東京リバースギフテッド   作:とぅりりりり

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一難去ってまた一難(百難)

 

 ――魔物が好む人間というものはおおよそ体質で決まる、らしい。

 

 その血や肉が魔物にとって良いものであると、狙われやすくなることがある。全ての魔物に共通しているわけではないが、強い魔物ほどそういうのに敏感だとか。

これらの改善方法はなく、対策や一時的な誤魔化ししかない。別の香りで誤魔化すか、霊力を隠すなど。

 

 薫さんはその体質のようで、狙われた原因は十中八九それらしく……

 

「ここまで来るとは――」

 

 モニタールームで魔物と待ち構えていたリーダーの言葉を最後まで聞くことはなく、事前に薫さんから少しだけ得た血をリーダーのすぐ近くの壁へと投げつけた。

 魔物は薫さんもだが、すぐ近くの血の匂いに反応したのか、すぐさまそちらを向くと薫さんにも狙いをつけた。

 

「死んだら呪ってやるからな」

 

 狙われた薫さんは銃でリーダーの足を撃ち抜こうとしてさすがにかわされる。魔物は既にリーダーの言うことを聞いていないようで、リーダーも困惑していた。命令も聞かず、薫さんに向かっていく。

 そして、薫さんはリーダーを盾にするように距離を詰めた。

 

「おい! 言う事を――」

 

「てめーも捨て駒だってまだ気づいてねぇのか?」

 

 魔眼をずっと無理やり発動し続けている晴美さんが俺の加速で霊術を組み上げていく。間近にいるからわかるが、加速していなくても凄まじい早さで複数の術を用意していた。

 

「今だ薫! 守れ!」

 

 このタイミング。晴美さんは用意していた何十もの結界を展開し、薫さんもできうる限りの護りを構える。

 弾ける霊力と瘴気が襲いくる。結界も一瞬で数枚壁が砕けて消えるが、何重にも備えていてなんとか致命傷を回避でいたといったところだった。

 俺と晴美さんは渦中よりも少し離れていたから、多少の怪我で済んだ。

 

 薫さんはやはり俺たちのように防ぎきれず重傷を負って倒れている。胸の動きからしてまだ生きている。

 

「薫さんを――」

 

 

 倒れている薫さんに近づこうとして、晴美さんに首根っこを掴まれ一歩下がると、ついさっきまでいた場所に、刃物が落ちるように半透明の壁が現れた。晴美さんに止められていなければギロチンのように壁で分断されていたかもしれないと思うとサッと血の気が引いた。

 

「結界の応用!」

 

 晴美さんが舌打ちして魔眼で無効化をしようと試みたが体の負荷が大きいのか、すぐに反応できず、いつの間にかリーダーは床を突き破って階下へと逃げていた。

 血の量の痕からして向こうも軽傷ではないはず。

 このままだと逃してしまう。

 

「っ、は……即死してないだけマシか……」

 

 逃げたリーダーのことを考えていると、薫さんが血の混じった咳をしながら、片方の目で見てきた。

 

「おい……主犯追いかけろ……。逃したら――」

 

「あたしはお前の命繋げるの優先。祟りはどーでもいいけどよ」

 

 薫さんは重傷。晴美さんは薫さんの治療もだが、そもそも魔眼でかなり消耗していてそもそも追う余力はないだろう。

 

「時葛、追えるか?」

 

「追います」

 

 意識が朦朧としているのか、薫さんはもう気絶しそうだ。晴美さんが落ち着いて薫さんの治療をする様子から、心配はいらないと言い聞かせるように自分の頬を挟んで叩く。

 

 時間停止を何度か繰り返しながら、その間にリーダーを追う。

 連続して異能を使うのはきつい。いや、晴美さんや薫さんだってあんなに辛いだろうことをやってのけた。

 俺の言うことを信じてくれた二人があんなに頑張ってくれたのに、俺も頑張らないでどうするんだよ!

 

 連続使用に体が悲鳴をあげるのはわかるが、血痕のおかげで逃げた先がわかる。早さを、少しでも早くと思っていたからか、時間が止まっていない間、自分が早く動いているような気がした。

 血痕の先は出口に繋がっており、表向きの扉が半開きになっていた。

 

 建物から――出た!

