とある緋弾のソードアート・ライブ ──挟間の帳──   作:常盤 赤色

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大分更新が遅れてしまい、申し訳ありません。ここからはしばらく病院サイドの物語が進みます。ので、各作品主人公達の出番はお預けとなります。


第二四話「脱落者:GD」

 

1,

 

 

 

 

 

 

 

 同時刻。

 

 学園都市にいるあらゆる者達が集中しつつある最大の戦場に、学園都市に残った最後の二組の戦力が辿り着く。

 

 武蔵上に発射された乗るべき者を欠いた四機のミサイルは、混乱極まる武蔵へと到着した。

 

 同時に、武蔵の主要人物達が、突然登場した不法侵入者達の元へと殺到する。

 

 最終面は揃った。

 

 物語は遂にクライマックスへと動き出す。

 

 

 

 

 

 

 

2,

 

 

 

 

 

 

 

 学園都市の第七学区南東、第一八学区との境界線近くに位置する場所にとある病院がある。

 

 毎回大怪我を負った上条がお世話になっている病院である。その頻度と言えば入退院の回数と病院を退院してから戻ってくるまでの期間の短さならば、ギネスに載っても良いのでは無いかというレベルである。ちなみに同病院の一部の医師・看護師の間では、彼が次にどのくらいの期間で戻ってくるかという掛けが行われているという噂すら存在する。

 

 何故彼がそんなにこの病院に戻ってくるかというとこの病院には彼の主治医とも呼べる存在がいるからだ。

 

 通称カエル顔の医者。

 

 「冥土帰し(ヘヴンキャンセラー)」という異名を持ち、どんな病気、負傷でも最後まで患者を見捨てることがなく、学園都市の科学力だけではないあらゆる手段を用いて治療してしまう、凄腕の医師だ。現に今まで行った手術の内、上条当麻の記憶破壊を除く全てを成功させている。

 

 そんな彼がいる病院だからか、集まる患者の種類は多い。

 

 例えば、御坂美琴のクローンとして短い寿命しか持てていない「妹達」とか。

 

 『原典』の影響により体の三分の二を失い、以後はエツァリの手によりこの病院に入院させられたショチトルと同じくエツァリの手により『原典』から解放され入院したトチトリとか。

 

 あるいは食蜂操祈と警策看取という二人の友人と再会を果たし、妹達を任されている医者がいるこの病院へと健康を確認するべくたまに警策や食蜂と共に通っているドリーとか。

 

 そして、「冥土帰し」により保釈され、以後は彼の手伝いと共に教え子達の回復を見守る木山春生だとか。

 

 その病院には、本当に様々な人物が訪れていた。

 

 そしてこの日も、多くの者がこの病院へと訪れている。

 

 避難してきた者も、招かれざる客も含めて、だが。

 

 

 ⚫︎

 

 

 黄泉川愛穂は「警備員」である。子供達を守る者として、日々能力犯罪は違法実験などに立ち向かっている。

 

 だが勿論、そんな彼女にだって休息は存在する。何せ連日連夜のように事件は起こっているわけではないのである。その合間に休まなければ、犯罪を取り締まる前にこちらが倒れて動けなくなる。

 

 ──そう、いくら学園都市とはいえ、連日連夜事件が起こり続けているわけではないのだ。

 

「……けどこの数ヶ月間、明らかに今まで経験した中で一番忙しいじゃんよ」

 

 今日なんか非番なのに、たまたまの居候の芳川桔梗が用事で病院に来ていたところで、この騒動に巻き込まれた。

 

 おかげで現在、最前線で「警備員」、「風紀委員」の者達と共に謎の武装集団と戦闘することになってしまったのだ。非番なのにも関わらず。

 

 もちろん、学生達(子供達)を守るのに昼夜も非番もクソもない。もし目の前で事件が起こっていればそれから無事に子供達を救い出すのが自分の使命だと分かっている。が、それ故に学園都市にて懲りずに騒動を起こす大人達(馬鹿ども)にうんざりする時もあるのだ。単純に疲れる。

 

 今回なんか特にそうだ。

 

