さて今日見ていただく女帝様は何やら様子がおかしい・・・。
そして,いくら愛バが重馬場になっても,対応次第で回避はできるというそんなお話です。
最近,あいつに言い寄るウマ娘が増えてきた。最初こそトリプルティアラのトレーナーだからと,とても誇らしかった。しかし日が経つにつれ,だんだん私の中にどす黒い感情が生まれてきていた。
そこにいる男は女帝である私の杖,私だけの杖だ
これではいけない。生徒会副会長にあるまじき考えだと抑え込んでいたが,どんどん欲望は溢れ出てくる。
私はトレーナーの自宅に行く回数が増えた。最初は掃除だけだった。しかし,どんどん色んな家事をこなすようになり,他のウマ娘どもが寄り付けないようマーキングまでするようになった。
そして,ある時,自室に帰った私はファインモーションに声を掛けられた
「エアグルーヴ。どうしたの,そのシャツ?」
私は無意識にトレーナーの脱いだシャツを持ち帰っていたのだ。その場は誤魔化したが,その時から私はトレーナーの匂いに敏感になった。
ああ,この匂いを独り占めしたい。
他のウマ娘どもに触れさせたくない。
しかし事件は起こった。
ある日,トレーナー室に行ったところ
T「聞いてくれエアグルーヴ。チームを結成してはどうかって話が来た。君のトリプルティアラ達成を受けての事だ。次代のトリプルティアラを育成してほしいと理事長に言われた。俺,頑張るよ。『全てのウマ娘が幸せになれる世界』になっていくよう,一人でも笑顔のウマ娘が増えるよう指導していくよ!」
ヤツは喜んでいた。
しかし私は絶望した。
私に構う時間が減る。
私以外の女と絡む時間が増える。
私だけの,女帝である私だけのトレーナーを奪おうとする奴らがよってくる。
私だけの,私だけの,私だけの,ワタシダケノトレーナーナノニ!
ホカノオンナドモニワタサナイ!
その時,私の中で何かが壊れた。
「断れ」ハイライトオフ
T「え?どういう事」
「断れと言ってるんだ!貴様は誰のトレーナーだ!女帝である私だけの杖だ!貴様は私だけを見ていればいいんだ!」
T「おい。エアグルーヴ,落ち着けって」
「うるさい!貴様は私が見飽きたのか?それとも鬱陶しくなったのか?だから他の女どもを指導する事が嬉しいのか!」
T「そんな事は言ってない」
「黙れ!黙れ!黙れ!もうほかの女どもの指導もするな!口も聞くな!私だけを見ていろ!」
T「無茶を言うなよ~」
「ハハッ・・・・・そうか貴様には,まだまだ指導が必要だな」
T「おい,やめろ!」ドサッ
「どうだ!女帝に押し倒された気持ちは?こんな美人に押し倒されて最高だろ?さあ体にしっかりたたきこんでやる!貴様は誰の為に働いて,生きていくべきなのか。私が怖いか?怖がる必要なんてない。私は貴様を愛してしまった。もう,どうしようもできないぐらいな。だから貴様を誰にも渡さない。さあ,たっぷり愛してやる。貴様はワタシダケノモノダ」
T「ちょっと待った!」
「何だ。何か言いたい事があるのか?私は慈悲深いウマ娘だ。聞くだけきいてやろう」
T「なあ?エアグルーヴ。さっき,俺を愛しているって言ってたけど本当か?」
「ああ,そうだ。貴様の事が頭から離れなくて,離れなくて,部屋の掃除と言っては貴様の脱いだ服や私物を盗むぐらいな」
T「そうなんだ・・・」
「怖いのか?トレーナー,私が怖いのか」ガブッ
T「痛っ!エアグルーヴ,何・・・するんだ」
「しるしだよ。私だけの物だという証明だ。首元につければ隠す事も出来まい」
T「改めて聞くけど,エアグルーヴは俺の事を愛してるって事なんだな?間違いないんだな」
「たわけ!何度聞くつもりだ!そうだ愛している!貴様の部屋に盗聴器も監視カメラもしかけた。貴様の全ては私だけのものだ」
T「俺,エアグルーヴに愛されてるんだ・・・」
「そうだ。だから他のメス共に目を向けるな。私の体で全て満足させてやる」
トレーナーは黙ってしまった。
諦めたのだろう。
サア,ワタシノスベテヲキサマニキザンデヤル!
「・・・・・やったーーーーーーー!マジで!エアグルーヴ,俺の事,愛してくれてるの?まじ嬉しい!もう,この際だから言わせてもらうけど,俺は君の走りと顔に一目惚れしてたんだ。でも指導者と教え子だろ~。俺が君に手を出したら警察に捕まっちゃうわけよ~。それに俺が告白なんてしたら『貴様,私をそんな目で見ていたのか。契約解除だ』って言われるかと思って出来なかったし,かといって君が卒業する時に言ったら言ったで『ずっと私をそういう目で見ていたのか・・・消えろ』とか言われると思って,ずっと言えなかったんだよ。でもエアグルーヴから告白してくれたって事は,俺たち両思いじゃん!ああ,マジ嬉しい!」
何を言っているんだ,この男は?両思い?
