とある緋弾のソードアート・ライブ ──挟間の帳──   作:常盤 赤色

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第三話「精霊と電脳の剣士、幻想殺しと橙茶色の少女」

 

1,

 

 

 

 

 

 

 

「──え~。改めまして!わたくし、今回の学園都市特別見学会バスツアーのバスガイドをいたします、因幡智恵と申します!皆様の楽しい学園都市旅行をサポートするため、未熟者ですが全力を尽くしますので、どうかよろしくお願いします!」

 

 バスガイドの自己紹介に、拍手する学園都市特別見学会参加者たち。

 

 学園都市特別見学会の参加者を乗せた観光バスは、東京駅から学園都市へと向かっている最中だった。

 

 参加者たちは皆、滅多に味わえないスカイホップバスの開放感を、写真や動画にして思い出に残している。子供なんかは、はしゃいで外の景色を見ていた。やはりスカイホップバスそのものが珍しいのであろう。

 

 と、テンションの高い雰囲気に触れても、この2人のテンションは最初っから最悪だった。

 

「「はぁ…………」」

 

 通路を挟んで隣り合った席で、同時にため息をつく五河士道と桐ヶ谷和人・通称キリト。この2人だけはまだ学園都市についたわけでもないのに、猛烈な(精神的な)疲労感が漂っていた。

 

「もう。なに、あれくらいで落ち込んでるのよー」

「シドー、せっかくの楽しい旅行なのだぞ。楽しまなければ…」

 

 そんな2人を元気付けるのはそれぞれの隣に座っている十香とアスナだった。

 

 おおよそ30分前。バスの目の前でお互いの女装姿について弄られていた少年2人は、見事に被った一言が原因で、更に弄られることになってしまったのだ。

 

 本人以外たちにとってはそのことは完全に笑いのネタだったが、2人にとっては笑われることになった苦い思い出でしかなく、唯一の利点はお互いの一行に共通の話題ができ、すぐに打ちとけることができたくらいだろう。

 

「そ、そうだな。悪い、アスナ」

「──確かに楽しまきゃ損だな…。ごめんな十香」

 

 しかしこのまま不貞腐れていても既に起こってしまったことだ。どうしようもない。

 

 なにより滅多に経験できない体験ができる旅行なのだ。十香が言ったとおり、楽しまなければ損ってものだろう。

 

「そうそう。そう根に持つなよお二人さん」

「お前が一番面白がっていたよな……」

「……」

「それに関してはホントすまなかっ……ぷぷっ」

 

 前の席のクラインの後頭部に手刀を打ち込むことで黙らせたキリトは、改めて士道たち一行の方に向き直した。

 

「──遅れました。桐ヶ谷和人です。どうもよろしく」

 

 そう言って右の手のひらを差し出すキリト。士道はその手のひらに自分の手のひらを重ね、お互いにお互いの手を握り合った。

 

「五河士道です。こちらこそよろしく」

 

 2人のやり取りがきっかけとなり、一行はお互いに自己紹介を始める。

 

「結城明日奈です。よろしくお願いします」

「夜刀神十香だ!こちらこそよろしく頼む!」

「桐ヶ谷和人の妹の桐ヶ谷直葉です。いっしょに旅行、楽しみましょうね」

「五河琴里よ。私も士道の妹なの。同じ妹同士、仲良くしましょ」

「綾野珪子です。よろしくお願いしますね」

「よっ、四糸乃です……どうもよろしく」

『よしのんだよー!よろしく!』

「可愛いパペット人形ね。篠崎里香よ。よろしく」

「我は八舞耶倶矢だ。よろしく頼むとしよう!」

「紹介。八舞夕弦です。よろしくお願いします」

「壷井遼太郎です!よろしくお願いしっす!」

「誘宵美九ですー☆よろしくお願いしますねー!」

「七罪よ。6日間、よろしくね」

「村雨令音だ。よろしく頼む」

 

 

こうして

 

 

