又人斬り抜刀斎で緋村剣心でもある彼は彼等と出逢う
「消えた…」
剣心と千琥の消えた戦場で一人霊結晶を握りしめ呟く。
そのまま倒れているイヴに近寄ると抱き上げて先程ウェットコットの消えていった道を歩き始めた。
その途中でアダムは有ることを考えていた。
(緋村剣心…何故あそこで突如として倒れたんだ?)
先程の戦闘で突如として呻き声を漏らし倒れこんだ剣心の姿が頭をよぎった。
(まぁ良いか…とりあえず霊結晶の奪取は達成した。これで輝ヶ谷千琥の生存確率は0%に近いだろうな。すまないな緋村剣心…起きたときには彼女はもうこの世にいない)
そして、アダムと彼に運ばれているイヴの姿は夜の闇に消えていった。
ー
ーー
ーーー
「早くしなさい!一刻の猶予もないのよ!」
「「「はい!」」」
そんな声が一室に響き渡った。大きな声で命令するのは琴里。それに返事をするのはラタトスクの医療チームだった。
「…最悪な結末じゃないこれじゃ!」
琴里が剣心と千琥を此方に転送したときには剣心よりも千琥の方が顔も青ざめて息も荒く呻いていたので先に治療を優先された。
「千琥ちゃん霊力が著しく減少しています!このままでは…!」
「っ!?どうしろってのよこんなの!」
もし千琥の治療が外傷ならばこんなことにはならなかっただろう。しかし今、千琥は霊力の素である霊結晶を奪われた為霊力が補充されなくなり体力を衰えさせているのである。霊力の補充など外部からでは不可能だ…するとこのままでは千琥が死んでしまう。
「なら俺と千琥の間で霊力の送り合いをすれば…!」
そう言って提案してきたのは士道。
「無理よ…彼女は貴方と対面したことがないのよ?キスしても霊力の送り合いなんて出来ない。有るとしてもほんの少しだけ送ることが出来るだけ…」
「そ…そんな……っ!クソ!!」
琴里は今もなお苦しんでいる千琥と扉を隔てた向こうで苦しんでいる剣心を見つめる。
「剣心……貴方まで…」
ー
ーー
ーーー
苦しい力が体の外に出ていってるみたいに力が抜けていく…
ここはどこ…?色んな管が繋がれてる…
もう目の前もぼやけてきちゃった…
そう言えば…剣心は?あの後大丈夫だったのかな…?大丈夫じゃないか…あんな苦しそうにしてたんだから…
でも、私も同じだよね…ごめんね。剣心。私もう限界みたい…
(まだよ…まだ、諦めちゃダメ)
(?………誰?)
(貴方と剣心が死んだらこれから未来は最悪な方向へと向かっちゃうの…だから死んだら駄目よ)
(最悪な未来…?何それ?)
(皆……DEMに殺されちゃう…貴方と剣心が居なかったから勝てた戦いも負けてしまうの!貴方達がいたら勝てるのよ!)
(…)
(貴方の心の中に入り込むのにかなりの霊力の使ったわ…貴方に送る事が出来る霊力は僅かだけどお願い!生きて!!)
限界だった視界が遂に黒に染まった。そのまま眠ろうとした時に何かが流れ込んだ気がした。そしてあらゆる器械の音も聞こえなくなっていくなかではっきりと聞こえた。
(そして未来を変えて剣心と千琥姉ちゃんの二人で!)
ーーー
ーー
ー
「…!?これは!」
一人の医療人が何かに気付く。
「何!?今度はどうしたの!?」
「千琥ちゃんの霊力が平均値に戻りました。容態もすべて安定しました…!」
「なっ!?本当に!?」
琴里だけではなく周りにいる士道達も驚きの顔をしていた。
「なら、後は貴方だけよ剣心……」
琴里はまだ大量の汗をかき続けている剣心の手を取った。
ー
ーー
ーーー
どうしたら……
どうしたら良いんだ。
人斬り抜刀斎にも戻れず不殺の誓いを立てた緋村剣心でも居られない…
なら、どうしたら…良いんだ。
そうだ…千琥はどうしたんだ…あの後、ちゃんと勝てたのだろうか…きっと勝てただろう…千琥なら…
………そうだ…忘れれば良い…
人斬り抜刀斎の事も不殺の誓いを立てた自分も…忘れれば良い…士道殿も琴里殿も左之助も宗次郎も皆も…
そして、千琥の事も。
忘れて新しく生きれば良い。そして築けば良い。新しい関係を…その時、又皆が自分と親しくしていてくれればまた仲間でいよう…もし、別れていたなら諦めよう。
千琥がまた好きなってくれたら思いを伝えよう。自分が彼女に惚れたなら告白しよう。
そう…それがいい…それで…いい
これからは…
ーーー
ーー
ー
「緋村さんも…心拍数安定しました…」
「!?本当に!?」
琴里が剣心の手を握ってから30分程して剣心の容態は安定した。
ーーー………
~次の日~
剣心と千琥を除く皆はラタトスクにある会議室に入っていた。何やら琴里と令音から報告があるらしい。
「さて…皆集まったようだね…では話すとしようか…」
令音が全員が席についたのを確認すると話を始めた。
「まず、今回のDEMとの戦いにおいて分かったことだ…君達もスクリーンで見たように彼等…アダムとイヴは異常だ。剣心と千琥をもってしてもあの様な結果になった。」
「だがよ!殆どこっちの方が有利だったじゃねぇか!」
左之助が令音の言い方に不満を覚えたのか反論する。
「あぁ…確かに最後を見れば彼等の勝利は間違いなかったかもしれない…それでもそこまでの間にあった彼等の能力。あれが異常なんだよ…」
「………確かにそれはそうだったけどよ…」
「…まぁこの話は後にしてもいい。問題は次の話だ」
令音がそう言うと天井からスクリーンが降りてくる。そこにはあらゆる数字や図形が描かれていた。
「これは千琥のついさっきでた検査結果だ…見たまえ…霊力値があまりにも低い…昨日、いきなり霊力が増えたのは謎だがそれよりもその増えた霊力もまた減っている。このままでは最長でも3日しかもたない…」
っ…!?
