(仮題)エルダー・テイルのソロプレイヤー   作:御代川辰

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大災害前
エルダー・テイルのソロプレイヤー


01

 月曜日のまだ明るい時間、一軒家の一室でパソコンに向かう中年の男がいた。画面には半透明のコマンドウィンドウと二つのキャラクターが映っている。

 

「そう。ぼくはこっちだよ」

 

 正面から左、正面、また左。画面の中央に鎮座するドラゴン型のボスモンスターの周囲を、時計回りにぐるぐると忙しなく動くアバターのHPは最大値の半分に減っている。しかし、ボスモンスターのHPも既にごく僅か。

 現在の彼のアバターのステータスなら通常攻撃一回で充分倒せる数値なのだが、彼がモンスターに攻撃をする素振りはない。

 

「そろそろこのレイドも終わり……お疲れ様、【ニグヴェルデ(Niggweld)】」

 

 哀しげに呟くと同時にマウスが弾かれ、アバターの手から矢が放たれる。その矢はモンスターの顔面にまっすぐ飛んで行き、喉笛に突き立った瞬間爆発した。

 レイドボス【ニグヴェルデ】は文字通り一騎討ちの末、最後は一矢のもとに葬り去られたのだ。

 

「戦闘開始から60時間58分、最短記録更新ならずか……残念」

 

 ゲーム画面の時計は既に、午後一時手前を指している。彼……プレイヤーネーム【か・み】こと土蔵(つちくら)将助(まさすけ)は実に二日と半日をパソコンの前で過ごしていたのだ。

 

「まあ……」

 

 (いた)みと白髪(しらが)が目立つ長髪を掻き上げ、ふうと一息を()く。そして画面の中央、ニグヴェルデが居た場所に山盛りに(かさ)なっている大量の金貨やアイテムを眺めながら、余裕の残るにやり顔で一言。

 

「天下の〈エルダー・テイル〉でソロレイドバトル(単独大規模戦闘)なんて、(はな)から頭おかしいし充分か」

 

 

 

02

 

 同日のアジアは日本サーバー、弧状列島ヤマト最大の冒険者の街(プレイヤーズタウン)であるアキバの街から遠く離れた難関ダンジョン、《ヘイロースの九大監獄》最深部。

 

『やった……』

『っしゃぁー!ヘイロースの九大監獄攻略うぅ!』

『長かった!大喜び祭りだぜ!』

 

 ダンジョンボス、【九の監獄のウル】が無数の泡状のポリゴンと化して宙に四散する様を画面越しに確認した《放蕩者の茶会(Debauchery Tea party)》メンバーたちが喜びに震える中、丸メガネをかけ白いマントを羽織るハーフ(Harf)アルヴ(Arve)、【シロエ】を操る城鐘(しろがね)(けい)が首を傾げる。

 

『皆さん、ちょっと待ってください』

 

 シロエはダンジョン中に出現したモノリスにカーソルを合わせ、マウスをクリックする。

 するとシロエのパソコン画面の中央に、過去のダンジョン攻略者たちの所属パーティとパーティメンバーの名前が列記されたウィンドウが現れた。

 

『ああ……()()だ』

 

 茶会リーダー【カナミ】も攻略者の名簿を確認したらしく、歯を食い縛った声色(こわいろ)で悔しげに呟く。

 皆(さっ)した。「また先を越された」と、そう思うのも当然。

 

『また()()()()()()()()()ですか?』

 

 【ソウジロウ=セタ】が口を尖らせる。

 

『相変わらず……途方もない化け物ですにゃあ』

 

 【にゃん太】もやれやれとばかりに溜め息を漏らす。

 

『ほんっと憎たらしいヤツ……』

 

 【KR】も歯軋(はぎし)り混じりに怒気を放った。

 

『はい……“神”を自称するだけあって、やはり背中は遠いですね』

 

 攻略者一覧の画面に列記されたパーティとプレイヤーの中に、確かにか・みの名が刻まれていた。

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