今週は感想回です。
《海を宿した星の子視点》
始めて響兵に出会ったのは、まだアイが躍進を遂げる前のこと。
とあるドラマの撮影に着いて行った先で、沢山のエキストラの中に混じって、俺やルビーと同じくらいの小さな子どもがジッとアイに視線を向けていたことに気がついたのが始まりだった。
初めはアイのファンかと思ったが、当時のアイは全国的な知名度は低く、子ども番組に出演したことも無かった。俺やルビーのような例外中の例外を除けば、幼子のファンは相当珍しい。
それに幼い響兵の視線はファンが
それだけでも充分奇怪なのだが、京極の最も異常性を感じたのは撮影が終った後のこと、響兵は何を思ったのかアイの元まで駆け寄って、心底不思議そうに首を傾げながら尋ねた。
「アイさんは何で
だから勘違いした、響兵が俺やルビーと同じ
結論から言うと、響兵は転生者では無かった。
俺が役者の道で芸能界に潜り込もうとしていた頃、監督に出して貰った映画の撮影で再会した時に探りを入れて確かめたが、響兵は新しいドラマか映画の誘いと勘違いするだけで「転生」や「前世」といったワードには反応しなかった。
響兵の実力を考えれば演技の線も捨てきれないが、仮に転生者だとしても響兵は過度な警戒が必要な相手じゃ無い。ただ愛と演技に狂っているだけの善良で努力家な逸般人外だ。
駄目な相手に辛辣になることこそあるが、だからといって本当に相手を傷つけるような真似はしない。観察と分析が十八番なので引き際を誤ることも考え辛い。いざとなれば、役者らしく猫を被るぐらいは普通に出来るしな。
っと、話が逸れたが、響兵は良くいる「実力を評価する機会に恵まれないタレント」の1人。
役者としての演技の技術は凄まじいものがあるが、音楽家としてはまだ3年目。インディーズで名の売れたバンドとの共演と聞いて、埋もれてしまうのでは無いかと思っていた。
だが、こうして実際にライブを観たことで心配は杞憂に変わった。
というか、何だあの3人は?楽器を触って僅か3年と1年、それも学業や響兵の場合はレッスンと同時に熟してきたものだ。にも拘わらず、彼等は観客を沸かせていた。
役者としての表現力を歌唱に昇華して見せた、重厚な世界観を創る歌
歌が創り上げた世界に骨組みを与える機械的で感情的なベース
鮮烈で熱烈で刺激的、それでいて繊細な、ロックらしく鬱屈した感情を叫び叩きつけるギター
真っ直ぐで生真面目、ジリジリとした焦燥感を爆発させたような絶叫が如きドラム
その全てが複雑に組み合わさって、1つの音楽を作り上げている。
赤子の頃にルビーと観に行ったアイの、かつてのB小町のライブを連想させるほどの盛り上がり、照明器具も無い路上でのライブとは到底思えない熱狂の渦、その中心に居る2人のベースボーカルの目に宿る自信の光はまるでアイのような・・・・・・・・・・・・・いや、違う!アイツ等は、響兵たちはアイとは違う!違うが、認めざるを得ない。彼等もまた光を宿した本物の
《重曹を舐めない元天才子役》
本当はクラスメイトの頼みとはいえ無名バンドの路上ライブなんて行っても仕方が無いと思っていたんだけど、あのアクアが珍しく一緒に行こうなんて言うから行ってみたら、そこには確かな輝きを見せる2つのバンドの姿があった。
悔しいけれど、全盛期と呼べる子役時代の私の鼻っ柱を叩き折った2つの星の片割れ。
あのB小町のアイと始めて共演して演技を見た時のような、意識の底から別世界に引き込まれる感覚、その両方を感じさせる粗削りで微かな
「それにしても凄い
「演技?歌唱力とか演奏技術じゃなくて?」
「それもあるけど、アイツがやってるのは演技よ。ミュージカルとかと同じ、歌詞の意味を声だけじゃなくて細かい仕草や表情、姿勢、立ち位置、曲のテンポに観客の歓声、全部利用して曲の主人公を演じてる」
そして、その演じ方は私や黒川あかねよりも、アイやアクアに近い。
当たり前といえば当たり前だけれど、
「そういえば、アイは最高のお手本だって言ってたわね」
