(仮題)エルダー・テイルのソロプレイヤー   作:御代川辰

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注意書
原作キャラであるマリエールとヘンリエッタの過去捏造があります。


Unromance

「ふう……長話してもうた……」

 

 あんまろんと一通りの話を終え、別れの挨拶とともに念話を切る。大災害から日が明けて間もないことを加味しても、10時も過ぎた頃だというのにギルド会館への人の出入りは相変わらず(まば)らなまま。

 一度(まぶた)を閉じて視界を(さえぎ)り、再び開いて瞳を周囲に向けても、今自分が視界に収めている景色に変化が現れる事などない。マリエールは失望に近い念を込めてため息を吐き、ソファの背もたれに背を預けて天井を見上げた。

 

(ウチら今後どうしよか……)

 

 心の中で小さくぼやきながら目の前に浮かぶフレンドリストの中央で白く光る【あんまろん】の文字を見やれば、名前欄の下に小さく書かれた《Love On the Marine》の文字も自然に視界に入る。もう一度彼女と念話を繋いで雑談でもしようかと、震える手指でフレンドリストに触れようとするが、思い出したように顔を横に振り、その手を降ろしてステータス画面を閉じる。

 

(思えばウチら、あんまちゃんと比べたら随分遠くに来てもうたな……)

 

 目を閉じて思い出すのは、幼少期の出来事。もともとあんまろんこと広尾(ひろお)千比呂(ちひろ)、マリエールこと坂本(さかもと)鞠絵(まりえ)、そしてヘンリエッタこと梅子(うめこ)の三人は幼馴染みであり、近所では仲良し三人組として名の通った筋金入りの親友同士。どんな遊びをするにも必ず三人一緒であっただけでなく、外遊びを何よりも好んだお転婆者でもあったことは今でも昨日のことのように覚えている。

 

(こんなこともあったっけなぁ……)

 

 三人で駆けっこをしている時に梅子が転び、膝に擦り傷ができたのを千比呂(ちひろ)と二人だけで応急処置をしたこと。家族連れで田舎に旅行した際、自分はずぶ濡れになりながら鮎取りをするのを眺めていた千比呂(ちひろ)梅子(うめこ)と喧嘩になったこと。千比呂(ちひろ)が作った花の冠のお返しに、梅子(うめこ)と二人で押し花の栞を贈ったことなどなど。

 たった二、三年の間だけの関係だったが、いずれも親友たちと過ごした幼い日の大切な思い出である。しかし、鮮明に記憶していた出来事は全てが(よろこ)ばしいことばかりではない。

 

(……ほんとに大丈夫やろか…………)

 

 千比呂(ちひろ)の母が死去して父子家庭となり、彼女の父親は千比呂(ちひろ)が高校に入学した頃に持病の心疾患が悪化したことで帰らぬ人となったと聞いている。世話好きで面倒見が良く、ただでさえ病弱だと言うのに、家族旅行には必ず坂本(さかもと)家と梅子(うめこ)の家族も巻き込んで連れて行ってくれた。

 曰く「愛娘(まなむすめ)と仲良くしてくれるお礼」として旅行に同行することを許しているとのことだったが、今ではお礼というよりも贖罪としてわがままに応えていた。という印象が強いのは(いな)めない。

 

「はあ……」

 

 問題の母親は国会議員だった。しかも某政党の党員であった事から、周囲の大人と夫からは余り良い印象を持たれておらず、ことある(ごと)に両親が陰口を叩いていたことも覚えている。

 そして小学校入学前に、その事件は起こった。彼女が所属する政党が主催するエチオピアへの視察講演に、あろうことかまだ(おさな)千比呂(ちひろ)を同行させると言い出したのだ。当然ながら千比呂(ちひろ)の父は反対したし、自身も梅子(うめこ)も引き離されては敵わないと引き留めようとした。

 だが全ては無駄に終わり、母はエチオピアで暴徒に襲われて死亡。千比呂(ちひろ)も暴行を受け、帰国した時には人が変わったように無口になり、他人と関わることを避けるようになった。事件の後すぐに引っ越し、小学校も転校してしまい、長らく連絡が取れなくなっていた。

 

「(ごめんな……)」

 

 彼女らが千比呂(ちひろ)と再会したのは、ちょうど受験生になった時期である。エルダー・テイルを始めて間もない頃に、ヘンリエッタと共にとあるダンジョンに挑んだ際、偶然パーティを組んだ人物の声が千比呂(ちひろ)だと気づいた時は、それはとても嬉しかった。

 その時は、千比呂(ちひろ)も心動かされて泣いていた。ボイスチャット用のスピーカーとインカムを(とお)して思い出話を語り、最近の話題を語り、夜が更けるまで談笑していた。

 

「会いたいよ……」

 

 そして、翌日に備える別れ際に彼女が語った、【あんまろん】というアバターネームの由来の話が、強く印象に残っている。

 

((あのな……ほんまは言うたらあかんねんけど、なんでそがいなけったいな名前なん?))

 

 躊躇(ためら)い気味に問いかけて、返ってきたその答えは。

 

((Unromance。“ロマンなんて求めない”って意味で決めたの))

 

 あまりにも、(かな)しげな色を含んだ声だった。

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