 

 よく考えればこの施設をまるごと閉じた結界を作れるやつがいるならそれはリーダーに決まっている。ずっと解除されていなかったのに、それが今なくなっている。

 逃げる背中を、目視してから、もうほとんど何も考えずに、飛びかかった。

 

「捕まえ、た!」

 

 こいつだって怪我をしている。体力的な問題なら俺の方が有利だ。

 地面に押さえつけて気絶させれば――

 

 が、予想外の反撃がやってくる。

 ナイフよりも長い刃物。それを振り上げて、俺を退かせると、結界で俺との間を塞いで逃げようと立ち上がり、走り出す。

 いやおかしいだろ。かなりの怪我だったはず――

 

 半透明ながらもリーダーの怪我したとおもしき部分を注視すると、ある程度治っている。というか今も霊術で治している。

 

 うっそだろ、ここにきて療術まで使うとか!

 

 今までずっと即死していたからこいつの脅威を測りかねていた。こいつ、霊術は相当使いこなしてるぞ。

 回り道になるがそれでも逃がすわけにはいかない。

 

 

 

――――――――――

 

 

 赤髪の男は治りかけとはいえ、まだ痛む脇腹を抑えながら走る。

 まだガキは追いかけてくるだろうと舌打ちして、どうするか考える。

 

 自分も捨て駒だった?

 そんなはずはない。なにか、何かの手違いかあの女の精神攻撃だ。

 とにかく今は逃げることを考えようと、男は走ると、曲がり角で誰かとぶつかる。

 自分より小さいものにぶつかったはずだが、まだ治り切っていないのと、めまいのせいで尻もちをつく。

 

「ん?」

 

 それは赤いフードを被った少女だった。

 尻もちをついた男をじっと見て、不思議そうに首を傾げる。

 

「おじさん異能者じゃん」

 

「あ、ああ? 急いでるんだ!」

 

 怒鳴ってやりたいところだが今は逃げるのが優先だと男は立ち上がってそのまま立ち去ろうとして、少女に腕を掴まれる。

 

「ねえ、ソーマ知らない?」

 

「は?」

 

「知ってるよね?」

 

 男は少女を振りほどこうとするが、少女は放さない。

 

「ソーマの匂いがする。おじさん知ってるでしょ」

 

「し、しらない! なんのことだ!」

 

 男は知らなかった。

 少女が探しているものが、時葛綜真(そうま)のことだと。

 そして、自分を追ってきている少年が綜真であることを。

 

 

「嘘つきの狼はお腹掻っ捌いていいんだよ?」

 

 

 赤ずきん(・・・・)はいつの間にか斧を片手に男を、刃がついていないほうで殴り抜く。

 弱っていた男はあえなくその一撃で意識を失った。

 

 その直後、異能で急ぎ駆けつけた綜真が現場を見て、困惑する。

 

「あ、ソーマだ」

 

「椛……? なんでここに」

 

 疲労によってか、綜真は目の前で男を気絶させている赤ずきんこと椛を見て気の抜けた声を出す。

 

「えぇ……えぇ? 本当になんでいんの?」

 

「お腹すいたから探してた」

 

 当たり前のように親でも探す幼児みたいなことを言い出して、綜真は複雑な気持ちになりながらも、アジトの飯事情が心配になってしまう。

 ――そんな……まさか俺がいない間にろくな飯がないってことなのか……?

 

「いや、誰かに作ってもら――」

 

 しかし、綜真の体は異能の連続使用にによって限界を訴え、ふらついてその場に倒れそうになるのを、なんとか持ちこたえるがその場にしゃがみこんでしまう。

 

「あれ……」

 

 自覚がないのか、綜真は焦点の合わない目で椛を見上げようとして、ぐらりと、結局倒れ込む。

 

「あ、死んだ?」

 

 椛の呑気な声が遠くなっていく。

 

 ほとんど相打ちと偶然の産物とも言える勝利を収めたものの、綜真の体はそれを喜ぶ余裕もなく沈んだ。

 

 

――――――――――

 

 

 ――それから三十分後。

 

 晴美はボロボロになった建物と、目の前で腕を組みながら青筋を浮かべている人物を交互に見て深い溜め息をつく。

 

 修繕も大変だし、なにより体が半端なくしんどいが、目の前の相手をどう誤魔化すかで晴美はだいぶくらくらしている頭を働かせる。

 

「ほぉん……つまり、つまりつまりだ」

 

