(仮題)エルダー・テイルのソロプレイヤー   作:御代川辰

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闘争

 「120秒以内に終わらせる」と声高々に宣言し、偃月刀の切っ先を正面に向けるように構え直した。残るサファギンは87匹、か・みのHP残量はわずか2分57秒でゼロになる危険な状態。

 完全に追い詰められている。

 ……というより自ら行き止まりへと進んだだけだが、その笑みには余裕が含まれているようにも見える。

 

「船旅の邪魔はさせないよ」

 

 ぼそりと呟き、刃を上に向けて持ち上げるように突き上げた。真っ直ぐな刺突は恐ろしく正確にサファギンの喉首へと当たり、そのまま急所を貫いて後ろに立つ別のサファギンの頭へと突き刺さる。

 

「食らえっ!」

 

 もちろんこれでは終わらない。先ほどの攻撃の勢いを殺さず半円を描くように、ちょうど真後ろへ向けて偃月刀を振り抜けば、今まさにか・みに飛び掛かろうとしていたモンスターを縦()(ぷた)つに両断した。

 

「はい次!」

 

 真下に振り抜いた得物を持ち上げたかと思えば、今度は更に円を描くように振るい、続けざまに自身を取り囲む5匹をポリゴンへと還す。ここまでで10匹を倒し、次は足に満身の力を込めて少し遠い位置に立つサファギンに飛び掛かろうとする。

 

「背中がお留守だよ!」

 

 か・みは自身が走る隙間の左側に列を作るサファギンの一匹の背に刃を突き立て、速度に任せて横薙ぎに振るい、遠心力に従って回転しながら進む。

 当然ながら後ろから不意打ちを食らったサファギンも、敵が突然独楽(こま)のように宙を舞いながらこちらを切り刻んでくれば対処はできず、怒涛のように激しい斬撃の前にまた5匹が(むくろ)と化した。

 

「残り90秒……遊び過ぎちゃった」

 

 16匹目の敵の心臓に穂先を突き立て、左側から斬りかかってきた17匹目を斬り飛ばしながら呟いた。

 思案している(いとま)などない。神祇官(カンナギ)が使える広範囲攻撃型の特技のキャストタイムは最も短いものでも30秒。〘匈族之猟戈(きょうぞくのりょうか)〙を装備することで使える技には、全体攻撃系の特技は含まれていない。

 ならば選ぶ手段は?残っている敵にはどう対処する?自分で猶予を定めた以上、今さら延長などできない。こうしている間にもサファギンどもは(せま)ってくる。この船に乗る大勢の大地人たちの命を狙っている。

 そして気付けば残された猶予は65秒、残るモンスターは67匹。HP残量は半分より少なくなり、ヘイトも徐々にか・みから遠ざかり始めている。このままでは船は沈められてしまう。しかし彼はここで逃げはしない。「追い詰められているからなんだ」と、意地でも諦めないのが彼という男。

 

「ならこれだ」

 

 か・みは早速行動を始めた。まずキャストタイムの短いヘイトコントロール系の特技、〔波舟(なみぶね)金扇(こがねおうぎ)〕を準備する。もちろんその間にもサファギンを倒すのは忘れない。

 残り時間58秒、残り敵数63匹。

 

(きょ~う)五条(ごじょう)の橋の上~」

 

 更にモンスターからの注目を集めるため、大降りの嵐の中で唄を唄い始めた。ただし衣装は僧兵のそれではなく巫覡(ふげき)の狩衣、武器は薙刀ではなく偃月刀、体格に至っては強面(こわもて)の大男でも小柄な美少年でもない、ただ童顔で華奢な中年男であるなど、唄の内容とはまるで乖離(かいり)している。

 残り時間51秒、残り敵数59匹。

 

「大の男の弁慶(べんけい)が~」

 

 敵と敵の合間を抜けるように、点と点を通り抜けて踊るように、軽やかかつ(なめ)らかなステップを踏みながらサファギンたちを翻弄し、縦横無尽に偃月刀を振るう。

 斬って、突いて、刺して、打って、払う。(またた)く間もないほどに無駄なく敵を倒してゆく。

 残り時間35秒、残り敵数38匹

 

(な~が)い薙刀振り上げて~」

 

 唄を唄いつつモンスターを減らすことおよそ30秒弱。残り時間が30秒に、残るサファギンの数が36匹になった瞬間、か・みは〔波舟(なみぶね)金扇(こがねおうぎ)〕を発動した。

 帆柱(マスト)と船長室、そして客室に続く階段とそこを守る海賊たちに向かって武器を構えていたサファギンたちが、か・みの背後に現れた金色の扇へと一斉に向き直る。それが運の尽きだった。

 

牛若(う~しわか)目掛けて斬り掛かる~」

 

 そして蹂躙劇が始まる。この一息で、わずか2秒という短い時間で3匹が倒れた。その勢いのまま、後ろに振り向くと同時に偃月刀を持ち上げればまた1匹、足を一歩踏み出せばさらに1匹、二歩目で後ろにいる1匹。

 後ろに突き出す勢いに任せて体を回転させれば、彼に向かって斬り付けて来る4匹を纏めて倒す。

 この間、たったの8秒。猶予は20秒も残されている。

 

「残り23匹、15秒もあれば片が付くね」

 

 彼の笑顔は、か・みの微笑みは遂に絶やされることはなかった。

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