 ──まずは、精霊と電脳の剣士が、交差する──

 

 

 

 ⚫︎

 

 

 

 ──そして、自己紹介からおよそ30分後。

 

「ってことは、本当に美九さんって、あの『誘宵美九』なんですか!?」

「ばれてるなら仕方ありませんねー。ホントですよー」

「マ、マジでっ!?私、顔見たことないけど曲聴いてて、ファンだったのよ!良かったらサインなんかお願いできたら……」

「いいですよ」

「いよっし!」

「あっ、私も私も!」

 

 髪型をポニーテールに変え、伊達眼鏡を掛けていた美九だが、流石にまじかで見られるとばれてしまい、"他のツアー参加客に知られないようにしてくれるなら"という条件をつけて、シリカ・リズベット・リーファにサインを書くことになっていたのだった。

 

 ちなみにキリト、アスナは「誘宵美九」について何も知らなかった。まぁ聞いたところ、キリトは元からそんな物に興味を持つような人間じゃないらしいし、アスナはいいところのお嬢さんで、あまりそういうことに疎いとのことだった。

 

 前に士道の友人の殿町宏人が「美九たんを知らないようなヴァカは、同年代に士道だけ」とか言っていたが、案外間違っていたようだ。今からでも土下座して尻からスパゲッティを食ってもらえるだろうか。

 

「では皆さん!前方をご覧ください!!」

 

 と、携帯で何となく「殿町宏人」の名前を探していた士道は、バスの前方から響いてきたバスガイドの声で、顔を前へと向けた。

 

「えー。この壁の向こう側が学園都市となっています。面積はおよそ東京都の約三割!人口230万人、内八割が学生という正に総合教育機関の結晶とも言える街となっています!」

「おお!士道、見ろ!あのゲート、ロボットがいるぞ!!」

「おお、ホントだ!まるでドラム缶みたいだな…」

 

 見るとゲート付近の道路にいくつかのドラム缶型ロボットがうろついていた。正面にモノアイのようなカメラがついている。

 ロボット技術は学園都市外部でも進歩しているとは言え、まだ街中で見かけることは少ない。精霊である十香たちは勿論、士道やキリトもそのロボットに目をやっていた。

 

「バスガイドさん。あのロボットは?」

「いい質問です、茶髪ツインテールのお嬢ちゃん。彼らは学園都市の清掃用ロボットたちです!」

「清掃用ロボットねぇ…学園都市にはこんなのがウヨウヨいんのか」

「その通りだよ野武士っぽいおにーさん!清掃するだけではなく警備や治安維持のための、いわば動く監視カメラ、というわけですよ」

「学園都市の技術は2、30年進んでいるって噂かと思っていたけど……電車で話したこともあんがい間違いじゃないかも…」

 

 

 

 ⚫︎

 

 

 

「見て見てーおいぬさんのロボットだー!」

 

 子供の声につられて窓の外をキリトが覗き込むと、そこには銀色の犬ともジャガーなどの肉食獣とも取れる四足歩行の獣がうろついていた。

 

「流石学園都市ね…動きがすごい滑らか」

「ああ」

 

 キリトやアスナが感心するようにその歩行は本物の生物のように滑らかだった。学園都市の外部ではこんなにも動きに滑らかさは出せまい。

 

「バスガイドさーん。あれも学園都市のロボットなんですか?」

「私もあまり見たことはありませんが…あ、そうそう。大覇星祭の時に一度見た覚えがありますね」

 

 

 

 ⚫︎

 

 

 

 そんなこんなしている内にバスはゲートをくぐり──ついに学園都市へと入った。

 

「………………?」

 

 ゲートを潜ったその瞬間、琴里は妙な感覚に襲われた。体に微弱な電気が走る──そんな感覚に。

 

「おおお!!シドー!ここが学園都市か!!」

「見ろ夕弦!飛行船があるではないか!飛行船!」

「電信柱が見当たらない変わりにあちこちに風車があるわね…あの鉄とか剣に使うと良さそう…」

「思っていたよりかはお兄ちゃんが言っていた通り普通の町並みですね…もっと近未来的だと思ってたけど」

 