 着物にオレンジ色の髪。メガネをかけたその人物は錫杖をしゃんしゃんと威嚇するように揺らして晴美を見下ろす。

 防人衆のバッジが外の光を反射しており、眩しいなと感じながらも晴美はそれを言葉に出さない。

 

「たまたま個人の研究所に、たまたま魔物が現れて、たまたま結界装置の誤作動で出られなくなって、たまたま居合わせた同僚と二人で魔物を倒してやっと出られた、ってか?」

 

「そういうことで」

 

 正直晴美もそれで通用する相手だとは思っていない。というより、言い訳が自分でもだいぶ厳しいものだというのはわかっている。

 が、晴美にとって綜真に修行をつけていたことや、ossとのつながりがあることが防人衆にバレるのは非常にまずいことではあるため、相手の痛いところを突くためにもあえてふわふわとして主張をゴリ押した。

 

「あのなァ! 何もないですで通ると思ってんのか? おうコラこっちが知らないと思ったら大間違いだぜ。後ろ暗いことしてんなら――」

 

「バカ正直に説明して解決してくれたことがお前らにあるか? バックに藤原がいたって言っても?」

 

 藤原。その名を出すとオレンジ頭は露骨に舌打ちしてみせる。

 そう、この異能者社会において下手に手を出せない重要家系。魔眼家系の総本山でもある。

 

防人衆(おまえら)はしょせん犬っころだからな。上に報告しても証拠が出ねぇって結局なぁなぁにされるに決まってんだろ。で、律儀なワンコロはそれでも聞きてぇってか?」

 

 オレンジ頭の機嫌が悪くなると、後ろから慌てて別の防人が駆けつける。

 

卯月(うづき)! ステイステイ! ほら、ちゃんと冷静に」

 

 軽そうな若い男に諭されて、オレンジ頭は息を吐いてから頭を掻く。

 

「んで、その同僚ってのは?」

 

「治療中。一旦安定したけどまだしばらく起きねぇよ」

 

「これ誰が一番辛いかわかるか?」

 

 呆れた顔で晴美を見るオレンジ頭に、晴美はすっとぼけた顔で自分を指さした。

 

「あたし?」

 

「俺だよ! どうやって報告すりゃいいんだよこんなの! つかいい加減てめぇ防人衆に入れよ!」

 

「やだ」

 

 晴美の態度にオレンジ頭は今にも錫杖をへし折りそうなくらい爆発寸前だ。

 しかし、更にもう一人、サングラスをかけた防人衆がやってきて引き止める。

 

「づっきー、ここは下がろ下がろ。多分向こうも譲らないし」

「オレたち手足は文字通り(トップ)の指示がないと強引に調査もできないしね」

 

 同僚二人に諭されて、ようやく渋々引き下がったオレンジ頭は去り際に晴美に向かって中指を立てて吐き捨てる。

 

「覚えとけよこの握力10キロ女!」

 

「さすがにもうちょいあるっつーの」

 

 防人衆は去った。彼らが来る前になぜか赤いフードの少女が、気絶した綜真とリーダーの男を引き連れてきたので急いで隠してどうにか調べられずに済んだ。

 念のため、去ったフリをしていなかも確認するが本当に帰ったようだ。

 

「さーて……」

 

 あちこちボロボロになった建物と、だいぶ限界が近い自分の体、そして気絶した綜真と薫をどうするか。正直一人でやるのがきついな……と黄昏れていると、今更というべきか、ちょうどよくと言うべきか、救援がやってくる。

 

「ご無事ですか。伊藤主任(・・・・)

 

「無事そうに見えるってんならずいぶんめでてぇ頭してんな」

 

 遅れてやってきた部下に皮肉げに笑いながら汚れきった白衣を投げ渡す。

 

「早速仕事だ。極秘案件だから人選は慎重にしろ」

 

 

 

――――――――――

 

 

 

 ――なんだかとても長い夢を見ていたような気がした。

 まず目に入った天井から横に視線をずらすと見覚えがある部屋だった。

 晴美さんの研究室……。

 

 体を起こそうとして、凝り固まった体が悲鳴を上げるがそこまで深刻さを感じない。

 上体を起こすと、部屋に入ってきた晴美さんが「あ」と気の抜けた声を出す。

 

「やーっと起きたか。時葛の方が早く起きるとはね」

 

「えっと……晴美さん……俺いつの間にか気絶してたんですか……?」

 

