とある緋弾のソードアート・ライブ ──挟間の帳──   作:常盤 赤色

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第二一話「零の超常」

 

1,

 

 

 

 

 

 

 

 夜。空には満天の星空と煌々と光る満月が輝いている。

 

 空に広がる大パノラマは、その夜景だけで下衆なファッション誌に「媚薬を盛るより効果がある」などと揶揄されるだろう。

 

 が、それもこの都市に住まう人々にとっては、日常の1ピースでしかない。「恵まれている」。そんなことも毎日のように続けば、まるで不変のようにまで感じられるようになる。

 

 それが、いつか失われる、何より美しいあたりまえの日々とは理解しながらも。

 

 だから、人は一秒、一瞬を愛おしく思うことができるのだろう。

 

 ともかく、そんな穏やかな夜の中、一つだけ慌ただしく動く者がいる場所があった。

 

 そして、「後悔通り」と呼ばれる中央後艦・“奥多摩”の右舷中央通りを疾走する者達がいた。

 

 それは2人だ。

 

 1人は、帽子と布で顔の表情を隠した忍者。

 

 1人は、金髪巨乳の少女。

 

 2人とも招集を受け、最早行き慣れたというのが的確なある場所へと向かっているところだった。艦尾側にある、自分たちが通う教導院に。

 

 そこには大勢が集まっていた。が、そこについた2人はすぐさま違和感を感じた。

 

 少ないのだ。本来集まるべき人数よりかも、明らかに。

 

「──これで呼びかけに答えた全員が揃ったな」

 

 その中で最初に口を開いたのは、武蔵の副会長でもある貧乳政治家、正純だ。彼女がもたらした情報は、大きな意味を持っていた。

 

 これで、全員。すなわち

 

「──現在、実況通神でも応答が不可能な行方不明な面子が、実に13人か……!」

 

 

 ⚫︎

 

 

 点呼と、実況通神等の情報から照らし合わせ、いない面子を割り出していく。

 

「アデーレ、イトケン、御広敷、キヨナリ、トゥーサン、ネンジ、ノリキ、ハッサン、ペルソナ君、二代、立花夫妻、成美か……」

 

 3年梅組のメンバーと、里見・大久保・加納に声をかけて、この状況である。念のため、浅間にも協力してもらって、武蔵住人の中にも失踪者がいないかの確認を取っている最中である。

 

 ともかく、集まったのは自宅にいるはずのミリアムを除いた、計19人。本来なら全員集合の報せを出したなら集まるはずの12人分、その場は広かった。

 

「……どういうことで御座ろうか…。立花夫妻とは自分、朝にメアリ殿と近所なので会っておるで御座るが……」

「女侍と西国夫婦は、朝方に訓練したわよ。バランス取りの。浅間のところでね」

「喜美の言う通り、私も3人には朝あっています。成美さんも、今日も浅間神社に巫女のバイトに来ていました。午後過ぎには帰りましたけど」

「従士殿とは朝、犬を連れて散歩しているところを目撃した。彼女とはそれっきりだったが……」

「ノリキなら機関部の近くで働いているのを見かけたさね。こっちも朝方だけど」

「同じ朝方なら、ウルキアガと一緒に仕事してたわよ。ねぇ、マルゴット」

「うん。配送の仕事中だったね。頭上を飛んでいるのを見たもん」

「……ようは、殆どが朝方もしくは正午過ぎまでは見かけられて、いつも通りの生活をしていたわけか…」

 

 トゥーサンについては、朝方通神越しでだが生存が確認できている。となると、とりあえず朝には皆ここ「武蔵」にいたことは確実である。

 

「…………闇討ちかな?」

 

 さすがにその可能性だけは否定したい。ここまでの短時間で複数人の闇討ちを果たせるような実力者が「武蔵」に乗り込んでいるなどということは。たださえ、ここのところは敵意を持った侵入者を防ぐため、「武蔵」の外からやってくる物に目を光らせていたのだ。

 

 …………「公主隠し」、か?

