東京リバースギフテッド   作:とぅりりりり

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時明かされる異能(ギフテッド)

 

「……えっと」

 

 

「一応言うけどあたしに能力のこと隠しても無駄だよ。お前よりお前の異能のことがわかるからな」

 

 メガネを外して俺を視る晴美さんは寝起きのときと違って圧は感じない。熟練の魔眼使いは違和感を与えないとは聞いていたがこういうことだろうか。

 

「た、たしか……」

 

 回数でいうと……倉庫関連は13回だったかな。アジトの件は多分3回。合計16回か。

 

「2桁いってんのかよ……」

 

 ドン引きした様子でがしがしと頭を掻くと俺の斜め後ろを見てから俺と目を合わせる。

 

「お前を吉田から引き離して預かったのは『お前の異能が危ういから』だ。一週間で最低限は矯正してやる。それ以上はてめぇの努力次第だな」

 

「えーと……じゃあ、先生みたいなものですかね?」

 

「まあ好きに当てはめとけ。そんだけ危ない異能を隠して不安定なままにさせておくバカも、あたし相手なら何もできないだろうし」

 

 斜め後ろをちらりと目線だけ向けてすぐに俺の方へ向き直る。おそらく美沙杜のことを言っているんだろう。たしかにここに来てからというもの、おとなしいというか、気配はするが主張はしてこない。

 

「その……よろしくお願い、します?」

 

「おう。ま、短い間の浅い仲だけどな」

 

 小柄な体で座ったままの俺を見下ろすように立つと、よく見るためかすぐ横に移動して腕を組む。

 

「元々多いみてーだが2桁も死んでりゃこんくらい霊力も増えるか」

 

「あ、あの……俺全然異能とか霊術のことわからなくて……」

 

「んなもんそのしけたツラ見りゃわかる」

 

 バインダーで俺の顎を持ち上げて更に目を細める。無言の数秒で更に視られていることだけはわかるが、何も言わないせいで黙って彼女の言葉を待つしかできない。

 

 顎が解放されたかと思うとバインダーを抱えて何かをメモしながら晴美さんはぶつくさと呟く。

 

「異能や霊力の変化の自覚なし。多用による副作用は現状なし。精神面は若干の不安定有り……っと」

 

 不安定って何? 俺なんかヤバイの?

 

「お前の異能(ギフテッド)は【時間操作】だ。ただ、お前はこの歳まで封じられていた影響で自分の異能が体と精神に馴染んでいない。矯正である程度マシにできるとはいえ、かなりレアケースだからな。あたしのやり方は独自のもんになる」

 

 自分の手を見ながら握り直したり開いたりしてみる。

 他の異能者よりも自分が異能に馴染んでいないのは思っていたが、封じ……ん?

 

「で、時間操作についてだけど、お前今までどんな使い方した?」

 

 めちゃくちゃ気になることがあったが晴美さんの別の話題で逸らされてしまった。あとで聞くか。

 

「えっと、ループはともかくとして時間の流れを遅くするのと、自分の怪我を怪我する前に戻すのと、他人と周辺の状態を巻き戻すのと、時間停止……ですかね」

 

 並べてみると結構な数があるな?もしこれらの能力を使いこなせればループせずに済むのではと思うものの、使いこなす方法が自分を含め誰もわからなかった。

 異能の育成はだいたい先人から教わるのと自分が異能の理解を深めることが必要らしいが、俺は他人が異能を把握できないし、自分も異能がよくわかっていないせいで遅々として進まない状況だった。

 

「それ全部、意識して使えたか?」

 

「そう言われると最初は無意識のが多かったですかね」

 

 時間の流れが遅くなるのも、火傷を治したのも、時間を止めたのも、最初は勝手に発動したようだった。二度目以降はある程度強く願えば使えたが、ここ数日の練習でも発動することはなく、手詰まり状態でいた。

 

「お前の異能はこの世界の時間そのものに干渉している。霊力の消耗が激しい超特殊系の異能だな。んで、この時間に干渉ってのがちと厄介だ」

 

 ポケットからスマホを取り出し、何か入力しながら俺にバインダーをスッと差し出してきたので受け取ってみる。

 

そこには走り書きだが、2つの図が描かれていた。AとBと書かれた2つの四角い空間。Aには人が描かれている。

 

「お前がいるこの世界がAとして、お前がいない世界がBとする。この2つの世界は同じように時の流れがあるとして、お前がAの世界で異能を使うとAの世界の時間は止まる」

 

 世界そのものに干渉するというのはこうして見るとすごい能力なのでは? ただ漠然と強いし便利としか考えていなかったが、ループを抜きにしても他人に知られたら厄介だということが身にしみる。

 

「お前がAの世界の時間を止めている間、Bの世界はそのまま時間が流れる。これ、どういうことかわかるか?」

 

「……? いえ……」

 

 

「お前にひっついてるその巫女はこの世界にいねぇってことだよ」

 

 

 思わず、息をするのを忘れた。

 なぜずっと俺のループの影響を受けずにいたのか。夢の中でしか認識できないのか。最初の頃は一部他人にも見えていたのか。

 すべての答えではなくとも、美沙杜の正体の一端だ。

 

「で、その取り付いてる鷹司のとこの巫女、いつから?」

 

「鷹司の巫女?」

 

 寝起きのときにも呟いていたが鷹司とはなんだろう。名前? 地名?

