(仮題)エルダー・テイルのソロプレイヤー   作:御代川辰

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ノウアスフィアの開墾inオキナワ

01

「…………あれ……?」

 

 将助(まさすけ)が目覚めた時、彼の視界は激変していた。

 使い込んだパソコンも、使い馴れた机も、座り馴れた椅子も、いつもパソコンと机の後ろにあった壁すらも、見慣れたもの一切が影も形もなく、見えているのはアコ・ナハの町並みと大地人たちだけ。

 夢でも見ているのかと混乱し、自らの頬を摘んで力の限り引っ張るが、その身に感じたのは確かに激痛だった。

 

()っ……た……!」

 

 自分が見ている景色は夢でも幻でもなく、紛れもない現実であることが分かり思わず身震いする。自分自身の服装に視線を移せばもう理解できた。

 今の背格好はジーンズパンツにTシャツという地味な私服ではなく、明るい色地の袍と袴、黒い銅鎧と垂、金属製の臑当てに籠手、白い足袋、そして黒い鼻緒の草鞋を履いた神職を思わせるもの。

 ここが現実ではないが現実であると結論付けるに至る要因は、目の前に浮かぶ半透明のステータス画面だ。画面の一番上にある名前の欄には、アバターの名前であるはずの【か・み】の字が表示されている。

 

「ははは……これが今回の拡張パック?」

 

 ありえない。だが今はこの場所こそが現実。パソコン画面の向こう側に、確かに存在していたセルデシアの世界。

 マウスとキーボードとパソコンを通じ、プレイヤーとしてアバターを活躍させていた仮想空間。

 ありえない。しかし確かに、自分はここにいる。

 

(すご)いなぁ。本物の異世界だ」

 

 慌てても何も始まらないと、か・みは平静を取り戻してステータス画面から現状の確認をすることにした。

 種族ハーフアルヴ、職業《神祇官(カンナギ)》レベル90、ビルド《戦御覡(いくさみこ)》、サブ職業《陰陽師(おんみょうじ)》レベル90。

 所持金貨枚数307億4101万8916。

 

「……このお金どうしよ」

 

 

 

02

 その後か・みは一通りアコ・ナハの街を探索し、大地人たちからの情報取得を試みたが帰還の手掛かりは一切ないことしか分からなかった。シュリ紅宮*1を住居とするフィジャイグ王家にも掛け合ってみたが、「前例がないから調べようがない」と断られてしまい、現在に至る。

 

(悪いことしちゃったな……)

 

 情報を得るために謁見を求めた先、紅宮の玉座の間で目の当たりにしたフィジャイグ国王の悲痛に満ちた表情と謝罪を思い出しながら、か・みは近くの屋台で買ったサーターアンダギーを頬張る。フレーバーテキストに書かれている通りの不自然に甘い味しかしない美味(うま)さの欠片もない食事は、彼の罪悪感を膨れ上がらせるに充分なスパイスである。

 

「……そうだ、アキバ」

 

 味気のない食事の最中に、ふと思い付いた。ナカスにあるトランスポートゲートから一足跳びに移動することができるアキバには、拡張パックの導入に合わせて有名ギルドに所属するプレイヤーたちが日本全国から集まっている。

 これだけではない。今回の〈ノウアスフィアの開墾〉のサービス開始に(ともな)い、日本サーバーに限定して長期間にわたる大規模なクエストを準備中であると告知されていたのだ。

 つまり日本のみならず世界中からクエスト報酬目当ての有名・有力ギルドが集まっている可能性が極めて高く、もしかしたら今回の件について何かしら情報を持っているプレイヤーもいるかも知れない、と思い至ったわけだ。

 

「アキバなら何か分かるかも!」

 

 おまけに自身のネームバリューは世界規模のもの。

 「か・みが情報を募っている」ともなれば嘘だろうが真実だろうが勝手に情報が集まって来ると考えれば、想像より早く今回の事件の解決の糸口が見つかるかも知れない。

 事情によっては自分自身を後ろ盾として頼ってくれる人間が現れる可能性も充分にあり得るのだ。

 

「よし、早速ナカスへ行かなくちゃ」

 

 善は急げと進路をナカスに定め、残りのサーターアンダギーを纏めて口に放り込んで立ち上がる。目標地点アキバに向けて、か・みの一人旅が始まろうとしていた。

*1
現実の首里城

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