(仮題)エルダー・テイルのソロプレイヤー   作:御代川辰

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お膝元 その2

03

 チベット語で“風”を意味する言葉をその名に冠しているだけあり、【ハラクパ(Hlakpa)イエティ(Yeti)】が用いる特技や魔法の多くは風属性である。

 その特性や効果こそシンプルなものだが広範囲に渡る全体攻撃が多く、インドサーバー圏内の中堅プレイヤーたちからはレイドバトルの練習相手として親しまれている。

 

(あっぶ)なかった……麻痺毒仕込みとは(いき)だね」

 

 そして将助(まさすけ)が相手取る毒耐性持ちの個体は、やはりと言うべきか毒・麻痺系のバッドステータスを発生させる技を多く使うようだ。

 例えば先ほど【か・み】に使った痺れ粉を仕込んだ突風で吹き飛ばしスタンで動きを封じる〔痺れ突風(ナムネスガスト)〕、気化させた猛毒を周辺に撒き散らす〔瘴氛気流(マイアズマウィンド)〕など、毒技を持つモンスターの中でもエリアボス級以上の個体が用いることが多い特技と魔法をまんべんなく(はな)って来る。

 まだ一合目の序盤であるにも(かか)わらず、難関ダンジョンの住人という称号に(たが)わぬ強さを、自身の戦闘意欲を掻き立てる力を持った強敵を目の当たりにした将助(まさすけ)は、改めて、そして興奮を隠すことなく言い放った。

 

「遭遇率何パーセントって相手と戦うのは本当に楽しい!」

 

 

 

04

 

 対戦相手であるモンスターの姿はいつも画面越しでしか見られず、モンスターと実際に戦うのも生身の自分ではないアバター。しかし先述した通り彼の心中には虚無感などない。否、その心は内側から(あふ)れんばかりの興奮に支配されている。

 あたかも思いがけない掘り出し物を、まさしく人知れず見つけた時のようで。

 

「戦いはこうでなくちゃ!ちまちま切りつけるだけじゃ……」

 

 ヒット&アウェイ(一撃離脱)を繰り返す単純作業では戦いを楽しめない。そう考えた将助(まさすけ)は現状より遠く距離をとるべくカーソルを左下へと動かし、四角いパソコン画面の(すみ)ギリギリの部分へと運んだ。

 

「つまらないもんね!」

 

 カチッというクリック音と共にか・みが走り出し、視界から逃れようとするアバターをイエティが追う。ミニマップにも大きな赤丸が青い矢印を追う様子が表示されているのを確認し、そのまま下へ向けて突き進む。

 今のこの行為自体はただの鬼ごっこである。要するに時間稼ぎだが、将助(まさすけ)にとっては楽しく物事を考えるのにうってつけの手段であり、そしてこの最中でひらめいた作戦は今後のダンジョン攻略全体に影響を及ぼすほど重要なものだったりすることもある。

 

(このまま第一チェックの甦りの祠まで(おび)き寄せるか?いや、もうちょっと長く楽しみたいしなあ……)

 

 か・みはイエティ一匹を後ろに従え、マウスの操作の下にダンジョンの進行順路を奥へ奥へと進んで行く。一方現実の将助(まさすけ)は思案が(まと)まらず、ぼんやりと鬼ごっこを続けていた。

 現在のアバターとイエティの距離差、そしてイエティのHP残量の状態であれば、遠距離武器の強弓(ごうきゅう)〘五人張りの大弓〙とイエティの弱点属性を含む火矢で一方的に倒すことも可能。

 しかしせっかくレアモンスターと遭遇したのに、全力の勝負もせずに倒してしまうのはもったいない。何とか自分の望む戦いができないかとダンジョンを進み続けること40分が経過した頃、今さらになって違和感に気付いた。

 

(こいつの他にモンスターがいない?)

 

 《閉ざされた女神山》はエルダー・テイルに実装されているダンジョンの中でも屈指の難易度を誇ることから、一合目の《アブダの岩場》、二合目の《アタタ(Atata)の樹林》の計二つのフィールドに限り、「進入するハーフレイド未満のプレイヤーのステータス・装備品・所持品の性能、及び効果の平均に応じて最低限の難易度に調整したダンジョンを自動生成する」という、低レベルまたは少人数の挑戦者に対する救済機能が設けられている(この仕様が導入された原因は語るまでもない)。

 ゆえにか・みが自らイエティを倒さない限り、奥へ奥へと進み続けても一合目の出口に辿り着くまでモンスターは出現しない。つまりただ攻略する分には十分でも、肝心のレイドバトル要素が排除されてしまっているわけだ。

 

「ディーヴァヴェーダ・ネットワーク*1め……ソロプレイヤーを舐めすぎると痛い目見るよ」

 

 自業自得にも気付かず、八つ当たり気味にイエティへの反撃を開始した将助(まさすけ)であった。

*1
エルダー・テイルインドサーバー運営会社

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