ひーろー・ざ・ろっく   作:星宮 星雅

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 4話目 書き溜めはまだあります。
 いよいよ、文化祭ライブ!2人の実力の初披露です!


ひーろー・ざ・ろっく 文化祭編 ギター視点

文化祭の体育館の裏側は今か今かと自分の出番を待つ生徒たちで溢れていて、自分もその中の1人だというのに陽キャオーラに圧倒されて今にも溶けて消えてしまいそうになる。

 

 残念ながら、唯一の頼りであるキョーくんは演劇部の出し物で主演を務める為、私の側では無くステージの上でヒロインに愛の歌を捧げている。今年の演劇部はミュージカルみたいで、人魚姫に片思いをする男性人魚の視点からアンデルセンの名作悲恋「人魚姫」を演じている。

 

 「【真珠の瞳 小さな吐息 麗しき君の名は人魚姫(オクタヴィア)】」

 

 やっぱり、何時見てもキョーくんの舞台は凄い。

長い長い下積みを経て熟成した演技力は幼馴染みの私の目で見てもキョーくんじゃない人に見えるほどで、舞台上のキョーくんは100%寸分の狂いも無く人魚姫に恋する男の人魚に成っているように見える。

 

 「【君へと送る 大きな愛よ 狂おしき君の名は女神(アフロディテ)】」

 

 その演技力は歌にも現れていて、歌そのもののメロディーの美しさは勿論のこと、歌が伝えてくる感情が見ている人の心を震わせて、、一緒に演じている演者さえも物語の世界へ連れて行く。

今は主役であるキョーくん1人のシーンだけど、物語が進めばキョーくんが中心となって他の演者たちを引っ張っていくはずだ。その証拠に、観客席や舞台裏の演者の目元には涙らしい液体がボタボタと流れ落ちていくのが見える。

 

 「【運命の2人 出会った大地 海の中僕は見る理想郷(アルカディア)】」

 

 「【そこへ行けない 惨めな僕の 願う未来道の名は愛の物語(ラブロマンス)】」

 

 愛する女性が自分でない男を愛していることに苦悩する主人公は悩み抜いた果てに愛する女性の幸せのためにその身を犠牲にする覚悟を決める。その悲痛な思いと断ち切れない恋心、そして愛を貫くと誓った覚悟が私にも伝わってきて胸が苦しくなる。

キョーくんの演技を見慣れていて、陽キャオーラに囲まれて舞台に集中し出来ていなかった筈の私さえも物語の世界に引き込んで、キョーくんは体育館全体を物語の世界に変えて見せる。

 

 「SICK-HACK」の廣井さんがカリスマでライブを引っ張っていたように、キョーくんは演技力で舞台を引っ張って見せる。

 

 「【魔女へと走る 捧げる全て 闇の中僕は見る女神(アフロディテ)】」

 

 「【君へと歌う 最後の恋よ 届かずとも愛するは人魚姫(オクタヴィア)】」

 

 物語のヒーローが舞台(そこ)に居る!

 

 

 

 

 演劇部の舞台が大盛況に終って、キョーくんが舞台裏に戻ってくる。

キョーくんの演技を見る度に何時も思う。こんな凄い人と私なんかが一緒に居ていいんだろうか?

演技のことはあんまり詳しくないけど、キョーくんは本当に凄い役者でドラマや映画の主役になったことがないのが不思議なくらいで・・・・・・・・・そんな人の相棒が本当に私なんかでいいんだろうか?

