(仮題)エルダー・テイルのソロプレイヤー   作:御代川辰

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鍛錬・下

 オールトがあんまろんを相手取って戦闘訓練に励む一方、アルタナもまたSutch(サッチ)☆と向かい合って同じく戦闘訓練に精を出している。もちろん鍛練の内容はオールトが受けているものとは大きく(こと)なり大分(だいぶ)落ち着いたものであるが、これは森呪使い(ドルイド)という職業が直接的な戦闘に不向きなことも影響しているため、本人の戦闘スタイルも相まってほぼ必然と言えるだろう。

 

「そうだ。ゆっくりでいい」

 

 指示されるままに杖を構え、ぎこちなくゆっくりと円を描くように歩き、そして船体の外に向けて狙いを定める。杖の先端に光が集まる演出が収まると同時に、船から30mほど離れた海の上に風が渦巻(うずま)き始め、3秒後にはより大きな風の球体へと変貌する。

 

「今だ!解放!」

 

 Sutch(サッチ)☆が合図すると同時に虚空目掛け、攻撃魔法〔タイフーンスクリュー〕を(はな)つと、水面を穿つように細長い竜巻が発生した。アルタナが受けているのは、敵の攻撃を()けて移動しつつ攻撃魔法を的確に放つために必要な、集中力と同時作業の効率を高めるための訓練。

 もとより魔導砲台(ヌーカー)というビルドを組む妖術師(ソーサラー)の多くは、広範囲にわたる大規模な魔法攻撃を得意とするがゆえに集中力は必須である。そのため常に戦場を動き回る移動砲台を目指すともなれば、すべからく極めて高い集中力を求められる。

 

「15……14……13……」

「リキャストタイムは声に出さなくていいぞ」

 

 この難易度の高い訓練を可能とするためには、MP消費が少なく、キャストタイム・リキャストタイムがともに短く、かつ効果が分かりやすく現れる魔法を使う必要があった。

 そしてこの条件を満たす魔法はとても少なく、それこそ数える程度しか存在しない。そのため単体攻撃魔法でありながら距離を指定でき、一時的ながら地形を変化させる効果を持ち、さらに消費MP量とリキャストタイムが短いという好条件を持つ〔タイフーンスクリュー〕はまさにうってつけと言うわけだ。

 

「32m……上々だな。次は半分くらい近づけてみよう」

 

 半分、つまり今度は16m程度の距離で〔タイフーンスクリュー〕を発生させろと言うこと。二人は一度船のまで移動し、もう一度訓練に取りかかる。甲板の方からはあんまろんとオールトの掛け声と、剣と槍がぶつかり合う音が聞こえている。

 

「それじゃ、四回目だ」

 

 アルタナはSutch(サッチ)☆の指示に従い、〔タイフーンスクリュー〕を発動する。手に持つ杖の先端に光が集まり、MPの消費が始まる。

 

「左へ行くぞ。少し急げ」

 

 早足で船体の左舷に移動しつつ、視線は海面に狙いを定めるように動かさない。まっすぐに海を見つめ、合図を待つ。

 

「次は右」

 

 左に向かって歩いていたのを方向転換し、今度は右へと移動する。そしてそのまま右舷へと位置を変える頃には、再び渦巻(うずま)く風の球体が海の上に浮かんでいる。

 

「解放!」

「はい!」

 

 合図と同時に構えた杖をまっすぐ海に向け、〔タイフーンスクリュー〕を放つ。竜巻の真下の海原には、先ほどと同じく渦巻(うずま)き状の穴ができていた。


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