(仮題)エルダー・テイルのソロプレイヤー   作:御代川辰

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闘いの変異

「えっ?……あ、はい!アマミ限定のクエストでダンジョン攻略をしたんですけど、その帰りに……」

 

 何か情報を与えられると思った矢先の質問に、あんまろんは思わず素直に返答した。言葉尻で「しまった」と思い慌てて口元を隠すが、か・みは「いいよ」と少し微笑みながら(うなず)いて続ける。

 

「それで?生まれて初めて、アバターじゃなくて()()()()()()()で、モンスターを相手に戦った感想は?」

 

 か・みの方を見る冒険者たちは彼が楽しげに問い質している様子に底知れない恐ろしさを感じ、さらに緊張する。

 「か・みはただ者ではない」ことなど、自分たちがこのエルダー・テイルの世界に来る前から知っていたはずなのに、本物を見ると嫌でも確信できる。

 

「怖かった……その、本当にすごく怖かったです……がむしゃらに逃げることしかできないくらい……」

 

 Love On the Marineのギルドメンバーの一人、【オールト=アーザン】が声を震えさせながら答える。彼の脳裏には蛇型のモンスターが逃げ走る自分の真上から現れ、喉首に噛みつこうと跳躍した瞬間の記憶が再生されており、その時の記憶はトラウマになっているらしく呼吸も荒い。

 

「そう、怖いとか不安とか。初めて向き合うものから逃げたいって思うのが、普通の人間の感覚だよ」

 

 か・みはその通りとばかりに首肯し、オールトは小さく息を吐いて椅子の背(もた)れに背を着けた。今までパソコンの向こう側のアバターが戦っていたものだった存在が、生身で相対して戦わなければならない相手になるという事実は実際に腰が抜ける程の恐ろしさと言うことだろう。

 

「逃げる途中で戦ったのなら、技を使うのにコマンド操作をしたのかな?」

 

 自分のステータス画面を操作しながら、さらに問いを続ける。

 あんまろんと彼女のパーティメンバーはこくこくと(うなず)き、他の冒険者たちは首を(かし)げた。

 

「パニック状態でまともなコマンド操作なんかできやしないわ……」

 

 《付与術師(エンチャンター)》の法儀族(イレズミ)の女性が答える。こちらは味方全体の攻撃力強化の魔法を選んだつもりが、パニックのあまり敵全体の拘束の効果を持つ魔法を繰り返し選択するという失態を犯していた。

 

「コマンド操作に関してはターン制じゃないから尚更難しい案件だね。戦闘中にステータス画面を操作するなんて、ただでさえ視界が狭くなるのに効率が悪すぎる」

 

 戦闘時のコマンドメニューもパソコンの画面にまとめて表示されているのであれば、敵と自分と味方の姿、そして各自の現在の状況を一目で確認できるので大きな支障はない。

 そして何よりエルダー・テイル自体がパソコンゲームと言うこともあり、マウスとキーボードを介した手指の動きだけで大部分の操作が可能なため、原則として基本操作の更新頻度が少ないことが最大の特徴として認知されている。

 

「でも実際のところは、技を使うのにコマンドを操作する必要がないかも知れないんだ」

 

 彼の口から飛び出した言葉に一同は目を見開いた。

 

「おい、それ!…………本気で言ってんのか?」

 

 ドワーフの男が勢いよく立ち上がってか・みを指差し、すぐに我に返りその手を震わせながら問いかける。コマンド操作なしで特技や魔法を使えるのなら、なぜ今まで思い浮かばなかったのか。

 多く創作物に触れる機会がありながら、なぜ気付かなかったのかと生身でのモンスターとの戦闘を経験した冒険者たちは自問する。

 

「実際に試してないから確証はないけどね」

 

 「コマンド操作なしでの技の発動」が可能か否かはまだ分からない。彼は口から出任(でまか)せを述べられるほど狡猾(ずるがしこ)くはないし、しかし思い付きで嘘を吐くような男でもない。

 どうせまだ試していないのだ、結果など後で確かめれば良いだけのこと。

 

「だからさ……ちょっと狩り(闘い)に行ってみようか」

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