ひーろー・ざ・ろっく   作:星宮 星雅

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 ぼっちちゃんから見たキョーくんのお話です。


うぉっち・ざ,キョーくん

 本当に恥の多い人生を送ってきた私にとって、唯一、胸を張って人に誇れるのが幼馴染みの存在です。

 

 その幼馴染みは、私にとって唯一の友だちと言ってもいい人で、子どもの頃から役者の夢に向かって真っ直ぐ進んでいる眩しい人なのに、私のような根暗な陰キャでも親しくしてくれる。

 

 本当に強くて優しくて頼りがいがある人。

 

 子どもの頃から、嫌な顔1つもしないで、どんくさい私の手を引いて遊びに連れ出してくれて、私が虐められたら必ず助けに来てくれた。ヒーローみたいな人。

 

 こんな、ミジンコのような私が唯一、同年代の少年少女に自慢することが出来る、自慢の幼馴染だ。

 

 そんな私たちが親しくなった切欠は小学校一年生の時のこと、幼稚園と同じように陰キャなぼっちだった私は意地の悪い子のターゲットにされてしまった。女子のいじめは男子のような殴る蹴るといった物理的なモノよりも陰湿で狡猾なものが多くて、根暗を自覚していた私でも苦しいモノがあった。そんな時、私の目の前に颯爽と現れたヒーローがキョーくんだった。

 

 それからも優しいキョーくんは何かと私のことを気にかけてくれて、親代わりのお爺さんが旅に出ていて音信不通なこともあって、本当の家族のように過ごしてきた。…いや、やっぱり、私の自惚れすぎかも…。

 

 そんなキョーくんとの日常が変わり始めたのは、中学生になってからだ。

 

 元々、役者志望でエキストラばっかりだけど色んな映画やドラマに出ていたキョーくんだけど、エキストラ以外の役も経験したかったみたいで演劇部に入った。

 

 キョ―くんはクラスでも一二を争うくらいに背が高くて、スラっとしていて、顔も昔から磨きをかけていただけあってイケメンな方だ。毎日の演技修行のお陰もあって運動神経抜群で声も聞き取りやすい。私なんかの近くに居てくれるのが不思議なくらい完璧超人。毎日帰ってくるのは7時過ぎになり、その上、エキストラの仕事や自主レッスンも熟さなければいけないとなったら、放課後に一緒にお喋りしたりする余裕はメッキリと減ってしまった。

 

 エキストラばっかりとはいえ長い下積みをしてきた成果が出たみたいで、最近じゃあ贔屓にしてくれる監督さんも現れて、演技の仕事の方も昔より忙しくなってしまった。せっかく、私の家に来てもご飯を食べて、お風呂に入って、後は帰って寝るだけ。なんてことも、多くなってしまった。

 

それならばキョ―くんと同じ演劇部に入ろうかとも思ったけど、舞台に立って大勢の人の前で声を張るだなんて想像しただけでも恐ろしくて、結局、脚がすくんでしまう。その結果、キョ―くんと家族以外には真面に話しかけることすら出来ない私は、部活に入ることも出来ず、家で過ごす時間が多くなってしまった。

 

 唯一の友だちで、唯一の繋がりで、唯一私のことをき、ききき、綺麗だって言っていくれるキョ―くんとの距離が遠くなったことを実感する度に、不満や鬱屈を覚えて、少しの焦燥感も感じ始めた頃、私はふと思ってしまった。

 

 ………このままで本当にいいのだろうか?このままどんどんキョ―くんとの距離が離れてしまって、本当にひとりぼっちになってしまうんじゃなだろうか?と。

 

 キョ―くんの態度は今も変わらず、お姫様にするみたいに私に優しく接してくれる。私なんかとの繋がりを大切にしてくれている。けど、このまま何もしないでいたら、何となく過ごしていたら、本当にキョ―くんは私の手の届かない場所まで行ってしまうんじゃないだろうか?そう思うと、怖くて身体が………何より、私なんかよりもずっと凄くて、いつかテレビや映画で大活躍するだろうキョ―くんの足を引っ張ったまま、ずっと守って貰うばかりの、根暗な性分、相応の人生のままでいいのだろうか?