 

 「また、私なんかがって考えてただろう?」

 

 そんな私の考えを読んだみたいで、キョーくんが声をかけてきてくれた。

何時のまにか舞台の衣装から、Tシャツにベースを持ったライブのスタイルになっている。Tシャツはキョーくんが秘策を演劇部の小道具班に依頼した時、偶然居合わせた被服部が勝手に作ってくれた物で、黒地に白色で中世の舞踏会みたいな仮面が描かれている。

 

 「ひとりは充分凄いギタリストだよ。そうでなくたって、ひとりは俺の誇りだ」

 

 「そ、そそそ、そんなことはあ、ああ、ありますけどぉ~~~」

 

 キョーくんは優しいから私なんかのことも褒めてくれて、その度に私は調子に乗る。

今までは単純に慰めてくれてるだけだと思ってたけど、でも、わ、わわわ私が凄いギタリストだって言うのはもしかして本当なんじゃないかな?だ、だって、私す、す凄く練習したし・・・・・・・・・。

 

 「確かに学校の連中とひとりは全然縁が無い。でも、客は敵じゃねぇぞ。」

 

 「て、敵?」

 

 「初めから攻撃する気で集まってくる客は・・・・・・・・・まぁ有名になればそれなりに出てくるらしいが、まだ無名の俺たちには居ない。それに、敵でも見に来るということは俺たちに興味があるということだ。どうでもいい相手のことは誰も気にしない。まぁ、俺も先輩に言われたのを数年かかってやっと分かんだがな。」

 

 攻撃する気の人たちは居ない?敵でも興味を持ってくれてる?

そんなこと考えたこともなかった。で、でも、変な演奏しちゃったら文化祭が盛り下がっちゃうし、キョーくん迷惑かけちゃう・・・・・・・・・で、でも、折角、キョーくんと2人で頑張って来れた。

 

 ずっと見ているばっかりで、2人で一緒に同じ場所を目指すなんて夢みたいだった。

 

 あの時間を、キョーくんの思いを無駄にはしたくない。

 

 「ギターヒーロー、俺たち2人の物語を魅せに行こう。」

 

 まだ人前に立って演奏するのは怖いし、そもそも人前に立つことが怖い。

でも、もう少しだけ勇気を出してみよう。だって、私はギターヒーローだから。

 

私は唾を飲み込んで覚悟を決めて、キョーくんの手から仮面を手に取った。

 

 

 

 

 合唱部の出し物が終って、とうとう次は私たち2人の出番がやってくる。

 

 「ありがとうございましたー!さて、続いては3年生2人のロックバンド!何と今日が記念すべき初ライブとなります!その未知数な実力はいかほどか!?六苦ヒーローのお二人でーす。」

 

 陽キャオーラをキラキラさせる生徒会の司会に従って、キョーくんの後ろをついて舞台に出る。

観客席から困惑の声が聞こえる。きっと、うう・・・やっぱり私なんかがバンドなんて・・・・・・・・・

 

 「大丈夫、秘策の仮面が珍しいだけだろう」

 

 キョーくんが小声で励ましてくれる。

文化祭の舞台にあがるのを渋る私に、キョーくんが用意した秘策は仮面で顔を覆って視界を制限することだった。観客が見えづらいから、その分、演奏に集中出来る・・・かもしれない。

でも、これって端から見たらTシャツに仮面被った変な人じゃあ・・・・・・・・・

 

 「先ずは音合わせだと思えばいい。一曲目から練習通りに・・・・・・・・・」

 

 キョーくんが小声で指示を出して、私をリードするみたいにベースを弾き始める。

何度も何度も何度も繰り返した練習をなぞるように、私もギターのを弾き始めた。

 

 曲は「アンパンマンのマーチ」のロックアレンジ。キョーくんの提案でライブハウスじゃ無くて文化祭の舞台だから最初は誰もが知ってる曲のロックアレンジが良いというのと、武道館には程遠いけど平和を歌うならピッタリの曲だからという理由からだ。

 

 ジャンジャンジャン ジャンジャンジャン

 

 うん、良い調子だ。私もキョーくんも音量・フィードバックともに問題ない。となると、後はボーカルだけど要らない心配だ。キョーくんの喉の調子はさっきの舞台で分かってる。

 

 仮面越しに私とキョーくんが視線を交わして、間もなく歌が始まる。

 

 瞬間、心臓を鷲掴みにされたかのような錯覚を覚えた。

 