席に座るメンバー達が悲壮な顔をする。琴里も事前に話は聞いていただろうが小さく舌打ちをして目を瞑っていた。
「3日って嘘だろ?その間に剣心さんが起きなかったら!」
「えぇ…その剣心も起きたときが不安なのよ…」
と琴里。
「どうゆうことだ?」
士道が聞き返してくる。すると琴里は近くにあったリモコンを操作してスピーカーから音を再生した。
そのスピーカーからは剣心が倒れる間際に放った一言が録音されていた。
声は掠れて何を言ってるか耳を済まさなければ分からないがそうすればちゃんと聞こえた。
何も分からないと…
「これを聞いた私と令音の仮説では、剣心の不殺の誓いは覚えているわね?剣心は先の戦いでイヴを殺してしまったと思った。すると、自分の生きる意味だった誓いを破ってしまいこのままでは誰もいなくなってしまう…そう思った結果。声に漏らしてしまったのが【何も分からない】って言葉と考えたわ」
「そんな!俺達は剣心さんから離れたりしない!」
「そんなの私だってそう思ってるわよ!でも…!剣心がそう思い続けたら意味がないでしょ………」
琴里の弱音に皆も顔を暗くする。
「剣心の事よ…きっとそうするわ。無駄に責任感が強いんだから…」
「………つまり私は剣心が起きた時にどうなるか分からないと言いたいんだ…もしかしたら気が狂ったように暴れるかもしれない…何も喋らないかもしれない…もしかしたらそれ以上も…ね」
令音の言葉に皆が更に顔を暗くする。
「そ、そんな…の嫌です!」
四糸乃が珍しく声を張った。それに続くように女性陣は私もと続いた。
士道と左之助と宗次郎も気持ちは同じだろう。
そんな空間で琴里の無線機に連絡が入ったのか音が鳴った。
「…私よ……そんな…………分かったわ…今行く」
琴里はそう言うと無線との連絡を切った。
「何だったんだい?」
と令音が聞いてくる。
「…剣心が起きたらしいわ」
!?
「皆…これから何があっても動揺しちゃ駄目よ?気をしっかり持ってね…」
その琴里の言葉に皆は焦りから汗が流れてきた
ー
ーー
ーーー
あれから皆は剣心の病室の前まで来た。士道はその扉を開けようした時、何故か浮かんだのだ。
剣心と出逢った日のこと
一緒に十香の封印をしたこと
四糸乃の封印をしたこと
宗次郎をラタトスクに勧誘したこと
八舞姉妹達と共に一緒にバンダースナッチと戦ったこと
一緒に高校と大学に通ったこと
一緒にご飯を食べたこと
そしてDEMに乗り込んだこと…
全部が一気に頭の中を駆け巡った。
「何してるの士道開けないの?」
琴里がそんな士道を見てか聞いてくる。
「えっ?あ、あぁ………そうだな行こう」
何故だかその扉がとても重く感じた
完全に開くまでの時間が長く感じた
その扉を開けた向こうには窓の向こうを見た剣心がいる。
「剣心さん大丈夫ですか?」
士道の声に剣心は気付くと士道たちの方を振り向いた。
「そうだぜ剣心!いきなり倒れてよ!」
「緋村さん早く退院出来ると良いですね」
「そうだぞケンシン!早く良くなるのだぞ!な、四糸乃?」
「は、はい!はや……く、良くなっ…て下さい…ね」
「えぇ…そうですわね」
「ふっふっふっ、この颶風の御子もお主の帰還を楽しみにしておるぞ」
「同意。夕弦も楽しみにしています」
「けんちん!」
「たぁー」
左之助、宗次郎、十香、四糸乃、狂三、耶倶矢、夕弦、奏、穣之助が剣心を励ました。
「はぁ…ところで貴方達は?」
だがこの世は無情にも剣心は今まで皆と過ごした想い出を無くしていた。
っ!?
皆、琴里が先程言っていた何があってもという言葉に覚悟はしていたが同様の色を隠せなかった。
そんな中で琴里は今まで皆の後ろにいたがその間を掻い潜り剣心の元まで来て言った。
その顔を涙で濡らしながら…
「歓迎するわ…ようこそラタトスクへ」