 

 私が寂しいと言ったら、優しいキョ―くんは演技に費やす時間を減らしてでも一緒に居てくれるかもしれない………でも、やっぱり、そんなの一生懸命に頑張っているキョ―くんの荷物になるだけ。キョ―くんの荷物になるような人間にはなりたくない。

 

 キョ―くんにずっと一緒に居て欲しい、もっと誰かに認めて貰いたい、私みたいなミジンコ女でも生きていていいんだって思えるようになりたい。幸せになりたい。

 

 そんな不相応な願いが、不安と焦燥感のような感情を伴って、胸の中で騒ぎ立てて主張を繰り返しながら、グルグルと無軌道に入り乱れていた。

 

 そんな時だった。

 

 「ひとり、テレビ見てないならチャンネル変えていいかい?」

 

 「うん」

 

 お父さんがテレビのチャンネルを変える。そんなどこの家庭でも起こる極普通の日常が全てを変える切欠をくれたのは。

 

 それは今週のヒットチャートなどに名を連ねたアーティストたちに生演奏を披露して貰うという、よくあるタイプの歌番組だった。元々、お父さんはバンドマンだったらしく、今でも音楽が好きで時間を見つけては色々な音楽を聴いている。どうやら、歌番組にお父さんが注目していたバンドが出演するから見たかったらしい。

 

 昔、何度かお父さんのギターに合わせて歌ったことがあるけど、私は今にも消えてなくなりそうな声しか出せなくて、舞台慣れしたキョ―くんの堂々とした歌を聞くばかり。キョ―くんに芝居の発声と歌の発声は違うと教わったことがあるけど、キョ―くんの声は演技から離れても尚、一人の生きた人間のように生の感情を感じさせてくれた。

 

 そんなことを振り返っていると、テレビの向こうで司会がバンドマンに話を振っていた。

 

 「………バンドは陰キャでも輝けるんで」

 

 それは青天の霹靂だった。「陰キャでも輝ける」という信じられない言葉は、しかし、確かな実感を伴っていて、バンドマンの言葉が私の中に何かを大きく揺り動かすのを感じながら、次いで行われたバンドの勢いのあるロックな演奏に耳を傾ける。それは第二の衝撃だった。

 

 居ても立っても居られなくって、私は考えるよりも早く立ち上がった。

 

 「………お父さん、ギター借りてもいい?」

 

 「んっ、ああ、いいよ。」

 

 突然立ち上がった私に困惑しながらも、お父さんは許可を出してくれた。それを確認すると、ギターが仕舞ってあるであろう二階へと駆け上がり、押し入れに眠るギターを引っ張り出す。ケースから取り出して、ストラップを肩にかけてギターを構えてみる。姿見で確認して見ると、そこに映っていた自分はいつもの根暗で陰キャな私と違って見える。ギターを構える自分を見て、もしかしてという疑念は確信に変わった。

 

 ………もし、こんな自分でも輝けるなら。

 

 ………もし、こんな自分でも変われるのだとしたら。

 

 ………綺羅星のように輝きを増していくキョ―くんの脚を引っ張るんじゃなくて、キョ―くんと2人一緒にもっと遠くの先に行けるのだとしたら。

 

 そう思った瞬間、私は理想の未来を鮮明に熱烈に頭に浮かんだ。

 

 私がギターを弾いて、ボーカルのキョ―くんが歌って、何千何万という人々を熱狂させる。

 

 それは身体どころか魂が奥底から揺さぶられるような、これまで体験してきた、どんな光景よりも魅力的な景色に見えた。

 

 ―――決めた!私、ギター上手くなる。

 

 それでキョ―くんと一緒にバンドを組んで、文化祭でライブしてみんなに認めて貰うんだ。

 

