スポットライトに照らされながら、とあるバンドがライブを行っていた。
ベースボーカルの力強くも感情的な歌声とベースが奏でる曲のフレーム、ギターの激しく叩きつけるような高速技巧、それら全てが観客たちを魅了しているが、宴もたけなわ、楽しいライブの最後の局面に入ろうとしていた。
やがて演奏が止むと、ベースボーカルの金守響一朗はニィと笑って言った。
「センキュー!お捻りは大歓迎だぜ、金ズルども!」
後日、金守は自身のアパートで財布の中を見ながらライブの儲けを数えては悦に浸っていた。
「打ち上げ代抜いてもコレか、今日のライブはいい儲けになったなぁ。よし、ここはパァ!っと買い物といくか!金は天下の回りモノっていうもんな」
そうして、金守は荷物を鞄に詰め込んで都会の街に繰り出した。
相変わらず人が多く、ガヤガヤと騒がしい声があちこちがら聞こえてくる街中を金守がキョロキョロと物色しながら歩いていると、1軒の古びた骨董屋が目に入った。
「骨董屋ぁ?こんなもん、この街にあったかぁ?随分と古臭ぇが・・・・・・・・・」
「臭いは余計だよ、クソガキ」
金守の口が悪かったとはいえ、仮にも客商売とは思えない暴言を返したのは1人の年老いた女店主であった。腰は曲がっているが異様に背が高く、昔ながらの白エプロンと丸眼鏡が妙に様になっている。
「誰がクソガキだよ、誰が!!ったく、気分悪いぜ」
最早、金守の言動の完全にチンピラのそれである。
金守が拗ねて帰ろうと踵を返そうとすると、埃被った小さなレコード盤が目に入った。
「これ、レコードか?にしては随分と小せえな?それに埃被ってたし状態も悪そうだ」
金守がレコードを手にした瞬間、女店主の様子が一変する。目を見開いて、声を荒らげ、それは本気で焦っているかのように見えた。
「っ!!ガキ!!それは駄目じゃ、そのレコードは悪魔の・・・・・・・・・・っ!!」
「はっ!!悪魔が怖くてロックがやれるかよ。婆さん、コイツ貰うぜ。悪魔の音楽なんてロックじゃねぇか!気に入った」
「・・・・・・・・・まぁ、元々処分には困っておったし、お主のようなクソガキにはええ薬じゃろう。専用の再生機器がそこにあるから一緒に持って行くがええ」
こうして、金守は小さなレコード盤とベルト型の再生機器を骨董屋から買い取ったのだった。
その日、金守はアパートに帰ると早速小さなレコード盤を再生機器の中に入れて再生していた。
『~♪』
「悪魔なんて大層な言い方するから何が飛び出してくるかと思ったらロックじゃねぇか。にしても、この再生機器真ん中の本体だけでいいだろ。ベルト部分何に使うんだ?」
「持ち歩きには便利だけどよぉ」と、ブツブツ文句を言いながらではあるが、金守も音楽を愛する人間の端くれ。何だかんだいいながらも、上機嫌に音楽を楽しんでいた。
「いい曲だな、詩が欲しいところだ」
金守はノートを開いて鉛筆を手に取ると、聞こえてくる音楽に耳を傾けながら詩を書き始めた。
金守は次のライブで例のレコードの曲に詩をつけたものをセットリストに入れた。
数日後のライブ当日にはファンたちが数多く集まり、金守たちバンドの演奏を今か今かと待ち侘びる中、スポットライトに照らされた金守は替え歌とも呼ぶべきその新曲を発表した。
「今日は新しい曲を用意して来た!つっても、骨董屋で買ったレコードの曲に詩をつけたヤツだから、オリジナルじゃなくて替え歌に近いんだけどな!でも、いい曲なのは保証するぜ!」
「そんじゃあ、冥土の土産に聴いていけ!【幽霊騎士】!!」
ギターとベースの音が重なり、激しくも感情的で論理的な演奏がライブハウスに響き渡る。
一方、外ではフードを深く被った謎の男がライブハウスから漏れ出す音に脚を止めていた。
「遂に見つけたぞ、モーツァルト」
謎の男はが金守が買ったモノによく似ているが黒一色で何も書かれていないレコードを取り出すと、ライブハウスを目指して歩き始めた。
「お客さん、今日は誰のライブか知らないけど、チケット見せてから中入ってね」
「目的は今演奏している奏者、そしてヤツが持つレコードだ」
「よく分かんないけど、チケット出してくれる?」
ライブハウスの受付をしていた刺青の若い男が中には入ろうとする謎の男に声をかけると、謎の男は受付の方を向き、受付の男に
「丁度いい、お前であのレコードの奏者を試そう」
『アイリッヒ』
