晴美さんの研究所から椛と薫さんと一緒に第二江東市までやってきた。
そういえば、ずっと寝てたせいで自分のループ地点はとっくに適用外か。現地についたところだし、更新しておこう。
「ここで分かれるぞ」
「えっ、なんでですか」
アジトに向かう前に薫さんからしっしと追い払われるような身振りをされる。
「僕は取引先の安否確認と商売道具の確認が理由だからだよ。それに、お前たちの拠点だって、僕に知られたくはないだろ」
半分は薫さんの都合だが残り半分も一理ある。というか薫さん連れて行ったら後でめちゃくちゃ怒られるだろうし妥当か……。
「わかりました……」
「バイバイ、おじおばさん」
「分かれる前にそこの犬娘に風穴あけていいか?」
「狼だもん」
「椛! ごめんなさいしなさい!」
椛と薫さんの低レベルな争いを終えて久しぶりのアジトを見て、冷静に周囲を見渡す。
「普通……だな?」
「うん。出てきたときと変わってない。あ、でも……」
すんすんと鼻を鳴らすと椛はアジトを示して眉をしかめた。
「知らない人のニオイがする」
その言葉とほぼ同時に、俺たちに向かって発砲。正確には足元へだがアジトの中からこちらを狙う誰かがいる。
識文さんでも和泉さんでも、俺の知らないやつがいる!
銃を扱うのは椛以外把握していない。吉田さんはわからないが、いきなり撃ってくるとも思えない。
「誰だお前!」
アジトに向かって叫ぶ。返事はないが攻撃もしてこない。
椛は威嚇射撃のせいで唸っており、まだ攻撃を仕掛けないように手で遮った。
なんか違和感があるな。
敵ならこんな間あるかな?
ふと、そういえばアジトのメンバーは全員は揃っていなくて、いつ戻ってくるのかもわからないやつらがいるって言ってたっけ。
「……和泉さんは食べ物の好みがうるさいからちょっと面倒!」
「誰!?」
俺の発言にびっくりしたように女の人が顔を出す。それに反応するように「あっ、馬鹿!」と俺と同じくらいの年頃に見える少年が顔を出した。
和泉さんの好みを把握していることに驚かれたが、あの人絶妙に手間がかかるっていうか、注文が多いんだよな。
当然、それを知っているのは普段の生活を知っている人間となるわけで……。
「君、もしかして結依ちゃんのカレシくん?」
「いや、まだ違いますけど……」
赤い髪の女性は結依のことを把握しているようで、様子からして恐らく……アジトメンバーの一人。
「おっけ。中入りなよ。さっきのはごめんね。今めちゃくちゃ警戒しててさ」
「おいおいおい! 敵だったらどうすんだよ!」
「和泉くんの好み把握してて、結依ちゃんのコレなら大丈夫っしょ。多分。冷凍庫に普段のあのヤローどもがやりそうにない作り置きとかあったし」
小指を立ててから俺を小指で示した女性はアジトの中に俺たちを入れてくれる。どうやら俺がアジトを出る前に冷凍しておいたハンバーグに気づいたようで、それを作れるやつがいないから察したらしい。
椛は警戒する犬みたいだったが。
「んで、早速だけど一応名前と、知ってること教えてくんない?」
「時葛綜真です。ちょっと前からここで世話になっていたんですが……吉田さんに異能のことを把握するためある場所でしばらく修行してて、終わったら第二江東市で抗争がどうのって聞いて戻ってきたばかりで……」
「ああ〜。じゃあほぼ知らんってワケね」
女性は納得したように腕を組みながらリビングに4人で座る。椛がお腹空いたのか、二人が置きっぱなしにしていた惣菜パンを食べようと手を伸ばす――のを止めた。
「こら。せめて食べていいか聞け」
「むぅ」
「お前だって自分の食べ物取られたら嫌だろ」
「……むー」
渋々だが納得したのか、女性のほうに「これ、食べていい?」と小声で尋ね、女性は「いーよー」と軽く返事をする。
そして椛が横で焼きそばパンを食べている間、話を聞くことにした。
