後の物で、現在ヒマな人物たちである。

 

 土御門と上条も着席する。ここに皆が集まっているのは、言うまでもなく「武蔵」に関してだ。

 

 現在学園都市上空に姿を見せている「武蔵」。今はまだこの世界における存在がはっきりとしていないため、近づくことはままならないが、いずれ墜落を防ぐため、その艦上に乗り込むことになろう。

 

 そうなった場合、「武蔵」に住む人々の協力は事件の解決に不可欠だ。そのためにはまずは相手を知っておかなければならない。そうキーナに提案され、「武蔵」に乗り込む準備が整うまでの間、キーナによる「武蔵」講座が行われることになったのだ。

 

「いいよいいよー。今バードウェイちゃんたちや司令室にいる琴里ちゃんたちともインカムを通して通信できるようになったところだし。バードウェイちゃん聞こえてるー?」

 

 

 

 ⚫︎

 

 

 

「ちゃん付けするな馬鹿野郎。聞こえているぞ。いる場所も今から行く場所も第7学区妨害電波の範囲外だからな」

『うんうん。学区外との通信機器系統を妨害する電波は、何故か学区内での通信はできるからね。〈フラクシナス〉が止まっているのも第七だから、通信できて助かるよ』

 

 学園都市の学舎の園を脱出した一行は、現在マーク・スペースが運転するリムジン車に乗り込み、第七学区内を移動中である。

 

 リムジンの車内には御坂、御坂妹、カナ、パトラ、レッサー、白井、初春、佐天、そしてバードウェイ自身という大人数をのせていたが、それでも狭いと感じない程度には広かった。

 

「りりりリムジンなんて初めて乗った……」

「た、高そうな酒とか置いてあ……あれ?これミックスジュースですよね」

「カナ、ハネムーンの車はこれくらいがいいのぢゃが……」

「さすがにそれは無理と言いたいところよ……」

「………しかしそちらの常盤台の制服を着た方、お姉様のお知り合いのようですがどなたですの?お姉様と似た匂いがするのは気のせいではないような…できればそのゲコ太のお面を外して」

「か、彼女はね!少しお面をつけてなきゃいけない事情があるのよ!ね!面子さん!」

「はい。ミ……私はお面をつけなければ人見知りで人前にすら出れない小心者なのです。だから容認してください。とミザガッモガモガ」

「あんたその喋り方辞めなさい面倒なことになるでしょ!」

「これは私たち御坂にとってのアイアンディーなのです。お姉様の申し出でも、これだけは止めることはできません。個性を無くした者に訪れるのは、キャラクターとしての死のみです」

「今のあんたなら十分キャラ爆発してるから!」

「?お姉様?何をボソボソと……」

「え!?な、何でもない何でもない!」

「いやーやっぱ日本のマンガはレベル高いですねー。空港が無事なうちにいくつか買っといて良かったです。しかしこのゴリラが描いているギャグ漫画は本当にヒドイですねぇ(褒め言葉)。特にパロディ周りが──」

「…………大丈夫だ。多分話が始まれば嫌でも真面目に聞くだろうさ」

『本当に大丈夫?』

 

 

 

 ⚫︎

 

 

 

『こっちも画面にちゃんと映ってるわよ。作業の片手間で聞くことになるけど、よろしく頼むわ』

「OKOK〜ん。じゃ始めようか」

 

 一度部屋にいるメンバーを見渡した後、キーナはマイクをペン回しのように手で回しながら白いホワイトボードを逆の手で強く叩いた。

 

「え〜それではこれより、『椿キーナが教える!武蔵大講座ー!!』始まり始まりー!」

「…………その合いの手必要なのか?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

2,

 

 

 

 

 

 

 

「さーて今回は『武蔵』についての解説なんだけど、まずは私たちが『境界線上のホライゾン』と呼ぶ世界がどのような物かについて軽く解説しようか」

「“今回”って前回も次回も無いだろう……」

 

 キリトのツッコミもクラインのツッコミもなんのその。という感じでマイペースに説明を始めたキーナに対し、この場の全員はこれ以上のツッコミは無駄だと判断したように見えた。

 

 といっても説明の時の生徒からのツッコミは重要だ。生徒が参加することにより、説明は円滑に進む。

 

 なのでキーナは、生徒に対して語りかけるかのように説明を始めた。

 

