(仮題)エルダー・テイルのソロプレイヤー   作:御代川辰

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指南

01

 鬱蒼(うっそう)とした森の中を、十八の影が列を成して進んで行く。先頭を進んでいるのは神主を思わせる装束の男、その後ろを追うのは鎧やローブなど、およそ統一性のない雑多な衣服を身に(まと)う男女。

 

「なあ、大分(だいぶ)歩いた気がするんだけど……」

 

 列の中心に近い位置を歩く(しん)は、周囲を見回しながら先頭を行くか・みに問いかける。ここまで一度としてモンスターと遭遇していないからだ。

 

「うん。一番安全なルートを選んだから」

 

 一度背後に振り返り、()ました表情で答える。か・みとしても下手に難易度の高いルートを通って味方を減らしたくはない。それゆえの選択である。

 だが一同は疑問をもう一つ抱えている。

 

「あの……情報交換の件は……?」

「正直に言ってどうでもよくなっちゃったから自分で確かめることにするよ」

 

 この答えが全て。やはり信じ過ぎてはならない人間だと思い知ったプレイヤーたちなのであった。

 

 

 

02

 

 地上を這う木の根と小さな草花に彩られた道をひたすら歩き続け、一行は遂に目的地に到着する。

 

「ここで一度止まって」

 

 時刻にして午後5時30分頃、か・みと彼が引率するプレイヤーたちの姿は《ナゼの街》から2km程度離れた森の中 央付近にあった。日はすでに(かたむ)いて(あか)(かがや)きを放っており、(だいだい)色に染まりつつある空には半月が見えている。

 

「ほら、あれが見える?」

 

 か・みが指差す先の(ひら)けた草原(くさはら)には、平均15レベル程度の比較的弱い蛇型モンスター【リトルマンバ】が十匹程度の群れを成しているのが見える。

 あんまろんと彼女のパーティメンバーは後退(あとずさ)りし、他の者は身震いしながら固唾(かたず)を飲む。

 

「マジか……パソコンでやってた頃は何とも思わなかったが、(なま)で見るとやっぱやべぇな……」

 

 呟いたのはドワーフの《武士(サムライ)》【加瀬(かせ)切政(きりまさ)】。初めて目の当たりにする本物のモンスターたちを目の前にして、2mを優に越える身の(たけ)にも劣らぬ大太刀(おおたち)ががちゃがちゃと音を発する程に体を震わせ、全身から冷や汗を(たら)しながら歯を食いしばっている。

 

「落ちついて。君と相手とのレベル差は50だから、冷静に急所を狙えば通常攻撃でも一殺(いちころ)だよ」

 

 甲冑越しに切政(きりまさ)の肩を叩き、後ろの者たちにも目配せをして緊張を解そうと声をかけるが、やはり恐怖心があるのか座り込んで膝を抱え込む者もいる。

 膝を抱える女を見てか・みは仕方がないと溜め息を一つ吐き、彼女と向かい合うようにして立つもう一人の施療神官(クレリック)の少女に声をかけた。

 

「【アンネ】ちゃん、切政(きりまさ)くんとペアを組んでくれる?」

 

 アンネはいきなり指名されたことで困惑しつつ、運動による体温の上昇で少し頬が赤く染まったままこくこくと(うなず)いて切政(きりまさ)の隣まで移動する。

 自らの目の前に並び立つ二人に対し、両者の装備を見て指示を続ける。

 

「まずは、ぼくが手本を見せるからね」

 

 目を閉じて深く息を吸い、“小太刀”〘朱鷺雛(ときのひな)〙の(つか)に手を添え、左足を後ろに退()いて(そな)える。その場の全員が緊張しながら見守る中、か・みは移動先へと意識を定めて前傾姿勢をとり一度息を止める。

 

「〔飛び梅の術〕」

 

 小さく呟いたその瞬間に姿が消え、モンスターの群れがいる草原(くさはら)のど真ん中に現れた。この事実に一同は(おどろ)きを隠せない。

 

(嘘だろ!?コマンド操作無しで技が使えるってマジなのかよ!?)

 

 (しん)は少し先の広場で繰り広げられる戦闘の様子に戦慄する。通常攻撃で斬り付けると見せかけ〔勾玉(まがたま)神呪(かじり)〕で倒し、その直後に〔露払い(アシストアタック)〕で後ろから近付く敵を遠ざけたかと思えば、今度は〔竜口(たつぐち)流水(りゅうすい)〕で二匹同時に絶命させる。

 その後一匹、更にまた一匹まさに流れるような彼の動作は、野獣の如く荒々しい。その荒々しく芝居掛かった蹂躙劇は、60秒と待たずにあっさりと終わった。

 

「…………いきなりあれをしろなんて無理難題は言わないよな?」

「目下の目標はモンスターと戦うことに慣れることだからね。ぼくの真似をするなんて無茶は許さないよ」

 

 か・みは切政(きりまさ)がやっと紡いだ言葉を即座に否定し、プレイヤーたちは安堵の溜め息を吐く。一方のアンネは手に握る祈棍(メイス)に力を込め、緊張を(やわ)らげようとするが息は荒くなるばかり。

 しかし何故か恐怖心は薄れてゆく。隣を見ても少し顔を強張(こわば)らせた切政(きりまさ)が立っているだけなのだが、不思議と安心感を覚えてしまう。

 

「次のモンスターが現れる前にアドバイスを一つ教えるよ」

 

 アンネと切政(きりまさ)の間を抜けて草原の方へもう一度近付くと、か・みは全員に向き直って一言告げる。

 

「コマンド操作無しで技を使う時は、“()()()()使()()”と念じながら動作をすること。動きは大雑把でいいから、冷静にね」

 

 言葉を切ったか・みの目には、やはり溢れんばかりの自信が浮かんでいる。後ろを振り返ってモンスターがリスポーンしたのを確認すると、早速切政(きりまさ)とアンネに促す。

 

「レベル差があるから大丈夫だと思うけど、ぼくが危ないと判断したら必ず助けるから」

「お……おうっ」

「……はい……頑張ります!」

 

 答える二人の肩を力一杯叩き、喝を入れて送り出した。




アンネの装備
修道女の祈棍(ナンズメイス)
杉製の柄、錫と鉄の合金製の頭部からなる全長1m30cm程度の小さなメイス。
アンネが自作した製作級のアイテムであるため、特筆すべき性能や効果はない。
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