「うん。あれから2日経ってる。ついでに薫はまだ意識戻ってねぇけど、ちゃんと処置して命に別状はないからそのうち起きるぜ」

 

 よかった、と息を吐くと空腹感が急に押し寄せてくる。

 晴美さんはやれやれというふうにしばらくしてからおじやを持ってきてくれた。

 

「そういやあの赤ずきん女、何? めちゃくちゃ食うじゃん」

 

「なんかそういう生き物だと思って貰えば……」

 

 熱くて一旦息で冷ましながら、おじやを受け取りつつ、椛もいるのかと、現状を少しずつ把握する。

 なんでも、外で気絶した俺を連れてきたのは椛らしい。

 2日の間に、建物の修繕もして、捕まえた襲撃者たちも晴美さんが然るべき場所に移送したとのことでひとまず……解決、だろう。

 というか2日経ったってことは晴美さんのところにきて……あの地獄が4日目だったから今日で6日目、で合ってるのかな。

 スマホを確認したら合っているようで、晴美さんが呆れたようにぼやく。

 

「どーせ明日、吉田が迎えに来ると思って療養のこと含めて連絡したんだけどよ、あいつこっちが連絡とばしても返事どころか既読もつかねぇんだよ。まあ、とりあえずはゆっくりしてれば?」

 

 俺がおじやを食べている横で、晴美さんも惣菜パンを食べる。今は夕方だからそれが夕飯代わりなのだろうか……といらぬ心配をしてしまう。

 ふと、あんなことがあってうっかり忘れそうになっていたが――

 

「あの、いいですか?」

 

「ん?」

 

「流譜さんについて……課題を全部クリアしたら教えてくれるって言ってましたよね。それに、美沙杜のことも」

 

 俺の知りたいこと。結依のお兄さんの手がかりと美沙杜の正体。

 この人は、恐らくかなりのことを把握している。もし、教えてもらえるのなら――。

 

 晴美さんはしばらく悩んだようにマグカップに口をつけ、ズズ……と静寂を飲み干す音で彩る。

 そして、マグカップを机に置いてからようやく口を開いた。

 

「鷹司の巫女。鷹司美沙杜。以前の第二次侵蝕災害のタイミングで異能災害行方不明者になったやつだ」

 

 異能災害行方不明者。

 その言葉は俺でもわかる。この東京で、もちろん東京以外でも使われることはあるが、一番馴染みのあるここに住んでいる以上、いくら異能者に無知でも知っていることだ。

 

「荊儀流譜。あいつはあたしの部下が侵蝕地調査をする際に雇っていた」

 

 話の流れを切ったように見えるが、晴美さんは表情を変えずに流譜さんの話をする。

 想像はしていたが、やっぱりそれなりに近い関係だ。

 

 

「――そして、侵蝕地で裏異界に飲み込まれた」

 

 

 思わず息を呑む。

 

 裏異界。魔物の侵蝕災害における最悪の存在。

 魔物がいる世界と推測されており、そのゲートからは魔物が大量に出現するとされている。

 

 そして、侵蝕災害で一番行方不明者(・・・・・)を出す元凶。

 

「流譜は裏異界に落ちた。裏異界へとこちら側から能動的に入り込む方法。そして、その裏異界にこちらからアクセスする方法はまだ定まっていない。たまたま開いたゲートから突撃しても帰る手段もないから調査に行くことすらままならない」

 

 異能災害行方不明者。

 それは――死体が出ない、裏異界へと飲み込まれた者を指して使う言葉。

 

「実質死亡宣告と同じだよ、裏異界行きは」

 

 じゃあつまり、手遅れ――いや、だとしたらおかしい。

 

「……じゃあ美沙杜は……?」

 

 もし、本当に裏異界へと飲み込まれ行方不明だとしたら、たびたび俺に嫌がらせしてくるこの悪霊女は、いったいなんだ?

