ひーろー・ざ・ろっく   作:星宮 星雅

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 アニメ『推しの子』ヤバくないですか?
 ファンとして期待はしていたけど、誰がテレビで映画作れって言ったよ。

 
 いいぞ、もっとやれ(本音)


番外編 ふたつ・の・ばんど ボーカル

 その日、俺と聖十郎は珍しく2人揃って結束バンドの合同練習を見学していた。

 

 正直な話、時間の余裕なんてものは欠片も無いが、ひとりに見に来て欲しいと連絡を貰ったら無理をしてでも来てしまうのが俺という人間だ。自分でも馬鹿だと思う。

 

 我ながら浅ましいことに、ひとりが結束バンドにも入っているのは知っていたがこうして俺たち以外のヤツらとセッションをシテイルのを見ていると醜い嫉妬心がムクムク湧き上がってくるのを感じる。結束バンドの演奏は相変わらずひとりに引きずられているが、それでも以前に見た時よりもかなり成長しており、本気のひとり(ギターヒーロー)の演奏に追いつくのも遠い夢では無いのではないかと思わせる。・・・・・・・・・もし、本当に結束バンドが追いついてきたら、ひとりは六苦ではなく結束バンドを選ぶのだろうか?

 

 「それは嫌だなぁ・・・・・・・・・」

 

 今は六苦ヒーローも結束バンドも細々と活動している無名のバンドだから予定を合わせるだけで問題なく兼任できているが、何方か一方が名前が売れてきたら、急な仕事も入ってくるようになったら、どちらを優先するか選ばなくてはならなくなる。ひとりは如何するつもりなのだろうか?

 

 「ふっー!やっぱり、ぼっちちゃんの演奏ヤバいわ!ついていくだけでコレだもん」

 

 「私なんて必死すぎてちょっと歌詞とんじゃいました」

 

 「でも、そのお陰で私たちも成長出来てる」

 

 「そっ、そうです!みなさん、合う度に上手くなってて何時も驚かされてます!!」

 

 そうこう考えている間に曲が終り、結束バンドの面々が一息つき始めた。えっ?そのまま2曲目3曲目いかないの?六苦ヒーローは5曲ぐらいぶっ通しは当たり前なのだが・・・・・・・・・もしかして厳し過ぎるか?もう少し交流の時間を増やした方がひとりは嬉しいのだろうか?と、考えているとドラム兼リーダーの伊地知が声をかけてきた。

 

 「どうだった?まだまだだけど、少しはやるようになったと思わない?」

 

 「たしかにな、ひとりの本気を引き出せるようになる日も遠くないかもしれない」

 

 「だよね!いやぁ、遂に私たちの才能が世界に知れ渡る時が来ちゃうかな~」

 

 「私の才能が怖い」

 

 「謎の自信ががどこから来るかは知らないが、結束バンドの成長には目を見張るものがある。妬ましいことにひとりも楽しそうだし、基本的には今のまま活動を続けていけばいいだろう。問題があるとすればボーカルだな」

 

 「えっ!?私、どこか可笑しかったですか?」

 

 結束バンドのギターボーカルとして加入した新メンバーの喜多の歌はたしかに素人にしては上手い方だったが、小手先の技術でどうにかしようと歌を確認しながら歌っている所為か、声が聞き取り辛い部分があったし、何よりも感情を感じない。原因は恐らく・・・・・・・・・・

 

 「喜多だったか?カラオケが上手いだろう?それで同じような感覚で歌っている」

 

 「は、はい。ダメなんですか?同じ歌ですよね」

 

 「全然違う。カラオケマシーンの採点基準は正確さであって、そこに含まれる人間の感情や声量は考慮されていないし、狭い室内にだけ響けば良いから必要以上に声を張ることも無い。歌であることに変わりは無いからカラオケの技術が全く役に立たないという訳ではないが、違うモノだということは念頭に入れておいた方がいい」

 

 叱られている気分なのだろう、喜多は「はい」と良い返事をしながらも何処か落ち込んだ様子を見せた。それがひとりにも分ったらしく、ひとりはどう慰めたものかとオロオロする姿を見せてくれた。ひとりにそんな風に思われているとは、なんて羨ましいヤツだ。

 正直、このまま放って置いてもいいがひとりを悲しませたくは無いし、何よりもひとりに慰めて貰うなんて羨ましさしかないイベントは喜多には勿体ない。俺でさえ慰めて貰ったこと無いのに。

 

 「そう落ち込むな、違うモノを同じようなモノだと勘違いして失敗するのはプロの世界でも良くあることだ。喜多が勘違いしてしまうのも無理は無い。」

 

 「そうなんですか?」

 

 「ああ、分かりやすい例で言うと「原作者書き下ろしエピソード!」って煽り文句の宣伝があるだろう?あれは必ずしもいいことでは無い。原作が漫画にしろ小説にしろ媒体が違う訳だからだ。特に舞台なんかだと大きなステージで立って演じるイメージに引っ張られて、最新の舞台装置のギミックを完全に無視した脚本が上がってくることがある。尤も、原作者が全く口を出さなければいいものが出来る訳でもない。俺は出なかったが*1『今日あま』が良い例だ。あれは大人の事情に潰された」