 奴さんは明らかに学園都市の科学技術によって産まれた何かだった。撃たれても血も出ない。傷も付かない。付いても腕がもげるようなものでない限りすぐに回復する。更にはこちらの威嚇射撃どころか、確実に無力化する為に撃った銃撃にすら平気で突っ込んでくる。そして、一定量攻撃を受けると倒れ、消えていく。残るのはよくわからない鉱石の様なものだけ。冗談のような話だが、本当だ。

 

 学園都市にて長らく「警備員」をして来た黄泉川だが、このような敵は見たことも無かった。

 

「……避難と応援の要請はどうなってるじゃん!?」

「病院の医師や患者達は地下シェルターに避難させています!……しかし動かすことのできない重症患者や、患者を見捨てるわけにはいかないと残っている医師も多く……」

「応援要請は先ほど出しました!学園都市中で同様の事件が多発してるらしく、まだ時間がかかるそうです…」

 

 病院という場所が良い意味でも悪い意味でも働いている。

 

 この大病院には「冥土帰し」という凄腕の医者がいる。その為彼が治療している重病・重傷患者が多く、動かすことのできない者が大勢いるのだ。更には彼を始めとして、「患者を放って逃げるわけにはいかない」という医師もおり、避難が中々進んでいない状態なのだ。医師としては立派な姿なのだろうが、はっきり言ってこちら側からすれば早く安全な場所に避難して貰いたいのが本音だ。

 

 この病院には地下に大規模なシェルター、停電が起きた場合に対応するための非常用発電機があるため、周辺にいた学生や大人達の多くが避難することができた。その中には黄泉川の同僚の月詠小萌や自分や彼女の教え子達もいる。

 

 この病院が狙われた理由は分からない。言えることはこの場所にはその際巻き込まれた人々が逃げ込める場所があるというメリットと、逃げられない人々がいるというデメリットが存在することだ。

 

 戦力差も絶望的だ。襲撃者の武器は剣といった学園都市では信じられない時代錯誤なものだが、まるでゾンビか何かのように向かってくるし、こちらの人員もまるで足りていない。

 

 このままでは

 

「応援が来る前に押し切られるじゃんよ……!」

 

 黄泉川の悲痛な言葉通り、状況は良くなるばかりか悪化の一途を辿っている。襲撃者の数は減らないのにこちらの数は減るばかりだ。撃たれても撃たれても立ち上がるそのゾンビじみた姿は、こちらの精神すらも削っていく。ジリ貧とはまさに今のような状態のことを指すのだろう。

 

 どうにか、この状況をひっくり返せる一手が欲しい。黄泉川がそう思った時だった。

 

 一台の装甲車が、剣を振り上げて襲ってきていた襲撃者を何人か跳ねながら正面玄関前にて停止した。

 

 

 ⚫︎

 

 

「武藤先輩!何人か跳ねましたけど本当に大丈夫なんですか!?」

 

 時速150㎞のスピードを出していた装甲輸送車に反応すらできず跳ねられ、まるでアニメのように宙を舞った人影を見ながら、佐々木志乃は叫んでいた。

 

 それに対し武藤は

 

「安心しろ!死なない程度に跳ねた!」

「死なない程度に跳ねるって文、絶対おかしいですよ!?」

 

 武藤の余計なキメ顔に今度はあかりが叫んだ。その絶叫にエツァリが笑い顔のまま苦笑した。

 

「ははは……原理はよく知りませんが、彼らについては「意識がはっきりとしてるゾンビなんかと同じと考えればいい」と言われましたね。ほら、現に跳ねられた彼も立ち上がってるでしょう」

 

 エツァリが指差した先、そこには先ほど跳ねられアスファルトの地面の上をバウンドしていたはずの少年が、まるで幽鬼のように心もとない足取りでこちらへと向かってきていた。

 

 その動きも光がない目も、明らかに普通の状態の人間ではなかった。

 

「何よアレ……まるで薬物でも摂取してるような感じね」

「確かに……。まるで前田・利家の百万獄門衆で呼び起こされた亡霊みたいだ」

「どうでもいいがお前ら早く降りろ。もうあのイグアナもどきがそこまで迫ってるぞ!」

 

 そうである。今相手にしなければならないのはここにいる“プライベーティア”の連中だけではない。自分達を追ってきたあの怪獣軍団もどうにかしなければならないのだ。

 