 ここにいる者が見たことがある学園都市とは、テレビ局にて配信された、大覇星祭のときの学園都市だけだ。その時も公開されたのは生徒の競技や、学園都市のほんの一角でしかない。

 初めて見る学園都市に、参加者たちは皆、騒いでいた。

 

「はいはーい!皆さん!ちゅうもーく!!」

 

 ここで乗客たちの意識は、もう一度バスガイドへと向けられた。

 

「バスがホテルに到着してからは、自由行動とさしていただきます!大きな荷物は我々があらかじめホテルに預けておくので、昼食を取るもよし!見学するのもよしです!ただし、マップにも載ってるように第二と第一0、第二三学区と第七学区の「学び舎の園」は立ち入り禁止学区なのでくれぐれも注意してください──」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

2,

 

 

 

 

 

 

 

 ──11月3日。12:30。学園都市第六学区。

 

「…なぁ。ハンバーガーで手を打たないか?インデックス、オティヌス。割引券が溜まっているしよ」

 

 第一一学区を公園沿いの通りを歩きながら、ツンツン頭の少年・上条当麻は隣を歩く白い修道着を着たシスター・インデックスと、自分の頭の上にちょこんと座る元魔神・オティヌスに恐る恐る聞く。

 

 すると2人はそれぞれの位置から上条を睨みつけた。

 

「ダメだよとうま!夕べはとっても、とーってもひもじい思いをしたんだから」

「仕方ないだろ。急に土御門に呼び出されて、何かよく分からん荷物運び手伝わされたんだから」

「ほほう。貴様にとってはか弱い我々の食事より、あの胡散臭い金髪サングラスとの約束の方が大事だと言うのか」

 

 「か弱い」に心の中で「どこがだよ」とツッコミを入れるが、続きの言葉に思わず「うっ…」と息を詰まらせる上条。確かに彼女たちの晩御飯を作らずに出て行ってしまったのは事実だ。上条はそれは悪いと思ってるし、だから2人にも謝った。

 

 しかしこれだけは譲れない。このままでは初めてアリサと出会った時の二の舞になってしまう。また財布がすっからかんになるバッドエンドルートに突入だ。

 

 だから今回は上条は引かなかった。

 

「と、とにかく、今回はダメだ!!」

「前にも言ったけどね、とうま!ご飯を忘れられるとね、存在そのものを忘れられた気分になるだよ!ね、オティヌス、スフィンクス!」

「うむ、禁書目録の言う通りだ」

 

 うなづくオティヌス。スフィンクスも、その通りですよ、ご主人!、と言うかのようにインデックスの服の中から顔を出す。

 

 その後、激しい論争の上、先に折れたのは──

 

「あ……あーもーわかりましたよ。好きなだけ食え」

 

 ──もちろん、上条だった。

 

「おお」

「本当だね!とうま!」

「ああ。上条さんに二言はねーよ」

 

 と、これから待つごちそうにインデックスが喜んでいると目の前の公園に目がいく。

 

 そこではなにやらお祭りのようなイベントが行われており、野外ステージではバンドによるライブの最中だった。

 

「とうま!手始めにたこ焼きが食べたいんだよ!」

「わたしは焼きそばが食べたいぞ。上条」

「はいはい。仰せのままに」

 

 と、屋台を求めて公園に入った3人はそこである一団と出会う。

 

 

「げっ」

「あっ、上条さんじゃないですか」

 

 そこにいたのは上条も見知った顔。御坂美琴の友人である三人組。明らかに嫌そうな顔をした白井黒子・上条に手を振る佐天涙子・そして口をピンクやら黒やら緑のソースまみれにしている初春飾利の3人だった。

 

