東京リバースギフテッド   作:とぅりりりり

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だいたい本編の4年くらい前の和泉。
読まなくても多分大丈夫


その眼を、覚えている

 

 

 防人衆になることはあくまで自由意思なんて嘯いているけど、実際はほとんど強制だ。

 僕もまた、防人衆になることが決まっている将来設計を家族が(・・・)決めていた。

 

 異能家系は旧態依然の年功序列。実力主義も間違いではないが、実力が拮抗していれば老いているほうが優先される。

 僕は、祖父にとっての自慢だったようだ。

 

 実の母は僕を産んでしばらくしたら亡くなったらしく、父の再婚相手が母親代わり。

 その父も侵蝕災害によって帰らぬ人となった。

 防人衆をやっている家ではよくあることなのは間違いなく、それを特段不幸だと言うつもりもない。

 

 ただ、その結果祖父の僕贔屓は激しくなった。僕は異能を2つ持って生まれたから、特別だ、才能があるなんて言って兄よりも大事にされた。

 真綿で首を絞めるみたいに、期待と重圧を感じて、進路について先生に聞かれた時、すごく困った記憶がある。

 

「和泉はやりたいこととか決まっているのか?」

 

 学園や防人衆では苗字より名前で呼ばれることが多い。異能家系ばかり集まる学園だった頃の名残で、苗字だと被りやすいからだ。

 

「……やりたいこと……ですか……」

 

 そんなもの一度も考えたことがなかった。

 祖父の言う通りにしなければ怒られるし、防人衆だって、父の後を継ぐことを周囲から当然のように思われていたから。

 誰も僕じゃなくて、父の代わりとしてしか見ていないんじゃないかって思うと、急に胃のあたりがぐるぐると気持ち悪くなった。

 僕が自分でしたいことって、なにがあったっけ。

 

 答えは出なかった。結局不安のままだったせいで、猶予期間である大学へと進学した。

 

 ある日、義母に突然声をかけられて、鬱陶しさを感じながら机越しに向かい合う。

 たまたまその日は兄も実家に帰ってきていて、弟も居合わせていた。

 

「和泉くん。何か悩んでいるんじゃないかしら」

 

「……いや……別に……」

 

 義母が不安そうに僕を見る。少し遠くで弟が久しぶりに会った兄に小遣いをたかっているがこちらに干渉してくる気配はない。

 

「高校の進路相談のときもそうだったけど、何かしたいことがあるんじゃないかしら? お祖父様がうるさいから言いづらいのはわかるけど、あなたの人生なんだから――」

 

 きっとこの人は本当に心配してくれているんだろう。

 よくある継母なんていうものはあまりいいものとして言われないことがあるが、義母は血の繋がらない僕と兄にも優しい。

 ただ、無条件に甘えていい実の母親ではないということも理解していて、その微笑みが嘘くさく感じてしまうことも多々あった。

 その鬱陶しさが、ストレスによって増幅されてしまい、普段なら口にしないようなことまで口走ってしまう。

 

「だから……っ、気にしないでいいって言ってるだろ!」

 

 一際大きな声だからか、遠くの弟がこちらを見た気がする。兄の表情は見えない。

 

「で、でも……」

 

 まだ続けようとする義母にイライラしてしまい、立ち上がってその場を離れようとする。

 きっと、ストレスが爆発してしまったんだろう。言うべきではないことまで口が止まらない。

 

「その……心配する素振りをやめてって言ってるんだよ! 実の母親でもない癖に――」

 

 顔に鋭い痛みが走った。

 それが殴られたものよる痛みだと気づいたのは、すぐそばに兄がいた。

 

「お前……言っていいことと悪いこともわからないのか……!」

「ちょ、兄貴落ち着いて! いず(にい)も早く謝りなよ!」

 

 激怒する兄を弟が押さえつけ、義母も狼狽えながら兄を宥める。

 

「いいのよ。本当のことだし……和泉くんも疲れてるのよ。ね?」

「でもこのバカ、千歌(ちか)さんに向かって……!」

 