 

 その可能性も思い浮かべ、しかし瞬時に否定する。浅間の努力もあって「武蔵」上の怪異は少ないままに止められている。何より、「公主隠し」の秘密も完全に明かされていないこの状況で、連発して起こることはないことを願うばかりだ。

 

 今浮かんだ最悪の結果について今ここで考えるのは、とりあえず止めておくことにする。

 

 ならば、何故消えたのか。しかもこの面子が。それも気になる重大事である。が、正純にはその他にも数点、見逃せない点がいくつかあった。

 

「…………実は皆を呼んだのは、あることを確認するためなんだ。その為に呼びかけをしたら、応じなかった面子が多いことに気づいたんだ」

「“あること”……?なんや?先輩」

 

 大勢が首を傾げる。

 

「うん。女装……あ、今は全裸か……まぁどっちにせよ馬鹿には違いないな。うん。……ともかく馬鹿やホライゾンからも指摘があったことなんだが」

 

 一息。

 

「……今はいつだ?」

 

 

 ⚫︎

 

 

「変なことを言っているかもしれないが、真面目な話だ。“今はいつだ?”。もっと言えば、“この前何があった?”」

「今がいつ……で御座るか?」

「そうだ。もっと突っ込めば、3日前に何があった?」

 

 実況通神でこの非常事態を知り、後からこの場に到着した点蔵を含む面子が、顔を見合わせた。こんな質問、何を聞きたいのかよく分からないのが当たり前だろう。だが正純の真面目な顔つきに感化され、各々が答えようとする。

 

「3日前ですか……その日は」

「うむ。確か、大久保殿が起こした臨時生徒会と『武蔵改』のお披露目で御座ったな。ノヴゴロドにあったという天津乞神霊教導院に潜入したり色々あっ──」

「「「「……え?」」」」

 

 と、周りの多くが素っ頓狂な声を出したことにより、点蔵は少し慌ててしまう。何か、変なことでも言っただろうか。メアリは納得したような顔をしているが。

 

「ど、どうしたで御座るか?確かに、今は何故『有明』の中ではないのかと、不思議に思っていたところ」

「点蔵?何言ってんの?」

 

 今度は点蔵、そしてメアリが「へ?」と惚けた声を出す番だった。メアリなんかは不思議そうに首を傾げている。金髪巨乳も相まってものすごく可愛い。さすがはメアリ殿で御座る。

 

「…………」

「え、何故ジト目?ナルゼ殿自分に対して何故ジト目?」

「惚気た気がしたから」

 

 この女は何故こういう時はものすごく察しがいいのだろうか。まるでハイエナかハゲタカのようではないか。

 

「サイテー」

「あ、あれぇ!?自分何も言ってないで御座るよ!?」

「いやー何と無くね……ともかく、点蔵もメアリも」

 

 点蔵を罵倒した時も崩さなかったその朗らかな笑顔を崩さぬまま、マルゴットは率直に言い放った。

 

「2人が言っていたことだけど、それ、3日どころか数週間くらい前のことだよ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「…………え?」」

 

 

 

 

 

 

 

2,

 

 

 

 

 

 

 

 学園都市内に増長し、暴走を始めた〈プライベーティア〉。彼らの突然の出現とテロ行為、それを鎮圧する為に動いた警備員や風紀委員が別学区との通信による連携が取れないという状況も、装備品のスペックの違いや地の利などが働き、鎮圧がなされ始めていた。

 

 住人は建物の中や地下シェルターに避難しており、新たに現れた超弩級の航空艦によるパニックは起こることはなかった。こればかりは皮肉にも〈プライベーティア〉の暴走により避けられるという結果になったのだった。

 

 だが、だからと言って自体が変わるわけではない。

 

「……ったく。訳のわからない化け物やらテロリストやらが暴れ出したと思ったら、今度は謎の航空艦か……」

「まるでこの前見た奴に出てきた『伏線も脈絡もなく突如現れた航空戦艦』みたいな光景ですねえ」

 

 ビルの屋上で「武蔵」を見上げているのは麦野と絹旗だ。繁華街に跋扈していた魑魅魍魎や不届き者のテロリストをとりあえず掃討しておいておいた2人は、一時休憩を取るためここまで登っていたのだ。

 

 と、絹旗の放った不穏な言葉に、小さな反応を示す麦野。絹旗が好きなのは俗に言うB級以下(麦野からすればD級)の映画である。絹旗はマニア並みに好きなのだが、だいたいがろくなエンドを迎えないことは一度くらいならと見て時間を無駄にしたと後悔した麦野には分かっていた。

