後、先週と今週の遅刻はマジですいませんでした。
憧れの六苦ヒーローの片割れであるベースヒーロー氏こと京極氏に連れられて、如何にも怪しげな地下への階段を降りやって来たのはライブハウス「STARRY」。そこには何故かメイド服を着ている従業員らしき赤髪の美少女やゴミ箱の中で卑屈な歌を引き語るひとりたん、ひとりたんを元気づけて引っ張り出そうと奮闘する金髪サイドテールの美少女、そんな美少女たちを面白がって薄らと笑う青髪の美少女がいました。
「ライブハウス?拙者の目には美少女天国にしか見えぬのですが・・・・・・・・・?」
「ああ、ゴミ箱に入るひとりも可愛いなぁ・・・・・・・・・」
この光景を目の前にして、ひとりたんだけに注視しながら恍惚の笑みを浮かべる京極氏。拙者も世間一般からすれば奇人の類でありましょうが、京極氏とひとりたんのヤバさを考えると性別如きで色々悩んでいた拙者の何たる平凡なことか・・・・・・・・・。
「いらっしゃいませー!もしかして、後藤さんのお知り合いですか?」
拙者が自らの悩みの小ささを実感していると、メイド服の美少女が声をかけて来てくれましたぞ。普段は挙動不審なひとりたんとは違い、メイド服の美少女は元気で明るい絵に描いたような陽キャ!もしや、彼女こそが伝説のオタクに優しいギャル!?現実に存在していたというのですかな!?
「ああ、俺はひとりのバンドメンバーで
まるで牽制するかのように相棒の二文字を強調するように応える京極氏、ひとりたんのこととなると見境が無くなるのは玉に瑕ですな。男のヤンデレは女性に需要があるのでしょうか・・・・・・・・・?
「えっ!?ということは、結束バンドの人!?」
「いや、俺は結束バンドでは無く六苦ヒーローというバンドで・・・・・・・・・」
「あっ!!キョーくん、丁度良いところに!ぼっちちゃんがコンプレックス拗らせて閉じこもっちゃったの何とか説得してくれない?」
金髪サイドテールの美少女の呼び声で京極氏とメイド服の美少女の会話は打ち切られることとなりました。しかし、結束バンドというのは一体何なのですかな?京極氏の言葉を聞く限り、六苦ヒーローが解散や改名をした訳では無いようですが・・・・・・・・・?
拙者が疑問に思っておりますと、京極氏はひとりたんの元へと歩いて行き、拙者も慌てて後を追い駆けます。本当、京極氏はひとりたんのこととなると一直線。恋は盲目ですな。
京極氏とともにひとりたんの元へとやってくると、京極氏はゴミ箱のひとりたんに視線を合わせるように膝を折ると、中学の頃は毎日のように見ていた、絶対にひとりたんにしか向けない優しくて柔らかい笑みを浮かべました。
「ひとり、ドラムと新しいライブの予定決まったぞ。」
え?
「え?」
「「えぇぇぇぇぇぇぇぇぇ~~~~!?」ですぞぉ~~~!?」
拙者とひとりたんの絶叫が「STARRY」を揺らしましたぞ。
驚くのも束の間、いきなりのことに混乱している間に話は進んでひとりたんのアルバイトが終るのを待ってから作戦会議をすることになりましたぞ。「STARRY」の店長殿は遅くまで学生の拙者等が残ることに苦言を呈していましたので、会議の会場は一人暮らしの京極氏の家となりました。
「じゃ、じゃあ、バイトが終ったらキョーくんの家に集合だね・・・・・・・・・」
如何に幼馴染み同士といえども、兄弟姉妹でもない若い男女が1つ屋根の下というのはひとりたんの御家族の反発を生むのでは?という拙者たちの心配を知ってから知らずか、ひとりたんは京極氏の家に行くのに大した疑問を挟むこともなく自然に了承しました。・・・・・・・・・この2人実は既にゴール目前まで来ているのではありませんかな?
