(仮題)エルダー・テイルのソロプレイヤー   作:御代川辰

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大災害
プロローグ・上


 西暦2018年5月の深夜。アジアは日本国、中国地方最大の都市、広島県広島市。駅やビル街が立ち並ぶ夜も明るい中心部から遠く離れた山麓の一軒家に、まだ明るい部屋があった。部屋の中には無駄なものは一つとしてなく、また隅々まで整理整頓と掃除が行き届いており埃一つさえない。

 その限りなくきれいな部屋の机には『追加コンテンツのダウンロードが完了しました』というメッセージを映すパソコンが鎮座している。

 

「〈ノウアスフィアの開墾〉事前ダウンロード完了……長かったぁ」

 

 床に寝転がる中年の男が大きくあくびをしながら呟いた。心底眠そうな表情で起き上がるこの男の名は土蔵(つちくら)将助(まさすけ)。所々に白髪が混じる明るい茶髪、年齢を感じさせない中性的な童顔、出不精かつ不摂生な生活を送っているにも関わらず整った体型が特徴の無職である。

 そしてこの男、文字通り人生の半分を〖エルダー(Elder)テイル(Tale)〗に費やして来た生粋のゲーム廃人であり、自身が操るアバターの知名度も世界規模という、名実ともにゲーム界の怪物として名を馳せているのだが、彼にはもう一つ、知る者はごくわずかであろう秘密を抱えていた。

 

(アルファテストからもう22……いや23年か……催促のメールは増える一方だし、どうしたものかなぁ……)

 

 それはアメリカ合衆国のニューヨークに本社を構える世界最大級のインターネットゲーム会社、つまりエルダー・テイルの開発と運営を同時に担うアタルヴァ社の社員であったことだ。

 きっかけは在籍していた大学の交換留学生としてアメリカに留学していた折、たまたま遊んでいた個人創作のTRPGに目を付けたアタルヴァ社の幹部から、「そのボードゲームよりも面白いゲームを作ってみないか」と臨時スタッフとして勧誘されたことである。

 もともと無類のゲーム好きであった将助(まさすけ)はもちろん二つ返事で承諾し、「スタッフクレジットに名前を乗せない」「正社員としての待遇をしない」という二つの条件を提示し同意させた上で企画に参加することになる。

 

(えーと……うわっ、フシミとОТНЕР(オーテニール)*1からも勧誘が来てる)

 

 しかし彼が制作に関わったクエストやアイテムの余りの出来の良さに製作スタッフたちは度肝を抜き、さらにアルファテストではシステムの不備をものともしない限りなく完璧に近いプレイ内容によって高評価を獲得していた。

 アタルヴァ社はこの(たぐ)(まれ)な才能を野放しにしておくのはもったいないと、「是非正社員に」と積極的に勧誘をし始め、対する将助(まさすけ)は「ゲームができなくなるのは困る」と留学が修了するとともに大学から退学し、故郷の広島まで帰省して現在に至る。

 携帯電話のメールボックスに届いている300件超の勧誘メールは、驚くなかれ全てアタルヴァ社とその関連企業からのもの。この事から分かる通り(運営会社なので当然だが)、将助(まさすけ)がエルダー・テイルで【か・み】として活動している事を把握しているのだ。

 

「いい加減()っといて欲しいんだけど……諦めが悪すぎるよ」

 

 鳴り止まないメールの通知音に溜め息を()きつつ、椅子に座ってパソコンと向かい合う。画面にはエルダー・テイルの文字とユーザーネーム、そしてパスワード欄が表示されている。

 

「ゲームは遊ぶに限るもんね」

 

 パスワードとユーザーネームを入力してエンターキーを押す。

 夜空には、雲がかかっていた。

*1
正式名称Открывая Новую Еру Программа社。ロシアサーバー運営会社

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