か・みの姿が消えると同時に〔禊ぎの障壁〕も消滅し、その場にいる人間は再び二人となる。モンスターの攻撃に対処できず助けられてなお放心していたアンネは、か・みの言葉を無意識のうちに復唱してやっと我を取り戻した。
そして何かを確信したように頷いた後、先ほどまで迷いに迷っていたことを忘れるかのように切り結んだ表情で改めて正面に向き直る。脱力したことでだらりと下がった左手で握っていただけの祈棍を、今度は両手で持つように構え直し、自らを背にしてリトルマンバとの間合いを測る切政へと狙いを定める。
(さんざん迷った挙げ句に何となく選んだ〔サンクチュアリ〕……さっきはこれで失敗して、か・みさんに助けられた)
切政は毒のバッドステータスを被ったことで継続ダメージを受けており、HPが少しずつ削られつつある。もちろん彼を責める気など毛頭なく、全ての責任は自分にあることなど自覚しているし、もう同じ失敗を繰り返す訳にはいかないことも留意している。
ここはエルダー・テイルではなく、パソコンのモニター越しにアバターを戦わせるのではない。ここは現実で、モンスターと戦うのは自分自身。失敗は許されない。
(だから、今度こそ成功させる!枷にならないように!)
ゆっくりと目を閉じて祈棍を高く掲げ、祈るような姿勢をとって満身の意識を込める。察していたのかただの勘なのか、彼女が特技を使おうと事前動作をすると同時に切政も後ろへと飛び退き、自分たち二人を囲むリトルマンバの群れからアンネを守るように大太刀を構え直す。
「〔淨化の陽光〕!」
アンネは切政が再び地面を踏み込むのを合図に、かっと大きく目を開き祈棍を地面に突き立てた瞬間、祈棍の先端から眩いばかりの白い光が放たれた。
彼女が放った〔淨化の陽光〕は自分を除く味方一人の状態異常を完全に取り除き、さらにその後3分の間攻撃を一回当てる度、与えたダメージ分の10%ずつのHPを回復する効果を持つ支援魔法である。
僅か20レベルという極めて低い段階で覚えられる初心者向けの特技だが、大規模戦闘での使用を前提に作られているためにベテランのプレイヤーほど使用頻度が多い。切政のステータス状況を自分の目で確かめ、最善と判断し選び取った一手だ。
「助かるぜ!〔疾風薙ぎ一文字〕!」
遅れに遅れたが、的確な支援を受けたことでHPの減少が止まったのを確認し、攻撃を再開する切政。残る敵は6匹になり、アンネも積極的に行動を起こすようになった。
迫るリトルマンバの一匹を通常攻撃で倒し、二匹目の攻撃は回避。切政の後ろに回ったモンスターは〔ヒーリングフォージ〕で打ち倒す。
そして切政は残ったモンスター全てを通常攻撃で撃破する。
「一組目終わり!お疲れ様」
最後のリトルマンバが空に散ったのを合図に、二人の耳にか・みの声が響いた。