 なんだかんだで会うのは久しぶりである。上条がオティヌスの一件で入院している時は何度かお見舞いに来てくれたこともあった。あの時貰った手作りのクッキーはとても美味しかったことを覚えている。

 

「やっ。入院中はお見舞いに来てくれてありがとな。クッキー、美味しかったよ」

「いえいえ、ありがとうございます。クッキーの感想は御坂さんにも言ってもらえると嬉しいんですが…」

「御坂にか?了解、今度会ったら言っとくよ」

 

 右手を挙げて初春に了承の意を示す上条。何故か初春・佐天の口から"よしっ!"という言葉が聞こえた気がしたが、別に気にすることでもないだろう。

 

「あ。インデックスちゃん、オティヌスちゃん、久しぶり!」

「久しぶりなんだよ、さてん!」

「久しぶりだな、3人とも」

 

 ちなみにインデックスやオティヌスもこの3人とは顔見知りである。「魔術」に関して何も知らない3人には2人のことは「学園都市に勉強のために来たイギリス清教のシスター」と「特殊な能力により、身長が縮んでしまったイギリス清教の関係者」と言い、上条はイギリス清教の知り合いから2人を押し付けられたと説明しておいた。あながち嘘でもないし──まぁもちろん、少し疑られたが──美琴のフォローもあり、ことなきを得た。

 

「……ところで、お前」

「へ?なんですか?」

「…その手にしたピンク色の物体はなんだ?あんまり美味しそうには──」

「美味しそうなんだよ!」

「見えな…へ?」

「ああ。これ?これ、いちごもんじゃって言って、あそこのもんじゃ焼き屋さんで買えるですよ」

「ほぉー。食べたいんだよ!」

「…………その子の感性もアレですわね」

「食べ物以外に関しては割と普通なんだけどな……」

「とうま、とうま!早くご飯にしよ!ほら!」

「…………いちごもんじゃという物は流石に嫌だが、普通のもんじゃという物には食べてみたい。私もあれからにしよう」

 

 インデックスに腕を掴まれ、無理矢理もんじゃの屋台に連れて行かれる。

 

 祭りの屋台の食べ物といえば安くて美味い物が多い。上条のスカスカなお財布にも優しく、インデックスも満足してくれる。これなら上条も泣くこともないだろう。

 

 

 

 ⚫︎

 

 

 

 ──と甘い希望を持っていたのが間違いで。

 

「…………」

「おい上条!しっかりしろ!」

 

 30分後、ベンチにはすっからかんになった財布を見て呆然となっている上条・両手に屋台の食べ物を大量に抱え込み、ソースやらマヨネーズやらで口を汚した幸せそうな顔のインデックス・そして呆然としている上条を見て、上条の隣であたふたとするオティヌス・飼い主と同じで日向で気持ち良さそうに寝ているスフィンクス、と、それぞれ全く違った表情をした3人と1匹が座っていた。

 

「上条さーん。しっかりしてくださいよー。御坂さんに嫌いって言われた時の白井さんみたいですよ」

「初春……しかしあなたの胃袋はどうなっていますの……?あんな量がこの身体のどこに……」

「ふぉい?」

 

 涙を浮かべながらあらぬ方向に目を向ける上条を見て、初春と佐天は本気で心配し、黒子も少しばかり同情していたであった。

 

「……お前さ…もうちょい自重とかいう言葉を知ってくんない…………」

「ふぁいに?(なぁに?)」

「…………」

 

 言葉も出ないとは正にこの事である。もう当たり前のことすぎてため息ですら出ない。

 

「…………ああ……不幸だ」

「む、どこに行くのだ?」

「コンビニにゴミ捨てと金降ろしてくる……」

 

 もう何度言ったか分からない言葉を吐く上条。これを言うたびに100円ずつ貯めていたら、今頃かなりの額になっていただろう。

 

 隣に置かれたビニール袋をはみ出しているパックや紙袋を、公園とは大通りを挟んだコンビニのゴミ箱まで捨てに行く上条。ついでにATMからすっからかんになった財布を補給することを考えながら、大通りの信号を渡ろうとすると、