「う゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ーーーっ!!」
機械音声に似た不気味な声がしたかと思うと、受付の男は急に苦しみ出し、苦悶の叫びを上げた。
レコードから音楽とも呼べないような歪んだ音がしたかと思うと、黒い音符が無数に現れ、苦しむ受付の男を取り囲む。音符に包まれた男の身体は徐々に異形のソレへと変質してゆき、全身を機械のような装甲に覆われ、脚にはローラーとエンジンが取り付けられた銀色のへと変身した。
「お前は試金石だ、レコードの奏者を襲え。可能なら、殺してしまえ」
外で何が起こっているかなんて欠片も知らないまま、ライブは盛り上がっていた。
「【その音が響く間は 君もヒーローだ】」
「【それでも寄越せよ 幽霊の僕がこの世界で生きられるよう 生き返るチャンスを寄越せ】」
作られた経緯はどうあれ、観客たちは新たな新曲の演奏と歌声に酔いしれていた。
だが、その楽しい時間は突如として現れた怪物によって破壊されてしまう。
「あれ?気合い入ったコスプレじゃん!ライブは初めて?力抜けよ」
「奏者をコロス」
「はい?」
「奏者をコロススススススッ!!」
機械のような装甲の異形を単なるコスプレだと思い気さくに話しかけてしまったが最後、異形はエンジンを吹かして脚を振るい蹴り飛ばした。蹴り飛ばされた観客はガッシャァァァァンッ!!と凄まじい音を立てながら、鮮血を撒き散らし、多くの人や機材を犠牲にしてステージに叩きつけられた。
「「「き,ぎゃぁぁぁぁぁぁーーーっ!!人殺しだぁぁぁぁぁぁーーーっ!!」
当然、ライブハウスは阿鼻叫喚の大混乱に巻き込まれる。観客もスタッフも我先にと逃げようとし、ライブをしていたバンドメンバーたちも楽器を抱えてステージから逃げだそうとするが・・・・・・・・・金守は違った。
「おい、金守何してんだよ!早く逃げないと「違うんじゃねぇか?」は?」
避難を促すバンドメンバーの言葉に被せるように、金守は怒りのままに激情を漏らす。
「これは俺たちが必死に練習して、下積み時代を重ねて、やっと勝ち取った居場所だ。なのに、如何して俺たちが追い出されなきゃいけねぇ?招かざる客はアイツなのに・・・・・・・・・どうしてやましいことの無いヤツがビクビク怯えて暮らさなきゃいけねぇ?」
「だからって、あんな化物相手にどうする気だよ?!アイツ、真面じゃねぇぞ?!」
「だから、こうするんだよっ!!」
金守はベルト部分使って再生機器を腰に装着し、小さなレコード盤を懐から取り出した。
「悪魔のレコードなんだろ?なら契約だ!俺がお前を奏でて歌ってやる!」
「だから、俺たちのライブぐらいを守りやがれっ!!」
『Ghost Night!Live Start!』
金守がレコード相手に脅しつけるように叫んでレコード版を再生機器に入れると、再生機器からは音楽とともに電子音声が鳴り響き、金守の身体は藍色の音符に包まれる。
音符が消えたかと思うと、金守の姿はすっかり別物に変わっていた。騎士甲冑を思わせる蒼色の鎧、紅色の複眼、耳部分につけられたヘッドフォンのような機械・・・・・・・・・それは戦装束のようにも見えた。
「こっから先は俺のライブだ!」
藍色の装甲を身に纏った金守の拳と異形の蹴りが激突し、周囲の人々は衝撃波のような凄まじい余波に必死に耐える。
「ってぇなぁ!おい!お返しだぁぁぁぁぁぁーーーっ!!」
刀同士で鍔迫り合いをするように、金守は異形の脚に拳をぶつけたまま
「損傷、軽微」
「詰まらねぇビートじゃねぇか?もっと、楽しく歌えよ!」
追撃とばかりにもう片方の拳も叩き込み、更に喧嘩キックで蹴り飛ばす。
「損傷、蓄積」
「アンタが何者か知らないがな?ここには俺たちバンドの夢とファンの夢が集まってんだ」
金守が再生機器を操作し、「サビ」と書かれたボタンを押すとまた軽快な電子音声が鳴った。
『Ghost Night! Saver Slash!』
すると、ベルトから藍色の機械剣が現れ、金守が剣を手に取ると天高く上段に構えた。
異形は直ぐさま立ち上がり、エンジンを吹かして突撃を繰り出すが・・・・・・・・・
「せっかくライブに来たんだ、冥土の土産に聴いていけよ!」
歌うように、叫ぶように、藍色の機械剣は光を放ち、異形を一刀両断したのであった。
書き溜めが減っていってる+新生活の始まりで今後忙しくなり今までのようなコンスタントな更新が難しくなるかも知れません。