「まずは一つ知っておいて欲しいことがある。それは、彼ら『境界線上のホライゾン』の世界が、私たちの時代の、遥か未来であることね。少なくとも2桁くらいは世紀が離れてると思うよ」

「『2桁!?』」

 

 思わずキーナの説明を聞いていた内の数名が叫んだ。叫ぶことのなかった人物も顔に出すほどでは無いにせよ驚きを得ているようだ。

 

「そ、それって千年後とかそんだけ未来の世界ってことなのか!?」

「あくまで、私たちがそう考えているということですよ五河君。まぁこれ以上か、これに匹敵するほどは少なくともあるだろうけど」

 

 数千年後の未来など、実感も沸かなけらば理解も難しい。早くも、大きくなりだした話に、士道を含め多くが自信をなくしている様子だ。ここは、説明する側の技量が問われる、

 

「そこはまぁあまり深く考え無いほうがいいと思うよ。ともかく、彼らの世界が遠い未来の世界だってことが分かってくれればいい」

『数千年後の未来の技術なら、確かに〈フラクシナス〉以上の大質量を長時間航空させることなんて、容易に出来るでしょうね』

 

 納得したような琴里の呟きが、部屋に響く。それだけの年月があの船との間にあるならば、それこそ学園都市の科学力すら足元に及ぼ無いだろう。

 

 ……飲み込みいいねぇ…。優秀優秀。

 

 科学者であり、教師である彼女にとって、授業は得意分野でもある。自らが教えている生徒と同じ年頃の少年少女も多いとあっては、気を抜くわけにはいかない。

 

「…………さて。彼らは元々は悪化して住める環境では無くなった地球を捨て天上──ようは宇宙に繰り出した。だけど宇宙で戦争をやらかして力を失って、その技術力をほぼ無くして、彼らが設置した機械によって環境が自動で修復されていたはずの地球に戻ってきたんだ。ところが、地球は彼らが住める環境では無くなっていたってわけ」

「?なんでよ?機械によって地球の環境は修復されてたんでしょ?」

 

 リズベットの尤もな質問はこの中のメンバーのほとんどが思ったことだ。キーナにもそれは予測できていたし、だからすぐさま質問に答えることができた。

 

「地球の環境は確かに修復されていたの。…………異常なほどにね」

「?どういうことなのだ?」

「……過剰回復だね」

 

 首をかしげる十香に対し、理解したようなうなづきを見せたのがインデックスであった。

 

「魔術でも起こる問題だよ。過剰に人体の傷を回復させると、逆にそれが毒になって体の細胞がグズグズに壊れちゃうんだよ」

 

 ……流石は魔導書図書館。博識だね。

 

「俺の能力、『肉体回復(オートリバース)』系の高位能力者があんまりいない理由だな。あまりの過剰回復は逆に人体の破壊を招く。そういうことか?」

 

 インデックスほどではないが土御門も十分すぎるほど優秀だ。やはり学校で「デルタフォース」なんていう問題児のレッテルを押し付けられているのは、演技なのかもしれない。

 

「そう。彼らが戻ってきた時には地球の環境は過剰に回復されちゃっていたんだ。地質は農業ができ無いほどたくましく、植物はそれに合わせて巨大で硬質に、そしてそこに住まう動物も巨大化して、肉食種はさらに凶暴に。

 まぁこのほとんどは私の想像だけど、間違ってはないと思うよ。

 ようは地球の環境を戻したつもりが、逆にさらに過酷な環境になっちゃったのよ。宇宙に出るほどの技術力を持っていた時の彼らにはともかく、地球に出戻りの形で帰ってきた彼らには、とても住める場所じゃなかった。唯一、環境回復の本拠地であった神州──この世界でいう日本を除いて」

「…………地獄絵図だな」

 

 

 

 ⚫︎

 

 

 

「え?なにがだ?」

 

 分からずに惚けた顔をする友人にため息を吐く土御門。呆れはするが、これが上条当麻という自らの友人なのだ。仕方はない。

 

「……お前、もしかして学校の成績悪い?」

「な!し、失礼な!上条さんは学校の問題児なんかじゃ無いですぅー!」

『夏休みの最終日に貯まりに貯まった宿題を教えてもらう奴の台詞とは思えないわね。しかも中学生に』

「…………今度勉強教えてやろうか?」

「心外だ!!上条さんはそんな馬鹿キャラじゃだんじてありません!土御門も失礼なこと考えてたんだろうが!」

 