 

「…………一応聞いておくけど、最終的にどうなったんだ?それ」

「伏線も脈絡もなく墜落しました」

 

 予想通り。聞くんじゃなかった。

 

 ところが、その可能性も無きにしも非ずなのが現状だ。あんな超弩級の航空艦なんて少なくとも麦野は学園都市で開発されたなんて話は聞いてないし、もし作っていたとしてもこのように人の目に見せびらかそうなんてことはしないはずだ。

 

 学園都市の技術なら可能と分かっていることと、パニックが起きるということは別物なのだ。不安はほんの一欠片でも存在しそれが伝染すれば、止めようのない巨大な恐怖に増大し、変化する。

 

「どうするかね……」

 

 他人がどうなろうが知ったことがないことだがあれが落ちることによって自分、もしくは自分を構成している「もの」が壊されるのなら話は別だ。

 

 この際、麦野の脳内を巡っているのは「どうやって爆弾を安全に処理するか」もだが、同時に「どうやって爆弾を安全圏から遠ざける」という思考だった。似てるようなこの二つの考えは、一方は騒ぎ自体のの鎮圧を目的としており、一方は自分たちに火の粉がかからないなら他人がどうなろうと知ったことではないという考えが含まれていた。

 

「とりあえず、こんな事態を故意に起こした奴はブチ殺すことは確定として……“あれ”がなんだかわからない限りにはなぁ」

「とりあえず浜面や滝壺達と合流しません?なんか連絡があって呼び出されたんですし、案外今回のことと関係があるかもしれませんよ」

 

 連絡ってどうやってとるつもり?、と麦野は手元の携帯を見せながら逆に問う。混乱が始まった当初から連絡しようと何度も電話をかけたのだが、まず電波が通じなくことごとく失敗していた。麦野の見解では妨害電波の類が振りまかれているのではないかというものだ。もし電波が混み合っているならちゃんと「ただいま電波が混み合っているため(以下略」というアナウンスが感情のない単調な女性の声でされるはずだが、それすらなかった。

 

 どうあれ、この状況下では彼ら2人を捜すのはかなり骨が折れることとなるだろう。できればそんな面倒なことはしたくない。あちら側からこちらに出向いてくれればいいのだが──。

 

「…………ん」

「?麦野、どうしたんですか?」

「……今、なんか浜面の声が聞こえたような」

「超空耳じゃないですか?それ。私は何も聞こえなかったですよ」

「…………いや。確かに今のはあの馬鹿面の声だったぞ」

 

 そう言い辺りを見渡すものの、浜面どころか人の影すら見えない。もしや、下の道路にて絶叫でもしているのだろうか。

 

 と、更に声が聞こえてきた。

 

「──あれ?これって……」

「ほら。間違いないだろ。浜面の声だ。近くにいんのか……?」

 

 フェンスに近づき、下の様子を伺う麦野。しかし道路には、この騒ぎが原因なのかまるで人がいる気配はなかった。

 

 となると周辺のビルからだろうか。と麦野が周りに目線を向けようとすると

 

「………………麦野」

「あぁ?何だよ?」

「…………上です」

「は?」

 

 上空を口を開けて惚けた顔で見ている絹旗につられ、麦野の目線は自然と上空へと向いていた。

 

「……なんだ?」

 

 “それ”は巨大な体躯と翼を持つ、龍に似た形をした何かであった。見ただけでも分かる硬い外殻に覆われた“それ”は、ここからでは生き物かどうかすら分からない。まるでSF映画にでも出てきそうな物体だと、麦野はそう思った。

 

 唯一分かることと言えば──

 

「──あの背中にくっついてるの……浜面じゃないですか!?」

 

 その背中に、人間と思わしき形をした何かが必死にくっついていること。その面が、麦野と絹旗の親しい人物のものであること。

 

「ちょ……明らかに超激突コースですけど!?」

「……撃ち落とすか」

「退避に決まってるじゃないですか!何で私が浜面みたいにブレーキ役しなきゃならないってんですか!?」

 

 「原子崩し」で向かってくる物体を撃墜しようとする麦野に慌ててブレーキをかけながら、急いでビルの屋上中心から離れる絹旗。

 

 直後にビルを揺らすかのような振動が屋上を震源に伝わった。

 