 子ども向け作品ながらも歌詞は真剣そのもので、そこに込められた人生を問う言葉と平和への願いが、生身の感情となって私の奥底へと染み渡ってくる。それは悲観に暮れて泣いているようで、それでいて自分が生きていることを心から喜んでる。痛みに苦しみながら、それでも未来を向こうとしている。

 

 キョーくんの歌は「SICK-HACK」のライブで感じた廣井さんの圧倒的カリスマとは違うけれど、聞き手を曲の世界に連れて行って、同じ感情を感じてくれる。まるで、すぐ隣で一緒に泣いて、怒って、喜んで、笑ってくれているかのような、近い距離感と剥き出しの感情。

 

 気がつけば、演者でありながら私とキョーくん自身も「アンパンマンマーチ」の世界に居て、歌詞が移り変わる度に、自分の感情を振り回していた。

 

 そして一番の盛り上がり―――サビがやってくる。

 

 激情を全て吐きだしたような歌声、とうとう私とキョーくんの目から涙がボロボロこぼれ落ちる。

 

 ああ、ああ、愛や勇気なんて青春コンプレックスを引き起こすには充分な単語なのに、私は不思議と平和を願って泣きながらギターをかき鳴らしている。単なる誤魔化しで口にした目標なのにキョーくんの歌に引っ張られて本気になっている。

 

 キョーくんの世界がくれた激情をぶつけるようにギターの音色を轟かせる。

 

 キョーくんとのセッションは何時もこうだ。キョーくんの歌が私に感情の力を与えてくれて、私がそれを振り回してギターをかき鳴らして、キョーくんがそのギターをも世界に組み込んでしまう。私がどんなに好き勝手にギターを弾いてもキョーくんが曲にしてくれるし、キョーくんがどんな歌や演奏を返しても私は負けないくらいのギターを返して曲を作る。

 

 私とキョーくん2人の激情の叫びが音になって混ざり合って、六苦ヒーローのロックになる。

 

 そうして「アンパンのマーチ」を1番だけ演奏し終えると、さっきまであんなに悲しくて泣いていたのに、後に残ったものはやり切った達成感と全ての感情を吐き出したことによるスッキリとした清涼感。私とキョーくんは涙を拭って、お互いに拳を突き合わせて笑い合った。本当に楽しい一曲だったから。

 

 「見づらいけど、客席見てみろよ」

 

 仮面越しに観客席を見てみると、みんな涙を拭いながら真剣な「次は何をしてくれるんだ?」って期待してくれてるみたいな目で、私たちに注目していた。

 

 キョーくんの音にしか意識が向いて無くて気がつかなかったけど、みんなが私たちに興味を持ってくれて、偉大な王を称えるように私たちを仰ぎ見てくれている。

 

 「どうも、音の合せに時間を使わせて貰いました。俺たちは六苦ヒーロー、ロックバンドの六苦ヒーローです。俺はベースヒーロー、相棒はギターヒーローです。ドラム抜きの仮バンドですが、ここから天辺を取るバンドだから今の内に古参ファンになっておいて損は無いです。」

 

 まるで「俺たちが上だ」と宣言するかのような強気のMCにも拘わらず、それを笑う声は少しも聞こえてこず、誰もがキョーくんと私を仰ぎ見た。

 

 キョーくんの言う通り、私を蔑むような意思は感じられなくて、みんな敵意じゃなくて期待の目を向けてくれているように見えた。本当に私たちに敵なんて居なかった。

 

 名前が京極響兵(きょうごくきょうへい)と後藤ひとりじゃなくて、ベースヒーローとギターヒーローなのは六苦ヒーローとしての芸名みたいなものだ。顔を隠すのに名前は本名というのも可笑しな話しだし、私が舞台上で本名を晒すのが怖くて渋ったこともあり、初ライブはベースヒーローとギターヒーローとして活動することになった。今更だけど、勿体ないことをしてしまったかもしれない。

 

 だって、このライブはきっと成功するだろうから。




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  • 偶にゲストとしてキャラが出るくらい
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