 そんなことはない、と一応の否定をしてから、説明に移る。

 

「いいかカミやん。今の日本の人口は?」ら「お前やっぱ俺のこと馬鹿にしてるだろ……。1億3千万くらいじゃないのか?」

「まぁそんくらいだにゃー。んじゃカミやん」

「なんだよ」

「世界の人口は?」

「そりゃ72億…………あ」

 

 ようやくそのことに気づいたらしい友人を苦笑しつつ、土御門は言葉を続けた。

 

 ようするに

 

「今の日本ですら人口密度がハンパない状況なんだ。そこに世界中の人間なんて押し込んでみろ。その頃の人口がどれくらいかは分からないが間違いなく」

「限られた土地を巡って戦いが起こる……そういうことだな!」

 

 今度はちゃんと理解したと思われる上条の指摘にうなづく。反応から見るに、十香や四糸乃といったメンバーもそのことに気づいたらしい。

 

 

 

 ⚫︎

 

 

 

「そーゆーことなの。神州に閉じ込められた人々は、元々神州に暮らしていた人々と、そうでない、つまりはアメリカやヨーロッパといった外国側の勢力に別れてさらに戦争を開始。結果的に」

「さらに衰退してしまった……ってわけですね」

「アスナちゃん正解。ともかくこのままじゃまずいと流石に感じたんだろうね。戦争を続けていたら本当に人類が滅ぶってんで、彼らは話し合いをすることにしたんだ。そして、幾つかの事柄を決めた。

 まず彼らは世界の過酷な環境の克服と土地不足の克服のため、世界の環境を再現したもう一つの日本、『重奏神州』を異空間に作成。日本人以外の人々はそこに移住することにしたんだ」

「……VRMMOでもそんなブッとんだ設定のゲームは無いよ…」

「スグの言う通りだよ……。世界は広いな」

『衰退してそれとは……どんなレベルの科技術ですの?数十世紀離れているのも納得ですわ……』

 

 異空間に土地を作成とは、最早魔術師専門の殺し屋として万の魔術に通ずる「必要悪の教会」の魔術師や先端科学の街たる学園都市の住人でも理解が及ばないものであった。ましてや異常に耐性を持つ彼らでそれなのだから、キリトたちの驚きは言葉にできないレベルをとうに通り越していた。

 

「ま、私たちの世界とはかなり技術の内容に差異がある世界だからねー。

 そしてもう一つ。もう一度人類が天上に上り詰めるため、そして安全に発展するためにかつての歴史を繰り返すことにしたんだ」

『はいはいはーい。よしのんから質問なんだけどー。それでなんで歴史を繰り返すことになるの』

 

 よしのんの素朴な疑問。それに答えてきたのはキーナではなくキリトのスマホの中にいたユイであった。

 

『人類が一度、天上に上ったことがあるなら、もう一度歴史を繰り返せば、時間はかかるでしょうけど、また同じように天上に上ることができる……そういうわけでしょうか』

 

よ『おおー!ユイちゃん分かりやすい!』

 

 伊達にAIではないらしい。ユイの正確な答えに、キーナは笑顔でうなづきを返す。

 

「うん。ユイちゃんの言う通り。ようは『歴史再現』を行うことにしたんだね。

 そのための指南書、聖譜(せいふ)も作られて、いよいよ『歴史再現』が本格的に行われることになったのさ。聖譜はあらゆる歴史を示した歴史書なんだ。これから歩む歴史が早く分かると、国によって有利不利が働くから、100年先までの歴史しか聖譜には示されない。ついでに、人の手を使わず、自動更新もできる機能も兼ね備えたわけ」

『よく考えてあるな……』

 

琴里『考えたことを実行できる技術力と、実行しなければならないという危機感があったからこそ、できたのかもしれないわね』

 

 令音の感嘆と琴里の憶測がこの講座にはよい要素となる。自らが受け持つクラスも、これくらい円滑に授業が進んでくれると嬉しいものだ。

 

「そして『歴史再現』はスタート。それらは順調に進んで、日本の南北朝時代まで至ったんだけど……そこで問題が起きたんだ」

 

 問題?という生徒たちの疑問の顔を見て、うなづきを返す。うなづくということは正解を意味する動作だ。動作は授業に置いて、生徒とのコミュニケーションをしやすくする作用があると、キーナは思っていた。だから、生徒に対する動作をキーナは抜かさない。