 僕以外が焦って言い争っていると、祖父が顔を出した。

 

「……何だ、騒々しい」

 

 ちらりと僕を見てから兄を見る。何かを察したように祖父は兄に向かって吐き捨てた。

 

「お前が和泉に何も言う資格はない。千歌、貴様も弁えろ」

 

 空気が底冷えする感覚。

 祖父の言う事は絶対で、どんなに僕が悪くても祖父はきっと僕を擁護する。

 その気持ち悪い現状を改めて直視することになったのが限界だったのだろう。僕はその夜、実家を飛び出した。

 

 

 ――それが、今からだいたい四年前のこと。

 

 

 

――――――――――

 

 

 家を飛び出した僕は逃げ場所を第二江東市にした。防人衆に属さない異能者がまともに生活できるのはそこくらいしかない。

 ただ漠然と、今の自分の現状が嫌で逃げているだけだ。防人衆になりたいわけでもなければ、何かやりたいことがあるわけでもない。ひどく中身のない人間だなと自分を嫌悪する。

 

 金銭は多少の備えがあるのでしばらくはなんとかなりそうだが、住めそうな場所と仕事を探さないといけないと思うと少し頭痛がする。

 認めたくはないが自分はそれなりに裕福な育ちをしていて、スラム街みたいな第二江東市の空気はほぼ間違いなく拒否感を覚えることだろう。それでも、実家に戻れば前のように祖父の言いなりで、気持ち悪い中身のない自分になってしまうのではないかという不安で戻るつもりはなかった。

 

 ……千歌さん(義母)に謝りそこねた。

 

 ささくれのように気になることはあったが、今更どの面して帰れというのか。衝動で行動するもんじゃない。

 

 自分の中で消化しきれない感情を抱えながら、賑やかというよりはまとまりのない第二江東市の道を歩く。出店やら怪しいネオンやらが立ち並んでおり、まだ昼すぎだというのにどこか薄暗く感じる。

 少し離れたところには違法建築で積み上がったかのようなスラム街も見える。

 ふと、歩みを止める。

 

「……?」

 

 鈍い音が響く。

 ガンッという破壊音とともに聞こえてくるそれは厄介事の匂いを漂わせており、さっさと離れようと思わせてくる。

 が、路地裏からずりずりと音を立てながらそれは現れた。

 

「まったく。ここまで無鉄砲な人が多いとは……ん?」

 

 独り言を漏らしながら現れた優男風の人物には非常に見覚えがあった。

 

「識文先輩……?」

「……和泉?」

 

 学園でほんの僅かに在学期間が被った先輩であり、ある意味……天敵。識文がそこにいた。

 

(なんでいるんだよこいつ……)

 

 お互い目が合った瞬間、間違いなく同じことを考えたのがわかった。

 識文は返り血なのか、手や顔が汚れており、引きずっていたのは死んではいないが怪我をしたチンピラのようだ。

 そのチンピラをゴミ置き場に放り投げて識文は眉をしかめる。

 

「ここ、第二江東市ですよ?」

「わかってるよ。家出だよ、家出」

 

 まったく知らない人間ばかりより、少しでも知ってる人間と遭遇したのは悪いことではないかもしれない。そう思っていると、血で汚れた手を拭きながら識文は目を細めた。

 

「へぇ。お坊ちゃんのくせによくこんな場所に来ようと思いましたね」

「せん……あんただって似たようなものだろ」

「自分は君みたいに使用人とかがいるようなおハイソな家で育っていませんので普通です、普通。一緒にしないでください」

 

 前言撤回。こんなのいるより一人の方がマシ。

 

 関わるのはやめてさっさと今日の寝床を探そうと識文から離れると、識文はなぜかそのまま横にならんできた。

 

「なんだよ」

「いえ、自分は宿を探そうとしてたらさっきのに絡まれたので。また宿探しに戻ろうと思っただけです」

「じゃあ向こういったらどうですか」

「お前が向こうに行けばいいんですよ」

 

