(仮題)エルダー・テイルのソロプレイヤー   作:御代川辰

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お膝元 その1

01

 南アジアはインドサーバー、《三角半島アヴァニ(Avani)》北東。現実のインド亜大陸の最北にあたる地域に位置する小国《パハード・カ・ペア》*1を見下ろすように聳えるのは、ここインドサーバー有数の難関ダンジョンの一つとして世界のあらゆる有力ギルドが覇を競って来た歴史ある山岳型ダンジョン《大神山(デーヴァ・シューミール)サガルマタ》*2だ。そしてここはデーヴァ・シューミール最大級の難所として君臨する《閉ざされた女神山(デーヴィー・ニカタター・ミール)*3と名付けられたダンジョンである。

 【か・み】はそのパハート・カ・ペア北端にして最高の標高に位置する町、《ヒマ・シャーシャ》*4と《閉ざされた女神山》を隔てる門の、その入り口に立っている。

 

「ふぅ~……」

 

 将助は手を組んで肘を伸ばしながら大きく息を吐き、画面の雪景色の中に一人立つアバターを見遣る。か・みのアバターはメイン職業を神祇官(カンナギ)とし、ビルドは戦御覡(いくさみこ)。サブ職業に風水師(ふうすいし)を添え、種族はハーフアルヴという肉弾戦にもソロプレイにも向かないアンバランスな組み合わせなのだが、将助(まさすけ)本人はこのアバターを自分の理想像として大いに気に入っている。

 

「さあて……」

 

 またアバターの造形と同じく、将助(まさすけ)は《閉ざされた女神山》というダンジョンを執着していると言えるほどに愛しており、インドサーバーに遠征した際には必ず訪れている。

 そして今回の遠征の目的は、ビジャ(Vijaya)ダサミ(Dashami)*5に合わせて開催される定期イベント、〈ドゥルガ神殿の血儀〉の攻略報酬を得ることにある。

 

「一年ぶりの南路北上(なんろほくじょう)

 

 心は燃えていた。昨年のインド遠征の際は、最難関級クエスト〈シヴァとガネーシャの舞踊宴〉の攻略報酬である神牛【ジュヴァーラ(Jvaala)ナンディン(Nandin)】の入手に気を取られてしまい現地プレイヤーに比べて大幅に攻略が遅れてしまったため、今回は雪辱を誓ってのレイドチャレンジとなる。

 

「そろそろ行きますか……女神サマ」

 

 意気揚々とカーソルを動かし、アバターの移動地点を定めてクリックした。

 

 

 

02

 

 将助(まさすけ)の操作の下、か・みは第一ゾーン《アブダ(Arbuda)の岩場》を進む。

 さすが世界最高峰の山をモチーフとしているだけあり、その進路は複雑怪奇な地形を成し、また冒険者(プレイヤー)の道中を邪魔する役割を持つ雑魚モンスターも平均レベルが65を越える強敵ばかり。

 パーティを組んでのダンジョン攻略ですら如何に雑魚モンスターとの会敵を避け、かつアイテムの消費、装備やパラメータの損耗を(おさえ)えて目的地に辿(たど)り着くかが鍵となる。

 それゆえレイドパーティを組んでの攻略が前提となるこのダンジョンで、単独で、それもゲームオーバーせずに踏破を目指そうとすること自体が無謀なのだ。

 

「お!【ハラクパ(Hlakpa)イエティ(Yeti)】発見!」

 

 ただでさえ無謀な挑戦を更に無謀たらしめているのは、か・みもとい将助(まさすけ)が途方もない道草食いという部分にある。

 「目に着いた気になるものは必ず知るべし」を信条とする彼にとって、一度「気になる」と思った物事は未知であっても既知であっても関係ない。

 その信条への盲目ぶりたるや、無邪気にして知識欲旺盛な好奇心の化身と言って差し支えない。

 

「レベル68で毒耐性個体。肩慣らしにはちょうどいいや」

 

 どういう風の吹き回しか、洗礼をするかの如く出現したモンスターは特殊な個体。将助(まさすけ)はますます興味を煽られ、早速アバターに武器を構えさせる。

 一方のハラクパイエティも両手を掲げるように威嚇姿勢をとるが、アイコンから見て既に戦闘態勢に入ったようだ。

 

「いいね。去年の秋が懐かしいよ」

 

 エンターキーの音を合図に、戦いの火蓋が切られた。

*1
現実のネパール国第一~第四州

*2
現実のヒマラヤ山脈

*3
現実のエベレスト山

*4
現実のルクラ

*5
インドの一部の地域、ブータン王国、ネパールなどで催されるヒンドゥーの祝祭

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