 

 ⚫︎

 

 

 明らかに頭と思われる部位から突っ込んだ浜面と思わしき人物を乗せた謎の物体。辺りに散りくれが舞う中、とりあえず浜面の安否くらいは確認しようと、物体が突っ込んだ場所へと近づいた麦野と絹旗だったが、そこで見たのは顔見知りと明らかに人間とは思えないシルエットをした何かがお互いに言い合いしている姿だった。

 

「──なーにがどんな空でも己の空として自由に飛翔できる、だ!思いっきり墜落してんだろーが!」

「貴様が拙僧の背中で無闇に暴れるからであろう!このままでは危ないから一度着地しようとしたまでだ」

「どこが着地だ!もう少しであんたに押し潰されて圧死するところだったぞ!全身が硬い甲殻に覆われてるあんたと一緒にすんな!」

 

 ぼさぼさの茶髪にジャージとジーパンというどこにでもいそうな男と、架空の生物である「龍」のようなシルエットをした巨大な体躯と翼を持つ人外が言い合いを繰り広げる姿は、かなりシュールであった。

 

 が、そこは暗部に身を置き、常人なら発狂しかねない場所を生きていた2人。そのような光景では到底驚くこともなく、臆することもなく、ただその場に近づくだけであった。

 

「はーまーづーらー。何してんだよ」

「あれ?麦野?絹旗もいんじゃん」

「むぎの……となると、アレが貴様が探しているという女か?見た感じ、姉キャラではないようだが……」

 

 いきなり変なことを言い出した人外をさほど気にせず浜面に近寄る麦野。

 

「浜面、今までどこいたんですかー?」

「いやー色々あってな。ヤバイところをこいつに助けもらっただよ。あ、滝壺も無事だ。多分こっちに向かってると思う」

 

 「こいつ」と浜面が指差すのは人外だ。巨大な体躯を見上げる形になった麦野と絹旗は、ようやく真剣にこれの正体を考えてみることにした。

 

「……学園都市で開発されている新型の駆動鎧ですかね。大きさとかそんくらいですし」

「にしては今までとは趣が違うな。ドラム缶を頭につけたようなのとか、なんか細長いラグビーボールみたいなのとはだいぶ違う。ってか、中に誰入ってんの」

「…………思っくそ勘違いされてる気がするのだが。中の人とかいないぞ」

 

 お互いに意見を言い出す麦野と絹旗に、微妙な顔をしてみせる謎の駆動鎧。しかし、その顔には「感情」というものがちきんと浮かび上がっていた。学園都市の開発者達が、わざわざと駆動鎧に表情を浮かべる機能をつけるとは思えない。あれはあくまで戦闘用のものなのだ。

 

 ……だったら、なんだこりゃあ。

 

 本人から自己申告されたように、中の人がいないとなると、こいつはこのような生物ということになる。

 

「……学園都市の生物実験で生まれた新型生物兵器が、自我を持って研究所から抜け出したってことか。また学園都市もやっかいなもんを」

「いや、違うわ」

 

 腕なのか翼なのかよく分からない部位で否定のポーズを取る謎の生物。では、一体なんだと言うのか。こいつは。

 

「はまづらー、無事?…………あれ?むぎのにきぬはた」

「おー滝壺じゃないですか……ってか誰ですかァ?その胸がでかいおねーさンはァ」

 

 一瞬、絹旗の口調が変わったことに違和感を覚え、後ろに振り返る麦野。

 

 そこには滝壺がいた。いな、それはいい。問題は彼女の後ろにいる人物だ。両腕両脚が義体化している黒髪ロングの女性。その機械の両腕両脚が目を引くが、ここは学園都市。あの程度の義肢なら別に珍しくもなんともない。現在は生体型の義手義足なんてかいはつされているのだ。

 

 問題は別の部位だ。

 

 麦野は自分の胸にはかなりの自信を持っている。自画自賛するのはどうかと思うが、水準よりかは明らかに高いだろうし、中々このレベルの胸は彼女自身、自分以外には見たことは無かった。

 

 が

 

 ……同等……。いや、明らかにそれ以上……!?