 

「そう。元々重奏神州は異空間の制御機器『神器』とその管理者『帝』、ようは天皇によって支えられていたんだけど、『神器』争奪戦の際に制御が不可能となって、重奏神州は崩壊してしまうんだ」

『…………待ってください。歴史上何が起こるかは100年前には分かるような仕組みになっていたのですよね?それなら、その事態が来てしまうことは事前に察知できていたはずですが』

 

 その説明に異議を申し立てたのは神裂だ。聖人となれば、洞察力も鋭いのかどうかは分からないが、ともかく的を得ている反論に、周りの面子も同調した。

 

 だがこの異議も、もちろん先生には予想済みだ。

 

「そこを説明するには、“解釈”についても説明しないとね」

『解釈……ですか?』

 

 そう、と神無月に顔を向け答える。その顔をを皆の前へ戻し

 

「例えば……ステイル君、『アルマダの海戦』は知ってるよね」

 

 皆に向けた目線と顔を、今度は画面越しのステイルへと向けた。

 

『……1588年に英仏海峡で行われた諸海戦の総称だな。イングランド本土への侵攻をしようとしたスペインの無敵艦隊──これは確かイングランド側の揶揄的な表現らしいな──が、逆に英国海軍に返り討ちに会い、その後の撤退戦までの流れを含んだ海戦のことだと覚えている。スペインの大敗が目立つが、実際は戦死者よりも、戦病死による被害が甚大だったらしい』

「うん。それで満点だね。それじゃあステイル君」

「……貴方に君付けはあまりされたくないのだが」

 

 そうはいかない。年齢が近いならともかく、10歳以上離れている上に今は生徒なのである。上下関係はしっかり示しておくのも、授業には必要だ。

 

「もし、君がスペインの為政者で、『歴史再現』によるアルマダの海戦でスペインが負けてしまう、それにより以後のスペインが衰退の道を辿ってしまうと知ったとしよう。そしたらどうする?」

 

 

 

 ⚫︎

 

 

 

「どうするか、か……」

 

 〈フラクシナス〉の司令室にて、説明を受けていたステイルは、顎に手を当て、思案に入る。

 

 考えてみれば、国の衰退が掛かっている場面にさしかかっている状況で、何もせずにただ歴史を繰り返すというのは何かおかしい。本来歴史を学ぶということは、過去を振り返り失敗や過ちを再確認し、それを繰り返さないための教訓とするためだ。知的好奇心によるものもあるだろうが、やはりこちらの目的のほうが大きいだろう。

 

 だから、何もせず、ただ歴史を繰り返すだけのものはおかしい。そう思ったのだ。

 

 自分が知るアルマダの海戦に関する記憶を総動員して、その答えか、または答えに一番近いと思えるものを導き出そうとする。

 

 その時、ふとあるワードが引っかかった。

 

 「解釈」。

 

 この質問は、この説明をするためにあるはずのものである。ならば、答えは、それに近い糸口はこれにあるのではないだろうか。

 

 そして、ステイルは一つの答えにたどり着く。

 

 ……そういうことか。

 

「一ついいか」

『ん?何でしょうか』

 

 顔を上げ、画面越しの顔を少し睨む。ふてぶてしい人物だと思っている相手だが、今の自分は彼女にとって生徒らしい。なら、授業中の質問は許されて当たり前だろう。

 

「……もしかして『歴史再現』は重要な出来事だけを抑えれば、あとは比較的何をやっても許されるんじゃないのか?」

 

『……うん。そうだよ』

 

 やはりか、と口には出さずに納得し、すぐさまステイルは、そのことから自らが導き出した答えをぶつけた。

 

「……それなら」

 

 一息

 

「──僕なら、無敵艦隊を出撃させないね」

 

 

 

 ⚫︎

 

 

 

 部屋内の反応は大きく2つに分かれた。

 

 1つはステイルの答えに首を傾げた者。もう1つはステイルの質問の意図に気づき、彼が言いたいこと、そして「解釈」とはどういうことかを理解した者。

 

 キリトは断然、前者であった。

 

「──おいちょっと待てよ。無敵艦隊を出撃させないって、それじゃあ『アルマダの海戦』にはならなくないか?」

『いや、そういうことじゃない』

 