 

「あ、なんだお前。鷹司のこと言ってないの?」

 

 俺の後ろの方を視ながら晴美さんは腕を組んで冷めた眼をしていた。

 少しして、鬱陶しそうにため息をつきながらしっしっと手を振って、俺に渡したバインダーを引ったくりながらまた何か書き込む。

 

「はぁ……まーた面倒なこと持ち込みやがって。わーったわーった、ハイハイ」

 

「あの、美沙杜のことどれくらいわかるんですか? というか会話して……」

 

「まああたしはいっとう()がいいから」

 

 緑色の眼は確かに今までの誰よりも引き込まれるような綺麗な色をしていた。

 だが、その眼を自慢するかのような発言とは裏腹に晴美さんの顔はひどく冷めていて、何か違和感がある。

 

「お前にひっついてる女は『鷹司美沙杜(たかつかさみさと)』だ。これ以上のことは今のお前が知っても持て余すだけだから……そのうち知っても問題ないくらいになったら教えてやるよ。もっとも、そんくらい成長したなら本人から聞くかもしれないけどな」

 

「あ、あの……」

 

 晴美さんは魔眼のこともそうだが、だいたいのことを知っているような気がして、今関係ないはずなのに、思わず気になっていたことが口からこぼれた。

 

「荊儀……流譜さんって……ご存知ですか?」

 

 結依の兄貴。響介と関わりのあった行方不明の彼のことを、もし知っているなら――

 

「そっちのヒントはあたしの課題を全部クリアしたら教えてやるよ」

 

 誤魔化すわけではないが、今は言わないと教えるに値しないと言わんばかりにはっきりと打ち切られた。この様子ならやはり知っているようだ。

 

「お前、なんも知らないだろ? あいつの妹のためなんだろうけど、お前はまず自分の異能と向き合ってからにしろ」

 

 ここまでなあなあにしていた自分の異能と向き合うこと。それは確かに優先するべきだ。そして、俺自身、異能者についてろくに知らないままこの世界でやっていけないこともわかっている。

 もどかしくとも、近道なんてできないってことだろうな。

 

「んで、お前の異能のことね。まったく……こんなのが隠れてたとか防人衆の異能調査もぬるいな」

 

 話を戻すようにペン先を俺に向けて「スカスカの頭だろうがよく聞け」と前置きを置いてから話し始める。

 

 

「異能者や魔物みたいな霊力を有する存在は死ぬとき、あるいは死にかけているときに強い霊力が発生する。たいていは霧散するか、強い衝撃を発生させるだけだがお前の場合、死ぬときに発生する強い霊力を利用して異能が発動して死ぬ前……予め決まったポイントまで時間を巻き戻す。そのポイントは眠りと目覚めで更新されるのはお前ももう気づいているだろ?」

 

 俺のループの仕組みってそういうものだったんだ……。

 つまり、俺は死ぬ時に発生する霊力によって死ぬ前に目覚めたタイミングに戻る。おおよそ寝て起きたら、のタイミングの認識は合っていたようだ。

 なんで寝て起きたらなんだろう。気にはなるがそこらへんは今は関係ないか。

 

「このへんの話は魂学(こんがく)とかの話まで及ぶから省くけど、死んだことそのものは覆ってないから魂に大なり小なり影響は出る。死ってのは魂、精神、肉体いずれかが致命的に欠けるとアウトだ。お前の場合、肉体が死んだ時に死亡の判定は入っているが、同時に時間を巻き戻すことで肉体が元に戻っている。だから死を踏み倒しているってワケ。まあ視た感じだとまだ問題はなさそうだが……一歩間違えると精神がイカレるぞ。その3つは別々ではあっても根本的に繋がっているから影響を受けやすい」

 

 魂、というものはぴんとこないが、要するに負荷をかけすぎると連動しておかしくなりやすいってことだろう。

 まあ今までも問題なかったし大丈夫だとは思うけど……。

 

「自分で戻れる場所が決められたらな……」

 

 難しいだろうけどそうだったらどれだけ楽か。そう思う気持ちがぽつりとこぼれる。

 

「あ? そのために来たんだろ」

 

 呆れたようにバインダーを机に置いて、前に立って息がかかりそうなほどに顔を近づけてから俺の首の下あたりを指差す。

 

「これから一週間の目的は2つ。一、お前が自分で戻りたいチェックポイントを決められるようにしてやる」

 

 迷いなく、断言する緑の眼が俺に有無を言わせないように首の下に突きつけていた指を鼻先へと移動させる。

 

「二、時間操作の扱い方や能力の拡張のきっかけを作ってやる。お前が使いたいタイミングできちんと使えるように、な」

 

 吉田さんと取り引きみたいなことをしているとはいえ、俺のことを助けてくれるみたいな晴美さんに、こんなうまい話があるのかと疑いが生じる。しかも、吉田さんには伝えていないことだし。