 このクソ野郎……。

 在学中の頃からやけに喧嘩売ってくるわいちいち嫌味っぽいわで本当にムカつく。卒業したときは両手あげて喜んだことをよく覚えている。

 というか防人衆になったはずじゃ……。

 

「…………よく考えたら僕よりあんたのほうがなんでこんなところにいるんだよ。防人衆に入ったはずじゃ?」

「ああ、まあ、色々ありまして」

 

 微妙に話したくないような誤魔化しをされ、そこはお互い様かとこれ以上追求するのはやめておいた。

 結局、宿になりそうな場所は見つからず、さすがに空腹を感じて小さな店を利用する。心底不服ではあるが、識文とは同行したままだ。一人だとどうしても絡まれる確率があがる。別に対処できないわけではないが、わざわざ喧嘩をして消耗や服を汚したくないし。

 食券制のシステムで、ガラの悪い店員に適当に選んだメニューの食券を渡すと、チキンソテーやミックスベジタブル、ポテトなどが乗ったプレート料理が運ばれてくる。それを食べながら、貯金と今の手元にある金を思い浮かべ、これからどうするか考えこんでいると、識文がじっと感情のない目でこちらを見てくる。

 

「な、なに……」

「自覚あります? どう見てもいいとこのお坊ちゃんが興味本位で覗きにきたみたいなナリだってこと」

 

 スプーンの先で左右を示す仕草をする識文に釣られて左右を見る。

 敵意を持った目が突き刺さる。店内にいる客の視線は僕に向けられていた。

 もしかしたら識文にも向けられているかもしれないが、指摘した本人は気にも留めない。

 

「何があって逃げてきたかは知りませんけど、大人しく帰ったほうがいいんじゃないですか?」

「……」

 

 この先、自分のちょっとした仕草でこの街の住人は「あれは違う世界の生き物だ」という目を向けられる。

 それを覚悟できないなら帰れと識文は頬杖をついて鼻で笑う。

 

「まあ顔見知りのよしみです。少しくらいは付き合っても構いませんが、どうせお前の家は――」

 

 僅かな地響き。カタカタと机やプレートが揺れてハッと外を見る。

 ほとんど反射的な行動で、天外へと出る。それは識文も同じで、揺れの元凶である魔物が目と鼻の先に出現していた。

 

「わぁ。やっぱりここも出るんですね、魔物」

「呑気なこと言ってないでさっさと逃げたほうが」

「自分で言うのもアレですが、この周辺で自分とお前以外より上か同じくらいの異能者、多分いませんよ」

 

 それはつまり、戦力的には数がいないとあれに対抗するのは厳しいということ。

 悔しいがこの男は一人で魔物を相手にできるだろう強さがあるのは違いない。ただ、異能のデメリット上、本当に一人で戦わせるととんでもない事故に繋がりかねない。

 万が一のことを考えると同行しておかないと魔物被害よりも大変なことになる。

 発動トリガーである怪我を仕込みのブレスレットで自分の腕を切ろうとした識文が――止まる。

 

 魔物が奇声をあげながらじたばたと暴れ出した。三階建てくらいのビルくらいはある大きさで暴れるのは瓦礫被害がシャレにならない。

 そう思っているうちに、魔物の部位が次々切り落とされた。

 識文を見ると自分じゃないという風に首を横に振られた。あの戦闘方法は確かに彼のものではないから疑うことはないが……。

 

 魔物に隠れていた人影が近くの屋根に着地する。

 

 それは亜麻色の髪をした少年だった。

 

 自分たちよりも幼いであろう少年が建物を足場にして魔物に攻撃を仕掛けている。

 その光景を見て、誰も少年に続くことはない。ただ、その様子を見るだけか、避難するかだ。まるで、見慣れたもののように驚く者は自分たちを除いて周囲にはいない。

 

「へぇ……」

 

 興味深そうに少年を見た識文がすぐ近くの雨樋(あまどい)を掴んで屋根の上まで駆け上る。

 

「加勢するの?」

「あの様子なら勝てそうですが、全力でやってる相手を助けない理由もないですからね。和泉は?」

「僕は……」

 

 こんな場所にきてまで、魔物退治に関わる必要があるのか?