 しかしステイルは、こちらの指摘に対して「そうじゃない」と言ってきた。ならばどういうことか。

 

『無敵艦隊はちゃんと製造する。それにアルマダの海戦にも参加させる。……ただし、本物の無敵艦隊は『アルマダの海戦』には出撃させない』

「本物?」

 

 無敵艦隊に偽物も本物もあるのだろうか。そもそも、偽物の無敵艦隊とは一体何か。

 

 その答えは、すぐに帰ってきた。

 

『例えば……スペイン中から漁船を集めて改造。最低限の戦艦としての要素を加えて、これを無敵艦隊として出撃させる。これならこの艦隊は撃沈されても、本物の無敵艦隊は残ることになる。乗組員の数も調整すれば、スペインの戦力は殆ど削られない。逆に、イギリスはただの漁船を相手に、貴重な兵力を消費することになる。

 後は無傷で残った本物の無敵艦隊で他国を牽制しつつ、衰退に対する対抗策を立ててしまえばいい。時間があるのとないのとでは、また違ってくるからな。

 そしてそれを実行するためには、「解釈」がいる……違うか?』

 

 

 

 ⚫︎

 

 

 

「正解正解大正解!実際に三征西班牙(トレスエスパニア)も同じ手を、アルマダの海戦で使ったからねー」

『とれ…………なんですかそれ?初春、分かる?』

『私にも分かりませんよそんなこと』

 

 三征西班牙。聞き慣れないその単語に真っ先に反応を示したのは佐天と初春だ。しまった、とキーナは反省する。つい彼らが自分と同じ知識を持っていると思って話してしまった。今のは自分の失態だ。

 

「あ、ごめんごめん。後に詳しく説明するとして、あの世界でのスペインのことだと思ってくれればいいよ。

 ともかく、あの世界での『歴史再現』には、必ず『解釈』が伴うんだ」

「そういうことですかー。確かに、負けちゃうしかない戦いなんてしたくないですもんねー」

 

 そういうことよん、と美九の理解があっていることを示す。これも、授業には必要なことだ。

 

 最初から負けるしかない戦い、失敗することが分かっているやり方を強要など、そんなのは心身ともに疲れるに決まっている。いずれ「歴史再現」を拒否する国や、民族が出てくる危険性も拭えない。

 

 だから

 

「だからあの世界では『解釈』が存在するんだ。どんな敗北が待っていようと、やり方を思案し、自らから行動を起こしさえすれば結果的な『勝ち』を手に入れることもできるようにね。まぁ実際、彼らが持っていた技術力を歴史上にも問題なく取り込むためにも、『解釈』が必要だったんだけどね」

『技術も石器時代からやり直すわけにもいかないだろうしな……。ならば、南北朝時代にそのような事態が起きたのは、「解釈」がうまく働かなかったのが原因か』

「私たちはそう考えているわ。

 結果的に崩壊した重奏神州は半分以上が消滅。残った半分は本当の神州に融合するという事態になった。そして、再び住む場所を無くした世界各国が日本に乗り込んできたわけ。これは『聖譜』にはない出来事だから、歴史にはない出来事となっているらしいわ」

「閉口。また戦争ですか……しかしそれをどう『解釈』したのですか?」

「その際は政府と軍を学校──教導院という形に変えて、学校を置いただけって言い張ったみたいだね」

「……ってことは“学生が政治家や軍人になった”ってことか?」

「うーん、少し違うね。正確には“政治家や軍人が学生になった”んだ」

 

 上条が言ったことのニュアンスの違いを訂正し、続ける。

 

「これにより教導院の学生である年齢に上限は無くなったんだよ。つまりは、政治家や軍人になりたければ、学生でなくちゃダメな世になったってことさ」

『……ってことはその世界では、俺や天草式の皆でも学生にならなきゃまともに闘うこともできないってことになるのよな?』

「そういうこと。そして主要な国は今回の事態を重く見て、『聖譜連盟』通称『聖連(せいれん)』を結成して、どこかの国が勝手なことをやると他の全ての国が敵に回るようにしたんだ」

『……日本はどうなったのですか?このような事態を招いた日本を、世界各国がタダで済ますということは無かったのでしょう?』

 

 日本人だからだろうか。それとも、彼女なりに思うところがあるのだろうか。どちらかはキーナには分からないが、それをいち早く指摘してきたのは神裂だった。

 