T「エアグルーヴ,俺も君の事を愛している。正直,結婚してほしいぐらいだ。だけど今はレースで走る君を見ていたい。君がレースを引退するその日まで見届けたい。君が高等部を卒業したら結婚を前提に付き合ってほしい!ただ,それまではもう少し我慢してくれ!」
え・・・私とトレーナーは両思い・・・。
バタン
T「お,おい!エアグルーヴ!」
頭の整理が追いつかなかった私は倒れた。
ただ起きた後にトレーナーから色々と話を聞かされた。
トレセン学園に入るまでは,かなり陽キャなナンパ人間だったが就職を機に,そのキャラを封印していた。だけど私と出会ってから,ちょこちょこ,そういう一面が出てしまっていたとの事。
一方。私はトレーナーへの思いに悩み,嫉妬に狂い,自分の後輩達をゴミ扱いし,トレーナーの部屋から物を盗み,盗聴・盗撮という犯罪行為にまで手を染めるぐらい自分を見失っていた。さらに・・・
T「エアグルーヴ。ポケットから変な薬が見えてるぞ。それ媚薬?それとも睡眠薬?しかしかかってしまったウマ娘って本当に手段を選ばないんだな。でも大丈夫だ。そうなってしまうぐらい追い詰められていたんだろ?でも安心しろ。今日で,それも終わりだ」
そう,私は媚薬を盛って,無理やりトレーナーと体の関係を持とうとしていた。でも,この男は,こんな暴挙に及ぼうとした私を許すというのだ・・・。
ああ,もう・・・まあ好きになってしまうではないか・・・。
T「ところでエアグルーヴ。『わたしのもの』って言っていたけど,俺は人だよ。これからは『私の大切な人』って言ってくれないか?あと仕事柄,他の女性と話さないっていうのは無理。そこで提案なんだが他のウマ娘や女性と話した後,エアグルーヴを『俺の嫁』って紹介しても良いか?君が女帝として,副会長として,何より女性として,いかに素晴らしいか説明すれば,そんな男に他の女は寄ってこない」
「た・・・・・・たわけ!そんなの恥ずかしすぎる!そんな事はしなくて良い!普通に会話してくれ!」
T「嫉妬しない?」
「嫉妬・・・・・する」
T「じゃあ,やっぱり」
「それは止めてくれ,本当に」
T「学園公認カップルになれると思ってたのに」
「貴様!今はトレーナーとして全力を尽くせ!ああ!もう,そこに座れ!お説教だ!」
T「いいよ。今は君の態度や言葉,何もかもが嬉しいんだ。今からするお説教も要約すれば『I love you』って事なんだろ?」
「あ・・・・あ・・・・貴様ーーーーーーー!」
その後,私はどれだけ悩んだか,何もかも洗いざらい話した。
トレーナーは嫌な顔をせず,ずっと聞いていた。だが・・・
「俺,そんなに愛されてたんだ。ごめんよ。もっと早く,その愛に応えるべきだった」
など歯の浮く相槌を連発。すっかり毒気を抜かれてしまった。
挙句の果てに「なあ婚約指輪,いつ買いに行く?」と言い出した時には,もう私は放心状態だった。
今までの時間・・・・・いったい何だったのだろうか・・・。
その後,トレーナーに送られ,寮に戻った。
同室のファインモーションから「悩み解決したんだね?ニヤけてるぞ~」と言われた。
どうやら,ここに来て,ようやく私はトレーナーと両思いになれた喜びがやってきたようだ。
ただ次の日,トレーナー室で「エアグルーヴ。昨日のプロポーズは,やはりちょっと違うと思うんだ。改めてもう一回プロポーズをしても良いか」と言い出したのには開いた口が塞がらなかった。
そして,それ以降,トレーナーは私に対して歯の浮くようなセリフを連発するようになった。恥ずかしいので止めて欲しい旨を伝えたが,
「俺のせいで君を不安にさせた。だから,これからはハッキリと思いを伝えていく。俺は,もともとそういうキャラ。もう自分を偽らない」キリッ
と正面切って言われてしまい,二の句が継げなくなった。
ただ一つ言えるのはレースの成績は良くなった。
そして今や私たちは「硬派な女帝に軟派なトレーナー」「バカップル」「夫婦漫才」「トレセン学園の風物詩」と呼ばれてしまっている。
まあ,今の私は,とても幸せだ。
覚悟していろ,トレーナー。
卒業したら今度は私がたっぷり愛してやる。
終わり