 そもそも、他に倒す人がいるなら別に関わらなくていいんじゃ?

 

 ぐるぐると思考が回っていると、識文は僕を置いて魔物へと向かっていく。腕を切りつけ異能が発動したのかとんでもない身体能力で魔物の脳天をカチ割る。

 もうほとんど脅威はないと言っても過言ではない、と思った矢先に魔物の数が増えた。

 まだ湧いてくるのか……!

 

 ああ、誰か、誰か僕に戦えと言ってくれ。

 

 

 ――いや、おかしいだろ。

 

 

 自分で自分のことを決めたくて飛び出したのに、何他人に縋っているんだ僕は!

 他人に判断を委ねるのはもうやめたい。

 僕は、どうしたいんだろう。

 

 考えているうちに先程の少年の元へ足が向かう。

 

「チッ」

 

 少年が舌打ちとともに魔物から距離を取って魔物の体液で駄目になった武器を持ち替える。

 その隙を狙ったように魔物が少年に腕を叩きつけようとする。

 水、水――あった!

 貯水タンクから水を操作して加圧した水で魔物の腕を吹き飛ばす。

 その援護に驚いたように少年が一瞬目を丸くするが、そのまま魔物にトドメを刺し、別の魔物も識文が潰して全ての魔物を討伐したことを確認する。

 

 少年はすぐに背を向けどこかへ行こうとするが、あることに気がついてとっさに呼び止めた。

 

「待って」

 

「あ? 何、お前ら」

 

 少年は酷く疲れたような顔をしていた。濁った眼差しはこちらを軽蔑するように刺してくる。

 刺々しい様子に一瞬怯みそうになる。しかし、気づいた以上無視できない。

 

「君、怪我してるだろ」

 

 ざっと見ただけでも二ヶ所。死ぬようなものではなくても、放置すると悪化してしまう。

 改めて少年を見ると、飾り気のないシンプルな格好はあちこちボロボロだ。まだ未成年だろう。ここにいるから真っ当な異能者申請はしていなさそうだが。

 

「僕でよければ治療するよ」

 

 手を差し伸べると気味の悪いものを見るような目で睨まれてしまう。

 

「なんだよ。道楽ならよそでやれ」

 

 少年が僕の手を振り払って再び背を向け、ふらついた。

 支えようとして、先に識文が少年の腕を掴んで支えると、傷を刺激してしまったようで少年が「いっ!?」と小さく悲鳴をあげる。

 

「あ、すみません。ってやっぱり怪我してるなら和泉の言う事聞いておいたほうがいいですよ」

「……」

 

 少年は痛むせいか顔を顰めながらもなんとか体勢を立て直す。識文は「ふむ……」と呟いてから薄っぺらい笑顔を浮かべた。

 

「自分たち、しばらく寝泊まりできる場所探しているんで、もしタダで治療するのが胡散臭いと思うなら対価にそういう場所を教えてもらえませんか?」

 

 そう言うと少年は「うち、使っていい」と小さい声呟いてからその場に崩れ落ちた。

 

「おっと、だいぶ危険ですか?」

「いや、怪我の方は――って熱あるね、これ」

 

 顔色が悪いなとは思っていたがどうやら体調が悪いまま戦って怪我をして悪化しているようだ。とにかく治療もだが休ませる必要がある。

 識文が少年を抱えて「君の家、勝手に入って大丈夫なんですか? 家族は?」と問いかける。

 その質問に少年は、具合が悪いせいで朦朧としているのか――自嘲するように笑った。

 

「もう、どうだっていい」

 

 

 なんとなく、色んな感情が籠もった声に複雑な事情を察し、少年の示す家とやらまで識文と向かった。

 

 

 

――――――――――

 

 

 

 

 少年が示した家、というにはやけに大きい建物。仮に少年の家族に自分たち2人が混ざっても余裕だろうくらい広い。

 が、他に気配はない。なんなら家の中は物は散らかっているが、少年以外が生活しているような形跡がない。

 

