(仮題)エルダー・テイルのソロプレイヤー   作:御代川辰

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幕間 Deva Akasha

 か・みたちが訓練をしている《蛇神島アマミ》からはるか北東に離れた《アキバ》。プレイヤーズタウンとも呼ばれるこのアキバにおいて、まさしく“街の顔”と呼ぶべき施設《アキバギルド会館》の一室に設えられた会議室。

 その内部には実に200人超もの男女が集まり、皆緊張した面持ちで長机を挟むように並べられた席に座っている。そして時計が午後0時を示すと同時に、入り口に向かって座る《召喚術師(サモナー)》が立ち上がり全員に一礼し、言葉を述べた。

 

「これより、我ら《Deva(デーヴァ) Akasha(アーカーシャ)》調査班による調査発表を始める」

 

 人間(ヒューマン)召喚術師(サモナー)、【ヤマ】の宣言を合図に一同が立ち上がり彼に向かって一礼、そして全員が同時に席に着く。

 

「今回の題目は他でもない。今日の正午に発生した、今我々がここにいる原因である“アサーマニー・アパダ(並みならざる災い)”に関わるものだ」

 

 ヤマは各々の席に並べた資料に目を通すよう促し、自身も資料を手に説明を始める。

 

「時間不足とモチベーションの問題で調査範囲はアキバ内とその周辺半径2km以内に(とど)まったが、今回の簡易調査で分かったことは大まかに分けて二つある」

 

 ヤマが指示していた調査の結果の内、まず一つ目に判明したのは「アキバの周辺では大きな変化が確認できないこと」。今回の拡張パッケージであるノウアスフィアの開墾の内容を捕捉すると、「1.新モンスターの追加」、「2.ゾーンの追加」、「3.新イベント、新クエストの追加」、「4.レベル上限の更新」、「5.特技、スキルの追加」の計五つに渡る大規模なシステム更新が実施済みである。

 この内「アキバ周辺の変化」に該当するのは1、2、3であり、調査範囲が狭すぎたことで新モンスターは発見できず、同じ理由でゾーンにも変容らしい変容は見られず、アキバギルド会館で新クエストの存在は確認できたものの、内容の詳細がなく発生条件さえも分からない状態。

 そのため「現状は拡張パック導入前と実質的に変化なし」という結論に至ったと言う。

 

「意見よろしいでしょうか」

 

 一つ目の報告を終えると同時に豪奢な鎧を纏う法儀族(イレズミ)の青年が挙手し、その様子を確認したヤマが手を向けて起立を促す。青年は小さく頭を下げると、椅子を後ろに引いてゆっくりと立ち上がりヤマに自身の意見を述べ始める。

 

「今回のアップデートで新しく追加されたモンスターやゾーンがアキバ周辺で確認できなかったこということは、システムの更新はまだ始まったばかりであり、現在は拡張パッケージの適用準備期間であると認識するべきではないでしょうか?」

 

 つまりゲーム内容の更新情報が発表されているにも関わらずその結果が確認できないのは、まだアップデートを施行しただけであり内容の反映に至っていない状態。要約して例えるならば「飲んだ薬がまだ効果を出していない」とするべきであろうか。

 

「なるほど。要するに拡張パッケージの内容の一部は既に実行されているが、他の内容が何時(いつ)実行されるのかが分からぬと。()()()()()()が理由としては納得がいくな」

 

 ギルドの幹部と(おぼ)しき狼牙族(ウルフヘア)の老人がうんうんと(うなず)き、他のメンバーも納得したように各々声をあげる。

 

「だが今(わし)が“可能性が低い”と言った通り、この“アサーマニー・アパダ(並みならざる災い)”に巻き込まれてからまだ半日と()っていないことを忘れてはならぬ」

 

 老人がぴしゃりと言い放つと場は水を打ったように静まり返り、ギルドメンバーたちは再び背筋(せすじ)を正す。青年も彼に合わせ、警告ともとれる言葉を続ける。

 

「はい。ノウアスフィアの開墾が実施されたのは今日ですが、この拡張パック導入に伴って発生した世界の変化はまだ二つだけ……」

 

 アップデート時にログインしていたプレイヤーが()()()()()エルダー・テイルの世界に転移したことと、エルダー・テイルの世界における時間の流れが現実世界の地球と同じになったことだ。

 更なる調査を進めなければ詳細を知ることができない以上、組織以上の単位での行動が求められるのは必定と言える。

 

「もう一つは安全地帯の範囲内の戦闘行為に関して」

 

 衛兵は都市などの安全地帯で戦闘、または戦闘行為に準ずる行動をした時にのみ出現する特殊なNPCで、その役割は「戦闘禁止区域で戦闘を行ったプレイヤーの排除」である。

 全身を覆う独特なデザインの鎧兜は強い威圧感を醸しており、さらに冒険者の装備品を大きく上回る性能を持つ武器と極めて高い数値のステータスを誇っており、出現した際の絶望感から「処刑人」や「監視者」などと揶揄されている。

 

「極めて重大な案件だ。衛兵の出現条件が、ノウアスフィアの開墾を導入する前と比較して…………明らかに緩和されている」

 

 どよめきが広がる。より詳しく説明すると、これまで戦闘禁止ゾーンでは“通常攻撃”の動作や“攻撃コマンド表示”など戦闘に直接関わる操作をした時点で衛兵が出現し、「戦闘行為の中止と退去」を求める警告メッセージがパソコン画面に表示されていた。

 当然ながら再度通常攻撃を実行したり特技を使用するなどすれば、警告無視と見なされ強制的に排除される。要するに()()()()()()時点で脅威と見なされるということになる。

 

「緩和されたと言うのは、具体的にどういうことですか?」

「簡潔に言うなら、“直接かつ明確な傷害”が()()()()()()暴行が衛兵出現の対象外になってしまっている」

 

 さらに詳細に説明すると“拘束”やダメージを受けない程度の“殴打”、建造物や周辺の人物に被害が及ばない程度の“投石”では衛兵が出現しない。さらには装備した武器を“他人に向けるだけの行為”すらも戦闘行為の対象外であり、衛兵の出現条件に達しないという異常としか言い様のない有り様だと言う。

 

「これでは、やはり……」

 

 表すならば不安。この一言に尽きる。

 

「ああ。早く対策を採らなければ、治安は悪化する一途だ」




Deva Akasha(デーヴァ・アーカーシャ)

概要
インドサーバー最多にして、世界第四位のメンバー数を誇る多目的複合ギルド。
ギルドマスターは“猛禽龍”とあだ名される凄腕プレイヤー【エーカム・ガルダ】。今回登場したヤマは日本サーバー遠征組の総司令官兼最高責任者で、こちらも現地で“ヤマ・ラジャ”と通称される有名プレイヤー。

備考
大神山サマルカタ序盤エリアの難易度調整システム導入の原因となったか・みを「バランスブレイカー」として怨んでいる。
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