「んで、あたしは
「……
青髪の少年は俺と椛を警戒するように睨んでいる。椛もそれを睨み返してギスギスした空気だ。
「こーらびゃっくん睨まない」
「ふんっ」
苺佳さんがたしなめるがあまり変わらない様子だ。
そんな状況にも焦らず、しかし状況が状況だからか第二江東市の地図を広げながら苺佳さんは真剣な声音で話し始める。
「ちょっと前から田吉くんが昔地方に追放した兄弟子が戻ってきたとかで、その兄弟子がoss統一しようと今、第二江東市は大荒れなんだよ」
地図の南側に赤いマグネットを置いて何かを示す。
「今のとこ、一番怪しいのはここ。
「あ、なんか聞いたことある!」
そこまで詳しく知っているわけではないが、一般人だった頃にも小耳に挟んだことがあるくらい、有名な場所だ。
なんでも第二江東市でも一番危険かつ、犯罪者も多いところだったはず。
「俺たちがこっちに戻ってきたときには識文のやつがやられたとかで噂になってた」
「んで、そのとき一緒にいたらしい結依とかまだ会ったことないけど田吉くんから名前聞いてたりんごちゃん?って子も連れ去られたとか」
連れ去られたと聞いて血の気が引く。しかも今日とかの話じゃない。椛曰く、俺が晴美さんや薫さんたちと研究所で大変なことになっていた日、その前日から既にことが起こっている。つまり5日前!?
心臓が痛いくらいに不安が加速する。
結依、結依は無事なのか?
「田吉さんとも連絡つかなくなったし、最悪……負けて殺されているか、捕まってるかのどっちかかな」
白夜が追い打ちをかけるように呟くが、当然結依のことだけではない絶望があった。
まさか……椛以外全滅してる!?
アジトに住んでいるわけではない夕子さんはともかく、吉田さん、和泉さん、識文さんの三人が壊滅してたとしたら、相手はどれだけやばいんだ?
「少なくとも田吉くんは死んではいないと思うよ」
俺と白夜の考えに待ったをかけるように苺佳さんは言う。
「殺されたらもっと大々的に言うと思うんだよね。第二を制圧しようとしてるなら尚更。わざわざ生死隠すことでもないからなにか理由があって捕まっているか、身を隠しているか……ってところだと思う、な」
まだ少し希望が見えたがそれでも不安は拭えない。
どうしたらいいか、考えていると椛が焼きそばパンを食べ終えて口を開く。
「誰探してるの? 辿ってみる?」
「たど……え? 辿る?」
「あたしの嗅覚があればアジトの人探せるし」
そうだこいつ狼みたいなことできるんだった――!
完全に頭から抜けていた。確かもう一つ異能があったはずだがそれはまだ聞いていない。そのこともあって完全に今回頼る相手として考えていなかった。
「お、じゃあ田吉くんの居場所とかわかる?」
「んー……」
フードを下ろしてすんすんと鼻を鳴らしながら椛は獣性顕現によって獣耳がぴょこっと生える。
二人とも驚いた様子もなくその様子を見守ると、椛がしょんぼりした顔をした。
「多分……あっちだと思うけど……なんだろ。血の臭いが混ざっててもっと近くじゃないと判別するのが難しいかも」
あっちと言ったのは先程も苺佳さんが候補に挙げていた砦郷町の方角。
椛は困ったような顔で耳を立たせるかのように手を添えて目を閉じている。
「結依とりんご……も、多分同じ方角……、な気がする。和泉は自信ない。識文はあっち」
識文さんだけ少し砦郷町から離れた場所を示して、他のメンバーよりも確信を持った様子で言う。
「動いてないけど死んでる臭いでもなさそう」
「ははーん。なるほど」
苺佳さんは納得したように椛が示した場所を地図と照らし合わせながらペン尻で叩いて、俺や白夜を見る。
「とりあえず、一番確実なのはしっきーっぽいからあたしとびゃっくんで助けにいこ。んで、椛ちゃんと綜真くんは……うーん、どうしよっか」
