(仮題)エルダー・テイルのソロプレイヤー   作:御代川辰

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応答

「いっ、い、い、今か・みと一緒にいる言うた!?そがいなことあるん!?」

 

 現状マリエールがこの生涯で経験した最大の驚愕は、あんまろんの口からか・みの名を聞いたこと。エルダー・テイルのプレイヤーであればその名を知らない者など一人としておらず、彼の名を知らなければ長年このゲームを愛好しているベテランであっても(にわか)プレイヤーの烙印を押される程の伝説的人物。

 か・みが打ち立てた功績は数知れず、世界広しと言えど単独でレギオンレイド級のボスモンスターを相手取るプレイヤーは彼一人ぐらいのものとさえ言われているのだ。

 そのような実力者が知人の中堅プレイヤーと行動を共にしているという事実は、同じく伝説的プレイヤー集団のメンバーと知り合う程に人脈の広いベテランと言えどとても信じ難いことである。

 もちろんあんまろんも自分が話していることは誰からも疑われる内容であると理解しているため、マリエールのオーバーリアクションに若干ながら同情している。

 

『そうよ。《アマミ》の《ナゼ》で知り合って、成り行きでモンスターとの戦闘指南まで……』

 

 その後はか・みと出会った経緯、そして彼から受けた指導などを事細(ことこま)やかに説明して時間潰しをしていた。またうろ覚えながら大地人の口から耳にしたこの世界に関わる情報や、戦闘経験から得た知識などもマリエールに伝え、情報共有を(はか)ることも忘れない。

 こうして念話を始めてから20分程が過ぎた頃。

 

「ところで、まだ《アマミ》におるんやろ?」

 

 話題もちょうど尽きてきた頃合いを見計らい、マリエールの側から本題を切り出した。長話(ながばなし)(うつつ)を抜かしていて忘れかけていたあんまろんも、 否定してから問いに答える。

 

『もう出港してるわ。これから《ナカス》に戻って、トランスポートゲートでアキバに向かう予定なんだけど……』

 

 この時彼女が発したトランスポートゲートという語に、マリエールは少し悩むような表情をする。そして、思い出したかのようにギルド会館の廊下を歩きだし、少し間を置いて答えを返す。

 

「実はな、そのトランスポートゲートのことなんやけど……」

 

 彼女自身は意識していなくとも、発せられたその声には躊躇(ためら)いと(うれ)いが見え隠れしているのが分かる。途中で言葉を切ったことからも、真実を伝えるべきか(いな)かという迷いがあるのが見てとれる。

 

『マリエールちゃん?』

 

 つい先程まで途切れることなく会話を交わしていたと言うのに、話題を変えた途端突然黙りこくる念話相手に動揺を隠せず、改めて呼び掛けるが呼び掛けられた本人はなかなか答えてくれない。

 

『マリエールちゃん、どうしたのよ』

 

 再度声をかけられ、やっと意を決した。静かに、そして長く息を吐き、心を落ち着けて問いかけに返答する。

 

「ええか?落ち着いてよく聞いてや」

 

 その一言で、両者の間に流れる雰囲気ががらりと変わった。心なしか空気に湿(しめ)()(しょう)じたように、だんだんと呼吸が重くなる錯覚があんまろんを襲う。

 対するマリエールも、体が重くなる感覚に身を(ゆだ)ねながら、その一言を(つむ)ぐ。

 

「今な…………」

 

 

 

 

 

 ────────トランスポートゲートは、動いてへんねん────────

 

 

 

 

 

「へ?」

 

 刹那の沈黙の(のち)、口から漏れたのは(ほう)けたような声。衝撃としか表現できない事実に、完全に放心してしまう。

 

「どういうこと?」

 

 数瞬程度放心していたあんまろんはマリエールから伝えられた言葉を反芻(はんすう)し、何とか心を落ち着けて彼女に問うた。

 一方のマリエールは既にギルド会館の一階にまで降りており、人の(まば)らなエントランスホールのソファに座り込み、一息吐いてから改めて答える。

 

『今朝合流した子から聞いたんやけど、昨日からうんともすんとも言わんのやて』

 

 その表情は哀愁に満ちていた。

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