東京リバースギフテッド   作:とぅりりりり

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魔女(陰キャ)暴食家(くいしんぼう)

 

 鹿子さんと名乗った女性の首輪を薫さんが霊術で壊して外してやると、ぐっと伸びをしてスッキリしたように息を吐く。

 

「いやぁ、助かった助かった。一週間くらいここに監禁状態でさ」

「とりあえずは元気そうだな。それと、こいつらは部下とかじゃない。成り行きだ」

 

 俺と椛を示して薫さんは腕を組む。椛は相変わらずボケッとしながら部屋を見渡して、しばらくしてから漁りだす。

 

「時葛綜真です。あっちは椛」

 

 椛を示しながら自己紹介をすると、鹿子さんは「綜真くんね」と確認するように言ってから笑う。

 

「ま、先輩はともかく君にはあとでお礼するとして……薫先輩? 何してんの?」

 

 薫さんは鹿子さんから外した首輪を見て不思議そうに見ており、眉根を寄せながら呟く。

 

「なんだこれ」

「さあね。ただアタシは霊力で首輪に干渉できないから外せなくて」

 

 薫さんは気になるのか首輪をしばらく手のひらであちこち角度を変えながら見ていたが、鹿子さんが「それよりさー」と話しかけたことで中断する。

 

「今回は随分自分に似せたアバターだねぇ。女体化願望的な? おっぱいめっちゃ盛るじゃーん」

 

 鹿子さんが無遠慮に薫さんの胸に人差し指を押し付ける。

 そして、その感触に違和感を抱いたのか、鹿子さんは「ん?」と真顔になり、薫さんは眉をしかめる。

 

「…………あれ? 薫先輩、これ本体?」

「聞くな、触れるな、突っ込むな」

 

 指を離してから鹿子さんはじっと頭からつま先まで薫さんを見て……しばらくの沈黙のあとに真剣な声音で呟く。

 

「………………とりあえずおっぱい揉んでもいい?」

「いいわけないだろ」

 

 放っておくとしばらく胸の話が続きそうな気配を感じたので話を打ち切って薫さんに話しかける。

 

「それで、この人はいったい?」

 

 鹿子さんを示しながら聞くと、薫さんは「ああ」と鹿子さんを押さえつけたまま答えてくれる。

 

「こいつは僕の後輩でな。今は色々あってフリーの霊武具や霊具の職人をしているんだ。僕が第二にわざわざ来た理由」

「そそ。薬袋センパイとはたまにお仕事で取り引きしてんだけど……もしかしてアタシのこと心配して探しにきてくれたり?」

 

 そういや取引先がどうので見に来たんだっけ。それが鹿子さんだったのか。偶然とはいえ、結果的に俺が薫さんについてきてもらったことで薫さんの目的が達成されたということは予想してなかったので奇妙な縁を感じる。

 

「心配というより仕事に支障が出るのが嫌だっただけだよ。それで、砦郷町で何が起こっている? お前はなぜ監禁されていた?」

「あー、その話かぁ。ちょっと長くなるけどいい?」

 

 少し困ったように、ついでに薫さんの胸を揉むのを諦めたのか、距離を取って座れるように台を動かして即席の椅子に仕立てる。

 椛は引きずっていた気絶させたチンピラを縄で縛って端っこに固定してからとことこ戻ってきた。

 

「長くなりそうなら鹿子、パソコン貸せ。それと工具」

 

 差し出せ、と言わんばかりに手を突き出しす薫さんに鹿子さんは迷うことなく工具箱を差し出す。

 

「ん、いいけど何するの?」

「このクソ霊具のプログラム書き換える」

 

 地図の霊具を掲げて、工具で解体しながら中身を確認しだし、そのまま鹿子さんのパソコンと繋げて何か作業を始めた。

 

「薫せんぱーい、勝手にソースコードいじって大丈夫?」

「こんなスラムのチンピラどもが権利主張してきても法に砂かけてるようなやつらだ。気にするだけ無駄だろ」

 

 この人、本当にギリギリossじゃないだけでかなりそっち寄りの思考だよなと度々思う。いい人だと思ったらろくでもねぇと思わされるし、ろくでもないと思った矢先に案外いい人だと思わされる。なんなんだ本当に。

 