 思い立ったが吉日とでも言わんばかりに、そう決断するや否や、キョ―くんが了承してくれる保証もそもそ歌や音楽に興味があるかも分からないのに、その日からお父さんにギターを指導して貰いながら、練習を開始した。

 

 それから二週間後、複数の現場を梯子する毎日が落ち着いてきた頃を見計らって、毎日毎日お芝居で忙しいキョ―くんが本当にバンドを組んでくれるのか?不安になりながらもお願いした。………普段は滅多にすることなど無い私のお願いに、キョ―くんは二つ返事で了承してくれた。それに、わ、わわわわわ私の為ならって………えへへへへっへへへへ

 

 幸い、キョ―くんは元から歌劇にも興味があったみたいで、片目睡眠法という方法を駆使し、24時間しかない毎日をフル活用して必死に歌やベースを練習してくれた。キョ―くん曰く「片目睡眠法で24時間全部、芝居の稽古とバンドの練習に使えるようになったから、心配ないよ。」とのことだ。脳を半分づつ眠らせるらしい。

 

 だから、私もキョ―くんの思いに応えようと必死にギターを練習した。

 

 人生で、こんなに頑張って事などないくらい、私の毎日をギターに捧げて練習した。

 

 それにバンドを組んでからというもの、キョ―くんは毎日私の家に来てくれるようになった。

 

 毎日私の家に来て、お互いの成果を披露しあうみたいに、2人で一緒に音を合わせて歌い奏でるようになった。

 

 役者としての積み重ねがあるからだろうか?キョ―くんの歌は歌声自体が生きているみたいに表情豊かで、それでいて底知れないほどの力強さと柔らかさを感じさせる。優しい巨人がそこに居て訴えかけて来るみたいで、魂の奥底まで歌詞のメッセージが届いてくる。

 

 その歌を耳にすると、まるで美しい物語を見たかのような心に染み入る何かと、気を抜くと一瞬で圧倒されてしまうほどの存在感を纏っている。

 

 その歌声はまるで、内に秘めたまま曝け出すことのできない感情を代わりに叫んでくれるヒーローか、誰かの怒りや悲しみを叩きつけるように訴えるダークヒーローか………

 

 怒りを叫ぶ歌は、火山の大噴火を思わせるほどに荒々しく、空を駆ける稲光のように鮮烈で。

 

 不満を謳う歌は、酒場でグチグチ言いながら項垂れているなのような弱弱しさと哀愁を感じさせながらも、仕掛け時を伺う競争馬のように乾いて枯れた声のその奥でジリジリと焦げ付くような激しい感情の匂いを感じさせる。

 

 悲しみを謳う歌は、怪しげな色気を纏った泣き声のような歌声で、哀しみの一番近くにより添って一緒に泣いてくれる。

 

 セッションを繰り返す度、キョ―くんの歌が洗練されて独自の色を獲得していくのを一番近くで聞くと同時に、私のギターがキョ―くんの歌を妨げる雑音なんかじゃなくて、キョ―くんの歌を彩る力を持つ音に成長していることが実感できて、キョ―くんと2人で一緒のことを頑張れていることを差し引いても最高に楽しかった。生まれて初めて、本当の意味でキョ―くんの隣に立てた気がした。

 

 ギター・ボーカル・ベース………三つの音がそれぞれ違う力を放っているのに、それぞれが一つの存在へと混ざり合って、私たち2人のロックになる。

 

 学校でも一緒にいる時間が増えて、幼馴染の友だちっていうだけじゃない。

 

 バンド仲間という関係が加わって、今までよりもっと私たちの関係が深くなっていった。

 

 キョ―くんが褒めてくれるから、ギターの練習を辛いと思う時があっても、それ以上に楽しく続けられた。

 

 キョ―くんが歌で私の魂を動かしてくれるから、負けないくらい凄い演奏をしようと思えた。

 

 バンドという熱中出来る何かを見つけられたお陰で、ただ苦痛なだけだった毎日が少し楽しくなって、学校すらも億劫ではなくなった。

 