 まずは非戦闘員である平賀と中空知をどこかに避難させなければならない。エツァリからアリア達はこの病院の地下にシェルターがあることを聞いている。シェルター内は外と電波が通じるようなので、2人と共に機材を運び込みそこからバックアップしてもらう予定だ。半蔵の話では、現在区ごとの通信をシャットアウトしている妨害電波が次々と破壊されているようなので、もう少し待てば別の区でも難なく通信が可能になるらしい。

 

 そこで、装甲車から降りたアリア達の元へ、武装した集団が近づいてきていた。一瞬敵かとも思ったものの、その装備はアリア達も見覚えがある。警備員の物だ。

 

「応援……ではないよな。お前達何者じゃん?」

 

 その中の1人、髪を後ろで纏めているだけなのに、妙な色気を持たせる垂れ目の女性がこちらに警戒しつつ声をかけてきた。と、

 

「……あれ?…なんでこんなところにいるじゃんお前」

「ぶっ!?あ、あん時の警備員!?」

 

 どうやら半蔵と面識のある人物だったらしい。妙に半蔵の顔が赤くなっている気がしなくもないが、そこについては今は触れるべきではないだろう。話がややこしくなる。

 

「警備員の人達ね。お願いがあるんだけど、そこの二人をこの病院の地下シェルターまで避難させてくれない?」

 

 警備員の目の前まで歩いたアリアは、平賀と中空知を指差す。一瞬、惚けた顔をしていた警備員達だったがすぐさま

 

「……分かったじゃん。金橋。中山。連れて行ってやってくれ」

「あ、了解です」

「さ、お嬢ちゃん。こっちだ。着いておいで」

「分かりましたなのだ」

「よよよよよろしくお願いしますぅぅ」

 

 と、アリアの二倍はありそうな巨漢の男二人が平賀と中空知を地下シェルター案内しようとする。

 

「アリアさん」

「?何?エツァリ」

「私もこの病院に知り合いが入院しているのです。こちらの事情を大切なのは分かっていますが、彼女達の安否が気になるのが本音なので二人を送り届けつつ無事を確認して来てもいいでしょうか」

「……いいわよ。けど無事を確認したら、ちゃんとこちらにも加勢してもらうわ」

「勿論ですとも」

 

 相変わらずの胡散臭い笑顔でうなづき、エツァリも平賀や中空知と共に院内へと入っていった。そのことに更に反応した者がいる。この中で一人だけの女性の警備員だ。

 

「……ちょっと待つじゃん。お前達も一緒にシェルターまで避難を…」

「悪いがそれは無理だ。私たちはあいつらをどうにかする為にここに来たのだ。それに見栄を張ってはいるが、お前らではかなり厳しい状態だろう?」

 

 デュランダルを構えながらジャンヌは諭す。いきなり目の前にいる少女が武器を構え出したことに警備員達は怪訝な顔をするが、アリアが突き出してきた武偵手帳に、制服を着た少年少女達が何者なのかを察した。

 

「僕たちは武偵です。この事態を収拾しなければならない理由と、自分の身を守ることができる身体と技術を持っています。ですから、あなた方に心配される必要はありません」

 

 

 ⚫︎

 

 

 武偵。それが意味する職業については黄泉川達もよく知っている。凶悪犯罪に対抗する為に武装を許された逮捕権などの警察官に準ずる活動が可能な国家資格。一都市の志願制の警察的組織である自分たちとは違い、世界中にてその活動を行ういわば「何でも屋」だ。世間には武偵を育成する為の学校とやらもあるらしく、この少年少女達はそこの生徒なのだろう。

 

「あなた達もかなり消耗してるでしょう。悪いことは言わないわ。ここは私達に任せて」

 

 この子達はちゃんとした訓練を受け、数々の修羅場を乗り越えてきたのだろう。そういう目をしている。もしかしたら、自分達よりもよっぽど酷い状況にあっているのかもしれない。

 

「そんなの関係ないじゃん」

 

 が、それでも黄泉川愛穂はそう言い放った。

 

 この子達は強いのだろう。だが、それでも、

 

「武偵だろうがなんだろうが、お前たちは子供。私たち大人の役目は、子供を守ることだ。だから、ここは大人に任せるじゃん」

 

 子供に背負うべき無駄な責任を任せて、大人が闘わないわけにはいかない。

 

 それは黄泉川だけの気持ちではないはずだ。この場の警備員全員が思っていることだと、黄泉川はそう信じている。

 