「本当にイライラするんだよ。なんでいちいち拡大縮小で時間食わないといけないんだ。しかも情報の表示がクッソ見にくい。不用意に点滅しやがって」

 

 よっぽど気に食わなかったんだな……。

 

「うっわ、クッソ見づれェ!」

 

 モニタを見るなりドデカイ舌打ちとともに素早いタイピングをしながらぼやきだした。

 

「作った本人だけがわかればいいって感じがして殺意湧く。可読性をドブに捨てやがって」

 

 文句言いながら作業を始めてしまったので俺は鹿子さんから話を聞くことにした。多分薫さんも聞いてはいるだろうし。

 

「そんじゃ順を追って話すけど」

 

 座りながら鹿子さんは俺を真っ直ぐ見る。

 状況のわからないまま、この町に突撃した俺にとっては貴重な情報源。

 

「元々砦郷町って吉田組が幅を利かせてたのよ」

「吉田組って……あの、吉田……田吉さんであってます?」

「おっと、そっからか。失礼失礼。吉田組ってのは元々防人衆に属さない反社会勢力側の異能者たちの集まりだったのよ」

 

 それは昔の話だと、鹿子さんは言う。

 

 ある時、その頭目である吉田永吉(えいきち)が死に、彼の息子である吉田嗣吉と永吉のお気に入りの弟子の刹那と御空という二人が東京から追放されていたとのこと。

 追放された三人は後ろ盾のようなものを備えて砦郷町に戻ってきたのがつい先日の話。

 

「追放って……?」

「当時の永吉の部下や信奉者は軒並み粛清されてんのよ。まあろくでもない悪党だしそこはどうでもいいけど……」

 

 鹿子さんもそこらへんにはあまり触れたくはないのか、少し言葉を濁して続ける。

 

「当時、その粛清と3人の追放をしたのが現吉田組の頭目、吉田田吉」

 

 俺の知る吉田さん、つまり田吉さんは元頭目の養子らしく、嗣吉にとっては義弟にあたる存在だったらしい。

 義弟に本来自分が受け継ぐはずだったものを奪われ、追放されたとあっては恨んでもおかしくはない。

 

「まあ、養子と実子の後継者争いってトコかねー。厄介なことに巻き込まれちゃったよ、ほんと」

「うーん……」

 

 気になるところはたくさんあるけれど、吉田さんはどうしてそんな悪党の後を継いだんだろう。今の様子を見ていると、和泉さんや識文さんたちもメンバーなんだろうし、そういった悪事を働いているようには見えない。

 そもそも追放っていうのが気になる。わざわざ自分の近くから引き離したのはなんでだろう。仲が悪かったとか?

 

 すると椛が飽きたのか、突然音もなく立ち上がって部屋から出ようとする。さすがに何も言わずにうろちょろされると困るので引き止めた。

 

「おいこら。どこ行くんだよ」

「お腹すいたから何か探してくる」

 

 ああ、うん、そうだろうとは思った。

 この部屋になにか食べられそうなものはないか確認してみたが、運ばれてくる食事以外は特にないようで、椛を引き止めることはできそうにない。

 

「多分この近くに厨房があるっぽいから、探せばあると思うよ? ちょくちょくアタシのご飯作って持ってきてるみたい」

 

 鹿子さんもそう言うが、ここで1人にさせるわけに……いや、椛だしいいか……。最悪、匂いで探って合流できるだろうし。

 

「食い物みつけたらさっさと戻ってこいよ? あとほら、なんか買う必要あるならこれ」

 

 千五百円。なんとも言えない金額だが急場をしのぐならこんなものだろう。

 

「フラフラしないでちゃんと戻ってこいよ?」

「うん」

 

 そう返事して椛はとことこ外へと出ていった。遠ざかっていく気配の中、再び話に戻る。

 

「それで、今の状況をなんとかするには、その嗣吉ってやつを倒すだけじゃ駄目なんですよね?」

「そうだね。嗣吉の側近、あるいは兄弟弟子が二人。一緒に追放されてたやつら」

 

 2本の指を立てて、1本指を折って閉じる。

 

「まずは”夕刻の魔女”、御空(みそら)。霊術系が強くて多分、魔眼か炯眼の持ち主っぽい」

 