 

「そう。10年以上前に行方不明になっているのに、今のお前にひっついてる」

 

 つまり、もし、美沙杜が今も生きているのであれば――流譜さんだって生きている可能性がある。

 

「あたしの眼でも直接本体を視れてない以上、詳しくは不明だけど、行方不明者が死んだと断定するにはまだ早い」

 

 美沙杜の存在のおかげで、他の行方不明者にも希望が残っていることがわかったのは複雑だが、裏異界から行って戻る手段を探す。これが次の俺の目標だ。

 

「お前の知りたいこと、探しているものは全部あの忌々しい侵蝕地を超えた先、裏異界にあるってことだ」

 

「――ありがとうございます。教えてくれて」

 

「んまあ約束だったしな……んぁ?」

 

 晴美さんが部屋の外を見る。当然、扉と壁なので何もないが、よく耳を澄ませてみるとドタバタという音と、女性の絶叫みたいなのが聞こえる。

 

「……起きたかー……やっべ、理論武装完了してねぇや」

 

「なんの話――」

 

 バンッと部屋の扉が勢いよく開く。

 

「晴美!!」

 

 聞いたことない声。だがその姿は凄まじく既視感がある。

 銀髪に眼帯。紫色の目をした女性がタンクトップ姿で現れた。というかよく見ると下は男物の下着で、当然サイズが合ってないのか片手で支えていた。

 そして、女性の体型にとやかく言う主義はないのだが……すごく……でかい。いや、身長も女性にしてはでかいと思うが、それよりも……タンクトップに無理やり押し込められた胸がでっけぇ……という感想がまず最初にくる。

 なんでそんな痴女かだらしないダメ人間みたいな格好してる知らない女がいるんだ?となるが……うーん?

 

 

【挿絵表示】

 

 

「なんだこれ! なんだよこれ! 晴美! 説明を! しろ! 今、すぐ!」

 

「っせーな……あたしへの当てつけか? バカみてぇな乳しやがって」

 

「好きでそうなったわけじゃない! ていうか重い!」

 

 なんだろう……なんか……すごい既視感はあるのに脳が受け入れたくないのか答えを導き出せないでいる。

 

「……え? 誰……いや……うん……?」

 

「見てわかるだろうが!」

 

 半ギレの女性に今にも舌打ちされそうな剣幕で怒鳴られる。

 銀髪眼帯の巨乳の女性に覚えなどない。銀髪眼帯っていったら薫さん……ん?

 

 うーーーーーーん?

 

「薫さん……ですか?」

 

「そうだよ!」

 

 現実から目を背ける脳が敗北した。

 いや……えぇ……? なにがどうなっているんだ?

 

「リバースギフテッドはそれまでの傷や状態を治す副作用がある。んで、石化した魔物の欠片を取っておいただろ? あれを薫の治療に使った」

 

 あ、そういうことかぁ!

 つまり、致命傷すら無視して元に戻るであろうリバースギフテッドの効果を利用して治したけど、その代償に俺のときみたいに性別が反転しているのか。

 

「まあ本来はいちかばちかだけど、時葛からの情報があったしな。あれがなきゃさすがに魔物の肉片で任意の呪いを狙うなんてしねぇよ」

 

 あれ? もしかしてこれ俺のせい? いやでも……治ったし……。

 

「ならなんで腕や目は再生してないんだよ!?」

 

 薫さんの腕は元の義手のせいで少し体のバランスが取りづらいのか、少し重そうだ。眼帯も、外して見れば目の近くの傷があり、眼帯で隠されていた眼窩には紫色の目ではなく、白っぽい義眼がある。

 

「そりゃお前の腕と目はアレ関係の呪いもあるから重複するんだろ。そもそもお前、義手義眼が長いこと当たり前だからそれが正常として再生されたんじゃね。数年分状態が戻るわけでもないしな」

 

「うがぁぁぁああああっ」

 

 絶叫しながらその場に崩れ落ちて床を叩く薫さんに……申し訳ない気持ちは2ミリほどあったが、いやでも……まあよく考えたら美少女ごっこしてたしそんなに変わんねぇんじゃねぇかな……という気持ちになる。

 

「ま、まあ……なんかこう……女になりたがってたし……いいんじゃ……ない……すか?」

 

 精一杯の励ましのつもりだが、薫さんは今にも掴みかかりかねない勢いでキレた。

 

「女になりたいわけじゃない! 美少女になりたいんだよ!」

 

「なんの違いがあるの、そこに」

 

「これは! 美少女じゃなくて! 女! あと僕は自分の体が女になりたいわけじゃない!」

 

「めんどくせぇなぁ!」

 

 

 ――とある一人が困っていること以外、事件は解決を迎えた。

 

 

 




挿絵は進捗が悪かったので覚えてたらちゃんと清書します
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