 キーナは生徒の質問には真実を答える主義だ。だから言った。

 

「──うん。ほどなく降伏した日本は、重奏神州崩壊の責任を取らされて『極東』という名称に改名されたんだ。さらに、『学生でいられる年齢に制限』により、政治家も軍人も18歳以下しかできない、各国での必修である『戦科授業』、つまりは戦闘の授業を持てない、国の代表者──彼らの世界では学生の頂点である『生徒会長』が国家首相、『総長』が軍の総司令を担っているからそれ──は国1番の無能者を選ぶこと、国の政治は聖連から派遣された監督役から口出しされる、極東固有の領土は、あそこにある『武蔵』1艦だけ、『武蔵』事前に提出された航空予定の通りに進まなければ各国に撃沈許可が下りる、といった制限がつけられてしまったの」

『は、はぁ?何よそれ。制限多すぎでしょ!』

『典型的な大国に敗北した国の処遇方法ね。主権も何も取り上げられる。これじゃ、対面上は違うだけで、極東は各国の植民地にされたも同然じゃない』

 

 声を荒げた御坂を含め、皆が複雑な顔つきをしていた。

 

 特に世界が違うとはいえ、同じ日本人である学園都市の住人や学園都市見学組の顔は、苦痛に歪んでいるといっても差し支えないような顔をしているものも多い。同じ日本に住む人々のことなのだ。他人事とは思えないのであろう。

 

 キーナとて、名前や出で立ちはともかく、れっきとした日本人である。この話を始めて知ったときは憤りを少なからず抱いたし、一緒に聞いた奴は頭にきていた。

 

 ここにいる者たちが、他人の痛みを感じることができる者たちで、本当に良かったと思う。

 

 ここにいる者たちが、他人の苦しみを想像してくれらことができる者たちで、本当に良かったと思う。

 

 そう思いながら、椿きーなは講座の総括に入る。

 

「……さて、これで彼らが住む世界についてはある程度は知って貰えたと思う。少なくとも彼らが誰で、彼が何者か。どんな歴史を歩んできたか。それを知って貰えたなら、私としてもありがたい。

 ──んじゃ」

 

 教師としての役割を一旦終えた彼女は、部屋に備え付けられた画面に表示された、空に浮かぶある一隻の船を見た。

 

 彼らと通じ合えるための知識は与えた。後は彼らの行動次第だ。知識はあくまで行動の後押しするだけのものだ。むしろ、行動中は余計な知識(ガラクタ)に成り下がるものも多い。

 

 ……そう。教師はただ教えるだけ。それからどうするかは彼らの自由なんだよね。結局のところ。

 

 だから1教師・椿キーナは、こう言った。

 

「後は君たち次第。君たちがこの事態を招いた黒幕を気に入らないなら……世界の理不尽ってやつから、学園都市も、『武蔵』も救っちゃえ」

 

 返事は無かった。

 

 だが、答えはあった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

3,

 

 

 

 

 

 

 

「──『武蔵』、完全にその船体を固定化。学園都市上空に出現させました」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

4,

 

 

 

 

 

 

 

 武蔵アリアダスト教導院生徒会長兼総長。

 

 武蔵の4分の1の権限を持つ武蔵副王。

 

 肩書きの多くは立派な“不可能男”葵・トーリは、密輸入の末死守したエロゲを持って街を逃亡中だった。

 

 全裸で。

 

 もちろんと言うか十八番と言うか、ともかく全裸で。

 

「……うーん。これからどうすっかな……」

 

 このエロゲの毒味は浅間辺りに任せるとして、これからこのエロゲと自分は何処に逃亡するか。天照系光学神奏術「ゴッドモザイク」を股に提げながら白昼堂々と全裸で歩く馬鹿はそんなことを思案していた。

 

 ふと、彼は空を見上げる。

 

 空には満点の星空と、輝く満月が光っていた。

 

「……え?」

 

 一瞬でおかしいことに気づく。当たり前だ。先ほどまで自分は()()堂々と全裸で街を歩いていたのではないか?それならば、今が夜な訳はない。

 

 否、それよりもおかしな点が一つある。それは

 

「……いつ『武蔵』って有明の外に出たんだっけ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

第二〇話「武蔵大講座」 完




2015年 6月 11日
はた魔とホライゾンと緋アリ買ってホクホク顔の常盤赤色
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