 まだ見たことはないが、鹿子さんの説明では眼鏡をかけたオレンジ髪の女らしい。聞いたイメージだと特徴的な容姿なのですぐにわかりそうだ。

 

「アタシの首輪にもその魔女の術がかけられててね。ほら、異能者の力を封じるには霊鉱石による特殊な拘束具が一般的なんだけど」

 

 外した首輪を指に引っ掛けてくるりと回す。今は外したこともあって効果はもうないようだ。

 

「あの魔女、限定条件つけて霊術や異能を封じてたっぽくて、そのせいで命令されたことしかできないかよわーい感じになっちゃって」

「それ本当に霊術か? なんか妙だったぞ」

 

 作業をしながらこちらを見もせず薫さんがコメントする。

 俺はそういうったものの違いをまだ知らないのでなんとも言えないが、薫さんはさっき首輪を外したときに気になった様子だったので単純に霊術ではなさそうだが……。

 

「つっても異能っぽくはなかったんだよね。だいたい、他人の霊力や異能を制限する異能って、薫先輩とこみたいな規格外くらいでしょ? そんなのいたら隠そうと思ってもバレると思うけどなぁ」

 

 鹿子さんがそう反論すると、薫さんはドライバーで円を描くように手を揺らす。

 

「だとしたら霊術でも霊力を制限するものはハ段レベルだ。そのレベルの術となると修得にも才能や時間が必要になってくる。更に言えばそれだけ危険な術なんて、学園にも防人衆にも関わっていないようなossのやつらが扱えるとは思えない」

 

 霊力を封じるとなると一番難易度の高いクラスなのか。もし、霊術だとしたらかなりの使い手ということになるが、それを習得するだけの方法がないっていうのも引っかかる。

 

「えー、じゃあなんだろ。首輪そのものが霊具?」

「違うな。首輪そのものはたいしたことはなかった。霊術だったらさすがに霊力の残滓で僕がわかるはずだし、となると霊力に依存しない――」

 

 そこまで言いかけて薫さんと鹿子さんがハッとして、互いに顔を見合わせる。

 

『呪術か!』

 

 大人二人が納得したのか指を鳴らして合点がいったように声を揃えるが、俺にとってはよくわからないままのことだ。

 

「知らない要素が出てきたんですけど、呪術ってなんですか? 魔物の呪いとは違うんですか?」

 

 魔物の瘴気による呪いはわかる。薫さんの今の状態みたいなリバースギフテッドも呪いの一種だし。

 

「呪術は霊力は霊術ほど必要ない。というか、霊術の前身みたいな存在だ。互換性はないが似通ったところはある。魔物の呪いとも違う」

 

 霊術は霊力を使って術式を発動させて、任意の解、すなわち効果を発揮するもの。

 呪術は負のエネルギーを利用して他者に作用する、人間が扱う呪いのこと。負のエネルギーは霊力でも代用可能で、数は少ないが呪術を扱う者は呪術師とも呼ぶらしい。

 

「霊術が今の異能者の基本教養になる前、はそっちがメインだったって話もあるけど、扱いが難しくて面倒だから霊術の方が浸透したんだよね。呪術の利点は霊力がなくても使おうと思えば使えるって所」

 

 霊術よりはできることは少ないけど、うまく扱えば強力、ってところだろうか。例えば物を燃やす霊術はあるけど、呪術でそういうことはできない。あくまで対象が必要ってのが肝なんだろう。

 

「呪術師だとすると面倒だな。僕も存在は知ってるが実際に使ってるところを見たことあるのは二人くらいしかいない」

「そんなに希少なんですね」

「霊術の方が遥かに馴染みあるし便利だからな。呪術を身に着けようとするなんてよほどの熱意があるか、呪術で何かをしようと思ってるやつくらいか、変人くらいだ」

 

 1人が推定呪術師というのがわかったのは大きなヒントかもしれない。

 といっても、俺は全然知らないから薫さんたちから攻略法を聞かないといけないのだが。

 

「呪術を使ってくるとしたらどうすればいいんでしょう?」

「正直難しいな。霊術みたいに回避できればいい、という攻撃ならともかく、呪術は対象を選んで術が発動した時点で終いだ。ああ、でも……」

 

 エンターキーを押して薫さんが一息つくと、顎に手をやって思い出したように呟いた。

 

「確か呪術は呪う対象をよく知っている(・・・・・・・)必要がある」

「よく知っている必要?」

「そう。よく知らない相手を呪うことは難しい。髪の毛でもあれば簡単なんだろうが、とにかく対象の情報が術式を安定させるのに必要なんだ」

 

 つまり、この魔女に個人情報を知られていた時点で詰みってことでは?