 

「お嬢ちゃん、こんなところでなにしてるんだい?」

「……」

 

 見るからにガラの悪い4人の男が、1人の少女に絡んでいるのを目撃した。

 

 普段からの、多種多様に渡る様々な相手との喧嘩の経験から、当麻は、直感で彼らが今は崩れたスキルアウトの連中であることを見抜く。

 

 少女の背丈はインデックスと大差なく、オレンジに似た明るいの茶髪と宝石のように澄んだオレンジ色の眼が印象的だった。

 

 ショートカットの上に、自身の顔ほどもある麦わら帽子を被った少女は、話しかけてきたスキルアウトの男たちに対して、困惑しているように見えた。

 

「おじさんたち、誰?」

「オイオイ、おじさんは酷いなぁ。お兄さんって呼んでくれないかな?」

「怪しいもんじゃねぇよ。それよりもお嬢ちゃんは一体何をしてるんだい?」

「──友達と一緒に街に来たんだけど、はぐれちゃって」

「なんなら俺たちが友達探してって風紀委員に届けておくからさ」

「一緒に遊ばない?美味しい物でも食べてさ」

「美味しい物?うーん…………」

「…………」

 

 青になった信号を渡りながら周りを見渡す上条。

 

 さて、こういう状況にあった場合、大抵の人間がすることは、我関せずと傍観を決め込むか、できたとしても警察に連絡を入れることくらいだろう。

 

 前者はともかく、後者の選択は一般的に見れば正答に近い行動である。 普通は誰だってそうするだろう。現に、少女の周りの人間はそうしていた。

 

 だが、上条にとっての正しい選択肢はそれではない。

 

 上条当麻は不幸な人間である。

 

 子供の頃は「疫病神」と言われて何度も命に関わるような出来事を見世物扱いされ、学園都市へやって来ても不幸は止まらず、酷い時は3日に1回は死にかけている。

 

 それ故か。上条は人の不幸に対して敏感である。自分が不幸だからこそ、そのような不幸を他人が味わっているのが我慢できないのだ。

 

 今までも上条は、誰かの不幸を何度も目撃している。そんな時、彼は自分に災難が降りかかることを承知しながらも、必ず、その不幸に介入してきた。

 

 大怪我なんて何百回もした。死にかけたことも一度や二度ではない。たった一度だけだが、自分の行為を後悔したこともある。

 

 ただ「許せない」。目の前の、不幸に堪えてる人、不幸を我慢している人を黙って見ていることを許せない。

 

「おーい、探したぞ」

 

 その気持ちを糧に、今日も上条当麻は理不尽な「不幸」を壊すため、右の手を強く握る。

 

 

 

 ⚫︎

 

 

 

「えっ、お兄ちゃんは……?」

「あぁ!?誰だよお前!」

「この子の知り合いだよ…嫌だなぁ。忘れられちゃうなんて上条さん、ちょっとショックですよ」

「え……」

「何だぁテメェ?なんか文句でもあンのかよ」

「…………はぁ」

 

 元からダメ元だったが、やはり「知り合いのフリして自然にこの場から連れ出す作戦」は成功しなかった。まぁ当たり前だろう。

 

「ったく…お前たちもこんな小さな子を相手に何やってるんだよ」

「このっ……!せっかくのところを邪魔しやがって」

「おい、こいつイタイ目合わないとわからんらしいぜ」

 

 痛い目に会うのは嫌だが仕方が無い。ここは自分が不良を引きつけて、少女を逃がすことにしよう。

 

「ナメタ真似したお前が悪いんだよ。まぁ殺しはしないから安心しな」

 

「──俺がこいつらを惹きつけるから。そのうちに逃げろ」

「…………」

「分かったな?」

 

 少女に小さな声でそう呟き、「やれるもんならかかってこいよ」と、上条がそう不良達を挑発しようとした。

 

 

 

 ⚫︎

 

