(仮題)エルダー・テイルのソロプレイヤー   作:御代川辰

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アキバの施療神官(クレリック)/船出前

01

 “大災害”から一夜明け、ノウアスフィアの開墾の導入日から二日目の朝を迎えた《アキバ》の街。この街の顔と呼ぶべき施設《アキバギルド会館》の一室に、一人のエルフの女性が居る。

 

「ああ、今後どないしょう……シロ坊とは直接会えたからええけど、他の子ぉらがほんま心配やわ……」

 

 その女性は浮き足だった様子で部屋を歩き回り、自身の知人たちの安否が分からないことへの不安を吐露(とろ)する。

 彼女の名は【マリエール】。アキバを拠点とする小規模ギルド《三日月同盟》のギルドマスターであり、今回の大災害に巻き込まれたプレイヤーの一人。

 そして部屋のソファには同じく大災害に巻き込まれ不安に(さいな)まれているであろうにも関わらず、そわそわと落ち着きのないマリエールの(かたわら)に寄り添うようにとても世界観に合わない眼鏡とスーツ、タイトスカートを身に付けた女が、厳しい表情で眉一つ動かさず座っている。

 

「なあ、【ヘンリエッタ】。夕べからあんまちゃんが全然念話に出てくれへんのやけど……」

 

 おろおろと目に見えて焦りが見える様子でソファに座るヘンリエッタに話しかければ、振り返る彼女もまた物憂げな表情で答えた。

 

「大丈夫だとは思います。……が……(わたくし)も心配です……」

 

 同時に溜め息を一つ。この世界に閉じ込められてからまだ一日目。否、既に一日が経過した今、行く先見えぬ状況に不安は募るばかり。しかし街には何時敵になるか分からない同じくこの世界に捕らわれたプレイヤー、更に街の外には人を見境なく襲うモンスターという二重の障壁が待ち受けている。

 下手な紛争地域よりも遥かに危険な人口密集地と化したこの《アキバ》にあっては、如何に90レベルというベテランであってもとても行動を起こす勇気などない。

 

「…………ほんまに、こがな時どうすればええんやろな……」

 

 マリエールがヘンリエッタの向かいに座り、再び溜め息を吐いた時、独特な音楽とともに小さな画面が現れた。

 画面に表示されていたのは、昨日一度だけマリエールと連絡を取ったあんまろんの名であった。

 

 

 

02

 

「集まったな?出港前に航路の説明をしておく」

 

 時間は(さかのぼ)り、早朝のヤマト南西部。《蛇神島アマミ・ナゼの港》に停泊している私用船(プライベートボート)の一室には、か・みを臨時のリーダーとした計18人のパーティが集まっている。18人のうち二人は部屋の奥に置かれた黒板の両脇に立ち、残る16人は黒板と黒板に張り付けられた地図へと視線を向けて座っている。

 

「詳細は追って説明するが、まずこの航路は昨夜の星(うらな)いで決めた」

 

 Sutch(サッチ)☆は、自分とか・みが昨夜の占いの結果に基づいて試行錯誤し、最終的に最善の結果を示すと予測した航路を地図上に引く。

 その線は《ナゼの港》から延び、東から西へ弧の字を描いて《雨林島ウーベルフェルセン》*1で一度止まり、丸印で囲み「一日停泊」と書かれた。そして《森林島イヤク》を無視して南を進み、《神代島ジャクセア》*2の南端にさらに丸印。

 そしてジャクセアを縦断した上で北端から再度出発し、最後に《火山島カラスス》の西へ進み《イスルガルフ公爵領サツマ》*3の入り口である《フォウンスポート》*4へと入る流れとなっている。

 

「航路の説明は以上だ。ここまでで何か質問あるか?」

 

 一度線を引き終えて振り返り、一同に声をかける。

 

「最短中継点地点になるイヤクをわざわざ迂回する理由を教えてくれ」

 

 すかさず一人目が問いかけて来たのを確かめると、Sutch(サッチ)☆はまず筆を納めた上で地図上のイヤクを指差し、次いでその指先をカラススへとずらして説明を続けた。

 

「本当ならイヤクの前に《瘴気島シアーフィ》*5で休憩を挟んで九日と半日程度で《カラスス》に向かう予定だったんだが、生憎(あいにく)凶方位と凶座標が重なっててな」

 

 Sutch(サッチ)☆が言葉を切ると、今度はか・みが北北東と北を示す赤い線を引き、そして《シアーフィ》、《イヤク》、《カラスス》を赤い円で囲みさらに説明を続ける。

 

「所要期間十二日の長旅になるけど、不要な戦闘を最低限に(おさ)えて《ナインテイル自治領》に上陸するにはこの航路しかなかったからね」

 

 二人は一度部屋の方へと視線を戻し、全員が話を聞いていることを確認するともう一度地図に視線を移す。この時航路を示す線の両端、つまり《ナゼの港》と《フォウンスポート》の部分に大きく点を記して強調する。

 

「もちろん吉方位が安全とは言わない。特にこの辺りはな」

 

 筆を持ち変えて《ジャクセア》の中央部分にバツ印を書き込み、「要注意地帯」と書き加える。

 

「拡張パック導入前に告知されてた新しいレイドモンスターの出現ゾーンに選ばれてるから、運が悪ければそいつに襲われる可能性がある」

 

 と、()めた。ノウアスフィアの開墾の施行開始と同時に始まった大災害、そして大災害の二次、三次災害の被害者は計り知れない。どこに居ようと関係なく、理由が何であろうと関係ない。

 

「何度も言うけど、装備とアイテムはしっかり用意しておくように。他に質問は?」

 

 か・みが再び問い質す。本土を目指す船の出港準備が(ととの)えられつつある中、あんまろんは真剣な眼差(まなざ)しで一冊のメモ帳を見つめていた。

*1
現実の鹿児島県悪石島

*2
現実の鹿児島県種子島

*3
現実の鹿児島県西部、薩摩国

*4
現実の鹿児島港北埠頭旅客ターミナル

*5
現実の鹿児島県硫黄島

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