 

「だから……魔眼対策に自分の情報を見た相手を呪うっていう魔眼対策の呪術とかもあったらしい。情報が要だからな。要人とかを守るために要人へ呪術をかけておく、みたいに。ただ霊術でもほぼ同じ術が存在するからそこらへんの差も呪術の衰退の一因なんだろうが……」

 

 となると、俺や椛のことが知られていないことを祈るしかない、か。俺は美沙杜のおかげ……おかげっていうかせいで俺のことを魔眼で視ても読み取れない状態らしいし…………あれ?

 

 美沙杜、お前呪術使ってたりする?

 

 当然のように返事はない。無視された。そういや最近ずっと静かだな。

 

「まあ、霊術使ってる所も見たし、多分両刀だと思うよ」

「霊術と呪術の両方と、魔眼系の疑惑があるやつか……面倒そうだな」

 

 薫さんは作業に戻りながらぼやくと、鹿子さんは「じゃあもう一人の話も」と話を切り替える。

 

「直接相対するならこっちのほうが厄介かもね」

 

 そう前置きしてから鹿子さんは真剣な表情で言う。

 

「ある意味魔女以上に厄介なのが”暴食家”、刹那。体術主体だけど問題なのはその数」

「数?」

 

 

「うん、多分――」

 

 

 

――――――――――

 

 

 

 椛は激怒した。お腹が空いてしまったからだ。

 椛には今の状況がよくわからぬ。だが空腹には人一倍敏感であった。

 

「油とおにくの匂い」

 

 食欲を刺激する匂いに釣られ、椛はとことこ迷宮のような道を進む。

 そしてその匂いの元にたどり着くと、そこは厨房と食堂を兼ねている他より大きめの部屋だった。

 覗き込んでみるとそれなりの人数が忙しなく働いている。

 何か料理を作っているようだと判断して、椛は警戒しつつも中へと入ってみた。

 大量に並んだ唐揚げや焼き魚。といっても、だいたい同じようなものばかりで、椛ですら少し胃もたれしそうな量。綜真の色んなおかずがあるご飯を思い出して椛は更にお腹が空いてしまう。

 

 そこにいたのは半纏を纏った人間。

 正確に言うなら、そのたくさんいる半纏人間はすべて同じ顔(・・・・・・)をしていた。

 

「あぁ?」

 

 椛に気づいたのはたった1人。

 半纏は同じだが、唯一表情が変化しており、調理中だったのか突然包丁をまな板に突き立てたかと思うと横に置いてある唐揚げをつまみ出す。椛は明らかに頭一つ抜けているであろうその人物をとりあえず殺すか?と考えた。

 が、一瞬でそれは無理だと悟る。

 

「お前、田吉のとこの駄犬だろ」

 

 一斉に、同じ顔が椛を見る。十人、いや十四人はいる。

 

 椛は怯みながら相手を観察する。

 恐らく本体であろう者は他のと比べて霊力も立ち姿も素人ではないのがわかった。

 が、それ以外の群体は本体よりも遥かに弱い力しか感じ取れない。

 

(先に殺せば――)

 

 考えるより先に椛は猟銃を構え、発砲する。散弾銃によって分身と思われるものが撃ち抜かれ地面に伏す。が、肝心の本体には回避されてしまう。

 

「あーあ、もったいねぇ」

 

 倒れた分身が溶けるように形を崩し、別の分身に吸収される。すると、吸収した分身は今までより大きくなる。

 

「勘違いするなよ、一匹狼。だいたい狼の狩りの仕方、知ってる?」

 

 大きくなった分身が突如二つに分かれ、新しい分身がすぐそばに増えて、結局数が減らないまま。

 

「1人で群れに勝てるわけないだろ。獲物はお前だ」

 

 

"暴食家"刹那(せつな)――異能(ギフテッド)【増殖分裂】

 

 

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