「ニオイを辿れるってんなら砦郷町のどこらへんか調べさせりゃいいだろ」
悩んだ様子の苺佳さんに対して白夜は当たり前とばかりに言う。そして、白夜は不機嫌そうに俺を睨んだ。
「そもそも、こいつが信用できるかも怪しいから俺が砦郷町で田吉さんを探しにいきてーんだけど」
「びゃっくんは田吉くんのこと好きだねぇ……」
呆れた様子の苺佳さんがさりげなくあんぱんを椛に与えながらため息をつく。
「ま、田吉くんを見つけたいのはそうだけど、砦郷町とくりゃ今回の件を抜きにしても危険地帯だし、いくらニオイを辿れてもあれだけ入り組んでる場所だからそう上手くいくかもわからないしね。あと、しっきー救助、あたし一人でできるわけないじゃん」
要するに、砦郷町は危険だから俺と椛を行かせるかは悩ましいし、白夜を行かせたとして識文さん救助が苺佳さん一人では厳しいから好きにさせるわけにはいかないと。
「俺、砦郷町行きます。結依も鈴檎も心配だし、なにより、俺だってじっとしていられない」
「わぁ、男の子~。んじゃ、連絡先交換しとこっか。お互い進展あれば報告ってカンジで」
苺佳さんと連絡先を交換していると、やっぱり白夜が不満げな顔をしているが無視することにした。苺佳さんの反応からしていつものことっぽいし。
「んじゃ、気をつけるんだよ~」
そう言って識文さん救助に行く苺佳さんと白夜。最後まで睨んでいた白夜はさておき……。
「なあ、これから危ないとこに結依たち探しに行くけど大丈夫か?」
よく考えれば俺が行くと決めただけで椛には何も了承は得ていない。改めて確認すると、椛はなんでもないかのようにあんぱんを食べきって袋をゴミ箱に捨てて言った。
「いいよ。解決しないと落ち着いてご飯食べられないし」
「そっか。じゃあ解決したら美味いもん作らないとな」
だいぶ慣れてきた椛の動かし方。全員の無事を願いながら俺は椛とともに砦郷町へと向かった。
――――――――――
綜真がアジトに合流する少し前。
――第二江東市のとある場所。そこに和泉はいた。
第二江東市には大きく分けて4つのエリアがある。
アジトの周辺、吉田組が居を構えている東エリア。
元江東区の割合が高く、侵食地に覆われた北エリア。
北と合わせて侵食地に蝕まれており、人工島も多くある西エリア。
そして、湾岸部の南エリア。
そこはかつて人工島計画によって作られた新しい住宅街を目指して作られたものの、侵食災害や度重なる第二江東市の利権争いによって、今や無法地帯と化した第二江東市の中でも突出した「スラム街」。
その光景を最初に見たときは
密集した建築物とチカチカと絶え間なく発光するネオン。違法建築もいいところだ。
遠目からでもわかるほど現代日本に似合わないスラム街。これらに比べたらアジトのある東エリアはまだ繁華街レベルでしかない。
魔窟街と呼ばれる南スラムは普段であれば関わらないであろう場所。
「クソッ……アジトに引き返すこともできないし……」
戦闘で壊れてしまったスマホを懐にしまいながら悪態をつく。
一度入り込んだら外に出るには案内が必要とまで言われる魔窟。
つまり、言葉を濁さずに言うのであれば――迷った。
識文が捕まって、田吉も恐らく捕まっている。死んではいないとは思うがそれでも不安は拭いきれない。
だがそれより、識文と一緒に買い物に出ていた結依ちゃんと鈴檎ちゃん。男二人よりもそっちのほうが心配だ。
なんたって――
「あら、きれーなお兄さん! 今なら空いてるわよ~」
「やだぁ、すっごい睫毛長っ。あたしくらい長いんじゃないの?」
露出の高い、服と言うには服に失礼な格好をした女性に挟まれて思わずため息をつく。
そう、視界に映るのは色街。ようするに風俗街。
男女問わず、欲望を発散しているここは、よく見れば嬢だけじゃなく男娼もいるようで、ちらちらと視線を感じた。
クソが!
