その頃の草原では切政とアンネが12匹のリトルマンバを相手取り、今まさに戦闘が始まっていた。リトルマンバたちは一斉に鎌首を持ち上げて牙を剥き出しにし、シャーッと威嚇音を響かせて二人を牽制しており、対する切政はアンネの視界に死角を作らないよう前傾姿勢で居合の間合いを測り、彼の立つ位置から3メートルほど後ろに陣取るアンネは、悩みながらも〔サンクチュアリ〕をコマンドから選択した。
(落ち着け……コマンド操作なしで技を使うだけだ……)
他方、切政は威嚇を続ける蛇を相手に姿勢を崩さず、自分がこれから使う技のイメージを現実の体の動きに重ねて刀を抜こうと手を動かす。その動きを好機と見たのか、最初に行動を起こしたのはモンスターだ。
「っ……〔疾風薙ぎ〕…………! 」
リトルマンバの一匹が自分自身の喉首を目掛けて噛みつこうと跳躍した瞬間、一瞬臆して避けそうになるも足を踏ん張って持ちこたえる。そして……
「〔一文字〕!」
掛け声とともに目にも止まらぬ居合い抜きが放たれ、モンスターが一匹泡となって四散した。思わず「やった」と足を止めそうになるが、残る11匹もの敵を前に隙を見せるわけにはいかない。
すかさず特大の大太刀を上段に構え、正面から飛びかかって来る蛇三匹に向かって斬りかかる。
「〔嵐打ち十文字〕!」
まず縦一文字を描くように勢いよく刀振り下ろし、顔に飛び付こうとしていた一匹を両断。続いてそれぞれ肩と喉に攻撃しようとする二匹を、左から右へ横薙ぎに切り払って倒す。これで残るは七匹。
ここまでは切政が優勢で、およそ大きな失敗は見られない。しかしアンネの安全を確保するべく、元いた地点への移動のために振り返った瞬間、その隙を吐いたリトルマンバの一匹が首筋に噛みついた。
「うおっ!?このっ!」
近付いて来るモンスターたちを刀を振り回して牽制し、同時に左手を背中側に伸ばして蛇を引き剥がそうとする。
この時の噛み付きと継続ダメージはすでにHPを200ほど削っており、すでにリトルマンバの毒に侵されていることが分かる。
「切政さんっ!?」
アンネは切政がリトルマンバに噛み付かれた瞬間を目の当たりにし、初めて自身のサボタージュに気付き、慌てて魔法を発動した。
「〔サンクチュアリ〕!」
レベルこそ低いながらもギルドメンバーとして大規模戦闘に駆り出されていただけあり、アンネ自身はこの手の戦闘に慣れているという自負がある。だが味方が一人しかいない中範囲内の味方の防御力上昇と引き換えに、自分の動きを大幅に制限してしまう〔サンクチュアリ〕を選んでしまったのは致命的な判断ミスであった。
「〔禊ぎの障壁〕」
他の個体と戦う切政を無視し、自身に迫るリトルマンバに対処できなかったのだ。動けないまま真横から喉に噛み付かれる寸前のところでか・みに助けられ、障壁に阻まれたことで動きを止めたモンスターは切政に倒される。
「使う技は何となくで選んじゃダメ。悩む暇があったら状況をもっと良く見て考えて」
か・みは短く説教し、二人の安否の確認を終えると草原から姿を消した。