黒川あかねのような分析型の役者とは違い、響兵は役そのものではなく演じる人間を研究する。
どうやって役を表現しているのか?その演技の何が人の目を引くのか?何故、その演技が出来るのか?その演技は本人以外でも再現可能か?手本に相応しいと感じ取った演者を観察して、分析して、模倣して、それらを繰り返して他人の武器を自分の物にする。
10年以上も研究し続けられ、研磨され続けた「アイ」というお手本は、今の響兵に星の光という輝きを与えていた。
本職役者の私を差し置いてアイドルを最高のお手本と呼ぶなんて良い度胸してるけれど、ステージの響兵を見るとそれは正解だった言えるわ。少ないとも、こと歌という分野では私は超えられてしまったわね。
でも、純粋な演技の勝負では負けてあげない。次に共演する時には目に物見せてやるわ。
「そのためには、私ももっと売れないとねぇ・・・・・・・・・」
秋から1年間ドラマの主役が決まっている響兵と違って、今の私にレギュラーの仕事は無い。
このままだと、ウカウカしているとタレントとしても置いて行かれてしまいかねない。
《結束のドラマー》
あの2人と組んだぐらいだから凄いドラマーなのは分かっていたけど、アレでドラマー歴たった1年だなんて信じられない。元々、琴の稽古をしていたから音楽歴はかなり長いとは聞いていたけど、それにしても凄まじい演奏。あの六苦ヒーローに食らいついていってる。
「聖十郎くんも同じ初心者だと思うと、少し自信なくしちゃいますね」
「キョーくん曰く「追いつかれることも、追い抜かされるのも良くあること」らしいけど、いざ置いて行かれると焦っちゃうよねぇ・・・・・・・・・」
ぼっちちゃんのお陰もあって、私たちは凄いスピードで上手くなっていってる。
だけど、それでも、未だに全力のぼっちちゃんとセッションすることは出来ない。
結束バンドのライブの時、ぼっちちゃんが魅せるのは私たちが付いてこられるギリギリの演奏であって、ぼっちちゃんの全力・・・・・・・・・1人の時や六苦ヒーローのギターヒーローとしての演奏に比べると、大きく劣っている演奏。だから、何時か、ぼっちちゃんの全力を引き出せるようなバンドになろうって頑張ってたんだけどなぁ・・・・・・・・・・。
「別に焦る必要は無い」
贔屓のバンド同士のバンドの競演に何時になく興奮して、ライブ後も余韻に浸っていたリョウが会話に混ざってきた。こっちの話自体は聞こえてたみたい。
「ぼっちたちに聞いた。響兵は0歳の時にドラマに釘着けになって、3歳の時に芝居を始めてからずっと1日も休まずにレッスンとエキストラを続けてきたらしい」
その話は私も聞いてる。「キョーくんは凄いんです!」って言って、ぼっちちゃんが持って来た出演作の数々の中に
同期に有馬かなという、一世を風靡した天才子役がいる中でキョーくんはただの1度も顧みられることの無いまま、それでも役者であり続けた。自分より下手な主役の作品でも従順にモブであり続け、自分の後から演技の世界に入った後輩達の華々しい活躍を見送り続けた。
「それでも響兵は「仮面騎兵ヴォイス」の主役を掴み取った。諦めず、腐らず、実直に役者で居続けたから。・・・・・・・・・・上手くなるペースも、売れるペースも人それぞれ。私たちは私たちのスピードで
「先輩・・・・・・・・・そうですね!私たちは私たちのペースで頑張りましょう!」
・・・・・・・・・まったく、リョウは如何して何時もこれが出来ないのかなぁ?
でも、まぁ、確かに2人の言う通りだ。焦って何も考えずに我武者羅にやっても足元を掬われるだけ。どっちみち、私たちは結束バンドのスピードで少しづつ上手くなっていくのが1番早い。
「よーし!明日からまた練習だー!!」
「「おー!!」」
響兵くんの観察眼はかなりのモノがありますが、お手本相手にしかそれを使わないのと、ぼっちちゃん相手だと恋は盲目状態になるのとで役に立たない時の方が多いです。