 療術で治すことができる範囲ならいいが、熱もあるし、あまり下手な治療はできない。

 

「せ……識文。救急箱とかないか探してきて」

「しょうがないですねぇ。ちょっとうろうろしてきます」

 

 少年を横にして、患部を確認するために一旦服をまくろうとして、少年を見た。

 

「ちょっとまくるよ?」

 

「……」

 

 好きにしろということか、特に返事はない。ただ声は聞こえているようで、ふらつく頭が頷いたように揺れた。

 

 左腕と脇腹。魔物との戦闘での傷だろう。これくらいなら療術で治せる。

 ……が、もうちょっと気になることがある。

 

「ちょっと失礼」

 

 足を確認するために軽く触れてみると痛いのかうめき声があがった。

 捻挫かな、と冷凍庫に氷があるか確認しに行くがやっぱりない。

 仕方ないので製氷皿に水を入れてから、水で濡らしたタオルを持って少年の元へ戻る。

 

「……あんた、慣れてんな」

「あ……」

 

 治療行為に関して言われているのだと思って、ばつが悪い。それが嫌で逃げ出してきたばかりだっていうのに。

 でも、別に他人の治療をすること事態が嫌いではないことはわかった。

 僕が嫌だったのは、自分のやるべきことを強制されること。今の僕にはなにもない。やりたいことも、やるべきことも、自分の中になくて、それを探すために逃げてきた。

 

「……君、家族は?」

 

 識文がまだ戻ってこないし、家族の気配もない。なんとなくわかっていたが、きっと――

 

「いない。俺一人だよ」

「……じゃあ、仲間とか……友達みたいなのは?」

 

 ossならグループや組織を作っているということは聞いたことがある。一人でいるのは危険ということもあるが、細々とした勢力争いがこの小さなスラムでは縄張り争いのように繰り広げられているという。

 

「は――」

 

 少年は僕の言葉を聞いて、今までで一番感情が乱れたような悲しい顔をした。

 

「そんなもの、いねぇよ。全部捨ててきた」

 

 なぜだろう。

 出会ったばかりの少年が、ひどく寂しげで、それなのに一人でいる姿がどうも痛々しかった。

 自傷行為に似たものを感じたのかもしれない。さっきの魔物だって、一人で戦うのはいくら強くても無茶な行為に違いない。

 まだ先のことなんてわからないけど、この少年に寝床を借りることになったのだ。

 

 もう少し、知りたいと思うのは好奇心か、同情心か。

 

「僕は……和泉。君の名前を教えて欲しい」

 

 長い長い沈黙のあと、少年は視線だけを僕に向ける。赤い目が僅かに揺らめいた。

 

 

「……田吉」

 

 

 今にも眠ってしまいそうな弱々しい声。

 

「吉田、田吉。変な名前だろ……バカみてぇでさ……」

 

 

 ――そう自嘲した君の眼を、よく覚えている。

 

 

 赤い眼は今にも泣きそうで、それなのに泣くまいと無理やり笑ってみせた、痛々しい顔をきっと忘れない。

 なんとなく、曖昧だったこの時の僕の感情を分析するのは今でも難しい。

 ただ、少年がこの歳で何を抱えて、どうして一人でこんな場所で生きているのか。

 自分の境遇とは正反対の少年の近くで、同じ世界を見たら、何か変わるかもしれないと、好奇心が僕を突き動かしていた。

 

「あ、救急箱ありましたよー。中身だいぶ微妙でしたけど」

 

 戻ってきた識文が救急箱片手に近くに寄ってくる。

 こいつもいるのが鬱陶しいが、戦力的には間違いなく必要そうだ。

 救急箱の中身を見ると確かに微妙だ。

 熱が出ているし、解熱剤が欲しいところだ。

 

「薬、買える場所探さないとな……」

「やっぱり? まあなんとかなるでしょう」

 

 これが、僕と田吉の出会い。そして、そこに識文を加えた3人の奇妙な共同生活の始まり。

 

 

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