01
ここは《ナゼの港町》中心に位置する宿、《木亭宿》内部の風呂場。がらんとした風呂場の洗い場で、か・みはその身を清めている。
「うっわ~塩がべっとり……これ現実だったら間違いなくかぶれちゃうな」
エルダー・テイルにおけるバッドステータス、つまり状態異常を打ち消すには、バッドステータスの効果を打ち消すアイテムまたは特技を使うか、戦闘を終えた後に指定の施設で治療を受ける必要がある。
対して防具は一度持ち物に入れてしまえば、きれいに整えられた状態で取り出すことができる仕様になっている。
先刻の船上での戦闘ではゲームのシステム上のバッドステータスこそ受けていないが、体か汚れることから来る不快感はある種の状態異常と言えるだろう。
「ふう……大分きれいになったかな?」
肌から垢を残らず擦り落とし、今度は頭を洗おうと湯桶に湛えた湯を被った。
02
「か・み?」
場面は変わり、《アキバの街》*1。街の外へと繋がる道を二人の青年が歩いている。一人は細身の丸眼鏡をかけた《
「シロも忘れてないだろ?《死霊ヶ原》、《ヘイロース》、《黄泉津比良坂大空洞》*2。《茶会》に居た頃に攻略したダンジョン全部に必ず名前があったんだからな」
鎧の青年【
「【カナミ】さんが目標にしてた人だよね。やっと思い出したよ」
そしてシロエの言うカナミはかつて自身と直継も所属していた僅か27名という少人数でありながら、日本サーバーはおろか海外の有力戦闘系ギルドと肩を並べるほどの功績を打ち立て、解散して2年が経った現在も「伝説のプレイヤー集団」として語り継がれるレイドパーティ、《
「そうだろ?というわけでか・みについて相談があるんだが……」
シロエ自身数多くのプレイヤーたちとパーティーを組んでクエストを攻略して来たが、少なくとも過去に訪れた難関ダンジョンやクエストの攻略者リストの中に、か・みの名を見なかったことは一度としてない。だが、何故突然直継の口からこのビッグネームが出たのかには疑問符が浮かぶ。
「まさかか・みを探すの?日本サーバーにいないかもしれないのに?」
ハーフガイア・プロジェクトに基づいて生成された《セルデシア》のマップの総面積は地球の表面積の半分にもおよぶ。この広大な世界からどこにいるかも分からない人物を探すなど途方もない労力を要するのだが、シロエの疑問な対し直継は真剣な表情で答える。
「いや、別に俺たちだけで探すわけじゃない。アキバの街に海外サーバーから遠征してきた奴らがいただろ?」
か・みは国内サーバーのプレイヤーとフレンド登録をしていないのは周知の事実。ならば海外サーバーのプレイヤーとフレンド登録をしている可能性に賭けようというのが直継の案だった。しかし《茶会》の解散と同時期に活動休止状態になった直継に対し、直継がログインしなかった2年間のエルダー・テイルの変化を知るシロエは断言する。
「いや、望み薄なんじゃないかな」
そもそも本人は他のプレイヤーと触れ合うことを嫌う性分であるとされ、どんな姿のアバターなのか、どんな職業なのかは全くわかっていない。
言語の通じない地域も多い外国ともなればなおさらだ。
「そっかぁ……個人的にはいいアイデア祭りだったんだけどなぁ……」
直継は肩を落とし、その場に膝を着いて呟いた。