 そんなこんなでバンドを組んでからあっという間だった一年が経った頃。

 

 キョ―くんが何時になく疲れた顔で一枚のチラシを見せてくれた。

 

 道端で酔い潰れていた人を介抱したら、ロックバンドのライブのチケットを貰ったらしく、折角の機会だから1度他のバンドの演奏を聴くことで私たちのバンドにとって良い刺激になれば・・・・・・・・・ということでライブに誘ってくれたのだ。

 

 私のギターがキョ―くんの魂に届いていたことに感動すると同時に、それほど本気で私とのバンドに向き合ってくれることも凄く嬉しくて、私の心の闇が生み出した幻想でないかと地面に頭を叩きつけたけど、夢じゃなくて全部現実で私の全てが震えるくらい嬉しかった。

 

 怖かったけれど、キョーくんが一緒に居てくれたから何とか外に出ることが出来た。

そして2人で見た「SICK-HACK」の演奏は凄まじく、私たちは高い壁を目の当たりにすることになった。あんなに凄い人たちの演奏を聴いてしまうと、唯一自信があったギターも何だか自信を失ってしまう。だけど、キョーくんが「ひとりのギターなら大丈夫」と太鼓判を押してくれたから、キョーくんの信頼に応えるためにももっと上手くなりたいと思った。

 

 私が意気込んだ翌日、キョ―くんは演奏する時みたいにベースのストラップをかけて、音を抑えつつも演奏しながら登校してきた。授業の時は流石にケースに仕舞って大人しくしていたけど、授業が終わると素早く取り出して一分でも長くベースを弾いていた。

 

 もしかすると、あれがキョーくんなりの「SICK-HACK」へ追いつく秘策なのかも知れない。そう思って、私も真似しようかと思ったが、周囲の突き刺さるような視線を感じた気がして、そっとギターをケースに仕舞った。

 

 その日を皮切りに、キョ―くんはベーシストとしてもメキメキと成長していった。

 

 

 

 

 あの時、私がギターの練習を始めなかったら、あの時、キョ―くんにバンドを組んで欲しいとお願いしなかったら、私たちの関係はどうなっていたのだろう?

 

 きっと、キョ―くんは優しいままで幼馴染という関係が崩れることは無いけれど、それでも今のように関係が深まることは無くて、私は構ってくれるのを待つだけの人間のままだったと思う。

 

 だから、ギターは私とキョ―くんの絆を確かなものにしてくれたのだ。

 

 そして、これからもギターは私と色んな人を結びつけてくれると思う。

 

 あの時、勇気…いや、勇気と呼ぶには無謀過ぎる蛮勇を持って、一歩を踏み出したから。

 

 ………今でも、キョ―くんや家族以外の人の前でギターを弾くことは、ライブをすることは怖い。

 

 私をゴミを見る目で見下してくる時がある、同級生の間に立つことが恐ろしくて仕方が無い。

 

 友だちが1人しかいない、コミュ力がない、暗い、何かジメジメしている、そんな自分が本当に認めて貰えるのか?もし、ダメだったらどうすればいいのかと思うと怖くて、怖くて仕方が無い。

 

 でも、そんなのは何時ものことだ。

 

 音楽が私に居場所をくれた。

 

 キョ―くんが私の手を取って、一緒に歩く道を選んでくれた。

 

 なら、私も音楽とキョ―くんに応えよう。もう一歩分、蛮勇を振り絞ろう。

 

 大丈夫、私には日陰者のミジンココミュ障だけど、キョ―くんと2人なら最強だ。

 

 「それじゃあ、提出するぞ。」

 

 「うぅぅぅぅぅぅぅぅううう」

 

 「大丈夫、俺が居るし秘策もあるから。な?」

 

 文化祭のライブへの出演の為、書類を提出するキョ―くんの腰にしがみつきながら、覚悟を決めて書類の提出を見届けた。




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  • 偶にゲストとしてキャラが出るくらい
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  • 1回共演させるぐらいはしろ
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