 

 ただでかいだけではない。柔らかくも芯と張りがある胸であり、もし五段階評価をするのなら全てにおいてオール5をつけられてもおかしくないような一品だ。絹旗の声が裏返るのもわからなくはない。

 

「…………何よ。初対面の人を親の仇のような目線で」

「いや、別に」

 

 あれには麦野も完敗だ。っていうか、どういう生活してればあんな大きさになるのかが不思議すぎる。

 

「…………まぁ、いいわ。とりあえず、貴女達が合流したい相手って、この2人でいいのね?」

「うん。ありがとう」

 

 恭しく頭を下げる滝壺に向かって、何でもないと手を振る義肢の女性。見たところ他人以上友人未満な親しさ、まだあって時間も経ってない初対面のようだが、それなりに良好な関係らしい。滝壺にしては初対面の相手でこんなになれるとは珍しい。よほど、波長が合ったのだろうか。

 

 ……さて。

 

「で、結局こいつら誰なわけだ。説明よろしく」

 

 浜面と滝壺を何らかの危機から助けたことは何となくだが察した。が、この2人──片方は人と呼んでもいいのかわからないが──の正体は未だ明かされていない。

 

 浜面と滝壺を助けたことには例を言えよう。だが、それはそれだ。こいつらを信用するに足りる材料には、まだ少ない。

 

 相手側もそれは分かっていたのだろう。自分から名乗りを上げてきた。

 

「申し遅れたな。拙僧、武蔵の第二特務でキヨナリ・ウルキアガと言う」

「伊達・成実よ」

「武蔵……?武蔵って東京ってことですよね?」

「正確には東京都、埼玉県、神奈川県の一部のことね。学園都市も一応武蔵に入ってることになるけど……第二特務?」

 

 古めかしい話し方の人外の言葉に含まれた聞きなれないキーワードに反応する。職業のことだろうか。

 

 いや、とそこへ横槍を入れてきたのは浜面だ。

 

「あいつらの言ってる武蔵はそっちじゃない」

「……?他に武蔵なんてあるのか?」

 

 他の武蔵となると第二次世界大戦中に建造された戦艦のことや元キックボクサーの格闘家のことなどが思い浮かぶ。が、一方はすでに沈没している戦艦だし、一方は個人名だ。明らかに後の「第二特務」という言葉が繋がることはないだろう。「第二特務」が何のことかは分からないが。

 

 対して浜面は、指を天上に向け

 

「あれだよ」

「「あれ?」」

 

 その指が指しているのは、学園都市の上空に悠々と居座る巨大な船。突如現れた、正体不明の船を見上げた麦野だったが、その意味にはすぐに気づいた。

 

 それは

 

「拙僧たちは武蔵──準バハムート級航空都市艦「武蔵」の住人だ」

 

 

 

 

 

 

 

3,

 

 

 

 

 

 

 

「──さて、何から始めるべきかのう」

 

 闇。その空間を表現するにはその一言に尽きるだろう。ただ闇が広がるばかりだ。その奥行きも、広さも、光という光が無いのでは計ることができない。

 

 が、光が無いにも限らずそこにいる彼らはお互いの姿やそこに置かれたものを認識することができていた。

 

 どこぞのカラフルな宇宙人が愛用し、どこぞの頑固親父が実は作中で一回しかひっくり返していない昔ながらのちゃぶ台を囲っているのは、その外見さえ異形な化け物四人だった。

 

 生きているかも分からないような木乃伊の姿の僧正。街に出れば間違いなく痴女と間違われるだろうネフテュス。すでに青白いというレベルを通り越した肌の娘々。ゴシックロリィタに眼帯という明らかに普通では無い格好の狂三。

 

 世界を簡単歪める「魔神」と時間を操る力を持つ「最悪の精霊」。

 

 明らかに人知を超え、多くの命を何の感慨も無しに奪うような極大の化け物がちゃぶ台を挟み、それぞれ好き勝手にお茶を飲むという光景。彼らをよく知るものが見れば、目を疑うを軽く通り越すほどの驚きを得ることは容易に浮かぶ。

 

 そんなくだらないことを考えながらも、時崎狂三は目の前の三人に最低限の警戒を怠ることはなかった。何せ目の前にいるのは弱体化したとはいえ自分よりも遥かに勝る人知を超えた力を持つ者たちだ。機嫌を損なうば、いつこちらにその力を向けてくるやもわからない。

