(仮題)エルダー・テイルのソロプレイヤー   作:御代川辰

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北上
はじめまして


01

「…………やっぱり風呂は嫌いだな…………」

 

 入浴によってHPが回復したのを確認して風呂を上がり、まだ濡れている部分が残る体を拭きながら脱衣場に戻ったか・みは、そのまま洗面所に向かって足を進める。

 

「……でも、誰もいなくてよかった」

 

 独り言を呟きながら、タオルの下から見える自分の体を少し見て目を細め、鏡の前に立ってもう一度ため息を吐く。バスタオルを細身の体躯を隠すように肩にかけ、そして肩にかかる長さの白髪混じりの茶髪は後頭部に束ねて、ゆっくり顔を横に振ってタオルを手に持つ。

 

(まさか()()は現実基準とはね……痛みがなかったからすぐに気付けなかった)

 

 胸元から腹にかけて、体に付着している水滴を丁寧に拭き取る。タオルに隠れている腹の部分には、大きな傷跡が刻み込まれている。

 

「ばれないようにしなきゃ」

 

 そして肌と髪を拭き終わり、ステータス画面を開いて衣服を身に付けた。

 

 

 

02

 

「はあ……なんでこんなことに……」

 

 《木亭宿》の食事場のテーブルに突っ伏す猫人族(ウェアキャット)の《吟遊詩人(バード)》、【あんまろん】はため息じりに呟いた。彼女は日本サーバー内でもそこそこの知名度がある中堅ギルド《Love On the Marine》のギルドマスターである。

 

「あんまさん、気を持ち直してくださいよ」

 

 彼女もまたギルドメンバーの半数を引き連れて《アマミ》に訪れた際に大災害に巻き込まれた被害者の一人であり、クエスト攻略直後の帰還中にこちらに来てしまった次第である。

 

「急にこんな目に遭うなんて誰も思わないでしょう?」

 

 あんまろんはギルドメンバーからの声掛けに対しわずかに反応するが、少し顔を持ち上げただけですぐに愚痴を吐いて顔を隠してしまう。エルダー・テイルという見知った環境であっても、それはあくまでパソコン画面という媒体を介した虚構の産物。

 突然世界が変われば精神的に追い詰められるのは当然である。

 

「【マリエール】ちゃんのとことは連絡取れたけどあの子たちアキバだしい……」

 

 《ナインテイル》から南西に離れた島嶼地域、それもほとんど僻地(へきち)に等しい場所にいる彼女たちにとって、大災害後もフレンドリストの念話(ボイスチャット)を通じた連絡網が生きていたのは救いだったのだが、それでも「物理的距離」と「危険地帯」が障壁となり助けが望めないのは痛い。

 

「ロンダーくんに至ってはガラの悪いコとつるんでるみたいで頼れそうにないし……もう最悪!」

 

 彼女がフレンド登録しているプレイヤーたちはほとんどが《アキバ》や《ススキノ》*1と言った《ナカス》から離れた都市でログインしており、さらに大災害発生から半日も過ぎていないにも関わらず治安が末期の水準にまで悪化している場所もあるという。

 混沌極まる状況に放り出された他人に、「自分が困っているから」と助けを求めるなどおこがましい。このようなネガティブな思考に辿り着くのも、今となっては合点(がてん)納得できてしまう。

 

「【ロンダーク】はもともとそういう奴。諦めてくりゃれ」

「はあ……誰が予想できるかっつの」

「死ねばナカスの大聖堂で復活できると思うんだけど、自殺する勇気なんてないわ……」

 

 ギルドメンバーたちも完全に救助を諦めており、彼女たちの《ナカス》帰還は絶望的かと思われたその時。

 一人の声をかける者の影が現れた。

 

「やあ、はじめまして」

*1
現実の北海道札幌市すすきの

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