(仮題)エルダー・テイルのソロプレイヤー   作:御代川辰

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到着

 か・みが利用客として乗船している船は、無事《蛇神島アマミ》の東部に位置する貿易港《ナゼの港》に到着した。そして埠頭に横付けされた(へり)に立て掛けられたスロープを渡り、数多くの人々が出入りするのが船首からよく見える。

 

「ずぶ濡れで気持ち悪い……」

 

 なぜか・みが舳先(へさき)に座り込んでいるのかは一目瞭然である。先刻の嵐の中、波と雨に打たれながらサファギンの群れと戦っていたのだ。身に付けている衣服と防具は水を吸って重くなり、体は毛先から爪先までもがびっしょりと濡れてしまっている。

 全身を隈無く襲う不快感と寒さは、さしものか・みであっても耐えかねるもの。耐え難い感覚に耐えつつ他の乗客が船から降り、波止場から利用客たちが船に乗り込む様子を眺めること10分。

 

「出港15分前です!乗船の方はお急ぎ下さい!」

 

 人の出入りが落ち着いて来た頃合いを見計らい、ようやく船首から甲板へと降り立つ。足が着くと同時に濡れた髪と水を含んだ衣服から雫が落ち、木製の床を叩く音も響く。先ほどまで座っていた部分には水が深く染み込み、波と雨に濡れた他の部分よりも色が濃くなっているのが分かる。

 

「ああ……服が重い……」

 

 重苦しい足取りでスロープを降り、利用料金を支払って港から出ると、《アコ・ナハ》ほどではないが活気のある港町が見えて来た。

 

「とりあえず風呂……」

 

 うざったく視界を覆う前髪を掻きあげ、決して狭くはない道をまるで迷いもなく走る。とにかく風呂に入って身を清めたいのも理由だが、この《蛇神島アマミ》には利用できる宿が一ヶ所しかない。だからここにいるかも知れない他のプレイヤーがチェックアウトする前に到着しておきたいのだ。

 

「えーと、どこだっけ……」

 

 (つまず)きそうになりつつ人でごった返す道を進み、十字路の中央から周囲の建物を見回して目的の宿を探す。きょろきょろとあたりを見回していると、人と人の間からちらりと覗く一枚の看板が見える。

 

「あった!」

 

 か・みはすぐに人が密集する十字路から離れ、《木亭宿》なる宿の入り口に立つ。そして気合いをように頬を両手で挟むように叩き、引戸を開ける。

 

「ごめんくださーい」

「いらっしゃいませ!お食事でしたらお近くのカウンターへどうぞ!」

「宿泊ですか?お部屋は空いております」

 

 引戸の先に広がっていたのは異様な光景だった。入り口から向かって右側のカウンターで宿泊表の確認をする者、円形の盆に料理や食器を乗せて運ぶ者、床やテーブルの掃除をする者、そして今自身に対応した者など、つまり大地人たちにはこれと言った異変はない。

 問題は食事席で項垂(うなだ)れる十数人の男女である。か・みは少し引き気味に苦笑いを浮かべつつ、まずは風呂だとばかりに宿へと入る。

 

(……遊んでただけなのに急にこんなことになればこうもなるよね)

 

 この《ナゼの町》にいる冒険者、つまり自分と同じプレイヤーたちは完全に意気消沈していた。帰る方法もまだ分からない、料理は微妙な味しかしない、モンスターと戦う覚悟もない、おまけに死ぬことさえもできないともなれば絶望するのは当然。

 

「帰りたい……」

 

 呟く男の声には耳を貸さず、手早く宿泊手続きを終えるとまっすぐに風呂場に向かった。

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