 

 もちろん狂三とて、何の対抗策もなくこんなところに赴いたりはしない。最悪の状況になった場合に打てる手はある。が、何も不穏なことが起こらないに限ることはないだろう。

 

 今回ばかりは温和に場を終わらせることを願う狂三であった。

 

「やっぱ『ソラリス』について説明する方が手っ取り早くない?この子、あいつについてそこまで知ってる素振りじゃないし」

 

 顎に手をあて思案する僧正に、手を振りながら助言を入れる娘々。ネフテュスも微笑を浮かべながら「それがいいんじゃないかしら」と言ったところで、僧正はその顔を狂三へと向けてきたのだった。

 

「──あやつについて、お主はどのくらい知っているのかのう?」

「ほぼ、まったくと言ってもいいほど何も知らないですわ。知ってることと言えば彼が異世界からの来訪者であること。何らかの目的の動いており、それに邪魔な幻想殺しを排除しようとしている──そんなところですかね」

「精霊ごときにしては良く知っているもんだねー」

 

 煽りには、乗らない。このくらいで怒るほど幼稚でもなければ、阿呆でもないのだ。また、言い返しすぎるのは逆効果となることも分かっている。

 

「ま、それくらい知っていたら十分かもしれんがのう……。まず、結論から言ってやろう。

 奴とファントムの間には繋がりはない。これについては真実だと言っておこう。信じるかはどうかはお主次第だがな」

 

 僧正が告げた言葉に、狂三は何の反応も示さなかった。

 

 ……これは、予想通り。

 

 嘘、という可能性もあるが、僧正には嘘をつくメリットがあるとは思えない。相手は駆け引きなぞ必要としなく、無限の時間を生きることができる魔神だ。もしかしたら嘘をついて楽しんでいるということもありえるのかもしれないが、それについては狂三は深く考えないことにした。

 

 このことについてはあくまで「可能性があるかもしれない」というレベルのことだったのだ。否、狂三自身は無いとほぼ確信に近いものがあった。

 

 それでも、確認しなければならなかったのだ。その可能性が極小さなものだったとしても。

 

「──さほど反応がないことを見ると、この答えは事前に察していたらしいのう。

 となれば、お主の本題はソラリスの方か」

 

 そして、僧正も狂三の反応から本題を導き出したようだ。

 

 ファントムのことも狂三にとって十分に重要なことである。最重要事項の一つと言っても違いないだろう。しかし、今はソラリスについてのことが、それを上回る。

 

 何せ、ソラリスは自分のような精霊や彼らのような魔神を排除しようとしているのだから。

 

 狂三が魔神たちがソラリスについて正直に答えるという確信を持っていることもここにある。

 

 いくら彼らとはいえ、己を排除しようとするものに対しては動かざるを得ない。しかもそれが、自分らを上回る力を持つならば尚更だ。

 

「すでに察しているようだが、奴は私等の世界の者でも、お主の世界の者でも、ましてや他の3つの世界の者でもない。それ以外の世界の生まれだ。

 別世界──星をはるかに凌駕する数の世界。奴はそのうちの一つの住人だったと考えられる」

「……ソラリスの目的は?」

 

 そんなことを聞きに来たのではない。という言葉を飲み込んで、狂三は本題を催促した。おそらく相手もそれを分かって焦らしているのであろう。どこまでも性格が悪いものだ。

 

「奴の目的か……。それなら簡単なことじゃのう。

 あらゆる戦い、悲劇の種たる異能を消し、その上で幸せな世界を作る。奴の目的は、そんな戯言じゃ」

「異能を………消す?」

 

 僧正の口から齎された答え。その答えは、狂三にはまるで予想できない言葉であった。

 

 異能の消去。それが示す答えはすなわち──

 

「……私たち精霊やあなた方のような魔神を、ソラリスはこの世界から排除するということですか」

「そうね。そのために奴は弱体化したこちらの力を押さえつけてきた。他の魔神がどうなってるのかは分からないけど……」

「ま、どういう形であれ私たちと同じように手出しが出来ないようにされているのは確かだろうね。あいつ、単純な力だけだったら私たち一人一人を上回るもの」

 

 ……これは相当やっかいですわね。

 

