夢想を懐き天を生きる 作:神降ろし
更新です。
霊夢が寧音と共に自宅を出たと同時刻、巨大な敷地を持つ破軍学園の前で二つの影があった。
一つは正門前で浅く肩を上下させながら、水筒に詰めたスポーツドリンクを飲むジャージ姿の男、
一輝は体力維持のため、いつも二十キロ程のランニングを行っている。そしてその日課に三日前から一緒の部屋で生活することになったステラもついて来ている。だが、魔力方面の才能がないことを自覚している一輝は、それを補うためにも、肉体方面で尋常でないほど
この二十キロにしても、軽いジョギング程度ではなく全力疾走とジョギングを約七対三の割合────勿論全力疾走の比率を高く設定して心肺機能に意図的に高負荷をかけながらという苦行としていた。
そんなことを知らずに比較的常識の範囲でしかしたことのないランニングと勘違いしたステラは、一日目完走しきれず倒れた。
二日目は空元気と痩せ我慢をしての無理がたたって吐いた。
そして三日目にして到頭ゴールを走り切ることが出来るまでになったのである。
「はぁーッ! はぁーッ! ゴー…ル……ッ」
「お疲れ様」
「これくらい、どうってことない」と言いだそうとするも、呼吸が乱れに乱れているステラは痰が絡んだのかゲホゲホと咳を何度もしてしてしまう。
それをみた一輝は苦笑い気味に暫くせき込んだ後にようやく落ち着いたステラへと自分の水筒を差し出した。
「はい、スポーツドリンク」
まだ肩で息する程度にさえ戻れず、全身で呼吸をしているステラは俯いたまま右手を伸ばして一輝から水筒を受け取り、コップになる蓋を外すと所謂がぶ飲みという飲み方で口に流し込んだ。遠慮のないステラに苦笑いが続いてしまう。尤も、そうなる程の事を今したばかりなのだから周囲の目を気にする余裕などあるはずもないと理解はしているのだが。
一輝はそんなステラから何となく視線を外し、破軍学園の正門を見つめた。
正門前には────始業式を知らせる看板が立てかけられている。
「ようやく始業式か………」
一輝にとってそれは感傷深いものであった。
一年目は、目的としていた人物にも会えず、何のチャンスも与えられることもなく、全てが過ぎ去ってしまった。
だが、今年は違う待ち続けたチャンスの到来に、否が応でも気持ちが高揚する。
新理事長・新宮寺黒乃のもと、全ての生徒にチャンスが与えられたのだから。
「なんだか楽しそうね、イッキ」
「そう見える? 実は新入生として妹が入ってくるらしくてね。四年ぶりに会うから楽しみなんだ」
「ふぅん?それだけにしてはかなり高揚してる気がするけど………」
「あれ?ステラは知らないの?」
「?何を?」
こてんと首をかしげるステラに本当に知らないのだなと確信した一輝は、微笑みながら説明することにした。
「今年の新学期は留学生のステラのほかに、理事長直々に推薦した新入生が来るらしいんだ」
「あの理事長が直々に!?」
「うん、それも……
「!!」
自身のと同じAランクの学生騎士───その言葉にステラは今度こそ驚いた。
現在日本で連盟に登録されている学生騎士たちの中で、Aランクと認定されている者はたった二人しかいない。その片方は一輝の実の兄だということはステラも理解している。だが、もう片方の存在を彼女は認知していなかった。尤も、当時の修行狂いになっていた彼女にそんな余裕などなかったが故なのだが…………。
それは置いておいて───今、ステラには非常に気になることがある。
「なんでイッキはそんなにその新入生のことを知ってるの?知り合い?」
(何故に殺気が……?)
「うん、僕の
「性別は?」
「?かわいい女の子だよ?」
「………何か将来を約束することとかは?」
「何もないけど………」
「…………まあ、よし」
(何を許された?)