 

 

 その時だった。

 

「…………プッ、アハハ」

「へっ?」

「あ?」

「何だ?」

 

 突然、少女が笑い始めたのだ。

 

「プフフ……あ、ごめんね。「俺がこいつらを惹きつけるから、そのうちに逃げろ」って、なんかあの人にそっくりで」

「…………」

 

 なんでだろう。先ほどまでは幼い少女という感じっていうか世間知らずな感じがしていた上条は瞬きをしてしまった。不良たちも同じ様でポカンとした顔をしている。

 

「子供だと思って誑かしてきたバカほどじゃないけど、あなたもそうとうなバカだね。ぷふぅ」

 

 どうやらこの少女、今まで小さな幼女のフリをしていたようだ。猫かぶりとはこういうことを言うのだろうか。

 

「…………オイ、バカって誰のことだ?えぇ?」

「ガキだから手を出さないとか思ってんだったら大間違いだぞクソガキ」

 

 なんにせよ、少女の発言が気が立っていた不良たちの更なるイライラの原因になったのは間違いない。これでは上条の作戦が台無しだ。

 

「まぁとりあえず」

 

 少女はそう言いながら、手を高く振り上げる。

 

 まるで、何かを引っ張るかのように。

 

 直後、

 

 ミシッ、という音と共に、コンクリートに放射線状の亀裂が入り込む。それも一箇所ではない。二箇所、三箇所、四箇所……全部で六箇所。

 

「………………へ?」

 

 不良を取り囲むようして出来たのその亀裂は、次第に盛り上がり──

 

メキッメキッメキッ!

 

 巨大な植物の蔓が、コンクリートを突き破って出現した。

 

「「「「ぬ、ぬあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!?」」」」

 

 突如現れた植物の蔓は逃げようとする不良たちを、的確に、迅速に巻きついてきた。蔓に巻きつかれた不良は必死でもがくも、蔓の一つ一つが大木の根ほどもあるため、振りほどくことはできず、蔓に巻かれていく。

 

「えっ…………えっ?」

 

 あっという間に4人の不良は、蔓に身体上を巻きつかれ、身動き一つ取れなくなった。

 

 突然の出来事に、頭がまったくついていかない。上条は一部始終を、呆然と眺めることしかできなかった。

 

「──さてと…大丈夫?おにーさん」

 

「へっ?……あ、ああ」

 

 少し目線を下げると、そこにはやはり年相応の幼い少女がいた。

 

「俺は大丈夫だけど……こいつらは」

「安心して。絞め殺そうなんて気はないし。ま、暫くこのままでいてもらうけどね」

「「「「た、助けてくれ……」」」」

 

 確かに逃げられない程度にはきつく縛られているが、怪我などは無いようだ。

 

「そ、そうか。一応警備員(アンチスキル)に連絡しとくか……」

 

 ズボンのポケットから携帯電話を取り出し、警備員(アンチスキル)に連絡する上条。後は警備員がどうにかしてくれるだろう。この蔓を解くのには苦労しそうだが。

 

「…………これでよしっと。じゃ早々にここから退散するか」

 

 取り調べまで受けていたらインデックスとオティヌスが何をされるか分からない。ここはコンビニのゴミ箱にゴミを捨て、早々に立ち去るとしよう。ATMは別の場所ですればいい。

 

「それじゃ、俺は用事があるから。後は今から来る警備員の人たちがなんとかしてくれるだろ」

 

 ゴミ箱にゴミを突っ込み、もう一度信号を渡る上条。

 

 後は警備員(アンチスキル)がなんとかしてくれるだろう。

 

 が、

 

「…………で、なんでついてくんの?」

 

 少女はとことこと信号を渡る上条についてきたのだった。

 

「私、あなたに興味持っちゃった」

「は、はい?」

「あ、勘違いしないでね。LOVEってことじゃないよ。ただね」

 

 信号を渡り終えたところで、少女は上条の前に回り込む。

 