 

 「あー、何となく分ります。『今日あま』のドラマは名前だけでしたもんね」

 

 「ドラマの撮影裏話とか普段聞かないから勉強になるね」

 

 「あ、私はキョーくんからよく話を聞くのでそこそこ詳しいです」

 

 あれは本当に惜しかった。『今日あま』の原作をひたすら忠実になぞるだけで名作ドラマに出来るだけのポテンシャルがある原作だったのに、つまらない欲を掻いた大人たちに殺されてしまった。まぁ、大人の都合で漫画や小説等の原作が上手く利用されるのは『今日あま』に限った話では無いのだが・・・・・・・・・そういう現場は大抵作者先生の失望の視線が痛くて遣る瀬ない。

 あのドラマに唯一救いがあったとすれば、最終話のアクアと有馬かなの演技だけだ。1番酷かった主役の鳴島メルトもあの時だけは引っ張られてマシな演技になってたからな。

 

 「兎に角、今回のことは早い内に良い勉強が出来たと思っておけば良い」

 

 「分りました!でも、それなら、バンドの歌ってどう歌えば良いんですか?」

 

 「俺もほぼ独学だから一概にコレという正解を出せる訳では無いが、俺は何時も歌詞の世界に思いを馳せるところから始めている。そうしなければ心から歌えないからな」

 

 俺の歌い方は大雑把に言えば演技と一緒だ。歌詞の意味を徹底的に考察して、この歌詞はどんなことを考えていて、どんな気持ちでいて、どんなことを語っているのか?それを1から丁寧に作り上げていく。歌詞の世界の住人という役を作り、その役に没入していって初めて歌うことが出来る。

 

 とはいえ、これはあくまで俺のやり方、他のボーカルに聞けばまた違った答えが返ってくるかも知れない。廣井なんかは歌う時に何を考えているのだろうか?あれで凄腕のベースボーカルなので何も考えて居ないということは無いと思うのだが・・・・・・・・・もしかしたら、何も考えていないかもしれない。

 

 「歌詞の世界に思いを・・・・・・・・・」

 

 「あっ!それなら、作詞したぼっちちゃんとじっくり話してみたらどうかな?ぼっちちゃんの家に泊まって合宿しようよ」

 

 ひとりのいえにおとまり?おとまり?俺ですらしたことがないのに結束バンドの新入りが?

 

 「きょ、京極氏!?顔が怖いですぞ?ほら、笑って、手の鋏も置いて落ち着いた方が・・・・・・・・・」

 

 聖十郎が何か言っているが、最早、俺の耳には何1つ聞こえない。絶望、恐怖、嫉妬、言語化できない黒い感情が次から次へと湧き上がってきては胸の中をグルグルと渦巻いて、視界は真っ暗な闇一色に包まれた。ひとりは何故俺では無く喜多とお泊まりするのだろうか?結束バンドだからか?同姓だからか?合宿でひとりと喜多の仲が急接近したらどうすればいい?だいたい、喜多は山田が好きとか言っていたのだから山田と好きに乳繰り合ってればいいではないか。俺にはひとりしか居ないのに如何して如何して如何して如何して如何して・・・・・・・・・・・・

 

 「きょ、キョーくんも一緒に合宿行ってくれないかな?ほ、ほら、同じボーカルとしてアドバイスして欲しいし、ぼっちちゃんも幼馴染みが居てくれた方が安心するよ!!ね?ぼっちちゃん!!」

 

 「えっ、あ、はい、でもキョーくんは忙しいし・・・・・・・・・」

 

 「今日は珍しく丸1日フリーだと京極氏が言っていましたぞ!」

 

 「う、うわぁ!凄い偶然!!これはキョーくんにも合宿参加して貰うしかないね!!」

 

 「まったく、その通りですな!!京極氏、ひとりたんとお泊まりですぞ!!」

 

 俺がひとりとお泊まり?それなら喜多を見張れるし、何よりもひとりと幼馴染みの男女同士1つ屋根の下でご飯を食べて、風呂に入って、寝て・・・・・・・・・そ、そんなの、もう夫婦ではないか!?い、いや、だが、将来の予行演習だと考えればいいか?だ、だって、俺は将来ひとりとけ、けけけ結婚するつもりだからな!!

 

 「よかった、京極氏が人間の顔に戻りましたぞ」

 

 「今回は私が軽率だったね。ぼっちちゃん絡みだと壊れるのを失念してたよ」

*1
『今日あま』・・・・・・・・・『推しの子』及び同じ作者の『かぐや様は告らせたい』に登場する人気恋愛漫画。『推しの子』では実写ドラマも作られたが、その実態は若手イケメンタレントを売り出すための踏み台だった。




 (言えない・・・・・・・・・実は『ぼっち・ざ・ろっく!』は未だにアニメしか見てないから、原作でこの後どうなったのか知らないなんて言えない・・・・・・・・・お泊まり回の存在もネットの又聞きで知ったなんて言えない・・・・・・・・)
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