こんな事態でなければ絶対近づかない場所だ。けれど、砦郷街を根城にしているであろう今回の敵に近づくためには手段を選んではいられない。女性陣にもしものことがあってはいけないし、モタモタしたら敵に時間を与えるだけになる。
田吉はともかく、識文を捕まえられるような連中なら油断はできない。
まず、目標としては捕まったメンバーの居場所を把握すること。
そして……砦郷町の案内役を捕まえることだ。
丸々1日かけて迷い続けていたのには訳がある。
この砦郷町の違法建築の極みは異能者によるものだ。
縦横無尽に組み上げられたそれは常にこの魔窟を作った者によって少しずつ変えられており、増改築が続いている。
そのため、ガイドがいなければこの町に慣れていない者はほぼ確実に迷う迷宮となっていた。
なんらかの方法でこの迷宮じみた砦郷町のどこかにいる今回の黒幕を潰す。
それが今の自分のするべきことだ。
――――――――――
アジトからしばらく歩き、1時間ほどかけてようやく目的地へとたどり着く。椛は平気そうだが俺は少しだけ疲れたので一呼吸ついてからその場所を見た。
砦郷町は近くで見ると改めてとんでもないと思わされた。
遠目からはマンションか団地、あるいは巨大施設に見えていたが、近づくにつれ最初からそのようになっていた建物ではない、ということがわかる。
積み重ね、組み合わせ。いくつもの建物が積み上がっているような、とりあえずすべてを寄せ集めているかのようなごちゃごちゃとした見た目。
それらが町一つほどの範囲、縦にも横にも広いまさに迷宮として堂々としていた。
外から見ただけでも怪しい看板や注意書きみたいなものがあちこちに並んでおり、言葉を選ぶとあまり……教育によろしくない場所だと思う。
「椛、誰かのニオイが近くにないか?」
「ん~~~~……ニオイはするけど……ここからだとまだちょっとわかんない」
この様子からして中に入ってみないことにはどうしようもなさそうだ。
が、当然であるがガラの悪い男たちが俺たちをチラチラ見ており、そもそもどこから入ったらいいのかがわからない。
「うーん……」
「あっちから美味しそうなニオイがする」
椛が指し示したのは今いる場所より10mほど離れた入り口だ。
そもそも入り口が複数あっておそらく中でも繋がっているんだろうけど……繋がっていない通路もありそうで本当に悩ましい。
あんまり考えたくはないが万が一を考えて入った場所や中の様子はしっかり覚えておかないと。あとは、苺佳さんの連絡先IDも。
とりあえず椛が興味を示した入り口から中に入る。そこにはあちこちに屋台のようなものが並んでおり、行き交う人々が足を止めて串焼きを買っていたり、興味なさそうに通り過ぎているのが見えた。
なんというか、そもそもの道が狭いから屋台もあってかなり通るための道が狭いように思える。
椛が串焼きに興味を示し、じっと屋台を見て、その店主を見つめていた。
「あん? なんでぇ、冷やかしならどっか行きな」
「……美味しそう」
まだ腹減ってるのか……。
値段を確認してみると意外にも安い。お祭りの屋台みたいかと思ったがよく考えればここはスラムのようなもの。高くても売れないし、そのための値段設定だろうか。
「すいません、2本……いや4本ください」
多分2本で足りないだろうから4本頼むと、冷やかしではないことを察した店主がごきげんになって「なんだぁ、ツレがいたのか」と大きな手で器用に串焼きを紙袋に入れて手渡してくれる。支払いをすませると、椛に串焼きを一本渡して店主に少し話を聞くことにした。
「あの……知り合いを探しているんですけど……」
「なんだぁ兄ちゃん。俺は案内所じゃないぜ?」
その通りなので何も言い返せない。が、今は案内所すらもどこにあるのかわからない有様だ。見た感じ、この店主はそこまで悪い人っぽく見えないし。いや、まあスラムの住人だから完全に信じていいわけでもなさそうだけど、相対的に話が通じそうだったから……。
「砦郷町の地図とか、案内所ってありませんか?」
椛がはふはふと串焼きを食べ進めながら「おいしい、おいしい」と夢中になっており、もう一本渡しておく。