よく分からない質問をよく分からないまま答えてしまったが、どうやら許されたようなので一輝は深く追求しなかった。
気を取り直して一輝は再び『始業式』の看板に視線を戻し、これから始まる日々に思いを馳せた。
ついに始まるのだ。七星剣武祭 出場枠をかけた戦いの日々が────。
ゆっくりと瞼が開く。
視界に映ったのは眩い日の光、次いで映る雲一つない快晴の空。肌に感じる風が心地良い。
始業式を終えてすぐに日向ぼっこというのは、何とも言えない背徳感がある。
尤も、それを咎める間もなく学園の屋上まで飛び上がってしまったのだから誰も文句を言えないし、なにより霊夢が言わせない。
さて、目が覚めてしまったのだから日向ぼっこは終わりだ。次は何をしようか────などと、余りにも暢気なことを考えながら霊夢は上体を起こし飛び上がってくるくると回り、今度は更に高く屋根に飛び乗った。
「今度は何しようかしらねぇ………あ、そういえば黒乃さんが言ってたっけ?
上体を起こし終えた霊夢はふと今正に思い浮かんだことを次の暇つぶしとして決定した。何とも猫犬のような気分屋である。
そうと決まれば即実行とばかりに霊夢は屋上を後にするべく、階段のある扉の方へと向かうのかと思いきや、全く逆のフェンス側へと足を進め、
それを見た周囲の学生の反応はまちまちだ。
在学生────特に彼女の存在を知っている三年生ならば屋上から飛び降りてきた姿に見てギョッとするも、それが推薦入学生である彼女だと分かった途端理解し納得する。
しかし、彼女をあまり知らない新入生も含む者たちは違った。初めの反応は知っている者たちと変わりないが、そこから彼女─────霊夢の容姿に見惚れて再び止まってしまう。それも男女問わずに。
そんなことを気にした様子もなく、霊夢は踵を返してまだ新入生たちが屯している教室がある場所まで軽やかな足取りで進んで行く。
やがて現場に着くと、其処には新入生たちだけの人だかりが出来ていた。何故か、教室の外に生徒達が屯し渦中の様子を伺っていたのだ。
事情を聴くために野次馬から離れている同じ新入生であろう女子生徒に声をかけた。
「ちょっといい?何の騒ぎこれ」
「はい?今ちょっと取り込み中なんでッ────ウソ………」
女子生徒は取り込み中だからその応答に断ろうと振り向き、彼女の存在に気付くと目を見開き言葉を失った。
それもその筈。何せ彼女という存在は、
眼鏡の女子生徒が興奮気味に事情を説明しようとした時、突如────教室の中から二つの強烈な気配が迸った。
その気配が放つ強大な魔力には膨れ上がった敵意と殺意が浮き彫りとなっており、到底喧嘩の範疇に収まりきるものではない。
殆どの生徒がその魔力に足がすくみ、逃げ出そうともがくもびくとも出来ずに立ち尽くしている。このままでは大勢が巻き添えを喰らうことは目に見えている。
そんな中を────────霊夢は悠然と歩きだした。
そして二つの魔力が衝突する間際、彼女はその間へと自身の体を滑り込ませ、振り下ろされた二つの霊装を
彼女は唐突に現れた。
気配もなく、形もなく、凡そ其処にいるという存在そのものが唐突に発生したように。
少なくとも騒動の中心部にいる三人にはそう感じた。その内の二人────本校推薦組を除く新入生であり主席と次席でもあるステラと
片方はあまりにも呆気なく自身の霊装を弾き飛ばした目の前の少女への驚愕の意を籠めて。
もう片方は自身の目の前に立つ人物が嘗ての姿よりもより
「まったく………危ないでしょうが。個人的な喧嘩ならともかく周囲を巻き込む暴走とか馬鹿でしょうに」
そう吐き捨てる少女に、ただ一人彼だけは、黒鉄一輝だけは驚きをそのまま覚えるもその様に納得する。ステラと珠雫が霊装を出した上での衝突を無防備なままで被害を出すことなく制圧出来る存在を、一輝は一人しか知らないのだから。
「霊夢ちゃん……」
「ん、久しぶり一輝さん」
何事もなかったように、事実何も起こせなかったステラと珠雫を置き去りに‟
今作の霊夢さんは王馬さんだけでなく黒鉄家全員と面識があり、彼らの世界の外枠をぶっ壊して領域を広げてますのでご了承ください。
つまり、リメイク前の王馬さんみたいなことになる可能性大です。
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