 

「い、いいんですか?」

 

「もちろん条件がある」

 

 無条件だったら怖いくらいだったので、なんかしら理由がある方が安心する。俺にできるかはわからないが、なんとかやってみるしかない。

 

「条件は3つ。1つ目はこの一週間はあたしの言うことに従え。2つ目はこれ以上お前の能力を他人に教えないこと」

 

 示された条件は気が抜けるような内容だった。

 従うというのは先生のようなものだし、ある種リハビリで医者の言うことを聞くみたいなものだと認識していたため抵抗はない。

 2つ目は吉田さんに詳細を教えなかったことといい、どちらかと言えば俺に有利なものだ。俺の頭では晴美さんに利益があるとは思えないが……。

 

「で、3つ目はできるだけ死ぬな。死なないように立ち回れ。お前以外の誰かが死んだとしても安易にやり直そうとするな」

 

 最後の理由も、他2つと並んで予想していないものだった。

 だって、晴美さんには関係がないものばかりじゃないか。

 

「その……条件の理由とかって聞いても……」

 

「言う事聞かないやつに教えるもんはないから」

 

「あ、いやそっちじゃなくて2つ目と3つ目のことで……」

 

 そう言うとめんどくさそうに自分のこめかみをぐりぐりしながら晴美さんは気だるそうに答える。

 

「あー、お前の能力が他人に知れ渡るとどの勢力に狙われても厄介だ。なんならあたしだって連れ帰って研究したいくらいにはお前の異能は貴重だよ」

 

 こっわ。吉田さんの後ろ盾がないと俺って結依よりも狙われやすいのでは……?

 

「で、当然お前の異能の欠点は『生け捕りしてくるような輩』だから。経験は?」

 

「生け捕りはないですけど、殺しに来ない相手はたしかに……」

 

 結局自分で死んだとは言いづらい。いや、まあ、俺も別に好き好んで死んだわけじゃないし……。

 

「だからお前は他の異能者の数倍、異能を知られないように気をつけないと奪い合いが発生すると思え。例え死に戻りを封じてもその時間操作は喉から手が出るほど欲しいやつがいるはずだから。幸い、美沙杜、だっけ。そいつが魔眼阻止の術を使ってるからあたしクラスの魔眼使いなんてそうそういないし、自分でバラすか、よほど勘のいいやつじゃなけりゃ死に戻りまでは気づけないはずだ」

 

「……で、俺のメリットはわかったんですけど、晴美さんにメリットって?」

 

「あ? んなもんねーよ」

 

 じゃあ3つ目もメリットないってことじゃん!

 

「な、なんでですか?」

 

「恩を売っとけばそのうち使えると思って。吉田に能力が知られてるってのは最悪だけどな」

 

 俺の能力説明しないことといい、随分警戒されているんだなぁ、吉田さん。

 

「それに、お前の命はお前が自分のために使うもんであって、他人のために使うもんじゃねーよ」

 

 今までとは少し違う、諭すような声。

 そんなことを言う理由はわからない。けど、これがもし嘘ではないのなら。

 

「俺のこと心配してくれてます?」

 

 晴美さんは表情を変えない。変えはしないが俺から距離を取って「じゃ、そろそろ矯正訓練の準備するから大人しく待ってろ」と言い残して部屋から出ていった。

 

 うん、多分悪い人じゃないと思う。

 

 

 

 

――――――――――

 

 

 さっきまで命だったものがどんどん失われていく。

 

 

「だあああああああぁっっっっ!」

 

「ぎゃはははは! バッカみてぇな声出してウケる」

 

 

 別室に連れて行かれたかと思うと延々と横スクロールの死にゲーに挑戦させられる特訓が待っていた。

 しかも、死んだら腕につけたベルトから電流が流れるようになっていてマジでいてぇ。

 

「ほれほれ、早くクリアしてみせろよ。夕方までには終わらせろよな~」

 

 にやにやと小馬鹿にするような様子で俺を後ろから見ている晴美さんは別のことをしているのか、パソコンを操作している。その合間に俺が死んで電流を食らうたびに笑っているのだ。

 

「そのゲームはあたしが作ったやつでな。なーに、しっかりパターン覚えて操作をうまくやればいいだけだぜ」

 

 とは言うがセーブもできないのにステージがなげぇ!

 しかも難所を突破したと思ったら油断したタイミングで不意打ちが来てまたやり直しと台パンしたくなるのだが、電流のせいでそれどころじゃない。

 

「これ本当に意味あるんですか!?」

 

「無駄口叩いてると死ぬぞ。あ、死んだ」

 

「あああああああああああ!!」

 

 自機が死んでやり直しの画面になった瞬間、ベルトから電流が流れて悔しさと痛みで絶叫してしまった。

 

「マジでいっっでぇ!!」

 

「あっはははははは!」

 

 俺がやられて電流に悶える様子をバンバンとデスクを叩いて喜ぶ姿は今までで一番活き活きしていた。

 

 訂正。悪い人じゃないかもしれないが性格は悪いと思う。

 

 

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