という訳で、ひとりたんのアルバイトが終るのを2人で待つことになったのですが・・・・・・・・・
「ああぁ、頑張って働くひとりも可愛いなぁ・・・・・・・・・でも、良いことの筈なのに頭にくるのは何故だろうな?ひとりの成長シーン大分見逃してるからかなぁ?祝福してあげないいけないのになぁ?」
京極氏は愛憎の入り交じった複雑な笑顔を浮かべながら必死にひとりたんの姿を眼球に焼き付けていて、拙者は2人でひとりたんを待っている筈なのに置いてけぼりですぞ。い、いえ、寂しい訳ではありませんぞ?寂しいわけではありませんが・・・・・・・・・やはり、このままというのは頂けませんな。
「拙者、京極氏に聞きたいことが沢山あるのですぞ?」
「ライブのことか?ひとりの声を聞く雑音になるから手短にな」
京極氏は視線をひとりたんから1ミリも逸らすこと無く応えました。ですが、この程度のことは想定内ですぞ。京極氏がひとりたん以上に拙者との話を優先する筈がありませんからな!!
「拙者、たしかにドラムの練習をしていましたが京極氏やひとりたんのようにはいきませんぞ。それに、そもそも拙者の手元にはドラム自体がありませぬ。それどころか食う飯にも困る始末で・・・・・・・・・」
「ドラムは業腹だが他のバンドに頭下げて借りる他ない。だが、飯と屋根のことなら俺の家に泊まればいい。男同士なのだから問題ないだろう」
「い、いや、たしかに拙者は男ですが身体は女!!そんな相手を不用意に家に泊めるのは・・・・・・・・・って、京極氏の目がひとりたん以外に向くなんてあり得ませんでしたな」
例え、ギリシャ神話に名高いクーピドーの矢で射られても矢を掴んでへし折るか、矢の魔力をひとりたんへの愛で浸食するぐらいのことはするでしょう。仮に拙者が美の女神で本気で京極氏を誘惑したとしても、ひとりたんから京極氏を奪うなんて無理に決まっていますぞ。
「そういうことだ。・・・・・・・・・実家に対して思うことがあるのは分かった。だが、血の繋がりというのは仲の良い家族でも忌々しくなる時があるくらい強固なモノだ。どうせ、避け続けることが出来ないのなら、せめて本当の自分の願いを伝えるぐらいはしておいて損は無い・・・・・・・・・と思う」
「思う・・・・・・・・・・ですかな?」
「神様だって間違うことがあるのに、人間の俺に絶対の正解なんて分かる訳がない」
こんなところまで連れてきてライブをやれと言った張本人が無責任なことです。ですが、京極氏は京極氏なりに真剣に考えて、拙者に世話を焼いてくれているのでしょう。本気も本気でなければ、
「一応言っておくが、ひとりに変な真似したら捻り切るならな」
「こっ、心に刻みつけておきますぞ!!」
や、やっぱり京極氏は何時だって本気ですぞ!!下手をすれば拙者は本気で捻じ切られる!!
「・・・・・・・・・しかし、分かりませんな。一応とはいえ、そういう可能性を思い当たるのであれば、一体如何して拙者をひとりたんに近づけたのですかな?」
ひとりたんが絡んだ時の京極氏は見境がありませぬ。そんな京極氏が心は男である拙者をひとりたんに近づける等、中学の頃のことを思えば考えられませぬ。一体どのような思惑があってのことなのでしょうか?
「折角、音楽を始めたのにこんなことで辞めなきゃならないのは勿体ないというのもあるが、1番はひとりがバンドを望んでいるからだ。」
「ひとりたんの・・・・・・・・・望み」
「ひとりの世界に俺や後藤家の方々以外が入ってくるのは非情に業腹だが、1番優先されるべきはひとりの幸せだからな。我慢する。」
「京極氏は狂愛で盲目になっておられると思っておりましたが、それは拙者の勘違いだったようですな。京極氏のような方に愛されて、ひとりたんは本当に幸せ者ですぞ」
今までひとりたんへの狂愛を肯定されたことが無かったのでしょうか?京極氏は心底驚いたよう様子でポカーンと呆けたかと思えば、ひとりたんに向けるモノほどではありませんが優しく穏やかな笑みを返してくれました。
「ありがとう、そんなこと初めて言われた」
「どういたしまして、ですぞ」