 魔神を上回る力を持ち、世界を根本から変える力を持ち、それを「幸せ」という聞くからに独りよがりな目的なために使うソラリス。その脅威度は目の前のこいつらを遥かに越すだろう。なにせ、奴は現に一度世界を作り変えかけたのだ。それを、自分らは気づきもせず。

 

「異能を消すなんて……そんなことができるのでしょうか」

「奴の考えでは『平均化』をより多く繰り返せば、いずれは……というらしいのう。

 なにせこの世界はあまりに多い。多様性は同時に可能性となる。奴が目指しているのは、その可能性を100%とすることじゃのう」

 

 いつ、どこからか持ってきたのかは知らないがいつの間にかちゃぶ台の上に置かれていた緑茶をすする僧正。その顔はどこか楽しんでいるようにも、狂三には見えた。

 

「が、その方法はもう無理じゃのう。なにせ幻想殺しがいる限り、その世界は奴の魔術が通用せん」

「開始早々、いきなりあいつの計画は頓挫しちゃったってわけよねー」

 

 ……ソラリスが幻想殺しを狙うのはそういうわけか。

 

 別に異世界の住人がどうなるかは個人的には知ったことではない。だが、その渦中にあの少年がいるなら別だ。ぽっと出の、何者かも分からない奴に自分の目的が阻害されるなら、話は別だ。

 

 ……私も、そろそろ参加したほうがいいかもしれませんわね。

 

 すでに学園都市で起きていることは自分の影を通して知っている。どのような状況に陥っているのかも。

 

 ならば、そろそろ介入の時だろう。

 

「──質問に答えていただいて感謝します。私は今からやらなければならないことがありますので、これで。

 答えの見返り……というのも何ですが、ソラリスはどうにかしてきますわ。そうすれば、あなたたちもここから出られるでしょう?」

 

 座布団から立ち上がり、その場を去ろうとする狂三。ここに来た目的は既に果たされた。状況も状況であるし、長居は無用というやつである。

 

 ──しかしその背後に僧正が投げかけた言葉が、狂三の動きを止めた。

 

 

「なんじゃ?ソラリスの切り札が『平均化』のみとでも思っておるのか?」

 

「……なんですって?」

「『平均化』はあくまで奴の一手にすぎない。むしろ、本命は他にある」

 

 茶を啜りながら、どうでもないかのようにそんなことを言い出す僧正。

 

「──異能とはどうものかと思う?」

「……?」

「儂は限られた者にしか与えられないものだと思っておった。ところが奴が言ったことは違ったよ。

『異能は誰であろうと、どんな生き物であろうと身につけられることができる。例え無能力者と呼ばれ、何の能力も持たなくても、それはその世界にその人物にあった異能がなかったからだ』とな」

「………」

「奴はな、こう言ったのじゃよ。完全な無能力者などはいない。誰しもが異能を発現させることができる。奴にとってこれだけ邪魔な事実は無かろう。

 その最たるものが儂たちらしいな。奴め、散々に言っておったぞ」

「異能が生み出した害虫とか無限の時間をただ生き存在するだけで世界を汚す汚物とか……流石にいいすぎと思うんだけどねぇ」

 

 異能を消そうとしている人物が、異能を誰もが使えるということを認めている。

 

 理解できない。何故、そこまでの事をこの魔神たちに伝えているのだろうか。

 

 ……閉じ込めたことで口が緩んだ?ここまでのことを平気でする方が、そのような軽み弾みなことをするものでしょうか?

 

「そして奴はな。嬉々としてこれに続けてあることを言っておったよ」

「……なにを」

「……それでも世界を俺を見捨てなかった。ついに見つけたんだ。『幻想殺し』のような言葉だけではない。学園都市の無能力者という建前だけではない。

 異能を身に付けられず、得られず、持てず、なれず、使えず──そんな完全な無能力者を」

 

 

「『零の超常(ゼロアベレージ)』だったかのう。奴が喋っていたそれは」

 

 

 

 

 

 

 

第二一話「零の超常」終

 




お久しぶりです。今週から更新を再開していこうと思います。

2015.7.18
ゼロの使い魔続刊決定、シンフォギアGX・のんのんびよりリピート・WORKING!!!アニメ開始、夏期アニメの豊富さなど様々な良いことが起きて生きる希望に満ち溢れている常盤赤色。
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