 その言葉を聞いたアリアの顔が、一瞬惚けた。

 

「ど、どうしたじゃん?変な顔して?」

「あ……いや……そんなこと、言われたことなかったから、ちょっと驚いて」

 

 しどろもどろに受け答えするアリアを見て、何やら愛玩動物を愛でるような感覚を抱きつつ、黄泉川はその先を聞いた。

 

「武偵校も学校には違いないよな?先生とかはいるのか?」

「『武偵は自立せよ』、だよ警備員さん。うちの先生は、体罰上等な人ばっかりだからねー」

「武偵校では教師のストレス発散の矛先が生徒に発砲という形になるなんて話を聞いたこともあるけど、案外間違いでもなさそうじゃん……」

 

 武偵校の教師達に対して呆れのため息をつきながら、黄泉川は目の前の小さな少女を見据える。

 

「子供が何かを守るために自分の意思で闘うのは百歩譲って良しとしても、子供に大人が背負うべき責任を丸投げしたり子供がいわれのない重荷を背負っているのを見て見ぬふりすることは、少なくとも私には無理じゃん。君たちが私達に加勢してくれるのは助かる。が、それに甘えて私達が逃げるなんてことは、絶対にありえない」

 

 なあ。と少し威圧気味に後ろに振り向く黄泉川。その有無を言わさぬ顔に少しだけ怖気付くも、大人達は真っ直ぐな目でそれにうなづいた。

 

「まぁ警備員に入った動機はともあれ……警備員として子供を置いて安全な場所、なんてことはできないわな」

「あーくそ。せっかくの非番だったのに、たまたま巻き込まれるなんてホントついてないっすよ」

「それについては私も一緒。ごちゃごちや言うな。悲しくなるじゃん」

 

 悪態をつきながらも、誰もこの場から逃げようなんてしなかった。誰もが、ここに残り闘うことを選択していた。

 

「そういうこと。大人を、舐めるなじゃん」

 

 不敵な笑みで、自分たち「子供」にそう言い切った黄泉川。それを見て、アリアはこう確信した。

 

 ……ああ、この街は大丈夫だ。自分たちが変な正義感を持たなくても、この街に彼女たちが一人でもいるなら、大丈夫だ。

 

「──分かったわよ」

 

 太もものホルスターからいつもの白銀と漆黒の2丁のガバメントを取り出す。見れば他のメンバーも各々の獲物を握り、すでに戦闘態勢を取っていた。

 

 やることは簡単だ。あとは、それをやるだけである。

 

「足引っ張ったら承知しないからね!」

「はっ。言うじゃんよ」

 

 そして──

 

 一筋の閃光が、彼らの前をなぎ払った。

 

 轟音と共に何体かのイグアナもどきが吹き飛ばされる。

 

 眼を見張るアリアに対し、黄泉川はその閃光の主を知っている。そして、その主をすぐに視界に収めた。

 

 何回か騒動の中であったことがある、学園都市なら知らないものはいないであろう、少女。

 

「いい雰囲気の中悪いけど、私たちも混ぜてくれない?」

 

 

 

 

 

 

 

3,

 

 

 

 

 

 

 

 移動手段を無くし、戦うことができない非戦闘員を庇いながら美琴たちがイグアナもどき達から逃げてきたのは、どんな因果か美琴にも馴染みが深い病院だった。

 

 すぐさま病院玄関入り口に群がっていた何匹を道端から超電磁砲で吹き飛ばし、後方からの追っ手はバードウェイやマーク、レッサーが対象しながら、病院の周りにいるコンビニで美琴が対峙した集団に対しては黒子、カナ、パトラが無双しながら何とか佐天と初春を無事に病院まで送り届けきった一団はその場にいた二つの集団と病院を守るために共闘することになる。お互いに面識のある人物同士がいるためか、疑心暗鬼などは無かった。

 

「カナ……あんた」

「説明は後で納得するまでいくらでもするわ。けど、今はこちらに専念しなきゃならない」

 どうやら最初から全て知っていたような素振りのカナだったが、目の前の敵をどうにかすることを先にすることを提案されアリアは聞くにも聞けなくなる。確かに彼女が言っていることは正論だ。しかし……。

「……分かったわよ……。ことが済んだら嫌ってほど事情聴取させて貰うわよ」

「ええ。遠慮はいらないわ」

「お二人ともそこで何をしていますの!一旦下がりますわよ!」

 