「そっくりなの。私の大切な人に。だから興味あるの。あなたに」

「はぁ?」

「どうせ私の友達も、私のこと探さないでこの街を堪能してると思うから。私も楽しみたいの」

 

 それは酷い友達である。

 

「やっぱり現地の人に案内してもらった方が面白そうだからね」

「いや、だからって──」

「とうま!」

 

 ここで聞き覚えのある声に上条は振り向く。インデックスと、その頭に乗ったオティヌスだ。

 

 そして少女を見た2人の顔が、みるみるうちに怪訝になっていくのを見て、上条の額から嫌な汗が出てくる。

 

「…………妙に戻るのが遅いから気になって来てみれば…また厄介ごとに首を突っ込んだなお前」

「うっ……」

「……とうま?」

 

 こちらをジロリと睨んでくる居候2人にたじろぐ上条。このままでは間違いなく上条の身体の何処かにインデックスの歯型がつくことになる。

 

「…………ぷっ、ぷははは」

 

 その様子を見て、再び笑い出す少女。いきなり笑い出した少女に、上条を噛もうと口を開けたインデックスも、インデックスに噛まれると身構えた上条も、インデックスの頭に仁王立ちしたオティヌスも、少女に顔を向ける。

 

「な、なんなんだよ?とうまがそんなにおかしいの?」

「あっ。ごめんね。やっぱりそっくりでさ。あの人に」

「あの人……?おい上条、こいつは…」

「ねぇねぇシスターちゃん、小人ちゃん。お願いがあるの。私に学園都市を案内してくれない」

 

 インデックスの手を掴み、顔を近づける少女。いきなり顔を近づけられたインデックスは少したじろぎ、後ろへ一歩下がる。

 

「え……いや」

「お願いっ!」

 

 顔を見合わせる上条とオティヌス。この少女、どうしても上条たちに学園都市を案内して欲しいらしい。理由はともかく、こんな少女の頼みを無下に断るのは良心が痛む。が、インデックスの機嫌が──

 

「…………いいんだよ」

「「!!」 」

「ホ、ホント!?」

「その代わりなんだけどさ」

 

 と、インデックスは自分の右手を掴んでいる少女の手に、自分の左手を重ねた。

 

「私と、友達になって欲しいんだよ」

 

 その言葉により一瞬、沈黙が走った次の瞬間──

 

 少女の顔が太陽のように明るくなる。

 

「なるなる!もちろんだよ!シスターちゃん!!」

「シスターちゃんじゃないよ。私にはちゃんと「インデックス」っていう名前があるんだよ」

「分かった!よろしくね!インデックスちゃん!」

 

 インデックスの手を掴みながらぴょんぴょんと跳ねる少女。インデックスから友達になろうと誘われたのが、よっぽど嬉しかったらしい。

 

「いいのか?インデックス」

「うん。それにね、この子となら、すごくいい友達になれる気がするんだよ」

 

 インデックスの表情も明るい。なんだかんだで彼女には同年代の友達というのが少なっかった。彼女も、友達になってくれると即答してくれた少女に、嬉しかったのだろう。

 

「……分かった。私はあまり役に立てないかもしれないが学園都市を案内してやるとしよう。それと、私を「小人ちゃん」とは呼ぶな。オティヌスと呼んでくれ」

「うんうん!オティヌスちゃんも宜しくね!」

「……ちゃん付けもよして欲しいんだが……」

 

 早くもインデックスとオティヌスは少女に打ち解けたようだ。やはり性別が一緒だからだろうか。

 

 とりあえずは自己紹介からしよう。学園都市を案内するならばお互いのことを知っておいて方がより楽しめるはずだ。

 

「俺の名前は上条当麻だ。よろしくな。えー…………と、名前まだ聞いてなかったな」

「私?私はね」

 

 

「──イブ。イブっていうの。よろしくね」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

第三話「精霊と電脳の剣士、幻想殺しと橙茶色の少女」 完

 

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