「地図はお上のやつらか、許可を得たやつくらいしか持ってねぇだろうよ。俺だってここに住んで数年経ったがこの町の全容なんてわかんねぇし。案内所はあるぜ。ただ――」
店主の言葉は途中で遮られた。なにやらざわざわと奥の方から嫌な気配がして、次の瞬間、危険を察知して椛と店主を引っ張ると、目の前で屋台が押しつぶされた。
あのままでは店主も死んでいただろう。
「おいおいおい、だっせーモンせこせこ売ってんなぁ」
突然現れた男が潰された屋台を足蹴にして姿を見せる。黒髪に……パンク?ストリート系?なファッションをした男だ。あまり詳しくは知らないがとにかく一見するとチャラチャラしているようで、チンピラっぽさもある。
だが見た目こそチンピラみたいな空気だが、対峙した瞬間からこいつは危険だと俺の本能が警鐘を鳴らしていた。
男はひっくり返って地面に散らばった串焼きを踏みつけて俺たちに近づいてくる。
「疑わしいヤツはすぐに通報しろって通達してンだろ? なに呑気に商売してんだ雑魚」
それを聞いて店主は戸惑うように男に懇願する。
「そ、そんなこと言われても俺たちみたいな末端は詳しいことは聞いてないし、わざとじゃねぇんだ、
「んじゃ死ねや」
「え――」
男が腕を持ち上げたかと思うと、店主が全身を切り刻まれて絶叫し、そのまま倒れる。それを目の前で見て、思わず息を呑む。
「ぎゃははは! わりぃわりぃ、鈍っちまったから殺すの失敗したわ!」
店主はまだ生きている。全身が切り刻まれているが切断ではなく、出血し、じわじわと血溜まりが広がっていくが、それでも生きている。
トドメを刺すわけでもなく、男は俺と椛に近づいてくる。
こいつは、たまたま失敗したわけではない。わざと、苦しめるために殺さない程度の攻撃をしたんだ。
そう思うと目の前の男の悪辣さに怒りが湧き上がってくるが、何があってあんなふうに店主が攻撃されたのかまったくわからない。霊術ではない、恐らく。
多分異能だがそれがどんなものかまではわからない。
「で、お前ら田吉の仲間だろ? やっと尻尾出したか」
男が俺たちを見下すように近づいてくる。椛は悩んだ末に攻撃を仕掛けることにしたようで、銃を即座に出現させて至近距離で男を撃つ。
が、男は顔色一つ変えずにそれを回避して俺たちの後ろに回る。
気安く、俺たちと肩を組むかのように近づいて、低い声で囁いた。
「んなカッカするなって。俺はお前らを探してたんだぜ」
椛も俺もほぼ反射的に振り払っていたが痛くも痒くもないというように男、そういえば先程店主に嗣吉”様”と呼ばれていたのを思い出し、店主が知っていたことも踏まえてこの砦郷町で重要人物であることが伺えた。
「田吉への復讐のためにあいつの大事な大事な『お仲間』は揃えておかねーとな」
どうやら俺や椛が最近仲間になったばかりということは把握していないのか、識文さんや和泉さん、結依はともかく俺たちまでカウントしているあたり、アジトの人間全員が対象なのかもしれない。
「どうして吉田さんに復讐を――」
「あ? んなの決まってんだろ」
いったいどんな関係なのかはわからないが、俺の言葉にニヤリと笑う嗣吉は周囲が遠巻きに見ているのも気にせず、倒れ伏すまだ動いている店主を足蹴にして吐き捨てた。
「俺が味わった屈辱を倍にして田吉に食らわせるんだよ。絶望も一緒にな」
怒気が肌を刺す。その圧に思わず呑まれそうになった。それは椛も同じで、むしろ俺よりも敏感にそれを感じ取って気圧されているようだ。
「んで、てめーが綜真?」
殺気が急に鎮まったかと思うと、嗣吉は俺を指さして聞いてくる。
「……? そ、そうだけど――」
なぜ知っているのか、と疑問を口にする前にヒュッという音が耳をかすめ、鮮血が舞う。
なんだ? 何が起こった?
疑問に思う前に視界が揺らぐ。異能もうまく使えない。
「ソーマ――」
「ひゃははは! んだよ、ただの雑魚じゃねぇか!」
嗣吉が俺を指し示していた指が上を向いていることに気づいたが、落ちていくことで視界から外れる。
あ、違う、これ異能使えないんじゃない。もう、異能が発動しているんだ。
だって、首、刎ねられ――
目を丸くした椛の呼びかけと嗣吉の笑い声がどんどん遠くなっていき、ごとりと地面に落ちる音が最後に聞こえた。