 黒子の呼びかけで二人が周りを見渡せば、病院の周りにあれほどいた怪獣はほとんどが美琴達の働きで戦闘不能になっており、人型の敵も結晶を残して消えていた。どうやらパトラやバードウェイ、美琴が頑張ってくれたらしい。

 

「こいつら、見た目の割にはあんまり打たれ強くないのよね。電撃一発お見舞いしただけで痺れて立てなくなるし」

「見掛け倒し、というのが妥当でしょう」

「ああ……これと似ているイグアナもどきの怪獣も、機動力はあるんだけど特殊兵器普通のミサイルにやられるような貧弱さだったからね……。考えてみれば見た目もまんまジラじゃん」

 

 一時的にとはいえ攻撃の手が止んだことにより、今まで切羽詰まっていた一同に余裕ができた。初春と佐天は中空知と平賀を案内した警備員に連れられ(本人は往復かよとボヤいたら黄泉川に睨まれ慌てて二人を連れて行った)、地下のシェルターに向かうことになる。

 

 これで猛攻が終わったと思いたかったが、何故かこの病院は異様に重要視されるらしく狙われているようでこの騒動が起こってから二度ほど警備員が襲撃してきた連中を撃退したにも関わらず、徐々に戦力を拡大と強化しつつ再度強襲しているとのこと。ならば今のうちで体力と気力のできるだけの回復、そして次にまた襲われた際の対抗策をたてなければなるまい。

 

 幸いにも戦力は美琴やカナが合流したことでかなり増長した。もう少しすれば警備員の援軍も辿り着くらしい。お互いに名前だけの簡単な自己紹介を済まし、一同はこれからの動向について病院にある緊急時8日の警備員簡易詰所にて話し合うことにする。ここは警備員の持ち運び可能な通信機器や簡単な装備程度なら置いてある。非番だった黄泉川が警備員の装備を纏うことができたのは、ここに予備の物があったおかげだ。

 

 部屋に入ると先ほど佐天たちを連れて行っていた警備員二人が通信機器を運び出しているところだった。

 

「……そもそもの話じゃん。なんでここがそんなに重視されてるのかが分からないじゃん。病院だぞ、ここは。学園都市の重要な施設や警備員の拠点でもない。一度や二度ならずあんなに兵力を費やして襲撃する理由が分からない」

 

 まず、黄泉川が提示したのは「なぜここが重点的に襲われているのかの理由」についてであった。

 

 確かにここに来る襲撃者のしつこさは異様とも言えるレベルだ。しつこく何度も襲撃をかけられたようで、今まで黄泉川達数人の警備員でここを防衛できていたことは、まさに奇跡とも言えるようなことだったとカナは分析した。黄泉川が把握している情報によると、襲撃された警備員の詰所よりも勝る量の可能性があるという。

 

 つまり、ここを重視する理由があること。その可能性があるとすればその理由は

 

「この病院、建物に彼らが狙うべき何かがあるということ。人質を取りたいと考えるには、あまりにも戦力が過剰すぎます」

「可能性としてはここに自分たちに影響を及ぼす何かがあることに対する先制攻撃、もしくはそれを手に入れるため……あと私怨かしら」「私怨?どういうことですの?」

 

 わざわざ病院を襲う理由だが、黒子には皆目検討もつかなかった。唯一言うならば、この病院の建物内に特別な何かがあり、それを恐れてか手に入れるためかは分からないが、攻撃を加えているという理由は思い浮かんだ。

 

 噂には聞いたことがある。この病院には凄腕の医者がいて、学園都市の医療技術のみに頼らず、純粋な自身の技術のみで様々な患者の難病、致命傷を治しているということを。ここまで戦力をかける必要性は見当たらないが、あるいは彼を狙っての犯行かもしれない。

 

 だから、いきなり私怨という理由を聞いても、ピンとこなかったのだ。

 

「やつらを操っている……まあ今は黒幕とでも呼んでおきましょう……黒幕がこの病院、それかこの病院に入院している患者その親族に怨みを持っていた場合のことよ。ただでさえここは凄腕の医者がいるんでしょう?集まる患者も様々なはずよ」

 

 黒子は納得した。

 

 だが同時に疑問も抱いた。それは

 

「けどそれだとこの学園都市にてテロ行為を行っている連中の動きの統合性が立たないのよね……」

 

 つまりはそういうことだ。

 

 現在学園都市の各所では様々な形でテロ行為が行われている。それらが同じ一派によるものだということは、黒子やアリアもバードウェイやエツァリを通して聴いていた。もし一派の黒幕がこの病院の医師にせよ患者にせよ恨みを持っているなら、ここに戦力を集中させるはずだ。

 

 他の場所で起きている騒動が、警備員や風紀委員を分散させるための物なら辻褄は合っただろう。だが、そうではない。ここに費やさせている戦力と同じものが、あるいは学舎の園に、あるいは学園都市統括理事長のいる窓のないビルに、またあるいは別の場所に向けられているのだ。明らかに彼らの目的が様々な形に分散していることが分かる。

 

 もし、黒幕が一人ならこのような中途半端な戦力の分散はせずに要所に集中させるはずだ。それがなっていない。これが黒幕の戦略なのか。それとも

 

「……黒幕と呼ばれそうなヤツが、複数人いるってこと?」

「十分ありえるね。いや、そっちの方が可能性高いかも」

 

 美琴の言葉に、理子が同調する。もし黒幕が組織的なもので、それぞれの思惑によって兵が動かされているなら可能性はある。

 

「話に聞くと今回の事態を起こした根源はやれ暗躍だの策謀だのが好みなヤツらしい……。そいつが学園都市に様々な恨みや欲を持っている連中を集めて兵を与え好き勝手に暴れさせて、自分はそれに乗じて本命を………と、粗方そういう寸法か?」

 

 なんとも黒幕のテンプレのような人物だ。と美琴は思い、同時に警戒心を高めた。

 

 学園都市の闇に飲まれ堕ちた人間は多い。自分はそうにはならなかったが、学園都市自体に怨みを持っている者など少なくはないはずだ。もしそんな連中が学園都市に対抗できる力を手に入れて暴れだしたとなると頭が痛くなる。

 

 意思を持って行動している人間は強い。それが固ければ固いほどなおさらだ。だが同時に復讐や逆襲といったただ怨みを晴らしたいだけというモノにある一定以上囚われた人間もまた厄介だ。美琴は、それをよく知っていた。

 

「だとしてもだ。例えそれが逆恨みだろうがなんだろうが病院の患者や職員たち、避難している学生達を巻き込んでいい理由にはならないじゃん。同情すべき理由があったとしても、私たちはここにいる人達を守るじゃんよ」

「当然ですわね。どんな理由をつけようと復讐は復讐。褒められた行為かどうか以前に関係のない一般人を巻き込んでいる時点で、恩赦は必要ないですわ」

「けどそういった『なりふり構わない』連中ってのは手強いわよ。復讐で自分の命すら投げ出すような奴を、私は今まで大勢見てきたわ」

 

 無論、黄泉川も黒子もそういった人物達はよく見てきた。だからこそ、今回の敵が手強いということは経験から分かっていた。

 

「……まぁ、襲撃者の目的が復讐とは限りません。思い込みはいけないと思いますよ」

「どっちでもいいだろ、そんなもん。俺たちはここに危害を加えに来る連中を逮捕する。それだけはっきりすれば十分だ」

 

 アリア達の言葉に冷静な返し方をする不知火と、それとは対照的にまるで脳筋のようなことを言う武藤。なんにせよここにいるメンバーの意思は皆同じだ。

 

「問題は敵の戦力ね……。あのゾンビみたいな奴らどうにかならないの?」

「元々敵側に雇われた『プライベーティア』とかいう連中を科学的な何かで強化した兵らしいが、あの動き方を見るにどうやら思考能力を奪われているな。都合のいい手駒になってるに違いない」

「それって操られてるってことですか?」

「彼らとて、今回のような騒動を承知……いえ、今回のような騒動を起こすことを望んで参加したものたちです。中には殺人欲求や快楽を満たすために彼らの申し出を受けたのも、事前調査では分かっています」

「同情の余地なし……ってことですの?」

「そうぢゃ。遠慮はいらん」

 

 それに美琴が反応したのを、黒子は見逃さなかった。

 

「こちらの戦力はここにいるメンバーで全員かしら?」

「あ、いや。エツァリとかいう胡散臭いのもが一人いる。確か妙な能力が使えたから、戦力にはなるはずだ」

「エツァリ?アステカ文明の料理の名前ですが……変な名前ですわね。南米の方ですの?」

「アステカ?いや、あいつは日本人だったぞ?なぁ郭」

「はい。半蔵様の言う通り見た目は日本人です」

「……まぁいいわ。戦力になるなら力を借りましょう。今彼は?」

「そいつならここに知り合いがいるとかで……この病院にいるのは確かよ」

 

 「わかったわ」とうなづくカナ。この際レッサーは「アステカの魔術師までいるとは学園都市はホント魔境ですねー」と呟いていたが、それを聞いていた者はいない。

 

「それじゃあそれぞれ分担しましょう。この病院は出入り口が多いから……まずは正面玄関を守る組。ここはできれば人数が多目の方がいいわね」

「同感じゃん。目の前に二車線道路があるから大型の生物とかも入ってきやすい。ここはできれば重点的に防御を置きたいじゃん。ちなみに地下の駐車場の道路や他の入り口はシャッターで閉じたから大丈夫」

「シャッターの厚さは?敵の戦力は未だに把握しきれてないわよ」

「学園都市製の25㎝シャッターがそれぞれ4箇所に設置されてるじゃん。よほどの大火力を持ってこない限り破られることはない。この子みたいな超能力者が出張ってきたら一概ではないけど」

 

 黄泉川に指差された美琴や黒子。確かに彼女たちのような能力者の能力によってはシャッターが無力と化すこともあるかもしれない。

 

「破られた時のために2、3人出入り口に待機していればいいと思う。能力者に対抗できる少数メンバーで対処すればいいと」

「アリアのそれでいきましょう。それ以外だと……」

「あとは屋上くらいか。一応ヘリポートもあるから、油断ならないじゃん」

「意外と防犯設備徹底してますねここ……」

 

 ライカの感嘆の言葉の通り、ここの防犯設備は学園都市内でも相当なものだ。中で何か事を起こされたら対処しきれないが、外からの攻撃に対しては中々の防御力を誇る。

 

「元々、空間震の時に避難場所として機能するために作られたシェルターやシャッターがここにはある。近頃空間震はほぼ起きてないにも等しいじゃんが、ある意味おかげで助かったじゃん」

「後は誰をどこに振り分けるかですが──」

 

 

 

 

 

 

「……クソッ!クソッ!クソがァッ!!ようやくあの野郎がいる場所を見つけたってのに、またいいところで邪魔するのかよ超電磁砲んん!」

 

 しきりに何かを叩きつける音が、閉鎖された空間の中で響き渡る。部屋の主たる少年は、そこらの機材や机に八つ当たりを繰り返していた。機材の中にはデリケートなものもあり、手荒く使えば使い物にならなくなるものもある。が、そんなことは今少年にとってはどうでもいいことだった。

 

 目の前にあるいくつかのモニターの一つを凝視する少年。先ほど彼が操作する手駒の一つからもたらされた映像には、一人の少女の姿があった。幾度も巻き戻しと再生を繰り返しても、その顔に変化はない。

 

 超電磁砲。御坂美琴。少年の失脚の原因を作った憎き一人である。

 

「また……また僕の邪魔をするのかよお前はぁぁぁぁぁ!!」

 

 少年を止める者はいない。誰も制止する者がいないことをいいことに少年は次々に回りに暴力を振るう。少年の非力な拳や蹴りの音がしばらくした後、少年は対して動いたわけでもないのに肩で息をしながら、同時に笑い出した。

 

「……はぁ……はぁ…………く、ククク、ハハハハハハ!そうだ!そうだよ!今の僕には手駒がある!超電磁砲ですら敵わない手駒が!それさえ使えば………!……見返してやる!超電磁砲もあいつも、僕の邪魔をしたあの小娘2人も精神的にも社会的にも殺して、命乞いするまでボロボロにしてやるぅ!ハハ、ハハハハハハハハハハ!!」

 

 少年の歪みは、最早止まらない。彼の回りには、同じく歪んだ者しかいないのだから。

 

「僕を!この馬場芳郎の邪魔をした奴は全員!こいつらで潰してやるよォ!!」

 

 

 

 

 

 

 

第二四話「脱落者:GD」完

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